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ハリウッド大作『SAYURI』などにも出演を果たし、日本屈指の個性派女優として君臨する桃井かおりが、初の長編監督作となる『無花果(いちじく)の顔』を完成させた。そこに描かれるのは、人間の基盤ともいえる家族。だが、桃井が撮る家族像とくれば、普通であるはずがない。カラフルな色彩の中に浮かび上がった茶の間や衣装などの美術、さらにカット割りやカメラワークなども、荒削りさをわざと前面に押し出した、挑発的にすら感じさせるもの。しかし、そうした奇をてらった演出の中から露呈するのは、「生きる」というシンプルなテーマ。夫の死を受け入れられない妻の異様な行動が、「生」の裏側にある「死」に戸惑いながらも、淡々と日々を重ねずにはいられない人間の生命力を映し出す。そんな新たな才能を開花させたともいえる、桃井かおり監督が来阪。桃井節炸裂の記者会見が行われた。
__この作品のテーマは何ですか?
先輩方の作ったいい映画は、すでにいっぱいあるんです。でも、あえてもう1本そこに作品を増やすのであれば、今を生きている54歳の私だからこそ、気付いたことをテーマにしないといけない。今回、そのテーマに選んだのは「生きる」ということ。“生きてるやつが勝ち”って映画にしたいと思ったんです。生きるってことは、「今」が連なっていくことで、それは日常でもある。だから、一番日常に近い「家族」っていうくだらなそうなモチーフを使って、それを活性化する映画を作りたかったんです。
__日常を活性化させるというのは具体的にどういったことですか?
今の幸せを、今、実感できればいいんだけど、それってなかなかできていないんですよ。たとえば、クリスマスツリーを飾るときも、きれいにツリーを飾れたっていう喜びはあるけど、疲れたってことのほうが勝ってる「今」があるじゃないですか。でも、映画という素材は、「いつかまた観よう」じゃなくて、画面が写るとそれに食らいつく。消えると、すぐにまた次の「今」がやってくる。だから、「今」を実感して幸せに“かぶりつく”ということに対して、いい媒体なんじゃないかと思うんです。
__桃井さんは古くから女優として名監督の作品に数多く出演されていますが、その経験が生かされたことはありますか?
もちろん影響はされましたが、素人は素人の良さで撮らないとプロに失礼だしね。でも、俳優なんかも、演劇学校で学んだ人ってちょっと声張るから変だったりするんですよ。だから、荒業だけど正面からのカットを連打してみるとか、なるべく勉強しなかった良さみたいな作風を目指しました。
それに新人監督のうまみは、次回作を意識しないでいいってこと。だからこそ、勇気のある映画を作らないとみんなに失礼になるし、つまらないので十手の限りを尽くしました。
__山田花子さんを主演に選ばれた理由は?
勇気あるでしょう(笑)? ある日、テレビの中の花ちゃんが辛そうに見えたのね。この人は今やってることと、結果としてなるものが違うような気がしたんです。ちょうど「無花果」という言葉を題名に入れていたんで、“花もつけずに、突然実をつける”っていう無花果のイメージが花ちゃんぽいかなって。
__演技指導については、かなりされたんですか?
こんなにうまくなんない人って、初めてみたのね。好きに動かすとそれも変なんですよ。でもずっと見てたら、それもポップかなと思い始めてきたわけ(笑)。ホントに重くて嫌だったけど、花ちゃんじゃないと作れないシーンがいっぱいあって、作戦がない演劇もすごいなと思いましたね。
__映像の色使いも鮮やかで、ストーリーにはまった異様な空気をかもし出していますよね。
カラーもたくさん入れてるんです。自分の父が死んだときに、ひとりいないだけで家の温度が下がるって体験をしたんですよ。そこで呼吸をしている心臓の音がひとつ減るだけで、リズムが狂ったのか、心臓まで悪くしちゃって。だから、映画の中でもお父さんが死んだときから、カラーを微妙に変化させたりしてるんです。
__ご自身の家族が、この作品に反映されている部分はありますか?
うちの場合はクールな関係だったので、茶の間を囲むってことはしなかったですね。だから、いつもメモでやり取りしていて。たとえば、赤い口紅をつけたときも、父に向けて「嫌なら嫌って言えばいいじゃないですか」って書いたら、「僕は赤い口紅をつけてる女性は嫌いじゃありません。それから、あなたとキスするわけではないので、僕の問題ではありません」って返ってきたの。そういう人なんです。でも、死んでからですよ、こんなに愛おしいと感じられたのは。「私、パパを愛してるんじゃん」って。父の死は、最近受けた一番のショックだったので、それも一緒に描きたいと思ったんです。
__桃井監督は女優・桃井かおりを、どう評価されますか?
私は出るつもりなかったんですけど、スケジュールの都合でほかの役者さんに断られて、桃井かおりだったらタダだしと思って使ってみたんです。すると、結構いい女優だなって思ったりして(笑)。私のシーンは、全部一回ずつしか撮れないんですよ。自分の芝居を追求するとやめられないじゃない? それは俳優として、訓練になったと思います。腕上げたなって。
__この作品から、観客に持って帰ってもらいたいものは?
笑ってもらいたいと思って作っているので、「結構軽い映画だった」と言ってもらえるとうれしいです。日常は、その瞬間瞬間で笑っていた方がいいので。でも、最後がちょっと気になるはず。それが「もう一回観たいな」って、後からバラの毒のように利いてくるのよね。
Text:今井裕紀子
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桃井かおり監督 プロフィール
1952年、東京都生まれ。1971年『あらかじめ失われた恋人たちよ』で映画デビュー。その後、日本アカデミー賞・ブルーリボン賞の助演女優賞を受賞した『幸福の黄色いハンカチ』(1977)や、『もう頬づえはつかない』(1979)、『神様のくれた赤ん坊』(1979)でも、同2賞の主演女優賞を受賞している。また、ロブ・マーシャル監督のハリウッド映画『SAYURI』(2005)や、アレクサンドル・ソクーロフ監督作『太陽』(2005)などの海外作品にも意欲的に出演している。 |
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