
「社会から一途なパワーがなくなりつつある時代だからこそ、こういう熱い時代のドラマを演じることが大切」
日本最大級の水力発電ダム「黒部ダム」建設という一大プロジェクトをめぐる熱い人間ドラマを、21世紀を生きる俳優としてどう受けとめるのか。主演・中村獅堂さんが熱い想いを語ります。
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映画『黒部の太陽』が封切られたのは、まだ獅童さんが生まれていない1968年。石原裕次郎、三船敏郎という二大銀幕スターの共演は熱狂的に迎えられ、当時としては史上最高の観客動員数を記録した。物語のモチーフは、黒部ダム建設のなかでも最大の難所といわれた関電トンネルの開通工事(別名・大町ルート)。実に7ヵ月にもおよぶ破砕帯との戦いが壮大なスケールで描かれている。
「かつて『黒部の太陽』という凄い作品があったことは、もちろん知っていました。昭和の大スターである石原裕次郎さんが、役者生命を賭けて実現に奔走した企画であること。CG技術もない時代、その映像は誰も見たことのないような迫力を持っていたこと。そういう伝説の数々を、当時を知る先輩方から折にふれて聞かされてたんですね。それだけに、最初にこのお話をいただいたときは戸惑いました。舞台の上で20トンの水を使うと聞かされて、本当にそんなことが可能なんだろうかと(笑)。でも、そういう難しい挑戦だからこそ、体当たりで演じてみる意味もあるとも思うんですね」
日本経済が復興を遂げて、すでに長い時間が経過した。奇しくも今年(2008年)は映画公開から数えて40周年、関電トンネル開通から数えて50周年に当たる。そんな節目の年に、昭和という時代を切り開いた男たちを見つめ直してみることに、役者として大きな刺激を感じると獅童さんはいう。
「この物語の土台にあるのは、ごく普通の技術者たちの中にみなぎっていた、自分達で時代を動かさなきゃいけないという責任感。“さぁ、これから日本をよくしていくぞ”という、前向きなエネルギーなんですよね。それはきっと、いまの時代にも必要とされてるものだという気がする。僕自身、これから役者人生を歩んでいくうえで、何かに夢を抱き、少しでも時代を動かしていこうという気概は持っていたいですし、それがなければ舞台に立つ意味はないと思うんですね。社会から一途なパワーがなくなりつつある時代だからこそ、こういう熱い時代のドラマを演じることが大切。消えゆきつつあるものを蘇らせ、みんなで共有できるのは、芝居の持っている大きな力ですから」

獅童さんが演じる主人公・岩岡剛は、世紀の難工事に真っ向から立ち向かう建設会社の若き技師。言うまでもなく映画版では石原裕次郎が演じた役柄だ。ただし、今回の舞台版には新しい仕掛けがある。それはトンネル工事を描いたストーリーだけでなく、今だから明かせる映画の制作秘話の部分もドラマ化されていることだ。つまり獅童さんは岩岡剛という真摯なエンジニアと同時に、当時の「五社協定」に抗って自らの信じる映画を作ろうとした石原裕次郎さん本人も演じることになる。
「黒部ダムの工事が社運をかけた大プロジェクトだったのと同じように、『黒部の太陽』という映画の制作は、裕次郎さんや三船さんにとって大きな賭けだった。そういう強い思いみたいなものも、僕らはどんどん引き継いでいくべきだと思います。その意味で今回、オリジナルのストーリーを舞台用にリメイクするだけでなく、あえて二重構造のドラマにしているところも楽しみですね。何かに挑戦し、乗りこえていくという『黒部の太陽』の精神を、すごくいい形で受け継いでいる気がします」
役作りについても、まったく同じことがいえそうだ。舞台上で演じるべきは、あくまでも「中村獅童なりの岩岡剛」であり、「中村獅童が想いえがいたスター、石原裕次郎」。観客の記憶のなかにあるイメージをなぞるだけでは、今この作品を舞台化する意味はないと獅童さんは話す。
「もちろん裕次郎さんのことは心から尊敬しているし、俳優としてその役をやらせていただく歓びは、何事にも代えがたい。でもやっぱり、偉大な裕次郎さんの真似をしても、僕は何の意味もないと思うんですね。かりに裕次郎さんの出た映画やテレビをたくさん見て、その喋り方や仕草を細かく研究したとしても、お客さまには何ひとつ届きません。それは役者として、実はラクしてることになるからです。本当に大切なのは、ちゃんと台本に向きあって、中村獅童なりの役柄を作り上げること。一つひとつの台詞を噛みしめ、『裕次郎さんなら、これをどんな気持ちで仰るだろう…』という意味を、自分の力で探していく。それが役者の仕事だと思うんですね」

実をいうと『黒部の太陽』は、現在ほとんど見ることがかなわない“幻の名作”としても知られている。公開から40年。ビデオ・DVD化はもちろん、原則テレビ放映さえされてこなかった。「この作品は映画館で見たもらいたい」という裕次郎氏本人の遺志により、ソフト化が見送られてきたからだ。獅童さんもまた、オリジナルに接したことのない世代の一人。長く封印されてきた傑作を新たに再現できる歓びを感じつつ、新しい脚本を完全に消化できるまで、映画は見ないと決めている。
「劇場に足を運んでくださるお客さまのなかには、かつてスクリーンで『黒部の太陽』を見て感動された世代の方もきっと多いと思います。そういう方々を前に演じるからこそ、自分に先入観を与えたくない。何の知識もない、まっさらな状態で物語に接したとき、一体何を感じるのか。そういう計算ではなく心が揺れる瞬間というのは、役者として一番大事にしてる部分でもあるんです。その状態を知っていてこそ、『自分はなぜこの台詞に反応したんだろう…』という掘り下げ方もできるんじゃないかな、と」
公演は10月5日〜26日の3週間。クライマックスの「大放水シーン」、20トンの水を使う空前の舞台装置の準備も着々と進んでいるという。梅田芸術劇場の舞台に立つのは、実は2回目のこと。今年の5月、宮本亜門演出の祝祭音楽劇『トゥーランドット』で経験したビビッドな客席の反応を、今から楽しみにしていると獅童さん。
「関西のお客さまって、楽しむのが本当にうまいんですよ(笑)。以前、松竹座で『丹下左膳』をやらせていただいたときも、先日の『トゥーランドット』でも、感情がバーンとストレートに跳ね返ってくるような感覚がある。舞台の醍醐味は何といっても一発勝負のライブ感。同じ時間、空間を共有し、同じ空気を呼吸できることを、今から楽しみにしています。かつて映画を見た方はもちろんのこと、普段あまり劇場には縁のない若い世代、特に男性のお客さまにぜひ足を運んでいただきたいですね。これから時代を動かしていかなきゃいけない同世代の方々に、熱い何かを感じとっていただければ嬉しいです」
「月並みですけれど、本場のお好み焼きと焼き肉を食べること(笑)。歌舞伎で大阪に行くときは松竹座が多いので、あのあたり(道頓堀〜心斎橋周辺)のお店に足を運ぶことは多いですね。あとは、やっぱりUSJかな。以前にも行ったことはあるんですが、『スパイダーマン・ザ・ライド』にはまだ乗っていないので。大の“スパイダーマン好き”としては、体験しておかなきゃまずいなと(笑)。あと、先日の大阪公演では行けなかった『スパワールド』も気になります。まあ、実際に公演が始まると、集中してしまって結局行けずじまいになってしまうんだけど…。余裕があれば、関西を大いに楽しんでみたいです」 |
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「映画ではスケールを感じられるけど、舞台ではワールドを感じて欲しいと思います」 舞台「黒部の太陽」は、ダム建設に携わる人々のドラマと映画化に奔走した人々の両輪で描く意欲作。この作品に出演する神田正輝さんにお話を伺いました。 神田正輝スペシャルインタビュー |
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