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関西の専門医が語るドクター's コラム

橋本病とは

岡本 泰之

執筆:岡本甲状腺クリニック院長

日本甲状腺学会認定専門医、日本内分泌学会内分泌代謝科専門医・指導医
2006年甲状腺疾患専門の岡本甲状腺クリニックを開院。バセドウ病、橋本病、甲状腺機能低下症の診断と治療ならびに、甲状腺腫瘍の診断を専門とする。著書に甲状腺疾患をもつ人の不安や悩み・疑問に徹底回答する「甲状腺の病気 パーフェクトアンサー115」がある。

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橋本病は、バセドウ病と同じく甲状腺の病気の一つですが、バセドウ病がドイツ人医師の名前がつけられているのに対して、橋本病は1912年、九州大学の橋本策博士がこの病気を発表したことから、日本人の名前がつけられています。

橋本病とは

橋本病は、甲状腺に慢性の炎症が起きている病気です。その炎症の原因は、自己免疫というものです。免疫とは、本来ならば外敵から自分の体を守る働きを持つものですが、それが逆に自分の体に反応してしまっている状態を自己免疫と言います。橋本病の場合は、自分の免疫系が自分の甲状腺に反応してしまい、その結果、甲状腺に炎症が起きている状態なのです。
橋本病の場合、甲状腺に炎症があるだけでは、特に問題はありません。ほとんどの橋本病の患者さんは、ただ甲状腺が腫れているだけで、甲状腺機能は正常です。ただし、炎症が進むと甲状腺の働きが低下してくることがあります。さらに、経過中に甲状腺ホルモンが高くなることもあり、バセドウ病と間違えられることがあります。

橋本病は、中年女性の10人に1人はいると言われていますが、甲状腺機能が正常であれば、とくに問題はありません。患者さんにとって問題になるのは、次に挙げる4つのケースです。

《1.甲状腺が腫れる》

橋本病の場合、甲状腺が大きくなっても、通常は症状に出ません。気管が圧迫されることはなく、飲み込みが悪くなることもなく、首の前が腫れているのが気になる程度です。ただし、患者さんによっては、違和感を訴えられることもありますので、そのような場合は治療を行います。
※まれに甲状腺が大きく腫れて強い圧迫感を訴える方がいます。しかし、橋本病の甲状腺腫(甲状腺が腫れて大きくなった状態)のために、手術まで必要になるケースはごく稀です。


《2.甲状腺機能低下症になる可能性がある》

橋本病の一番の問題は、甲状腺機能低下症の原因になることで、橋本病の方のうち、2割程度に甲状腺機能低下症がみられ、「皮膚がかさかさする」「顔や手がむくむ」「寒がり」「便秘」「あまり食べないのに太る」「髪の毛が抜ける」「生理の量が多い」「物忘れしやすい」などの症状が表れます。中年以降の女性にはよくある症状ですので、これらの症状があっても甲状腺機能低下症とは限りませんが、一度、甲状腺機能の検査を受けられたほうが良いでしょう。


《3.甲状腺ホルモンが過剰になることがある(一過性)》

橋本病は、慢性の炎症ですが、時々炎症が強くなって甲状腺からホルモンが漏れ出ることがあります。そのような場合は、血液中の甲状腺ホルモンが過剰になり、「発汗」「動悸」「体重減少」などの症状がでます。しかし、バセドウ病と違って、炎症が治まると、甲状腺機能は数カ月で正常な状態に戻ります。また、回復の過程で一時的に機能が低下することもあります。このような病態を、無痛性甲状腺炎と呼んでいますが、この病態が問題なのは、バセドウ病と間違われやすいことで、その結果、抗甲状腺薬が投与されて、ひどい機能低下症になってしまうことがあります。


《4.悪性リンパ腫が起こる事がある》

悪性リンパ腫は、全身のリンパ節が腫れてくる病気ですが、甲状腺だけに発生することがあります。非常に稀なことですが、急に甲状腺が大きくなった、圧迫感が強くなってきた、という場合は検査を受けるようにしましょう。

橋本病の原因

甲状腺に対する自己免疫が起こるのは、本来、外敵から自分の体を守るための免疫が、自分自身の甲状腺に反応しやすい体質を持っているからです。体質というのは、遺伝子で決められるものであるため、原因は遺伝ということになります。しかし、それだけでは病気は発症しません。病気が起こるには、遺伝的な素因に加えて、何らかの環境因子が関与していると考えられています。発症の誘因としてよく見られるのは、出産や大きなストレスのほか、ヨードの過剰摂取があります。

ドクターズメモ

ヨードを多く含む食材

昆布、わかめ、のり(佃煮などの加工品含む)、ひじき、寒天、ヨード卵
[ 栄養素辞典:ヨウ素(ヨード) ]

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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