
| 本場のポルトガルに滞在してファドを体得し、同じポルトガル語圏の歌を追いかけてアフリカのカーボ・ヴェルデやブラジルにも渡り、大西洋をまたぐ超ボーダレスな音楽性を身に付けた松田美緒。ファドをベースとしながらも、『カフェ・ブラジル』で知られる大御所エポカ・ジ・オウロの面々らを迎えてブラジルで録音されたデビュー作『Atlantica』は、タイトル通りにポルトガル〜カーボ・ヴェルデ〜ブラジルの音楽を奔放かつ柔軟な感性で消化。現地のシーンにも類似例のないオリジナリティーをすでに確立している。『Atlantica』完成に至るまでを、彼女に語ってもらった。 |
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まずは、美緒さんがファドを歌うようになっていったきっかけからお願いします。 |
もともと私は歌が好きで、高校生の頃からギリシャのハリス・アレクシウやヤドランガさんなどを聴いたりしていたんですけど、ポルトガル語の歌に関しては、18歳の時にブラジル人の友達ができたのが大きかったですね。それから本格的にポルトガル語を勉強しようと思っていた時に、渋谷のHMVでなぜかブラジル音楽ではなくてファドの女王と呼ばれるアマリア・ロドリゲスの初期録音集を買って、彼女のすべてを打ち明けるような歌い方に“コレだ!”と惹かれて。ボサノヴァと並行してファドを歌ううちに、もっとファドを極めたいと思うようになっていきましたね。 |
で、ポルトガルには2度滞在して、本場のカーサ・ド・ファドやレストランで歌ったり、現地の国営テレビの番組に取り上げられたりもしたとか。 |
そうですね。大学を卒業した後に初めてポルトガルに行って、向こうで現地のおじさんやおばさんたちにかわいがってもらいながら育ててもらって。2度目に1年間留学した時には、ファドにどっぷり漬かりながらも、同じポルトガル語圏のカーボ・ヴェルデやブラジルやアンゴラの音楽家たちとも交流しました。
それは、大西洋(Atlantico)を女性形にした『Atlantica』というデビュー・アルバムのタイトルとも繋がってきますね。 |
自分の中ではずっと、1920〜30年代のブラジルのサンバやショーロと同じ時代のファドにはすごく通じるものがあるのに、どうして今それを一緒にやる人がいないんだろう?と思っていたんです。で、実際にカーボ・ヴェルデやブラジルでもファドを歌ってみて、やっぱりホントに繋がっていると体感できたんですよね。その時に、すでにポルトガル人のギタリストと一緒にファドを録音することになっていたんですけど、自分にはもっと違う形での表現方法があるはずだ、ということでブラジルでレコーティングをすることに決めたんです。
本場のポルトガルに乗り込むだけでも充分にアクティヴなのに、さらに海を渡ってしまった(笑)。 |
私は(性格的にも)港で待つような女性じゃなく、むしろ船出してしまう方だろうし(笑)。音楽的にもファドを古典的なスタイルでやろうとしても今の私には表現し切れないから、リスボンから船出をしてバーンと大西洋に乗り出していきましたね。
そして完成した『Atlantica』は、日本でも『カフェ・ブラジル』で人気を集めたエポカ・ジ・オウロのホジェリオ・ソウサをプロデューサーに、ショーロの名手やカーボ・ヴェルデのミュージシャン達がバックを固めたとても贅沢な仕上がりで。音楽的にもファドを中心としつつも、ブラジルのボサノヴァ、サンバ、ショーロ、カーボ・ヴェルデのモルナなど、様々な要素が自由に入り混じった作品になっていますね。 |
「ホジェリオ・ソウサには自分で電話して、リオの空港まで来てもらって“こういう音楽をブラジルで録音したい”と話し合って決めましたね。で、結果的には、アマリアのファドと同時にクララ・ヌネス(注:“サンバの女王”と呼ばれるブラジルの女性歌手)にも惹かれていたことなども含めて、いろんな意味で自分の原点に戻れたというか。ポルトガル〜カーボ・ヴェルデ〜ブラジルと海路をたどって行くことで、私が勝手に繋いだのではなくて、もともと大西洋で繋がっていた音楽を自分が感じたままに表現できたのがよかったと思います。
でも、ポルトガル〜カーボ・ヴェルデ〜ブラジルを股にかけたと言うと大作っぽいイメージになるけど、サウンド自体はシンプルで軽快。楽曲もファド、サンバ、モルナと多彩だけど、訳詞を読むと“海”をテーマにした曲で統一されていたりして、大西洋が決して遠い海ではないように思えてきますよ。 |
うん。海が運んでくるドラマや宿命とか、海の向こうに行かなければいけなかった人達の気持ちとかを、自分自身にも重ねて歌ったところは強いと思います。アルバムの流れも、ファドが中心の前半からカーボ・ヴェルデの曲を挟んで、後半はちんどん屋をやっていた頃に覚えた「雨降りお月」のポルトガル語ヴァージョンも挟みながらブラジルの曲を中心にと、私が海を渡っていったルートと同じ流れになっているので。ファドやブラジル音楽を普段はあまり聴かないという方にも、海の上を旅するように楽しんで欲しいですね。 |
特に、4曲目に収録されている「SAIKO」という曲はサビの部分が“最高、サイコーだよ”と聞こえるユニークな曲だけど、これは昔からカーボ・ヴェルデで歌われている曲なんですね。 |
そうなんですよ。60年代に日本のまぐろ漁船がカーボ・ヴェルデのサン・ヴィンセンテ島に行っていて、漁師さんたちが現地の人たちと仲良くなって“サイコーな奴らだ!”ということで生まれた曲なんですよ。だから、今回は私が2番に日本語を付けて歌っていますけど、元は正真正銘のカーボ・ヴェルデの曲で、似たメロディがブラジルのサン・ジョアンのお祭りの音楽にあったりするので、アレンジはサンバ〜バイヨンっぽい感じにしてみたんです。
ポルトガル語で歌われる「雨降りお月」も、『Atlantica』の中に入ることで不思議な無国籍チューンになっているし。 |
そうですね。野口雨情と中山晋平がこの曲を書いた頃は、日本からブラジルへ移民する人が多かった時期なので、その時代の日本人が持っていたサウダージ=望郷の念というか…。そういうところまで表現できたのかな、とは録音を終えてから思いましたね(笑)。
しかし、デビュー作『Atlantica』から破格のスケールだけど、今後はどんな作品を作ってみたい? |
とりあえず次は…、もうサウダージを通り越した強さというか。まだどうなるかわからないですけど、ブラジルのノルデスチとかジプシーとか、海からちょっと内陸に入って“大地を踏みしめながら踊る”みたいな音を作ってみたいですね。
取材・文/吉本秀純 |
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1979年秋田県生まれ、九州・京都育ち。
アマリア・ロドリゲスのファドに影響されポルトガル語を独学で習得、2001年にポルトガルを訪れレストランなどで歌いはじめる。その後5ヶ月間ヨーロッパ10ヶ国の旅や1年間のリスボン留学で地元音楽家たちと活動、ポルトガル語圏の多様の音楽を現地で吸収。
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1st Album
『Atlantica』
(ビクターエンタテインメント/VICP-63039)
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