建山和徳インタビュー(1)「障害者支援で得られる視点」

2017/08/02

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:トライアウト・田村朋子

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
建山和徳インタビュー(1)「障害者支援で得られる視点」

「発達障害」と聞いて思い浮かべることは何でしょうか。「聞いたことはあるけど何も知らない」という方もいれば、「注意欠如多動性障害(ADHD)」や「学習障害(LD)」などの分類まで詳しく知っている方もいることでしょう。

発達障害は大きく「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠如多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」に分けられていますが、医師によって診断結果が異なることや、複数の特性が併存するケースがあり、明確な線引きはできません。また、原因や特性についても未解明な部分が多く、診断名やその定義がしっかり定まっていないのが現実。そのため周囲の理解不足や誤解によって苦しんでいる当事者の方は少なくありません。そんな発達障害に対する理解をさらに広げ、発達障害に悩む人々が生きやすい社会を目指して精力的に活動しているのが、今回ご紹介する建山和徳さんです。

現在、Web制作事務所「ウェブレイス」を運営するかたわら、障害者の就労支援などを手がける「一般社団法人みがく」の代表を務める建山さん。自身が20代の頃に発症した双極性障害と発達障害の間に関連がある可能性を知り、発達障害者を支援しようと決意。そして「みがく」を立ち上げた建山さんが、障害者支援を通して得た視点に迫ります。

「みがく」を立ち上げた建山さん

人それぞれの特性を知れば、人づきあいが楽に

――まずは、建山さんが代表理事を務められている「一般社団法人みがく」について教えてください。

「みがく」は発達障害に対する社会的な認知の向上や、インターン・職業訓練などを通した発達障害を抱える障害者の就労支援などを目的に、2015年8月に設立しました。障害者就労施設などから紹介された障害者の方に職業訓練の機会を提供し、インターンを受け入れてくださる企業とのパイプ役を担っています。また、発達障害に関する理解促進のために、当事者やその家族、発達障害に関心のある方や支援者などが集まって座談会を行う「発達あるあるカフェ」などの取り組みを行っています。

発達あるあるカフェ

交流を楽しむ「発達あるあるカフェ」の参加者。毎回「ストレス発散方法」「電話は得意?苦手?」「パートナーとの関係」など、誰もが楽しめるトークテーマを用意している。

「みがく」がめざすのは社会福祉事業の範囲外、つまり福祉の外からサービスを行うこと。その理由は、障害者手帳の有無に関わらずサービスを提供したいからです。実は障害者手帳というのは「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神障害者保健福祉手帳」の3種類で、発達障害の診断だけでは手帳を持つことができません(診断内容により例外あり)。そのため、手帳を持つ方を対象とした社会福祉事業者ではなく、あくまで既存の福祉事業所をバックアップする存在といいますか、福祉事業所や大学、一般家庭と企業を結ぶハブ的な存在になりたいのです。

――「みがく」を通して得た視点や発見はありますか。

正直な所、「みがく」を始めるまで発達障害に関する知識はゼロでした。でもこの2年間、ものすごく勉強して、数多くの当事者の方と接し、発達障害の特性をたくさん知ることができました。その結果、人を見るときの判断基準が増えたといいますか、人の特性に対する理解が深まって人間関係がスムーズになったと思います。結局、発達障害と診断されているかどうかに関わらず、人ってみんな特性があるんです。それを見極めて受け入れることで、自分も相手に受け入れてもらえる。だから人づきあいがとても楽になりましたね。もちろん、このことが「ウェブレイス」の運営にも活きています。

障害者支援が職場全体の環境改善に

――障害者の就労支援を通して感じたことを教えてください。

面白いことに、インターンを受け入れてくださるどの企業の担当者もおっしゃることが2つあるんです。それは「色々な方がいますね」と「普通の人ですね」という言葉です。ちょっと待ってくださいよ、と(笑)。世の中を見渡してください。発達障害を抱えているかどうかに関わらず、色々な人がいますよね。発達障害の方を連れてくるからといって、みんな一緒なわけがない。

「普通の人ですよね」というのも当然です。でも苦手なこともあるので、上手くいかないこともありますよ、というだけの話です。そこをサポートすることができれば、普通以上の力を発揮する可能性だって秘めているんです。

「色々な方がいますね」と「普通の人ですね」は、企業の担当者から素直に返ってくる言葉です。すごく当たり前なことなんですが、実際に当事者の方と接してみないと気付かないんです。やはり「障害者」という言葉に対して、多くの人が何らかの固定観念を持っているんですね。

建山和徳インタビュー Vol.1 「障害者支援で得られる視点」-画像-03

――受け入れる企業には、どんな配慮が必要でしょうか。

もちろん、人それぞれ特性があるので一概には言えませんが、仕事上のルールを明確に決めることが大切です。曖昧なルールや「暗黙の了解」のようなものは苦手なことが多いんです。例えば、機械の動かし方ひとつ取っても、マニュアルが整備されていなかったり、人によって教え方が違ったりすると、納得できない人もいます。気にしない人なら「どっちかのやり方に合わせればいいだろう」と考えられるのですが、そのような捉え方が難しいんですね。

実際にこのような事態に直面した企業に対しては、「いっそ、マニュアルを作った方が良いですよ」と提言しました。すると、あるベテラン社員の方から「私もマニュアルが必要だと思っていた。でも忙しくて言い出す機会がなかった」と言っていただき、その方がマニュアルを作ることになりました。結果的には、そのマニュアルのおかげで、新入社員も含めて誰でも機械を動かせるようになったんです。

また別の企業では、午後の小休憩を取る時間が決まっておらず、人それぞれ「今かな」というタイミングで取っていました。そうすると、インターンの方はいつ取っていいのか分からず、誰かに聞いていいのかどうかも分からない、という事態に。それで私が提言したのは「一週間だけ、試しに全員が同じ時間に小休憩を取ってみましょう。それで効率が悪くなるようなら、元に戻しましょう」ということです。結果的には元のバラバラに休憩を取るルールに戻すことになったのですが、何かを試すきっかけにはなりました。

――インターンの受け入れが、新しい動きのきっかけになっているんですね。

はい。どんな会社でも「こう変えたらいいのに」みたいなことってありますよね。でも積極的に提言すると何となく浮いてしまう……。提言すれば間違いなく良い方向に変わるのに、誰も言い出さないことって多いですよね。障害者を受け入れることが、そのような企業の変化を後押ししてくれるんです。

そして、マニュアルを整備したり、仕事内容を整理したりする過程で、企業はあることに気付くんですよ。「障害者が働きやすい環境を突き詰めていったら、結局は全員が働きやすい会社になるんだ」と。その結果、障害者の方を受け入れることに抵抗がなくなっていき、企業の状況に合わせて柔軟に雇用体制を整えられるようになるんです。

――障害者支援のためにやっていることが、結局は自分たちのためになるんですね。それはどんな業種でも当てはまりますか?

ある程度、どんな業種にでも当てはまりますよ。もちろん、イレギュラー対応が多い業種もありますが、普段の仕事を一度整理してみてください。例えば10の工程があったとして、1~3まではAさん、4~6までをBさん、7~10までをCさんが担当していたとします。それを見て「本当にこれがベストなのか?」という所から考え始めるんです。そうすると、「ここはインターンの方にやってもらいましょう」という作業が出てくるんですよね。仕事を整理することが無駄の発見につながるケースもたくさんありますよ。

建山和徳インタビュー Vol.1 「障害者支援で得られる視点」-画像-04

――逆に、職業を体験した方にはどんな気付きがあるのでしょうか。

例えば、以前にスポーツショップのバックヤードの仕事を体験した方がいるのですが、その後、サッカーのユニホームをプレスする仕事を体験したときに「仕事がつながってる!」ということに感動したそうです。自分が背番号をプレスしているユニホームが、以前のショップで売られていた、ということを体験するだけでも新鮮なんですね。このような体験を通じて自信がつき、働くことへのハードルが下がっていきます。

注意したいのは、期待されるとプレッシャーでダメになる人もいる、ということ。インターン経験者の中には、企業から「また来てほしい」と言われるほどクオリティの高い仕事をする人もいます。でも、それを本人に伝えると「すみません、無理です」となってしまうことがあるんですね。そのような方は、期待されると過剰に頑張ってしまうんです。それで体調を崩したりミスが増えたりすることもある、ということも知っておきたいですね。

建山和徳インタビュー Vol.1 「障害者支援で得られる視点」-画像-05

関連記事

  • LINEで送る
  • はてなブックマークに追加
  • +1する
  • POCKET
  • facebook
  • ツイートする
  • ツイートする
  • facebook
  • LINEで送る
  • +1する
  • はてなブックマークに追加
  • POCKET