「ひらめけ!視点塾」第2回/ベイブレードバーストには遊びの全てが詰まっている

2017/08/16

WRITER海猫沢めろん

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「ひらめけ!視点塾」第2回/ベイブレードバーストには遊びの全てが詰まっている!

毎回ひとつの作品をとりあげて「視点」について考えるこのコラム。
第1回目は、ぼくの小説『キッズファイヤー・ドットコム』でしたが、2回目は……。
みなさんも、いろいろなところですでに目にしているのではないでしょうか。
最近流行しているアレ。
指先にのせたりつまんだりして回転させる、プロペラのような鉄の奇妙な物体――そう、「ハンドスピナー」です。

ハンドスピナー

ハンドスピナー

これはもともと重度筋無力症の子供の治療用につくられたものですが、去年あたりに特許が切れたのを境にアメリカで製品化され大ブレイク。多動症の人を落ち着けるのにもよいとされています。

「何がおもしろいの?」
そう思って回していたらいつのまにか癖になっていた……という催眠的アイテムです。
それはともかく、こんなに流行したら、ブームが終わって捨てられたときにゴミ処理場にハンドスピナーの山ができてしまうのではないでしょうか。
はっ……もしかして!
そのときぼくの脳裏にふと古代の貝塚の姿が浮かびました。
弥生時代の人が食べたあとの貝殻をすてていたというあれです。
もしかするとあれは食べていたのではなく、弥生時代には貝を回したり、集めたりするのが意味もなく流行しており、その流行が終わった後の産廃物なのでは……。

軽く歴史を塗り替える発見をしてしまいましたが、ぼくレベルになると、こうしたことは毎日3回はあるので珍しくはありませんので先へ進みましょう。
奇しくもいま、子供たちのあいだで、「回転」をテーマにしたあるおもちゃがハンドスピナー以上に流行しています。
それは一体どういうものか?
そう、知っているひとは気づいたと思いますが、「ベイブレードバースト」です。
ベイブレードとは10年近く前に流行した新型のベーゴマです。ベーゴマは独楽をぶつけあって勝負する遊びですが、ベイブレードもまったく同じです。さらに、それをアップデートしたものが「ベイブレードバースト」なのです。初代「ベイ」とは少し違っており、バーストのほうは文字通りベイ(独楽)がバースト――つまり分解します。
写真を見てください。

レイヤー

ディスク

ドライバー

「ベイブレードバースト」のベイは初代のものとちがい、3つのパーツからできています。

レイヤー、ディスク、ドライバー。です。この3つはぶつかるとロックがゆるむようにできていて、お互いに回転するベイがぶつかり会うたびにロックがゆるみ、最終的にはばらばらに解体されます。この状態をバーストフィニッシュといい、とにかくアツい。アガる。かっけー(脳が小学生になってきました)。
ベイブレードは対戦ゲームで、中華鍋みたいなスタジアムにお互いのベイをシュート(回す)して、先に2ポイント先取したほうが勝ちです。ポイントは以下。

1. 相手より長く回る「スピンフィニッシュ」。1ポイントもらえる。
2. 相手をスタジアムの外に出す「オーバーフィニッシュ」1ポイントもらえる。
3. 相手を破壊(バースト)させる「バーストフィニッシュ」2ポイントもらえる。
(参考:ベイブレード公式サイト

見ればわかるとおり、バーストさせるといきなり終わります。
再チャレンジできない日本社会の厳しさのメタファーでもあり、非常に批評的です。

「ひらめけ!視点塾」第2回/ベイブレードバーストには遊びの全てが詰まっている!-画像-06

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ぼくは最近このベイブレードバーストを購入し、子供と一緒に近くの公園に行って、そこに集まっているちびっこたちに混じって勝負しているわけですが、一応、ジャンケンのように三すくみ+αの要素があるので必ずしも大人が勝つというわけではなく、勝敗にはある程度ランダム性があります。

ベイブレードのタイプ

ベイには4つのタイプがあり、それぞれ特徴が異なる。

・アタックタイプ
高い攻撃力で相手にアタックする!スタミナタイプに有利。

・スタミナタイプ
遠心力が大きく、長く回り続ける!ディフェンスタイプに有利。

・ディフェンスタイプ
防御力の高さで、攻撃を受けない!アタックタイプに有利。

・バランスタイプ
複数の特性を併せ持ったり、特殊な性能を持つ!どのタイプともバランスよく戦える。
(参考:ベイブレード公式サイト

が、しかし。数をこなすとたしかに強いベイというのが存在します。極端なものは「殿堂入り」してしまい(トレーディングカードゲームで言う「禁止カード」ってやつと同じです)、試合で使えなくなります。出る杭は打たれるということでしょうか。批評的です。

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「デュエルマスターズ」とベイ、そしてサッカーがいまの小学生(低学年)の3大公園社交アイテムです。サッカー以外ガチでやれるぼくは公園で大人気です(ちなみにぼくはデュエル・マスターズのイラスト監修をしていた会社に、フリーのデザイナーだったころ出入りしており、知り合いがカードイラストを描いているので、「あ、これ!これ!俺の友達が描いてるんやで!」とか、大人げないマウンティングしまくりです。小学生以下です)。

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そんなふうにベイを楽しんでいるとき、ふとぼくは「回転」の娯楽性について考えてしまいました。

冒頭の「ハンドスピナー」しかり、「超速スピナー」という「ヨーヨー(スピナー)」を扱ったマンガもありました。子供たちは「回転寿司」が大好きです。遊園地に行けば「メリーゴーランド」「観覧車」「カップソーサー」多くのアトラクションは回転します。
あと、スケートの羽生くん。回転するビジュアルのせいか、彼は子供にも大人気です。もしかしたらスーフィーの回転舞踊とかを見ると子供たちはイスラムに親しみを覚えるかもしれません。

遊びと回転の魅力については、フランスの批評家であるロジェ・カイヨワがその著書『遊びと人間』で書いているので少し紹介しましょう。
まずカイヨワは遊びを四つに分類します。

・ アゴン(競争)
・ アレア(運)
・ ミミクリ(模擬)
・ イリンクス(目眩)

さらにこのすべてに共通する軸として「遊戯(パイディア)」と「ルドゥス(競技)」を設定します。
同じアゴン(競争)に類する遊びでも、ルールがない鬼ごっこと、野球のようなルールがあるスポーツではかなり違いますよね。

さて、ベイブレードバーストをこの図式にあてはめて考えてみると、まず「回転」の要素があるので、「イリンクス(目眩)」に含まれます。次に、さっき言ったように、「アゴン(競争)」でありながら「アレア(運)」の要素もあります。さらに小学生は「いっけー!俺のヴァルキリー!」とか、明らかに演劇的にアニメのシーンを再現しているので「ミミクリ(模擬)」の要素もあります。
驚くべきことに「ベイブレードバースト」という遊びは、カイヨワの4要素すべてを満たしているのです。すごい。最強。ベイブレード面白い。やばい(小学生脳です)。

もちろん4要素すべてを満たしたからといって素晴らしいとは限らないのは自明ですが、少なくともこの単純な遊戯のなかにこれほどの要素がはいっていることには注目すべきでしょう。
さらに言えば、この遊戯はカイヨワが遊びの分類について言い漏らしていることも浮かび上がらせます。
たとえば「収集」です。ベイブレードは単に競技だけではなく、収集癖を刺激するアイテムでもあります。集めるということは純粋な喜びですが、現代のデジタルゲームにおいても、収集というのは欠かせない要素であり……これはまたの機会にして「回転」に戻りましょう。

「ベイブレードバースト」は「回転」を使った遊びですが。そもそもなぜ人は回転に惹かれるのかという問いには、おそらくまだ誰も明確な答えを出せていません。ぼくが知っている範囲では西村清和『遊びの現象学』に「独楽の調教」という項目がありますが、ここで展開されているのは「制御」の精度を上げていくというスポーツ的な面白さであり、「回転」そのものとは無関係です。

なぜ人は「回転」に惹かれるのか……ぼくなりに出した答えがあります。それは、
モノを回転させると「万能感」が得られるから、ではないか。
というものです。
順を追って説明します。

カイヨワの例に従えば「回転」の遊びとは、「目眩」のような不安定な感覚ということになりますが、これはまだ付け足す余地があると思います。
なぜなら、ハンドスピナーやベイなどは、回転による幻惑とともに、「安定」も得られる行為だからです。
よく知られる通り、物体は自転運動回転するとジャイロ効果で安定します。自転車やバイクに乗っているときにコケないのはこの作用です。独楽や羽生くんが回転しているときにもジャイロ効果は発生しています。
回転が幻惑という不安定さと、安定、というまったく逆のものを生み出すというのは面白いですね。
この安定感というのは、人間が重力によって地面と接していることとも関係しているように思われます。回転と安定感というのはつながっているのです。これは人間の心理的な問題ではなく、物理的現象としてもそうです。量子はスピンをもっていることが知られていますし、天体やこの宇宙も回転していることが知られています。DNAが二重らせんであることもなにか関係があるかもしれませんすいませんだんだんオカルトはいってきそうです。

とにかく回転は幻惑とともに安定をもたらすわけですが、そもそもその「回転」がどうやって開始するかというと、回している人がいるからです。回転の力を与えた物体が、自分から離れても動き続けること――これが重要なのです。

自分が触っていないのに「動いている」という感覚――これが楽しいのではないでしょうか。なぜ楽しいかというと、単純な子供の思考においては「動き」こそが「いのち」だからです。
大人になるといろいろ考えて生命の定義を難しくしてしまいがちですが、まだ世界の知識が乏しい子供にとって、生きている、ということは「動いている」ということらしいです(うちの子が言ってました)。
そこから敷衍して考えてみると、子供たちの独楽の遊びは生命をふきこむ行為。ある種の全能感の快楽からきているのではないか、とも思うのです。
子供の心理学の本なんかを読むと、子供にとっての「いないいないばあ」は、本気で目の前で世界が消えたり現れたりする現象らしいのですが……(児童心理学の本かなんかで読んだ気がします。子供にきいてないからわからんけど)、それとあわせて考えると、子供の心のなかで世界というのは消したり出したりできるもの――つまり自分で創造と破壊が可能な、コントローラブルなものとして定着していくのではないか。そのことは世界と自分に対する安心感につながっているのではないか。
なんてことを「ベイブレードバースト」をやっていて考えてるのです。

そんなわけで「回転」から得られる視点とは、人間が本能的にもっている安定と不安定、その両方のあいだで遊ぶことによる世界との信頼関係をつくっていく、原初的な視点です。

それではまた。次回は2017年8月18日より公開のアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」を取り上げます!ゴーッッシューット!(ベイブレードバーストの掛け声)。

(写真提供:海猫沢めろんさん)

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1回目が小説、2回目がベイブレードバーストという自由さが最高!

喜び
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    海猫沢めろん

    高校卒業後、紆余曲折を経て上京。文筆業に。『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『愛についての感じ』で第33回野間文芸新人賞候補。他に『零式』、『全滅脳フューチャー!!!』、『ニコニコ時給800円』 、『夏の方舟』などがある。小説以外でも、エッセイ『頑張って生きるのが嫌な人のための本~ゆるく自由に生きるレッスン』、ルポ『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』など多数。 ボードゲーム、カードゲームなどのアナログゲームを製作するユニット「RAMCLEAR」代表。

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