

もうこのインタビューで何が一番言いたいかっていうと、私のことはいいんで、“上方笑女隊”のことをアピールして下さい!(笑)。
“上方笑女隊”っていうのは、上方落語協会の女性部。都師匠を隊長に、あやめ姉さん、女道楽の英華師匠、私、そして若手の女性落語家、お囃子さんがメンバー。
うちの師匠・三枝が「上方落語協会の女性部を作ったらどうや」って都師匠に言って下さって発足したものなんです。これができて私はやっと、女性落語家として「頑張っていけるかな」と思えるようになったんです。それまで「どうしよう、どうしよう」思いながらやってたんですよ。
正直、入門するときは、男性の世界に飛び込むっていうことに対して、大した覚悟はなかったんですよ。なにしろ、都師匠やあやめ姉さんの落語を聴いたとき、本当に男性と遜色なくやっておられたんで、「女もやれるんや」っていうのと、「少ない言うても2人もおるやん!」っていう感じだったんです(笑)。
でも入ってから、あの2人があんだけ面白いのは、「男の人とは違うところで凄い努力をされてあそこまでおもしろいんや」という事、女がなんで大変なんかっていうのもわかってきて、びっくりしましたね。
やっぱりお客さんが違和感を抱くんですよ。今でこそ朝ドラのおかげで、女が高座(※1)に上がることに抵抗がなくなってきましたけどね。出てきたときのお客さんの反応でわかるんです。「あぁ〜、女が…」って。まくら(※2)のときはいいんですけど、古典落語(※3)に入ると、お客さんが「?」みたいな。「若い娘がこんな、キイさんがどうのこうの言うて〜」って、男の人がやる以上に違和感を感じてるのが、新米ながらわかりましたね。
最初は工夫するっていうこともわからなかったですしね。お客さんの違和感を払拭するのが、自分の技術では難しい。都師匠やあやめ姉さんくらいいかないと無理なんやと思いましたね。「いつになったらできんの?」とか、「果たしてこれは努力だけでいけるんか?」とか、「ショートカットにしたらいいんか?」とか(笑)。
でもそうでもないし。その答えの出ないところに悩みました。
それがこの“上方笑女隊”ができたことで変わったんです。
どうしても落語会って、女性落語家が2人以上出ることってめったにないでしょ? だから、それ以前は都師匠やあやめ姉さん、英華師匠との交流がほとんどなかったんです。それが一緒になる機会が増えて、女が落語をやることの苦労だとか、どうやってきたとか、楽屋で女の人ならではの、例えば化粧の話だとか、男の落語家さんではしないような話で盛り上がったり。いろんなお話を聞いて、勇気をもらうんですよ。
ホンマに、発案して頂いた師匠や、先輩女性の方々には感謝してますね。
※1 寄席などで芸を演じる場所。劇場の舞台に相当する。また、そこで演じること。
※2 落語の本題に入る前、時事ネタなどで会場を和ませるもの。噺によって定型化されたものも多い。
※3 基本的に明治以前に作られた落語。対比されるものとして「新作落語」がある。

「大変やけど、続けなアカンよ」
これは都師匠がよくおっしゃってることなんです。私も主婦になってわかったんですけど、ホンマに家のことをやって舞台もやって、想像してたよりも大変! 家のことってね、旦那はいわば一家の大黒柱として働いてるわけですから、その旦那のサポートもしなアカンし、子育ても子供のサポート。常にサポートなんですけど、仕事はというと自分が主役でやらなアカンわけです。そこの切り替えっていうのが、他の人は楽屋やなんかで盛り上げてやってはるんでしょうけど、私は楽屋で「あ〜、ちょっと疲れた休憩」みたいなクールダウンになっちゃうこともあるんですよ(苦笑)。
それが何日も続いたりすると、「しんどいなあ」って思うこともあるんです、正直。でもそこで「続けなアカンでえ。続けてたらどうにかなる!なんとかなる」って。
それから、先輩女性の言葉で印象的やったんは…。
『んなあほな』(※4)っていう上方落語協会の雑誌で、若い女性落語家が都師匠とあやめ姉さんらに匿名で質問をするっていうコーナーを作ったことがあったんですね。そのときに「『女でそれをやるのは…』みたいなことで男の落語家さんや師匠に怒られたときに、落ち込んでしまうんですけど、落ち込んだときどうしたらいいですか?」っていう質問があったんです。そしたら2人とも「そんなん全然気にしたらアカン!」って、口をそろえておっしゃったんです(笑)。
このお2人はきっとそれに行きついて、女で落語家としてやってはるんやろうなって。結局それかッ!って(笑)。
お2人とも凄く苦労されてると思いますから、その答えがこれなんでしょうね。
※4 上方落語協会の会報誌。年三回発行しており、取材・原稿作成などは全て『んなあほな』編集委員の落語家たちが手掛けている。繁昌亭をはじめとした落語会会場や大手書店、電話、メールでも購入できる。一部300円。

私が落語をきっちり演じたり知ったりしたのは、大学の落語研究会(落研)のとき。
進学した大学は女子大やったんですけど、バブルの真っ只中だったんで、もう凄いんですよ! 遊び系サークルがッ! スキューバダイビングとかヨットとかゴルフ部とか、お金がかかるものばっかり。そしたら、他の大学に行ったお友達が「うち落語研究会に誘われたんやけど、一緒に見に行ってみいひん?」って、誘ってくれたんです。落研のことは、私たちの高校に落研出身の先生がおられて、どんなに落研が面白いかっていうのをよく聞かされてたんです。だから「じゃあ」って、行ってみたんですね。
そこで、文枝一門のこけ枝兄さんをはじめ、何人か先輩がいらっしゃって、みんなホンマに面白い! ゲラゲラ笑ったのを覚えてます。
女性の先輩も何人かいて、その先輩たちも、スキューバダイビング部とかの部員が持っていたブランド物なんか一切持っていないような人たちで、「こっちのほうが自分に合ってるんちゃうかなあ」って思ったんです。要るものも扇子と手ぬぐいだけで、それもくれるっていうしね、「それなら入ろうっ」って(笑)。
でもね、やっぱり学校が違うし、当時目指していた教職の授業が忙しくなって、結局辞めちゃったんですよ。でも、それはそれで暇になっちゃって、ちょうどそのとき師匠がやっていた「維新塾」というところを受けてみたんです。まあ、その動機も師匠のテープを聴いて落語を3本ほど覚えてたんで、「三枝さんに会ってみたいなあ」という軽いもの。でも、いざ行ってみたら、みんなプロを目指してる人たちばかり。「やっぱり私は無理ですわあ」って(笑)。
それで、教育実習とかも行ってたんですけど、教師は定年退職があるっていうのに疑問を感じて。人から言われて辞めなアカンっていうのがあんまり面白くないような気がしたんですよ。そしたら師匠の事務所がちょうどアルバイトを募集してたんで、「あそこに行って、卒業したらそのまま社員になろう」って考えたんです(笑)。
でも、さすがに社員になるんやったら、いろんな落語も聴かなアカンでしょ? やから落研のとき以上に、落語会に通ったり、テープで聴いたりしてたんですけど、それを見た師匠のマネージャーさんが「そんなに落語好きやったら、弟子入りしたら? ちょうど今、弟子もおらへんし」って。でも、大変そうなんもいろいろ見てましたしね「女やから難しいでしょ?」って言ったら、「もしアカンかったら結婚したらええし、事務員に戻ったらええんやし、やるだけやったら」って言ってくれたんです。だから「事務員に戻れるならやろうかなあ」と(笑)。凄い適当な感覚で申し訳ないんですけどね(苦笑)。
師匠に頼んだら、私のこともアルバイトとして知ってたし、「ええで」って言ってくれて、大学4回生の9月から弟子修業がスタート。
もう、こんなん言うてると、私が流れだけで師匠のとこに弟子入りしたみたいですけど、違うんですよ!
そういう縁というのもあったんですけど、やっぱりいろいろな落語を聴いた中でも、師匠のが一番面白かったんですよ!
師匠は創作のイメージが強いと思うんですけど、古典も本当に面白かった!「古典もこんなに面白くやる人なんやあ」って、その器用さに驚いたんです。


弟子修業ではね、何が大変やったって師匠の車の運転! 大きな車で、私が運転席に座って前から見ると、首しか出てない(笑)。師匠も後ろに乗ってて、「大丈夫か?」ってよく聞かれてました。結局最後まで、前後左右の幅がわからんまま運転してましたし。
うちの師匠はスターなんでね、よく女性マネージャーさんから「師匠はスターやから、もしなんかあったら、あなたは売り飛ばすよ!」って言われて(笑)。まあ、売り飛ばすのは冗談としても、凄いスターを乗っけてるっていうプレッシャー。「運転も下手なのに、いいんだろうか? 申し訳ない!」っていう自己嫌悪みたいな感情もありましたね。
師匠は免許を持ってらっしゃらないんで、私がどんだけ下手なんかっていうのがわからなかったのかもしれませんね。自分が運転される人やったら、逆に怖くて私には運転させてなかったかもしれません。
でも、当時のマネージャーさんが女性同士というのもあって、ガンガン鍛えてくれて、「あんた免許持ってるんやから、怖い怖い言うてたらアカン!」言うて。女性のマネージャーっていうの良かったかもしれないですね。まず、師匠をお守りするということが前提なんで、「お前は犬や!人間になりたかったら弟子修業止め! 弟子修業の間は犬やから」って、結構強烈なことも言われてましたけど、おかげでだいぶん鍛えられました!(笑)。

家事と仕事の両立ですか?
そうですねえ、大変ですけど、「大変や」言うたらアカンのですけどね。
普通やったら、ホンマは落語ってまくらなんかで、世間の情報なんかを織り交ぜて、お客さんが知らんようなところに自分が行って「こんなん行ったんですよ」って話したら、凄く興味を持ってくれると思うんですよ。話題の映画とか、観劇とかね。そういう話もしたいんですけど、正直そういう時間が独身のときに比べてほとんどない! 一日24時間しかないですからね。最近、美容室の時間も長いなって思うくらいですから。
だから、お客さんが共感する「家庭の話」の中で考えていくっていうのは身に付きましたね。まくらのネタは、家の話や、ご近所の話、婦人会のオバチャンの話とか(苦笑)。
ネタの稽古は福知山から大阪までの車の中で。運転しながら、ワア〜って一人でしゃべってるから、赤信号で止まったりしたら周りの車は「あの人、一人でしゃべってはるわ!」って感じで、かなり怪しまれてます(笑)。
※5 落語の題目(演目)。また噺(ネタ)そのもののこと。

“オバチャン”を目指します! つまり、おばさんやけど、面白いこと言うてる。都師匠が凄いのは、下品なオバチャンじゃないとこ。大阪のオバチャンでも、昔の船場の「ごりょんさん」みたいな。それにプラス面白さが入ってる。そういう雰囲気が出てるのが凄いですよね。
その歳に合ったオバチャンになって、最終的には“おばあちゃん落語家”になりたい! 今はその見本がいらっしゃらないんで、都師匠が今からどんな“おばあちゃん落語家”になるのか、そういうのも見させてもらいながら、「あんなおばあちゃんになりたいなあ」って、みんなが憧れるような落語家になりたいですねえ。春団治師匠なんか「あんなおじいちゃんになりたいなあ」って感じでしょ?
それにはやっぱり「続けていく」ことですよね。
繁昌亭や落語会のときはね、後に出る人に迷惑かけないように、私のせいで、その落語会自体が面白くないものにならないように心掛けています。とにかく迷惑かけないように(笑)。
私は器用じゃないんで、全部ウケるっていうのはなかなか難しいんです。でも、一つのネタの中に、どっか一つお客さんが文句なく笑うところ、それがオチ(※6)なら一番いいんですけど、みんなが何も考えずわかりやすく笑ってもらえるところを作るように頑張ってます。
落語は、みんなを喜ばせる手法の一つ。その一つに携わっていられることがありがたいですね。
※6 落語の最後の締めくくりの一言。「サゲ」とも言う。

実は、ライブ繁昌亭にはずっと加入してるんですよ。福知山出身で今も福知山に住んでるんでね。もともと訛りがある上に、大阪弁を聞かないとさらに訛ってしまう。でも、たまに一人も大阪出身者が出演してないとかもありますけど(笑)。ライブ繁昌亭は、寄席の雰囲気が味わえるのがいいですよね。普通のテレビ番組やったりすると、一人か二人が多いですから。
この頃、うちの小学生の子供も「観たい」って言うんです。近所の子供も、「繁昌亭観たい」って言うて、うちで観て帰るんですよ。まあ、まだ落語より色物(※7)に反応しますけどね(笑)。お母さん方にも「いいもの見せてもらったわあ。ありがとう」って言われますよ。
そういうふうに子供が観てる家庭っていうのも多いんじゃないですかね!? 「落語は想像力を育てるもの」っていう認識も広まってきてますからね。
ですから皆さん、是非家族そろってライブ繁昌亭をご覧になって下さい!
12月5日からは、「女流大会」と称して、女性落語家がたくさん出演します。東京の女性落語家さんだって参加して下さるんですよ。
それと私がどんどんアピールしてる“上方笑女隊”は、毎年3月3日の雛祭りにも繁昌亭で恒例の落語会を開いてます。女性ばっかりっていうのもめったにないですし、やっぱり華やか! お時間があれば、繁昌亭にも足を運んでみて下さいね。
これからも“上方笑女隊”を宜しくお願い致します!!
※7 寄席で演じられる落語や講談以外の演芸。寄席入口に掲げられる木札などに、朱文字で書かれていたことから。
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「東西女顔見世落語会」
平成23年12月10日(土) 17時会場 17時30分開演 繁昌亭
前売2,500円 / 当日3,000円
>> チラシを見る (PDF 323KB)

words cafe.(ワーズカフェ)
TEL:06-6353-1980
住所:大阪府北区天神橋2-5-18
交通手段:地下鉄谷町線南森町駅
平日11:30〜22:30
日曜定休
この『words cafe.(ワーズカフェ)』さんも、“上方笑女隊”の打ち上げでお邪魔させてもらったり、マスターにはコーヒーや人気のカツサンドの差し入れをして頂いたり、ホンマにお世話になってます。
繁昌亭を出て右に歩いて1分かかからないくらいの近さ。落語会の前の腹ごしらえや、ティータイムにどうですか? 日替りのランチも美味しいですから、昼席の前にもいいですよね。そして、私のお気に入りはカツサンド! 皆さんも繁昌亭に来られた際には是非寄ってみて下さい。
【取材・文】宮本雅 【写真】矢野凌介


主な会は「ふくち寄席」「あやべ寄席」「桜宮寄席」「環境落語寄席」「ワムワムらくご」「温泉寄席」。小学校5年生と2年生のお子さんを持ち、ママさん落語家として奮闘中。キャッチフレーズは「小さな体で大きな仕事」。