「ひらめけ!視点塾」第5回『本当はこんなに面白い「おくのほそ道」』の視点

2017/10/16

WRITER海猫沢めろん

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「ひらめけ!視点塾」第5回『本当はこんなに面白い「おくのほそ道」』の視点

※注意!今回は「AIR」のネタバレがあるので「AIR」をプレイしていない人は気をつけてください。

「おくのほそ道」はTRPGだった!?

気づけばもう5回目となりましたこの連載ですが、そんなことよりももう10月です。
今年も終わろうとしています。
早い、早すぎる!
なにもしていない気がするのですが、大丈夫なのか俺の人生!?
今年はなんとか小説が一本書けたので良しとしましょう(年間4冊とか普通に書いてるラノベ作家のみなさん……すいません)。

さて今回は『本当はこんなに面白い「おくのほそ道」』という本から「視点」について考えたいと思いますが、みなさん「おくのほそ道」って読んだことありますか?
グローバル社会を生き抜く日本人なら、やっぱり「おくのほそ道」くらいは読んでいないといけませんよね。
基礎教養ですよ!
読んでないやつはダメ人間ですよ!
もちろん、ぼくは読んでません。
松尾芭蕉が書いてることくらいは知ってますが、ジジイが細い道を歩きながら俳句いっぱい書いた本じゃないの? くらいの認識です。相当やばいです。グローバル時代で最初に死ぬダメ人間です。別にいいですけど。
そんなぼくがなぜ、『本当はこんなに面白い「おくのほそ道」』というようなタイトルの本を紹介するのか。
この本の表紙をよく見てください。

ほら、

「おくのほそ道はRPGだった!」

って書いてあるんですよ。
これは釣られましたね。
言われてみれば、「夏草や兵どもが夢の跡」とか、高レベルモンスターにエンカウントしてぶっ殺されたパーティーのアイテムがフィールド上に転がってる感じがします。

でもこの時点ではまだ、
「おいおい騙されねえぞ! 簡単にRPGとか言ってんじゃねえよ! どうせFFとドラクエしかやったことないジジイが若者ぶってつけたコピーだろ!?」
とか思ってたんですよ。
でも読んでみると、RPGじゃなくってTRPGだったんです。
あー、これはヤバイですね。

TRPGとは?

剣

このコラムを読んでいる人には説明不要なので「ググれ」で終わらせたいのですが、念のため説明するとTRPGとはテーブルトーク・ロール・プレイング・ゲームの略で、FFとかドラクエを紙とエンピツとサイコロで、人力で再現しようとするものです(というかそもそもTRPGのほうが元祖です)。
GM(ゲームマスター)という司会みたいな人がいて、GMが作ったシナリオにそって、プレイヤーはキャラになりきって自由に会話しながらいろいろな冒険をしていく……即興演劇とゲームが合体したようなものと言えば近いかもしれません。

TRPGといえば、往年のオタクなら数多くの黒歴史の記憶が浮かぶことでしょう。
90年代前後に青春期を送ったぼくらの世代だと「ロードス島戦記」が流行っていて、ソード・ワールドやらなんやらいろいろなTPRGがあったけど、あまりにも煩雑すぎてチャレンジしては爆死する者が絶えないジャンルです。
当時、単なる美少女好きの萌えブタであったぼくも例外ではなく、キャラシートを埋めてクソみたいなポンチ絵のエルフ美少女を描いたものの、GMの作ったクソシナリオがあまりにもクソすぎて、面白さが微塵もわからないままダレまくって30分でみんなやめる……ということを繰り返していました。
ただ、これはぼくらのスキルが低すぎたため起きたことで、TRPGは実際には上手い人間とやるとかなり面白いです(大人になってから何度かセッションに参加して初めてわかったことです……)。

そんなTRPGですが、少数ながらアナログゲーム界隈では普通にプレイされ続け、わりとコアな趣味になっていたんですが、どうも最近の中高生がまたやり始めているらしいんです。理由は良くわかりませんが、ちょっとオタっぽい10代と話すと、8割くらいの割合でTRPGやってるんですけどあれはなんなんですかね(ぼくの周り限定ですか?)。

比喩や、見方を変えると急に理解できることもある

能面

ともかくTRPGっていうのはわりとガチなオタがやるものっていう印象なんで、この本の序文を読んでいてTRPGの話が出てきたときはかなりビビりました。あとがきを読むと著者の安田さんは能楽師ですが、過去に3DCGの本を描いたり、ゲームの攻略本やゲーム作ったり普通にTRPGやったり……と、なんかグループSNEにいてもおかしくないな、という印象。

しかし「おくのほそ道」がTRPGと、いきなり言われても面食らうばかりで、ほんまかいな……と、困ったんですが序文を読むといきなり疑問が氷解です。安田さんによると

・「おくのほそ道」はGMである松尾芭蕉のフィクション
・門人は芭蕉の死後にこれを読んで芭蕉になりきって旅した
・プレイヤーは本の俳句をベースに連句する

などなど。
今風に言えば、コスプレで聖地巡りしながらTwitterで実況してる、みたいな感じでしょうか。TRPGぽい(と言えなくもない)。
さらに、芭蕉もノリノリです。

・ミッションはラスボス義経の霊魂を慰めること
・芭蕉は西行のコスプレで旅した
・世界観は能が元ネタ
・詩魂パワーで怨霊を慰める

とか、完全に自分ルールと思い込みとしか思えない縛りで旅をしたようです。TRPGぽい。
この本では、「おくのほそ道」を、

1、RPGとしての仕組みを探しながら読む
2、パラレル・ワールド移行スイッチを探す
3、能(謡曲)が攻略本になっていることを常に念頭に置く

という読み方で解読していきますが。「おくのほそ道」にまったく興味がないぼくにもかなり興味深く読み進めることができました。これぞまさに温故知新。うーんすごい。

このように、みんながすごく難しいものだと感じている物事も、ちょっとした比喩や、見方を変えるだけでまったく違うものになったり、急に理解できたりということは多々あります。
そういえば、思い出したのですが、ぼくにもそういう経験がありました。
この本でよく出てくる「能」についての話です。

あの「AIR」も能だった!?

カラス

ぼくは「能」に興味がありません。
実際には一度も見たことがないし、見に行こうと思ったこともない。
しかし、昔なんかの小説を読んでいたら、世阿弥がでてきていきなり能を踊り始めて、時空を歪めてタイムスリップする……みたいなシーンがあって、それがめっちゃかっこよかったのを強烈に覚えています(その割にはなんの小説か忘れたんですが……)。
で、それがどうも「複式夢幻能」って言われているやつみたいなんです。

複式夢幻能とは、夢幻能の中で、複式能(二場物)である曲を言う。典型的な例としては、《敦盛》《高砂》などが挙げられる。
典型的な複式夢幻能の前シテと後シテは、登場する姿は異なっていても同一のキャラクタを持っている。すなわち、前場がシテのキャラクタのほのめかし、後場がその種明かしといった内容になっており、後場への鑑賞者の期待を膨らませるのが、前場の担う役割の一つでもある。
http://www.arc.ritsumei.ac.jp/artwiki/index.php/%E8%A4%87%E5%BC%8F%E5%A4%A2%E5%B9%BB%E8%83%BD

わかります?
ぼくにはさっぱりわかりませんが、なんとなく映像で見たことのある能は、前半で出てきた主役がいきなり幽霊になったり、延々とその幽霊の独白を聞いてたり……謎でした。ところがです、あるとき友達の作家(滝本竜彦くん)と「AIR」というゲームの話をしていたんです。

「AIR」は言うまでもなく、ゼロ年代を代表するPCゲームです。ノベルゲームというジャンルで、選択肢のある小説を読みながら女の子を救うゲームです。
この「AIR」のすごいのは後半なんです。

(※以下ネタバレになります)

主人公がいきなりカラスになって、これまでの物語をひたすら傍観させられるんです。
選択肢もなにもなく、ただひたすら無力な存在としてヒロインを見つめ続けることになる。もはやさっぱり意味がわからんわけです。
ところがこれを複式夢幻能だと説明されるとめちゃめちゃしっくり来るんです。

確かに、最初の主役が幽霊みたいな存在になって延々と独白を聞いているとか……そういうのは完全に……「能」です!
これ、作り手は無意識でやっているんじゃないかと思うのですが、美少女ゲームを作っていたら能の世界の構造にまでぶっとんでしまった……という事実がすごすぎて、感動に震えました。

……すいません、「AIR」の話となるとついつい熱くなるのが老人の悪いところです……。

ともかく、誰もが名前は知っている「おくのほそ道」という本を、「RPG」というゲームの視点で読み解いていく、というのがこの本の面白いところですが、古典を最新のもので読み替える。あるいは、みんなが難解だと思っているものを、現代のあたりまえのものに当てはめる――こういう視点こそ、ぼくがこの連載でやりたいことのひとつです。
この本は、ぼくのやりたいことを具現化している先行例として、非常に勉強になりました。

というわけで今回は、『本当はこんなに面白い「奥の細道」』を読んで、「視点を変える」という「視点」について学びました。
次回は、『触楽入門』という本について考えます。

  • 海猫沢めろんさん
  • WRITER

    海猫沢めろん

    高校卒業後、紆余曲折を経て上京。文筆業に。『左巻キ式ラストリゾート』でデビュー。『愛についての感じ』で第33回野間文芸新人賞候補。他に『零式』、『全滅脳フューチャー!!!』、『ニコニコ時給800円』 、『夏の方舟』などがある。小説以外でも、エッセイ『頑張って生きるのが嫌な人のための本~ゆるく自由に生きるレッスン』、ルポ『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』など多数。 ボードゲーム、カードゲームなどのアナログゲームを製作するユニット「RAMCLEAR」代表。

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