谷じゃこの短歌ええやん!第3回「キャラクターの中から見えるもの」

2017/09/11

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:萩尾智子

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谷じゃこの短歌ええやん!第3回「キャラクターの中から見えるもの」

大阪を拠点に活躍中の短歌作家・谷じゃこさんが、面白い仕事をしている人と自由気ままに短歌を作るコーナー。3回目のゲストは、スーツアクター歴40年以上という株式会社リップの岡崎薫さん。キャラクターを演じる上で大切な心構えを短歌で表現してみました。キャラクターの着ぐるみに入って演技をする上で必要な「想像力」とは?


気配を隠す「引き」の芸

谷じゃこ(以下、谷):本日はよろしくお願いします。岡崎さんは「スーツアクター」という肩書きなんですね?

岡崎薫(以下、岡崎):そうですね。昔は「ぬいぐるまー」とか呼んでいたんですが、それだと「夢がない……」ということでスーツアクターという言葉になったようです。

:最近、キャラクターやスーツアクターのお仕事をされる方が増えた気がするんですが、けっこう昔からある仕事なんですか?

岡崎:最近はゆるキャラの影響で増えたんだと思いますが、私が若い頃は、劇団員の人などが生活のためにやるケースが多かったですね。私もそうでしたが。

:私にとって着ぐるみのキャラクターといえば、商店街などでティッシュを配ってるウサギやクマのイメージが強いですね。

岡崎:いろんな種類がありますよ。今言われた商店街などで動物の格好をするものや、ヒーローもの、バラエティ番組などに登場するもの……キャラクターにも「商品を売る」とか「番組を盛り上げる」とか、それぞれ目的があります。私はバラエティ番組が多かったですね。

:バラエティ番組のキャラクターに求められることは何でしょうか。

岡崎:バラエティのキャラクターは、タレントさんなどの出演者を引き立てて番組を盛り上げるのが仕事。あまり前に出過ぎないことが大切です。キャラクターってビジュアル的にどうしても目立ってしまうので、必要ないときは動かず、気配を隠す「引き」の芸が必要なんです。

谷じゃこの短歌ええやん!第3回「キャラクターの中から見えるもの」-画像-01

見えない所を見る想像力

:キャラクターの中に入っているときって、どんなことを考えているんですか?

岡崎:あれこれ考えている暇はなくて、無我夢中なことが多いですね。芸人さんとのやり取りの中での反応を素直に表現しているという感じです。だから「耳が取れる」みたいなトラブルが起こると面白いんですよ。そこから色々な笑いを生み出せるので。

:トラブルを笑いに変えるんですね。それを考えずにできるのはすごいですね。

岡崎:もちろん、他の出演者の動きを見たりしながら次のネタ振りとか段取りは考えているんですけどね。だから、キャラクターの顔が向いている方向と、中の人間の目線の方向はけっこう違っているんですよ。

:そうなんですね! それは中に入っている人しか知らないことですね。

岡崎:外に分からないように、中で段取りを考えているんです。気を遣う仕事ですよ。

:でもキャラクターの中に入っていると、ほとんど外は見えないんじゃないですか?

岡崎:その通りです。そこで想像力が必要になってくるんです。

:想像力……ですか?

岡崎:目に見える範囲のことだけじゃなくて、背後で出演者がどんな動きをしてるとか、その空気を察知して動くんです。そこで差が出るんですよ。

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「動作のための動き」とは?

:バラエティ番組で見るキャラクターって、声も出せず、表情も変えられないのに、色々な感情を表現していますよね。大笑いしたり、すねたり……。

岡崎:実は着ぐるみの中では表情にも出てるし、心の中でしゃべってるんですよ。それがないと動きに出ないというか、心の中で話していることが動きに出るんです。だから「練習してるんですか?」とよく聞かれるんですが、特にしていないんです。

:なるほど! 声は出せないけど、出演者の方と心のなかで会話していて、それがそのまま動きに出るんですね。だから、見ている人にも伝わるんですね。

岡崎:子供のころに好きだったアメリカのアニメが役に立っているかもしれません。「トムとジェリー」のような、セリフに関係なく動きで楽しめるアニメです。日本のアニメと違って、アメリカのアニメって動きに意味を付けているというか、動作のための動きがありますよね。

:動作のための動きですか?

岡崎:例えば何かを指さすにしても、ただ指さすのではなく、まず大げさに顔を向けてから指さすでしょ?

:確かに!

岡崎:あの動きは体に染みついているかもしれませんね。だから、いまスーツアクターの育成も手がけていますが、アメリカのアニメを勧めていますよ。

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「見えない」を克服する

:今は後進の育成にも力を入れているんですね? 実は私も一度、キャラクターの中に入ったことがあるんです。

岡崎:そうなんですか? どうでした?

:すごく難しかったです。何も見えないじゃないですか。

岡崎:そうなんです。キャラクターに入るのって、「暑い」「動き辛い」「息苦しい」というのが3大苦みたいに言われるんですが、それを気にするようではダメ。本当に辛いのは「見えない」ことなんです。見えないことほど辛いことはないし、未だに克服できないことです。

:岡崎さんでも克服できないなんて!

岡崎:ちなみに、何回入りました?

:1回だけです。

岡崎:ぜひ、もう1回入ってみてください。2回目に入ると全然違うんですよ。不思議なもので、1回目は動けなかった人も、10分くらい置いてもう1回入ると、意外と冷静に動けるんです。

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:そうだったんですね! 今度、ぜひトライしてみます。ちなみにスーツアクターという仕事を教える上で難しいことはありますか?

岡崎:本人の資質というか、想像力に左右されることでしょうか。踊りや芝居なら教えることができるんですが、キャラクターの技術は周囲とのやり取りなので。日常生活で何を考えているか、あっちもこっちも意識できるか……などにかかってくるんです。

:なるほど。さっき言われてた「見えないところを見る想像力」という話ですね? それはバラエティ番組のキャラクター以外にも必要なものですか?

岡崎:そうですね。例えば親子連れが集まるイベントのキャラクターだったら「あそこに子供連れの母親がいて、子供がこっちに来たがっているな」という何となくの雰囲気を感じ取るんです。それで、その子の方に振り向いてあげると、来るきっかけができる。

:イベントで見かけるキャラクターって、そういう風に計算されているんですね!

岡崎:はい。また「後ろで子供が自分を蹴ろうとしているな」という雰囲気を感じたら、振り向いてかまってあげるんです。そうすると、その子に周りの注目が集まるから、蹴れなくなる。だから「よく子供に殴られる」というのは中のスーツアクターが悪い。殴られる隙を与えているだけなんですよ。

:深いですね。何となく、保育園の先生みたいですね。

岡崎:そうですね。「写真を撮りたがってるな」とか「通行の邪魔と思われているな」とか、色々判断して動かないといけません。キャラクターを好意的に見ていない人もいるので。通行の邪魔になっていそうだったら「ここを通って」みたいな手招きをするなどの配慮も必要ですね。目の前しか見えていないと、人にぶつかることもありますからね。小さい穴から。どれだけたくさん外を見るか。そのセンスを教えるのは簡単ではありません。

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:逆に、教えていて楽しいことは何ですか?

岡崎:人それぞれの面白いリアクションが見られる所でしょうか。十人十色なので。最近は芸人の方に教えていますが、芸人がキャラクターの中に入るのが面白いんです。芸人って「何かやってやろう」とするので、ウケると調子に乗る(笑)。

:そうなんですね。芸人さんも、キャラクターの中に入ることで、何か得るものがありそうですね。

岡崎:そうですね。ひょっとしたら自分がキャラクターを相手にする仕事があるかもしれないので、その時に理屈が分かっていると対応が違ってきます。例えば、キャラクターに何か動きを指示するときでも、中の人の視界を考えながら指示できるようになります。キャラクターとジャンケンをするなら「口の下あたりに出してあげないと中の人に見えないな」とか、中に入った経験があれば分かるんです。

キャラクターは「心地よい嘘」

:スーツアクターってすごく奥が深いんですね。色々と面白いキーワードが出てきたので、短歌で表してみましょう。

岡崎:難しいですね。何を題材にしましょう。

:最初にお話いただいた「キャラクターは前に出過ぎてはいけない」という話が面白いと思いました。

岡崎:なるほど。「キャラクター」は最初の「五」にできますね。

:そうですね。「キャラクターは目立ちすぎてはいけない」というのを上の句にしましょうか。

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岡崎:じゃあ関西弁にして「キャラクター 目立ちすぎても あかんから」でどうでしょう?

:いいですね! あと下の句を考えれば。「目立ちすぎてもあかんから、じっとしてる」みたいな。

岡崎:気配を隠すというか、何もない時は「背景」になっている。

:「気配隠して」は七文字です。あとは最後の七文字で完成!

岡崎:じゃあ「動く背景」にしましょう。動けるけど背景の一部になっている、というキャラクターの特徴を込めて。

:できましたね!

岡崎:おバカっぽい方がいいから、全部ひらがなにしましょう。

短歌

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:全部ひらがな、というのもかわいいですね! 今日お話を聞いた中で「見えないけれど見えている」みたいなことが印象に残っているのですが、これで私もひとつ短歌をつくってみようと思います。「トラブルも笑いに活かす」という話とくっつけて……。

短歌

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岡崎:いいですね。まさに私の仕事ですね。自分の仕事を短歌で表す日が来るなんて。

:今日はありがとうございました。面白いお話を伺えてよかったです。最後に、スーツアクターという仕事の魅力を教えてください。

岡崎:毎回、新しいことが起こるのが魅力ですね。決まった台本通りではなく、生身の人間どうしが生み出す新しい展開が常にあります。だから40年以上も続いたんだと思います。キャラクターって「心地良い嘘」なので、これからも心地よい楽しみを提供していきますよ。

岡崎さんの演じるキャラクターは、誰もが一度は見たことがあるはずなのよね

ほほえみ

■会社情報
株式会社リップ
大阪府大阪市淀川区西中島1-2-15 ラックビル
TEL 06-6302-5566(代)
http://lip-luck.co.jp/

  • 岡崎薫さん
  • Profile

    岡崎薫

    1954年生まれ。大阪デザイナー学院グラフィックデザイン科を卒業後、デザイナー、スタイリストとして勤務するかたわら、役者として劇団活動に力を入れる。1977年には朝日放送「あっちこっち丁稚」のキャラクター(犬の伝次郎)、1982年には毎日放送「突然ガバチョ!」の指摘マンとしてレギュラー出演。その後、キャラクターショーやイベントの演出、キャスト育成、タレントプロデュースなど幅広く活躍。2010年より株式会社リップエンターテインメント事業に参加。

  • 谷じゃこさん
  • プロフィール

    谷じゃこ

    短歌作家。大阪を拠点に、独特の視点で世の中を切り取った短歌を生み出し続けている。主な著書に『ヒット・エンド・パレード』、短歌で遊ぶフリーペーパー『バッテラ』や短歌zine『めためたドロップス』など。

    ホームページ「鯖レター」:http://sabajaco.com/
    公式Twitterアカウント:@sabajaco

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