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Meetsな人の20軒

カレー
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タンダーパニー(大阪・関大前)
サムライカレー
 
タンダーパニー(大阪・関大前)

タンダーパニー(大阪・関大前)

タンダーパニー(大阪・関大前)
僕は臨機応変に手を変えていく優柔不断なタイプ。だからプロとしてはあまり信用に値しない。それよりも“命ある限り理想のカレーを追求する”みたいな店の方が日本人らしくて素敵である。メニューは1種類のみの問答無用。そんなサムライカレーを出す店が大阪の阪急千里線「関大前」近くに存在する。

店の名は[タンダーパニー]。聖なる水と言う意味だ。ここにあるカレーは店名同様、水のごとく美しく、柔らかで優しい味をしながらも時に悪魔となり、時に天使となって人のDNA内にまで味の記憶を刻み込む。

カレーはチキンカレー1種類のみである。丸い白い皿に盛られたカレーには、骨付きチキンが2本乗っていて、やや水っぽい汁はすでにご飯の下半身を濡らしている。そこで一気にスプーンを滑らせるのだが、焦りすぎは禁物だ。熱々という鎧をつけているために火傷する。

スプーンの上で濡れるライスをじっくりと眺め、ゆっくりと頬張るべし。すると汁気と共に、シナモンと黒コショウの風味、最後にカルダモンのさわやかな香りが楽しめる。3口目くらいから頭と胸が熱くなるので、別皿に入ったオニオンスライスを使う。ほどよい幅に切られているためにシャキシャキと涼しい歯応えを与えてくれるのだ。

チキンはスプーンで少し力を入れただけで、軟骨部分からポロリと落ちる芸術品。煮すぎてカスカスになったそれではなく、ちゃんと脂分を残したうまみ汁入りのチキンである。

技術的にはブイヨンも調味料もなし。タマネギとトマト、チキンの3味にニンニクと生姜の風味を加え、それを数種類のスパイスで繋いだというのがふさわしい。さらにここのカレーはトロミではなく、少々の厚みがある。これはイモがその正体。イモでもメイクイーンなので、味の邪魔をすることなく、ふくよかさだけを醸し出す。その合間に潜む、クローブのぶっちょり感とGカルダモンの繊維感がまた憎い。

これらはどれか1つでもバランスを失うと絶望的な味になる。コクが足らないからソースを加えればいいなどと言う塗り絵みたいな世界ではない。墨の濃淡だけで季節や自然の美しさを表現する水墨画とでも言おうか、それとも腰にさした刀に己の青春の全てを捧げた宮本武蔵と佐々木小次郎の戦いとでも言おうか、とにかく抜き差しならぬギリギリの味なのだ。

店主の又吉オヤジは、台風が10本上陸しようが、テレビの取材を受けて店先に客が並ぼうが、この戦いを毎日毎日やり続けている。そして1度魅了されてしまった客は、後に転居しようがオジンになっても、これを宅急便で運ばせてでも食べたくなるから、まったく迷惑な話だ。幸福と墜落の繰り返し、まさに天使と悪魔が宿る味である。

どこにもないここだけの味芸。そんな1本道をひたすら行く[タンダーパニー]のカレーはサムライの名にふさわしい。

(文:河村研二)

[タンダーパニー]
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