シカクが語る「リトルプレスの現在」 第3回

2017/09/19

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:田村朋子

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シカクが語る「リトルプレスの現在」 第3回

リトルプレスを中心に、さまざまなインディーズ出版物を扱うセレクトショップ「シカク」が、イチオシの作品を紹介するコーナー。第3回となる今回も「世の中にはこんなものがあったの!?」という驚きと発見を与えてくれる作品がそろいました。


『たぬきケーキめぐり3』 松本よしふみ

『たぬきケーキめぐり3』 松本よしふみ

http://shikaku.ocnk.net/product/1412

「たぬきケーキって何?」となる方が多いと思いますが、名前の通りたぬきの形をしたケーキで、かつては日本全国で売られていたもの。昭和30年代くらいに日本のどこかで生まれて、高度経済成長期に各地の洋菓子店に広まりました。その後、すっかり見かけなくなりましたが、たまに地方の老舗などで売られていることがあります。その、今でも売られている「たぬきケーキ」を見つけて紹介しているのがこの本です。

今でも売られている「たぬきケーキ」を見つけて紹介しているのがこの本

現在、4巻まで(1巻・2巻は販売終了)出ていますが、どの巻にも冒頭にちゃんと「たぬきケーキ」の説明があります。基本的にはチョコレートのコーティングでたぬきの顔をつくり、中はスポンジとバタークリーム。顔のつくり方はだいたい同じで、最後は指でつまんで目と鼻の部分を表現しているんでしょうか。きっと、最初につくったお店のやり方なんでしょうね。でもよく見ていたら顔の表情もお店によって少しずつ違っていて、それも面白い。インスタ(Instagram)映えしそうなものもあれば、「これ、かわいい?」みたいなのも(笑)。

本のつくりとしては、ケーキの大きなビジュアルと説明の文章があり、アングル違いの写真をいくつか載せています。そして、どのケーキも最後は必ずまっぷたつに切った写真を載せています。これは著者のこだわりで、「かわいい」で終わらず、「食べ物なんだから最後は食べないと」というポリシーみたいなものが伝わってきますね。

「食べ物なんだから最後は食べないと」というポリシーみたいなもの

あと商品名もおもしろくて、「たぬきケーキ」という名前ではなく「ポンタ」とか「ぽんぽこタヌキ」という呼ばれ方もあるようです。東北から九州まで、本当に全国各地にあるので、お店によって個性があります。「なぜこんなに全国に広まったんだろう」と思うと面白いですよね。たぬきって日本の昔話にも出てくるし、焼き物にもなっているので、日本人には親しみやすいんでしょうね

著者の松本よしふみさんは、Twitterでもずっと「たぬきケーキ」をアップされている方です。昔ながらの洋菓子店さんとかはホームページを持っていないことも多いので、足で探すしかないから大変だと思います。もし近所で見つけたら、ぜひ情報提供してあげてほしいですね。

『たぬきケーキめぐり3』 松本よしふみ
http://shikaku.ocnk.net/product/1412

『脳内楽園巡礼』(珍寺大道場) 小嶋独観

『脳内楽園巡礼』(珍寺大道場) 小嶋独観

http://shikaku.ocnk.net/product/1133

これは「珍寺(ちんでら)」といって、変わったお寺を紹介している本です。何より表紙がかっこいいですよね。お寺というと木造の日本建築をイメージしますが、ここに出てくるのは鉄骨やコンクリートづくりで見た目は社宅や工場みたいなものばかり。でも本当に面白いのは見た目よりも、参拝方法なんです。

例えば、この「会津さざえ堂」は、中が一方通行の螺旋のスロープになっています。これを一周すれば三十三観音参りの巡礼をしたことになる、と言われている画期的なお寺。巡礼って大変だし、高齢で足腰が弱ってくると難しいですよね。だから、このような短縮型の巡礼が江戸時代にすごく流行ったみたいです。著者の小嶋さんは「バーチャル巡礼空間」って呼んでいますね。

バーチャル巡礼空間

もっと画期的というか、エスカレートしたお寺が大阪の能勢にある「高燈籠」。コンクリート打ちっぱなしの外観が印象的ですが、中にはプラレールみたいな電車がぐるぐる回っていて、そこにろうそくや位牌を乗せるんです。それが自分の代わりに塔の中を一周してくれて巡礼したことになるらしいです(笑)。大阪ってやっぱりすごいですよね。「巡礼はしたいけど、歩くのは嫌」という人のためのお寺で、小嶋さんも「一体、信仰って何なんだ」と綴っています。

大阪の能勢にある「高燈籠」

よく、観光地のお寺なんかにも「回すだけでお経を読んだことになる」みたいなものがありますよね。昔の日本人って面倒なことが嫌いで、「幸せにはなりたいけど、しんどいことはしたくない」という考えで色々なものを発明してきたんでしょうね。

また、日本だけでなく台湾のキリスト教会も紹介されています。このインパクトもすごくて、「教会」と言われなければ分からないビジュアルです。何よりすごいのは(レオナルド・ダ・ヴィンチの)「最後の晩餐」をアレンジした絵があるのですが、食べているのはどう見ても中華料理(笑)。「それでいいの?」という感じです。

お寺って、中に用事がない限りなかなか入らないですよね。しかも、こんなコンクリートの建物を見て「お寺」とは気づかない。だから「よくこれだけ見つけたな」と思います。そして本の中では、それぞれどんな歴史を持つお寺なのかがちゃんと説明されていて、ビジュアルが面白いだけでなく勉強にもなります。ビジュアルの切り取り方もかっこいいし、文字のデザインもインパクトがあって、本当に読み応えのある本です。

会津さざえ堂

『脳内楽園巡礼』(珍寺大道場) 小嶋独観
http://shikaku.ocnk.net/product/1133

『磯辺チクワちゃんのお話』 スケラッコ

『磯辺チクワちゃんのお話』 スケラッコ

http://shikaku.ocnk.net/product/500

スケラッコさんは、「トーチ」というWebコミックスでも連載している漫画家・イラストレーターさんで、2016年の作品『盆の国』がカルチャー誌「フリースタイル」の「THE BEST MANGA 2017 このマンガを読め!」で1位になったという実力派です。今は単行本も出していますが、もともと同人作家だったんです。

この『磯辺チクワちゃんのお話』は、チクワちゃんという普通の女の子が生まれてから26歳の誕生日を迎えるまでの成長の日々を描いたもの。新聞の4コマみたいに日常をほのぼのと描いていて、めちゃくちゃいい話なんです。思春期にどう思ったとか、進路で悩んだこととか、「ノンフィクションなんじゃないか?」と思うくらいリアリティがある。読んでいたら泣けてくるんですよ。

「ノンフィクションなんじゃないか?」と思うくらいリアリティがある。

でも登場人物が動物として描かれていたりして、キャラクターにはリアリティがないんです。そのギャップがすごく不思議な感じです。さらに、この絵のタッチがかわいいし、押しつけがましくないというかストーリーを邪魔しないんです。カリグラフィのペンを使ったような線も特徴的ですね。

カリグラフィのペンを使ったような線も特徴的

ストーリーは淡々と綴られていて、そこがまたいいですね。高校生のときに、大好きだった祖父が亡くなるシーンがあったり、最後の方には東日本大震災の話も出てくるのですが、涙を誘ったり盛り上げたりするわけではなく、他のシーンと同じ温度で描いているんです。だから読んでいるとチクワちゃんの人生を見守っているような気分になりますよ。

『磯辺チクワちゃんのお話』 スケラッコ
http://shikaku.ocnk.net/product/500

『月刊ビル 7号』 BMC

『月刊ビル 7号』 BMC

http://shikaku.ocnk.net/product/1433

これは「1950年代~70年代の高度経済成長期に建てられた関西のビル」に特化した、とてもニッチな視点の本です。「月刊」とタイトルに付いていますが、不定期で1年くらい間が空くこともあります(笑)。1940年代より前のビルになると文化財として歴史的価値が出てくるので注目されるんですが、50年代以降のビルはなおざりになってる。建築界からもスルーされがちですが、よく見ると魅力的なんですよ。

面白いのは、表紙の号数をビルで撮った数字の写真で表しているところ。エレベーターや階段のフロアの表示だったり、部屋番号だったり。

エレベーターや階段のフロアの表示だったり、部屋番号

著者は「BMC(ビルマニアカフェ)」という、建築家やデザイナーなどが集まっているグループ。毎号、1つのビルを特集していて、そのビルの見どころや味わいポイントを解説しています。さらにビルの歴史とか建てられた経緯などをオーナーにインタビューした記事や、建材の紹介など、この少ないページ数にたくさんの情報が入っていますね。どんな思いでビルが建てられたかとか、街を歩いていても分からない裏話を知れば、絶対にそのビルが好きになります。

プロの建築家なので視点がマニアックなのも面白い

やはりプロの建築家なので視点がマニアックなのも面白いですね。例えば、この「ビル技術特講」というコーナーが毎号あるのですが、テーマが号によって「小口タイル」とか「樹脂系床材」とか……。こんな建築資材のマニアックな話を聞く機会ってあまりないので新鮮です。知らない人にも分かりやすく解説してくれていて、すごく勉強になります。

同じ時代に建てられたビルでも少しずつ趣(おもむき)が違う

同じ時代に建てられたビルでも少しずつ趣(おもむき)が違っていて、ヨーロピアンな内装のビルもあれば、宇宙船のような近未来的なものも。このアール(角などに施される丸みの処理)が付いた窓とか、この時代の特殊な規格の建材が色々見られて面白いですよね。今ではコストの関係で製造されていないので、資料としても貴重ですよね。

ちなみに1号の巻頭でビル観察の楽しみ方を解説しているので、ぜひ1号も読んで欲しいですね。それでビルに興味を持ってもらって、身の周りのビル観察を楽しんでほしいです。

『月刊ビル 7号』 BMC
http://shikaku.ocnk.net/product/1433

『東京下町百景』 つちもちしんじ

『東京下町百景』 つちもちしんじ

http://shikaku.ocnk.net/product/1212

著者のつちもちしんじさんはイラストレーターで、歌川広重の「名所江戸百景」の現代版オマージュとしてこの「東京下町百景」をSNSで発表し、一時期はWebマガジンで連載もしていました。無事に100枚描き終わったのを受けて、シカク出版から書籍化したのがこの作品です。近年、東京は建物が取り壊されるペースが早いので、風景を記録する意味でも貴重な作品ですね。元々、日本画が専門の方なので絵のタッチやグラデーションなどが日本画っぽい所も素敵です。

絵のタッチやグラデーションなどが日本画っぽい所も素敵

ただ、風景をそのまま描写しているのではなくて、所々に妖怪や動物がいたりしていて、遊び心がある。そのときに考えていたことや見ていた物などから得たインスピレーションを織り交ぜながら描いています。その不思議なイメージにそそられるのか、海外の方にもすごく人気で、注文も多いんです。それでこの本はバイリンガル表記にしたんですが、日本に来た時のガイドブックとしても使ってもらえると思います。

実はこの作品、完成するまでに2年くらいかかっているんですが、最初の頃と最後の方で絵のタッチが全然違うんです。最初の方はあっさりしているのですが、SNSなどで「がんばれ」という声がたくさんあって、最後の方は劇画みたいに緻密になっています。このタッチの変化も見どころのひとつですね。

タッチの変化も見どころのひとつ

本にはマップも付いているので、お散歩ガイドとしても

本にはマップも付いているので、お散歩ガイドとしても使えます。さらに、描いた建物がまだ残っているかどうか、その場所が現在どうなっているかをまとめた一覧表も載せているので、跡地巡りなんかも楽しめます。さらに、書籍化にあたって大阪の下町五景も描き下ろしてもらったんです。福島の聖天通商店街や生野区にある源ヶ橋商店街などが描かれていますよ。

『東京下町百景』 つちもちしんじ
http://shikaku.ocnk.net/product/1212

猫~!!!

喜び
  • シカクさん
  • 店舗データ

    シカク

    住所:大阪市此花区梅香1-6-13
    Tel:06-6225-7889
    営業時間:13時00分~19時00分
    定休日:火・水曜
    アクセス:JR・阪神なんば線西九条駅から徒歩15分
    阪神なんば線千鳥橋駅から徒歩5分

    公式ホームページ:http://uguilab.com/shikaku/
    オンラインショップ:http://shikaku.ocnk.net/

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