ホビーか?コレクションか?『少年ビックリマンクラブ』の遊び

2017/12/11

WRITER泉信行

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 ホビーか?コレクションか?『少年ビックリマンクラブ』の遊び

小学生にとってのプレミア感

「ビックリマン」のトリビュート企画ということで、80年代に児童期をすごした者としてはやはり第一次ブームの記憶が蘇ってきます。

ただ、「ビックリマンチョコ」の手に入りやすさには地方による格差が激しかったのではないでしょうか? 全国チェーンのコンビニエンスストアなど、当然ない時代です。私は関西の新興住宅地で育ちましたが、チョコを売っている店舗が珍しいだけでなく、しかも記憶では「毎週水曜日のみに入荷」という仕入れ方を近所のスーパーがしていたために、「平日に学校を休みでもしないと放課後には売り切れて買えない」という詮無い思いをしつづけていた覚えがあります。

人によっては「駄菓子屋に並んで買った」という記憶もあろうかと思いますが、流通の関係なんでしょうか……並ぶまでもなく完売する数しか置いてなかったみたいなんですね。というか、歩いて行けるところに駄菓子屋もなかった。

さらに小学生のお小遣い事情も加わって、「コレクション」への憧れがあるものの全然シールを集められないし、当然キラキラシールなんか手に入らない、という状況が、かえって『コロコロコミック』を読むことやアニメを見ることによる「情報消費」へと情熱を傾けさせていた気がします。ゲームは遊んでないけど『ポケットモンスター』や『遊☆戯☆王』の大ファン、みたいなもの。

社会問題にもなった「シールだけ手に入れてチョコは捨てる」という蛮行も、どこの物流が豊かな国の世界の話だ……? と首を傾げる感覚でしたね。それだけプレミア感のある存在でした。

ビックリマンを愛するほど不可能だった「はられたらはりかえせ」

ただ、シールそのものがある種の「貴重品」であり、消耗品扱いできないもの、という価値観は全国のお友達にも共通していたんじゃないかと思います。

そもそも「シール」という玩具的な使用法があるにも関わらず、「切手コレクターが切手をシートから切り離さない」ことと同様、もったいなくて誰もシールとして貼ろうとはしなかったという現象があったと思います。
貼るとしたら、レア度の低いシールがダブっていらなくなった時や、根本的に「ビックリマンシールに価値を感じていない人」が軽い気持ちで無駄遣いする、というイメージだったんじゃないでしょうか。

「OHA OHA アニキ」(テレビ東京)の「キミもはられたらはりかえそう!ビックリマンシール特集!」の回(2017年1月19日深夜放送)でも、「はられたらはりかえせ」と書かれたチョコの包装に対し、ビックリマン直撃世代の芸人である田中卓志(アンガールズ)さんが「なんで貼るんだよ!」と激しいツッコミを入れていたものです。

お子様に人気のあったコレクション対象としては「プロ野球スナック」「仮面ライダースナック」などの伝統があるものの、それらのオマケは「カード」なので純粋な収集物だったでしょう(メンコやかるたを別にすれば)。
しかしビックリマンでは「シールとして貼る」という消耗品としての使い道があった。そこが画期的とも言える変化だったと思います。

また、その後にコレクション(トレーディング)対象として流行する「カードダス」「トレーディングカードゲーム(TCG)」は「カード自体がゲームに使える」というホビー要素を高めていくことになります。
が、ビックリマンシールにゲームのルールなどはなく、せいぜいシールをじゃんけんの札代わりにするか、「シール自体を賭けの対象にする」という実物とは関係ないところで工夫するしかないものでした。
あ、みなさんの記憶でも「ビックリマンシールのローカルな遊び方」がもしあればぜひ教えてください。

どちらというとロッテさんは「シールの印刷・製造技術」にこだわっていく面があって、ホログラム印刷や「二重シール」などの最先端(?)技術を用いたプレミア品を開発していくのですが、その「シールをめくらないと下のイラストが見えない」という仕様はやっぱり「もったいなくてめくれるわけないし、豪華だけど鑑賞用としてはどうしろと……」みたいに子供心では感じていた気がします。

ブラックゼウス

惜しみなくシールを「使う」漫画……それは『少年ビックリマンクラブ』

そんななかで強烈な印象に残っていたのが『少年ビックリマンクラブ』(なかのともひこ、1987年より連載、全3巻)という『コロコロコミック』の連載作品です。『コロコロ』に連綿と受け継がれる伝統、「少年団もの漫画」の代表作でもありますね。

少年ビックリマンクラブ

「ビックリマン世界の物語を描いた作品」ではなく、「ビックリマンを愛する少年たちを描いた作品」というメタな位置づけの連載で、子供のケンカや事件の問題解決に「ビックリマンシールを貼る」という贅沢すぎる使い方を平然と行っているのがうらやましく感じられたのです。

もともと「ビックリマンチョコ」シリーズは、いたずらシールである「どっきりシール」から始まっていて、イラストの魅力を前面に押し出した「まじゃりんこシール」あたりからやがてキャラクター商品化していくのですが、「シールを貼る」という本来の(?)遊び方を失わなかった『少年ビックリマンクラブ』は、ビックリマン関連メディアのなかでも特異な存在だったような気がしています。

劇中の「少年ビックリマンクラブ」メンバーは、神聖なシールを捨てたり足で踏みにじったりする者たちを悪魔のごとく憎む一方、「ビックリマンの正しい遊び方」と称して大切なシールをどんどん使用します。

作品内で「貼ったらもう使えなくなる」という惜しむ心理も描かれず、気持ちよくシールを貼ったり投げたりする。まるで弾切れのしないガンマンのようです。1巻から、主な「もったいない使い方」を紹介してみましょう。

ベルトに貼ったキラキラシールの光の反射で目潰しする(主人公・マン太の得意技)
手裏剣のようにシールを投擲し、ものにぶつけたりシールを貼りつけたりする(若井くんの得意技)
相手の肌にシールを貼ってから剥がして痛みを与える
キラキラシールを頭に貼って遭難防止の目印にする
キラキラシールを海に投げて光で魚を集める(ちなみに遊んでるわけではなく、群がった魚で荒海の波を防ぐため)
裏側のシートをインクで塗りつぶし、神経衰弱ゲームに使う
手にしたシールの粘着力で壁などに張り付く
シールを一列に貼りつなげて、相手を縛るロープ(テープ?)を作る
水に濡らしたシールを全身に貼り、火事場に突入する
水に濡らしたシールを投擲して防火する

うーん、なんとも贅沢

3巻では「お守りシールを30枚くらい貼り合わせた悪魔退散のお札」でキョンシー退治(本物ではなく仮装でしたが)をする場面もあったり……。そう、80年代当時の『コロコロ』は「キョンシーブーム」の情報発信地でもあったため、「シールを貼り合わせて武器を作る」という発想はキョンシー映画の影響もあったんじゃないかと思います。「お札」もそうですが、「銅銭をつなげて作った銭剣」とか、手作り感のある武器はキッズも大好きでしたからね。

武器といえば、『少年ビックリマンクラブ』の登場人物は部分的にビックリマンキャラのコスプレをしており、スーパーゼウスの「大聖棒(ビッグセントスティック)」やヘッドロココの「幸七羽毛(こうしちフェザー)」を携帯して戦うのがカッコよく、かなり憧れたものです。なんでビックリマンの武器やアイテムを実物大で商品化してくれないんだろう……? と私も本気で欲しがっていたくらいなのですが、ロッテさん、今からでもどうでしょうか。みんなヘラクライストの超遠距離撃破パワー砲や、ヤマト爆神の爆装守着型(ばくそうディフェンドモデル)を装着したいと思いますね。

スーパーゼウス,ヤマト爆神(タイプII)

「ホビーとしてのビックリマン」を追求して

ちなみに『少年ビックリマンクラブ』では、シールを消耗しない平和な遊びもちゃんと提案してくれていて、ちょっとした文化的資料にもなっていると言えるかもしれません。

たとえば「ビックリマンくらべ」という遊びでは、相手の提示したシールと対抗できるシール(悪魔シールならそれと対になる天使シール)を揃えて持っていなければ負け、というルール。
「ジャンケンシール」は「ヘッド>天使>お守り>悪魔」という順に強さを設定したシールを計5枚持ち(悪魔シールのみ2枚)、1枚ずつ出し合って競う限定ジャンケンのようなルール。
そして「みんなでビックリマンの話をする」(シールや各弾のどこがいいのか話をするだけ!)のも立派な「ビックリマンの遊び方」として描かれます。

作者がいかに「遊びとしてのビックリマンの楽しさ」を読者に広めようと、知恵を絞り心を砕いていたかが伝わってくるでしょう。

おそらく「当時の小学生は真似したくとも真似しなかった」だろう『少年ビックリマンクラブ』の各エピソードなのですが、「ビックリマンシールで遊ぶ」というホビーとしての一大テーマに果敢にも取り組んでいた物語だったと思うのです。

その「遊び」への情熱を、現代の私たちも忘れずに……いや、やはり「なんで貼るんだよ!」と怒られてしまうかもしれませんが。

©LOTTE/ビックリマンプロジェクト

  • 泉信行
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    泉信行

    漫画研究家、ライター。2005年頃から、漫画表現論の研究発表を行う。同人誌『漫画をめくる冒険』上下巻の発行の他、漫画に関する仕事では『マンガ視覚文化論』(水声社)、『藤田和日郎本』『皆川亮二本』(小学館)への寄稿などがある。http://d.hatena.ne.jp/izumino/

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