「ひらめけ!視点塾」第4回「料理」の視点

2017/09/29

WRITER海猫沢めろん

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「ひらめけ!視点塾」第4回「料理」の視点

夏がくるとあたまがへんになる

やっと夏が終わってほっとしました。
というのも、ここ数年、夏が来ると必ずあたまがへんになるのです。

夜に突然、誰かが自分の悪口を言っているような気がして、そのことに抗議せねばと、誰に向けたのでもない罵倒の言葉をだーっとテキストに打ち込み、消し、打ち込み、消し、と3回くらいループしているうちにへとへとになってしまい、叫びながら暴れます。
部屋をめちゃくちゃにしたり、走り回ったりしないと収まらないので去年からまたジムでボクシングを再開したところ、今年はすこし落ち着いたようです。

何年かこの症状と付き合っていると、法則がだんだんわかってきました。
ぼくのあたまがおかしくなるのは、だいたい部屋の温度が29度以上になったときです。
湿度も関係ありそうですが、ともかくそれがわかって以来、ぼくは部屋の温度を必ず26度前後に調節しています。ちなみにこれを書いている今現在の室温は25度で、扇風機もつけています。
少し寒いくらいがちょうどいいのです。
面倒な持病ですが、やはり文筆家たるものあたまがおかしくなって一人前。俺も文豪めいてきたな……と感慨深いです。

さて、そんな地獄のような夏が終わり、秋の気配がしてきた9月。今回のテーマは「料理」です。
なぜ料理なのか?
思いつきなのでとくになにも考えていません。
すべてがひらめきによって決まっているコラム、それがこの「ひらめけ!視点塾」です。ひらめいたー!!!
料理をめぐる視点はいくらでもありそうですが、やはりここで取り上げるべきはインスタ(Instagram)でしょう。

料理×視点=インスタ

異論はないでしょう。あっても無視です。
人はなぜ「Instagram」に料理の写真をアップしてしまうのでしょうか。
ぼくもこの原稿を書くために、思わずインスタを再開してしまいました。

家にあったSIMなしのスマホを使用しています。古いので動作がめちゃくちゃ重いです……。

これって、最初はアジア人に顕著な行動だったらしいんですが、いまやヨーロッパやアメリカでも同じようにみんな料理の写真をSNSにアップしています。
この行為って一体なんなんだろう……なんの意味があるのか……なぜこんなにも多くの人が料理の写真をアップしてしまうのか。
それは、料理写真が、ある意味でVRだからです。

料理写真はVRである

またいきなりわけのわからないことを言いはじめた……料料理写真がVR? は? メシの写真見ると本能的にうまそうと思っちゃったりするけど、お腹膨れたりしないじゃん? バカなの?
わかります。
でも、ちょっと待ってくださいよ。そういうことじゃないんですよ。
VRというのはもちろんバーチャルリアリティのことです。PSVRとかいろいろありますが、要はゴーグルみたいなのをつけて異世界を体験するアレです。
VRは本物の体験ではありませんが、本物よりもある意味で本物なのです。
よく知られていることですが、VRの機械をつけて仮想空間のなかを走ると、人間の脳の運動野は実際に運動したときと同じように反応します。 これは従来のゲームではありえなかったことです。
つまりVRというのは脳レベルで人を騙す技術なわけです。

これを踏まえて、料理について考えてみましょう。
料理というのは、味覚と視覚と嗅覚のすべてを使って食べるものです。では、このなかで一番食事の美味しさにかかわっているのはどれか。普通は味覚だと思いますが、実は視覚が一番重要らしく、俗説では8割がた視覚で決まっているという話もあります(まあ、人間は感覚のほとんどを視覚に頼っているのでそうなるのも当然なんですが)。
にわかには納得し難い話ですが、日本人にとっては馴染み深い夜店のかき氷屋のシロップは、実はすべて同じ味です(本物のフルーツを使ったかき氷屋さんは別です)。赤はいちご、黄色はレモン、青はソーダ……と書いてありますが、実際ぜんぶ同じです。色によって味覚が騙されているのです。
最近では、この仕組みを取り入れた「ニューロガストロノミー」という料理ジャンルも産まれています(人はストロベリームースを白い皿に乗せて出すと10%甘く感じる、とかそういうのを研究しているらしい)。
もし、料理を楽しむために必要な要素の8割が視覚とするなら、料理を見ることで料理の楽しみはほぼ達成できるのではないでしょうか。
だとするならば、こんなにもインスタで料理写真が人気である理由もわかります。
料理写真を見ることは、脳内でそれを味わうこととほぼ同意義なのです。

そんなわけで、今日もぼくはインスタで料理の写真を撮ってるわけですが、料理写真をおいしく撮るコツがだんだんわかってきました。
料理だけではなく、器やランチョンマットなんかで色を補うことで美味しく見える! という基本的なテクニックです。
しかし、疑問が湧いてきました。
これ……ほんとに美味しくなってんのかな……?

自分で書いておいてなんですが、本当に料理は視覚が8割なのか、ちょっと疑わしい気もしてきました。
いや、カラフルなほうが気分は確かにいいんですよ。
だからって味が変わっているかはわからないんですよね……。
気になったので実験してみました。

子供に器を変えて料理を食べさせてみた

実験は同じ味の冷麺をさまざまな盛り付けて子供に食べさせ、どれが美味しいかを聞いてみるというシンプルなものです。
子供には「いろんな種類の冷麺をつくったぞ!」と言っておきました。嘘ではないです。

盛り付け

盛り付け

盛り付けはテキトウです。

冷麺2人前を皿7種類(ひとつはスプーン)に盛り付けてみました。中身は同じです。
うーん、なんかひとつ足りないな……。ちょっとヘンなのも作っておきたい……計量カップを使ったものもひとつ作ります。

計量カップです

計量カップです。あまりうまそうではない。

さて、この時点でどれが一番おいしそうでしょうか?
個人的には青い陶器のやつじゃないかと思いますが、中華料理屋では鉄の皿で冷麺が出て来ることもあるので、案外計量カップも美味しそうな気がしてきました。
早速、食べてみましたが、ぼくはやっぱりこれが一番美味しい気がしました。

青いやつ

青いやつです。

とりあえず子供が一通り食べたのを確認して、どれが美味しいか聞いてみると、「うーんこれかな」と指差したのはこれでした。

アンパンマンの皿

すげえ昔バーミヤンでもらったアンパンマンの皿。

いつも使ってる皿ということで安心感があるのでしょうか……。
明らかに視覚とか無関係な気がします。
「これ全部同じ味なんだけどわかった?」とネタバレしてみると「やっぱりそうじゃないか! 同じだと思ってたんだよ!」と、若干おこ。
その後、淡々と冷麺を食べていたんですが、4皿食べたあたりで、家族3人全員が満腹に……。
いちおう分量は2人前なのに……お、おかしい……あっ! これ……もしかして……皿を増やしたせいで、料理の量が多いと脳が錯覚したのでは……。
思わぬ発見です。味ではなく量の部分で脳が騙されるとは……。
確か、VRで食べ物をでっかく見せて食べさせると満腹になるという実験結果も聞いたことがあります。
やはり食べるという行為は視覚によってかなり騙されているらしいことが確認できたので、実験は成功です!

ところで、残りの冷麺を食べなくてはなりませんので、味付けをかえるべく花椒(ホォワジャオ)をかけてみました。

花椒

GABANの花山椒はガチです。一粒噛むだけで舌がしびれまくりで、謎の快感があります。子供が興味を持っているので、食べさせてみたところ「あっ舌が超音波……」と謎発言が飛び出しました。
このしびれは舌の触覚神経に作用して起きているものですが、しびれているあいだは味覚が鋭敏になりいろいろなものの味が少し変わるのです。視覚じゃなく触覚で騙す方向です。
おもしろくなってきたので、しびれた味覚でなにを食べると美味しいかを調べたところ、牛乳もまろやかでいいのですが、炭酸飲料、とくにレモン系のものがいいようです。花椒のしびれはかすかに酸味も感じさせるので、炭酸レモン飲料を飲んでいるときとちょっと似ており、2倍美味しくなる気がします(テキトウです)。

そんなわけで気づくと本来の目的を忘れてしまったぼくですが、料理から得られる視点、それは「感覚によって騙されている脳」という普段はあまり気づかないものでした。
そのうちVRゴーグルを使ったレストランも出てくることでしょうが、これはかなり期待できそうですね。新しい味覚を開拓したいものです。


次回は『本当はこんなに面白い「おくのほそ道」』という本の視点について考える予定です。

スマホを捨てたはずのめろんさんが
Instagram再開してるのが心配なのよね……

なるほど
  • 海猫沢めろんさん
  • WRITER

    海猫沢めろん

    高校卒業後、紆余曲折を経て上京。文筆業に。『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『愛についての感じ』で第33回野間文芸新人賞候補。他に『零式』、『全滅脳フューチャー!!!』、『ニコニコ時給800円』 、『夏の方舟』などがある。小説以外でも、エッセイ『頑張って生きるのが嫌な人のための本~ゆるく自由に生きるレッスン』、ルポ『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』など多数。 ボードゲーム、カードゲームなどのアナログゲームを製作するユニット「RAMCLEAR」代表。

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