「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点

2017/08/25

WRITER海猫沢めろん

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「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点

8月とは思えないほど肌寒い東京ですが、みなさまはどんな夏をお過ごしでしょうか。
さて、連載3回目に取り上げる作品は、この夏にふさわしい新作映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」です。
1993年にフジテレビで放送された岩井俊二監督のテレビドラマ作品が24年の時を経て、大根仁×新房昭之でアニメ映画化。今回はこの作品を見て考えた「視点」について話したいと思いますが……。
東宝試写室でこの映画の開始を待つあいだ、正直めちゃくちゃ不安でした。

だって……岩井俊二の「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」ですよ……あまりにも傑作すぎるじゃないですか。どう考えたってハードルが高すぎですよ。おまけにぼくの思い出補正もすごいことになってます(いや、たしかに見たいって言ったのはぼくなんですけど)。

思い返せば90年代当時、大阪の専門学校に通っていた10代のぼくは完全に岩井俊二にやられてました。
誰か忘れましたが、ある日、クラスにいた映画好きが貸してくれた一本のビデオ。それが岩井俊二作品をまとめたものだったんです。初期のショートフィルムやCMが集められて、だいたいの作品は収録されていた気がします。
なかでもぼくが好きだった作品が「GHOST SOUP」と「FRIED DRAGON FISH」、そしてこの「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」です。

「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点-画像-01

物語は、海辺の町に住む小学生「典道」が、夏休みの登校日、学校へ行くところから始まります。
夜に行われる花火大会にさきがけて、友達数人が「打ち上げ花火は横から見ると丸いのか、平べったいのか」という問題を議論しはじめ、その答えを確かめるために「スタンド・バイ・ミー」よろしく、花火を横から見ることができる浜の燈台へピクニックへとでかける約束をします。
同じ日、ヒロインの「なずな」は、母親が強引に決めた転校に反抗するため、クラスメイトと「駆け落ち」する計画を立てていました。なずながその相手に選んだのは……。

「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点-画像-02

というのが大まかな展開です。
物語は、なずなが主人公の典道を選んだルートと、その友人を選んだルートの両方を描くのですが、今回のアニメ化にあたってもその筋書きはそれほど改変されていません(ループを引き起こす理由として、海で拾った不思議な玉というガジェットが新たに採用されています)。

さて、結論から言うと、ぼくはアニメ版の良し悪しを冷静に判断することができません。
原作が好きすぎて、どうしても比べてしまうのです。

「すべてのスクリーンに投影された花火は平面なのだ。しかし、それを立体にするのはぼくらの想像力次第だ」

とかなんとか批評っぽい小賢しいことを言って誤魔化そうとも思ったんですが、それもなにか違う。
「ここが良い」「ここが悪い」とか言っても、そんなことは製作者が一番わかっているので、わざわざぼくが言う必要もないでしょう。
この映画を見て得た「視点」とは一体なんだったのか。

ぼくが映画を見ているあいだに考えていたこと。それはほとんど「原作との違い」ということに尽きます。
あそこが違う、あそこが同じだ……あそこはこう変わっている……あれをこう変えたのか。
そわそわしながら、いろいろなことを考えていました。
観客としてはほんとにこれは良くない。わかっています。でも無理です。だって原作見ちゃってるんだもの! 脳にこびりついてるんだもの!

そんなわけで、結局ぼくは今回のアニメ版を冷静に単体のオリジナル作品として見ることはできなかったのです。
これはもうどうしようもない。
では、ぼくはこの映画をどういう視点で見ていたのでしょうか?

「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点-画像-03

よく「打ち上げ花火~」は子供ならではの視点を描いた作品と言われます。「打ち上げ花火は横から見ると平べったいんじゃないか」という発想は大人になってしまうとなかなか出てこないものです。この映画の「視点」はまさに本サイトZing!のテーマそのものであり、いくらでも論じることができそうです。

ぼくらはこの映画を通して子供の視点を疑似体験することができます。
しかし、これはあくまで疑似体験であって、ぼくらが大人になったからこそできることです。これは第1回目の連載で書いたのと同じく、「2周目の味わい方」なのです。
ぼくらはもう子供ではないけれど、子供だったころのノスタルジーを蘇らせるこの作品を見ることによって、もういちど幸福で残酷だった子供時代に帰ることができるのです。けれど重ねて言いますが、それはどこまでいっても架空の子供時代なのです。

このことを踏まえてアニメ版を見ていたときの感覚を思い出すと、ひとつのことがわかりました。
それは、アニメ版を見ていたぼくの視点は「3周目」だったということです。

映画を見ているときにぼくの視点はこのように3層構造のメタ視点になっていました。

 1 小学生時代の自分
   ↓
 2 原作鑑賞(映画のなかに小学生時代の自分を投影)
   ↓
 3 アニメ版鑑賞(原作映画に小学生時代の自分を投影していた自分を見ている)

「2」の鑑賞時にすでにメタ視点が入っているのがわかります。ぼくは作品を見ながら過去の自分も見ていたわけですが、今回「3」を鑑賞しているときのぼくの視点は、そのときの自分を思い出していたので相当に複雑なことになっています。

こうした認知している自分を認知する行為のことを「メタ認知」と呼びますが、このメタ認知というのは子供にはできません。大人になるにつれて複雑で重層的なメタ認知ができるようになっていくわけです。
このメタ認知はコミュニケーション能力にも関わっています。ぼくが「好きだ」と言うと、Aさんは驚くに違いない……でももしかしたらAさんは「あのひとは私をびっくりさせるために『好きだ』と言ったにちがいないわ」と、思うかもしれない……。
というような他人の思考を深くシミュレートする能力とメタ認知はつながっているのです。
つまり、メタ認知の深さは子供か大人かを見分けるひとつの指標であると言えるかもしれません。

「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点-画像-04

アニメ版「打ち上げ花火~」は原作よりもループの回数が増えています。
さらに主人公典道は原作とは違い、このループに自覚的で、奇妙な玉がそれを引き起こしていることに気づいています。
原作よりもさらにメタ認知を深めたアニメ版の典道は、時代を超えてより大人になったといえるのではないでしょうか(ちなみに、原作で小学生だった彼は今回、中学生として描かれています)。
さらに、もうひとつ面白い視点があります。ループもののラブストーリーでアニメ、しかもプロデューサーが川村元気、ということで「君の名は。」と、要素がよく似ている今作ですが、二つの作品を見比べてみると、まったく違うところがひとつあることに気づくでしょう。
それは主人公たちの恋愛のあり方です。
両作ともに、「たまたまその人だった」ということは一致しています。だけど「君の名は。」の二人がそれを運命の出会いとして身を投じるのに対して、「打ち上げ花火~」の二人は、そもそもお互いを本当に好きなのかよくわかっていないふしがあります。
作中でなずなが言うように「勝つと思ったから」というくらいの理由で選ばれた相手が典道なのです。実際に1度目のループでは彼を選ばない道もありえたことが示されます。この感覚は非常にリアリスティックで、冷めた視点です。なずなの冷めた感覚と、それに翻弄される典道、大人と子供のあいだに立っている微妙な二人の差異をよく表しています。
なずなは翻弄されている典道と違い、自分が立てた計画があらかじめ不可能なものであるということを、どこかでわかっています。自分の行動をメタ認知できてしまうがゆえに、行動にブレーキをかけてしまう悲しさ。
それは、このアニメ版を見て、どうしても原作を思い浮かべてしまうゆえに没入できない、かつて若者だったぼく自身の悲しさでもあり、その最後においてようやくぼくはヒロインに感情移入してこの作品を見終えることができたのでした。アニメ版「打ち上げ花火~」を見ることはぼくにとって、「失われた自分を見る視点」を得ることでした。

というわけで、なかなかにねじくれた第3回でしたが、はからずもここまで続けて「子供」「周回」というふたつの共通したテーマが浮かび上がってきました。とくにそうしようとしたわけではないのですが、不思議なものです。
小説、おもちゃ、アニメ、と別ジャンルが続いたので次回はさらに別のジャンルに横滑りしていくのが面白そうですね。次回は「料理」について考えます。

連載一覧はこちら


©2017「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」製作委員会

「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」

「ひらめけ!視点塾」第3回「打ち上げ花火、下から見るか?横からみるか?」の視点-画像-05

8月18日(金)より全国東宝系公開中
http://www.uchiagehanabi.jp/
原作:岩井俊二
脚本:大根仁
総監督:新房昭之
声の出演:
広瀬すず 菅田将暉
宮野真守 / 浅沼晋太郎 豊永利行 梶 裕貴
三木眞一郎 花澤香菜 櫻井孝宏 根谷美智子 飛田展男 宮本 充 立木文彦/松 たか子
主題歌:「打ち上げ花火」DAOKO×米津玄師
アニメーション制作:シャフト
配給:東宝

◆ストーリー◆
夏休み、とある海辺の町。花火大会をまえに、「打ち上げ花火は横からみたら丸いのか?平べったいのか?」で盛り上がるクラスメイト。
そんななか、典道が思いを寄せるなずなは母親の再婚が決まり転校することになった。
「かけおち、しよ」
なずなは典道を誘い、町から逃げ出そうとするのだが、母親に連れ戻されてしまう。
それを見ているだけで助けられなかった典道。
「もしも、あのとき俺が・・・」
なずなを救えなかった典道は、もどかしさからなずなが海で拾った不思議な玉を投げつける。すると、いつのまにか、連れ戻される前まで時間が巻き戻されていた…。
何度も繰り返される一日の果てに、なずなと典道がたどり着く運命は?


原作の奥菜恵さんの衝撃たるや……

ほほえみ
  • 海猫沢めろんさん
  • WRITER

    海猫沢めろん

    高校卒業後、紆余曲折を経て上京。文筆業に。『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『愛についての感じ』で第33回野間文芸新人賞候補。他に『零式』、『全滅脳フューチャー!!!』、『ニコニコ時給800円』 、『夏の方舟』などがある。小説以外でも、エッセイ『頑張って生きるのが嫌な人のための本~ゆるく自由に生きるレッスン』、ルポ『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』など多数。 ボードゲーム、カードゲームなどのアナログゲームを製作するユニット「RAMCLEAR」代表。

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