「デザインも短歌も抽象化が大切」谷じゃこの短歌ええやん!第4回

2017/10/02

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:トライアウト・田村朋子

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「デザインも短歌も抽象化が大切」谷じゃこの短歌ええやん!第4回

大阪を拠点に活躍中の短歌作家・谷じゃこさんが、面白い仕事をしている人と自由気ままに短歌を作るコーナー。4回目のゲストは関西在住のグラフィックデザイナー・近藤聡さん。物事の見方、解釈の幅、抽象化……デザインと短歌には共通するキーワードがいくつもありました。最後は史上初(?)のMacのキーの記号を使った短歌が完成します!


デザインも短歌も「伝える」のが目的

谷じゃこ(以下、谷):近藤さんはグラフィックデザインのお仕事をされているんですね。

近藤 聡(以下、近藤):そうですね。マークやロゴをつくったり、本の装丁、チラシやパンフレット……いろいろしています。

なくなりそうな世界のことば

近藤さんが装丁を手がけた『なくなりそうな世界のことば』(創元社)

:今日はデザイナーさんとの対談ということで、一首つくってきたんですよ。

レイヤーを統合すればあの夏の花火きれいに思い出のまま

近藤:「レイヤー」ってデザインソフトの用語を使っているのが面白いですね。頭の中に色々な花火の思い出がレイヤーのように残っている」という情景が浮かびます。

:伝わって良かったです! デザインも短歌も「どう伝えるか」というのが共通の悩みどころだと思うのですが、普段のお仕事で「伝え方」について心がけていることはありますか?

近藤:誰に向けてデザインしているものなのか、をしっかりと意識することでしょうか。例えば、2017年1月に明石市立図書館の新しいロゴマークや利用者カード、コンセプトブックなどのツール一式をつくりました。

明石市立図書館の新しいロゴマーク

明石市立図書館の利用者カード

:かわいいですね。

近藤:公共の図書館は幅広い方が利用するので、コミュニケーションの幅を狭めないよう、誰が見ても分かりやすいものにしました。

:明石の「あ」をマークにしているんですか?

近藤:そうですね。「あ」と「+α」を組み合わせたデザインです。明石市では「読書によって暮らしを豊かにしたい」という思いがあるので、「暮らしに+α」というコンセプトが込められているんです。

:面白いですね! こういうシンプルなデザインの裏にも、何らかの思いが込められているんですよね。

近藤:あまり装飾しすぎず、かつオリジナリティのあるものをと考えました。

「デザインも短歌も抽象化が大切」谷じゃこの短歌ええやん!第4回-画像-04

短歌で物事の見方を広げる

:地域のお仕事をされるときは、その街のことを調べるんですか?

近藤:そうですね。特別に「観察しよう」というのはないですが、自然と仕事の目で街のことを見ていますね。

:デザインするためのアイデアは、普段から色々と集めているんですか?

近藤:集めている意識はないですが、物事を色々な視点で見るようには心がけています。実は私も短歌の本を読むのが好きなんですよ。

:そうなんですか! それはうれしいです。

近藤:短歌作家の方って身近な生活に関わるものを独特な視点で見るので、それを知るのが面白いんです。

:お気に入りの作品はありますか?

光森裕樹さん『鈴を産むひばり』からお気に入りの作品

近藤:光森裕樹さんの『鈴を産むひばり』という歌集があるのですが、その中に「六面のうち三面を吾にみせバスは過ぎたり粉雪のなか」という一首があります。

:バスの「面」に着目しているのが面白いですね。

近藤:「六面のうち三面」なので、最初に読んだときは歩道橋の上など、少し高い所からフロントと側面と天井を見ている情景を思い浮かべていました。その後、実は光森さんご本人とお話する機会があったのですが、「あれはバスが移動してるので、フロントと側面、そして後ろの面を見たんですよ」と教えていただきました。

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デザインの「成功」と「完成」とは?

近藤:たった31文字の短い言葉でも景色が浮かぶのがすごい。シンボルマークなどのデザインにも言えることですが、デザインの背景には依頼主の思いやコンセプトなどがたくさんあるのを最終的にはギュッと抽象化するんです。

:短歌も詰め込みすぎると一首が重たくなるので、削って抽象化した方が言いたいことが伝わりますね。

近藤:シンプルにする方が伝わりますね。デザインも、抽象度が高い方が解釈の幅が広がって機能することが多い。

:そうですよね。でも私の場合は自分が納得する短歌をつくって作品にしていますが、近藤さんはクライアントが納得しないといけないですよね。デザインの仕事って何をもって「成功」と言えるのでしょうか?

近藤:一概には言えないですね。例えば、商品パッケージなら売れるか売れないかということが重視されますが、売れれば成功という単純な話でもない。シンボルマークなどは「覚えやすい」「親しみやすい」などが基準になってきますが、好き嫌いは分かれますよね。

:なるほど。難しいですね。

近藤:サインや目印などは基準が分かりやすくて「事故が起こらない」「見た人が間違わない」などがクリアできれば成功と言えますね。

:その辺の目的はクライアントから下りてくるものなんですか?

近藤:ケースバイケースですが、クライアントも目的をしっかり整理できているわけではないので、話をしているうちにお互い気付いたり、持ち帰って絵を描いているうちに見えてきたりすることが多いですね。

:それは面白いですね。デザインのコンセプトなんかも一緒に考えるんですか?

近藤:もちろん最初に大きな指針はありますが、きっちり定まっているわけではないんです。絵によって定まっていくこともあって、言葉と絵を行ったり来たりしている感覚ですね。

:そうなんですね。最初に決まったお題があって、それに合ったビジュアルを描くのかと思っていました。

近藤:ワードだけでバチッと絵が決まることもあるんですが、取りあえず絵を描いていくことでだんだんコンセプトがクリアになることも多いと思います。

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:なるほど! では、どの時点で「完成」となるのでしょうか?

近藤:焦点が定まっていくような感覚で、つくっていくうちに目的にピタッとハマる絵になるときがあるんですよね。造形の細かい所でいうと、自分の感性で気持ちのいい落としどころ、みたいなものもあるんですが。ま、最終的には「締切」によって終わるんですけどね(笑)。

:そうですよね(笑)。ご自身のデザインしたものが世に出た後って気になりますか?

近藤:なりますね。商品パッケージなら売れ行きは気になりますし、シンボルマークなどは色々なツールに展開されて育っていくのがうれしいですし。世の中になじんでいくというか、定着していく過程は気になりますね。

:短歌も読者にどう読まれたか、どう伝わったかは気になりますね。

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「command+N」で前向きに

近藤:私も企画書とかに文章を書く場合もあるんですが、短歌をつくるとなるとハードルが上がりますね。

:色々と面白いキーワードが出たので、何かのシーンを決めればつくれそうな気がします。デザイナーさんならではの言葉を使って。

近藤:英語を使ってもいいんですか?

:もちろんOKですよ。逆にNGなことがないのが短歌なので。「破調」といって、きっちり五七五七七になっていなくてもOKです。

近藤:デザイナーがよく使う言葉でいうと、「command+Z」とか「コピーペースト」とか「アウトライン」とか……。

:独特の短歌ができそうですね。

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近藤:「コピーペースト command+Z(コマンドゼット)」で下の句になりますね。

:コピーペーストしてみたけど、やめたんですね(笑)。最後が「command+Z」だと、何もなかったことで終わるので、ポエジーがあって面白いですね。

近藤:何となく失敗して終わったみたいですよね。

:デザインの仕事って、まずはillustratorのソフトを立ち上げる所から始まるんですよね。

近藤:実制作の作業はそうですね。立ち上げて、新規作成なので「command+N(コマンドニュー)」。

:「illustrator command+N」を下の句にしてもいいですね。しかも「command+N」の方が前向きな感じで終わりますね。

近藤:そうですね。上の句はどうしましょう。Command+Nに至る前に、どんなことがあるかというと……。

:先ほどの「絵を描いているうちにコンセプトなどがクリアになってくる」みたいな話が印象的でした。

近藤:なるほど。「取りあえず描いた絵から分かることもある」みたいなことを上の句にすればいいですね。

:そうですね。「取りあえず」が5文字なので……。

近藤:「取りあえず つくって見えることもある」でどうでしょう。

とりあえずつくって見えることもある illustrator コマンド+N

:いいですね! Macのcommandキーの記号を使った短歌って史上初じゃないですか?

近藤:面白いですね。横書きでつくってもいいんですね。ルビの「コマンドニュー」が安っぽくて面白い(笑)。

:すごく前向きな短歌になりましたね。私ももう一首つくってみます。図書館のマークのように地域のお仕事をされて、その結果として街が良くなっていく話が印象的だったので。

街がいい街へと生まれ変わるときそこにちいさなアイデアと歌

近藤:最後にある「歌」というのがいいですね。

:短歌もデザインのように街をより良くできる存在だったらうれしいな、という気持ちを込めました。

近藤:なるほど。これからも素敵な短歌をたくさんつくってください。

:ありがとうございます! 近藤さんも、これからも街を明るく元気にするようなデザインをたくさん生み出してください!

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谷じゃこさんはその言葉が何文字(音)かすぐにわかるらしくてすごいわ

ほほえみ
  • 近藤聡さん
  • プロフィール

    近藤聡

    1976年、大阪生まれ。神戸大学発達科学部卒業。IMI(インターメディウム研究所)卒業。2010年に明後日デザイン制作所設立。解くべき問題の発見を重視し、グラフィックを中心としたデザインによる解決を目指す。2011年より神戸芸術工科大学、2014年より京都造形芸術大学非常勤講師。
    http://astt.jp/

  • 谷じゃこさん
  • プロフィール

    谷じゃこ

    短歌作家。大阪を拠点に、独特の視点で世の中を切り取った短歌を生み出し続けている。主な著書に『ヒット・エンド・パレード』、短歌で遊ぶフリーペーパー『バッテラ』や短歌zine『めためたドロップス』など。

    ホームページ「鯖レター」:http://sabajaco.com/
    公式Twitterアカウント:@sabajaco

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