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【皮膚科医に聞く】かゆくても、かかないで!虫刺されやアトピーが原因のかき壊しの予防方法・治し方

かゆい→かく→かきすぎて炎症を起こす→さらにかゆくなる

こんなかゆみの悪循環に陥ってしまったこと、ありませんか?かゆみを我慢できずに過剰にかいてしまうと、「かき壊し」という酷い炎症状態にしてしまうことがあります。

そこで今回は、かき壊しの原因や治し方・悪化させない工夫・かゆくなってしまったときの対策などについて、皮膚科医の中井大介先生に教えていただきました。

中井大介

多根総合病院 皮膚科 副部長

京都府立医科大学を卒業し、同大学附属病院・京都第一赤十字病院・大阪厚生年金病院(現Jcho大阪病院)・尼崎新都心病院の勤務を経て、多根総合病院に勤務する日本皮膚科学会専門医。

そもそも「かき壊し」って何?

●かき壊しの症状、出やすい部位は?

「かき壊し」という言葉は、医学用語ではなく造語です。過剰にかくことが原因で皮膚が傷つき、酷い炎症を起こしている状態を「かき壊し」と考えると良いでしょう透明~黄色っぽいジュクジュクとした汁が出たり、出血したりすることがあります。発症しやすいのは首やひざ裏・ひじ裏など、手が届きやすく蒸れやすい部分かくのを我慢できない子供や乳幼児に多い症状ですが、大人でもなります。

●かき壊しの怖さは「かゆみの悪循環」にある!?

かき壊しの怖いところは、かゆみの悪循環から抜け出せなくなるところにあります。

かゆい場所をかくと気持ちいいですよね。実は“痛み”の刺激は、かゆみ神経を一時的に抑制すると考えられています。引っかいた痛みでかゆみが和らいだように感じるので、ついついかいてしまう人が多いのです。

しかし、かゆみを我慢できずにかきむしってしまうと、かいた刺激がきっかけでヒスタミンなどのかゆみ物質が分泌されます。ヒスタミンなどが原因でかゆみが強くなって、またかいて、またかゆくなって……そんな「かゆみの悪循環」に陥ってかき続けていると、患部が炎症を起こしてかき壊しのような酷い状態になってしまうことがあります。このループにはまってしまうと、完治が遅れてしまう恐れもあります。

かき壊しの原因は? 「急性」と「慢性」の皮膚トラブル

かき壊しの背景には、かゆみを引き起こす皮膚トラブルが存在しています。今回は、かゆみを伴う皮膚トラブルを、「急性」と「慢性」に分けてご紹介します。

●急性の皮膚トラブル

・虫刺され
蚊やブヨ・毛虫などに刺されると、皮膚が赤く腫れてかゆみが生じます。虫刺されが原因のかき壊しが悪化すると、強いかゆみを伴う慢性のしこり・痒疹(ようしん)に発展する恐れもあります。痒疹は一度できると長引きやすいので、痒疹ができる前の段階で治療することが大切です。

・急性じんましん
皮膚に赤い発疹(ほっしん)ができて、しばらくすると消えていく「じんましん」。最初の症状が出てから消えるまでの期間が1カ月以内のものを、急性じんましんと呼びます。体に合わない食品・薬品などに接触、もしくは摂取などをしたときの「アレルギー反応」として、じんましんを発症する方もいます。症状が急激に出て、しかも強いかゆみを伴うことが多いため、かくのを我慢できずにかき壊す方もいるようです。

●慢性の皮膚トラブル

・アトピー性皮膚炎
皮膚の発疹やかゆみを伴う「アトピー性皮膚炎」。アレルギー体質の方や皮膚のバリア機能が弱い方がなりやすく、完治しにくいという特徴があります。顔や首・ひじの内側・ひざの内側などに現れやすいのですが、人によっては全身に症状が広がることも。かゆみがとても強いため、かき壊しを起こしやすいと言えます。 また、かくことで「とびひ」を併発することもあります。

・皮膚の乾燥(皮脂欠乏性湿疹)
皮膚が乾燥する原因は、空気の乾燥や加齢による水分・皮脂の減少、皮膚のバリア機能の低下、適切でないスキンケアなどさまざまです。皮膚が乾燥していると、外部からのちょっとした刺激にも敏感になり、かゆみや炎症を起こしやすくなります。 実は皮膚をかいてしまうと、その部分の皮膚の乾燥が進みます。乾燥する➔かく➔さらに乾燥する➔かく……こんな悪循環に陥ってしまうと、皮膚をかき壊してしまう可能性があります。

・慢性じんましん
じんましんのうち、症状が1カ月以上継続しているものを「慢性じんましん」と呼びます。慢性じんましんの原因は、疲労・内蔵の病気や精神的なストレス・寒冷や温熱などが考えられますが、特定が難しいケースもしばしば。慢性的にかゆい状態が続くので、かき壊しの原因になりえます。

・足白癬(あしはくせん)
白癬菌(はくせんきん)によって生じる感染症・足白癬(あしはくせん)。通称「水虫」と呼ばれています。足白癬は強いかゆみを伴う炎症が生じることもあるため、我慢できずにかいてしまい、かき壊しにつながることがあります。

このほか、全身性疾患(肝不全・腎不全・糖尿病・血液疾患・妊娠など)が原因で、全身にかゆみが生じるケースもあります。

 

かき壊しの治し方は? 病院ではどんな治療が受けられるの?

かき壊しを治す・防ぐためには、できるだけ早い段階で皮膚科で治療することが大切です。

病院でかき壊しを治療する際は、まずは原因となる疾患の治療を行います。多くの場合は炎症を抑えるための外用薬(ステロイド軟こうなど)やかゆみを抑えるための内服薬(抗ヒスタミン剤など)・肌の乾燥を防ぐ保湿剤などを処方します。とびひを併発している場合は、抗生剤の内服が必要になることもあります。

また、かゆみを悪化させる要因が生活習慣にあることも多いため、生活指導もします。

日常生活でできる!かゆみを予防するための工夫

かゆみの根元的な原因は皮膚トラブルにあります。しかし、かゆみを助長させる要因が生活習慣のなかに隠れているかもしれません。そこで、かゆみを抑えるために以下のポイントに気をつけてみてください。

・保湿対策をする
かゆみを防ぐには、皮膚の乾燥予防が大切です。保湿剤を塗って、皮膚の表面をコーティングしましょう。皮膚科で処方された保湿剤や白色ワセリン、または市販のボディクリームやボディ乳液などから、ご自身にとって使用感のよいものを使用してください。

・汗をかいたらすぐに流す
汗をかくこと自体は悪くありません。汗は皮膚の保湿機能を高めるため、かゆみ防止に役立ちます。しかし、汗をかいたままにしておくと、かゆみが出やすくなります。汗はすぐに洗い直すか、タオルで拭くようにしてください。

・刺激の少ない素材の衣服を着る
ポリエステルなどの化成繊維でできた衣服は、皮膚への刺激が強いので避けましょう。例えば冬に活躍する吸湿発熱素材を使った肌着は、皮膚を乾燥させやすくかゆみを助長する恐れがあります。着用する際は注意をしてください。おすすめは、コットンやリネンなどの天然素材でできた衣服です。

・入浴時にナイロンタオルを使用しない
摩擦が大きいナイロンタオルを頻繁に使用していると、皮膚のバリア機能が低下して、乾燥やかゆみの原因になることがあります。また長期的にこすり続けると、色素沈着の原因になることも。体を洗うときは、刺激の少ない天然素材のタオルやがおすすめです。それでも刺激を感じるときは、手でやさしく洗いましょう。

・あかすりはNG!
皮膚表面を過剰にこする「あかすり」。あかすりは皮膚のバリア機能を低下させたり、乾燥させたりする恐れがあります。皮膚トラブルがあるとき、あかすりはNGです。

 

それでもかゆくなったときの応急処置は「冷却」!

我慢が大切だと分かっていても、かかないようにするのはとても大変! そこで、どうしてもかゆくなったときの応急処置法を覚えておきましょう。

  • タオルを巻いたアイスパックや水に浸したタオルで患部を冷やす
  • かゆみを抑える抗ヒスタミン剤を服用する

かゆみ物質・ヒスタミンの分泌を抑制する抗ヒスタミン剤は、比較的即効性が期待できますかゆみが出たときに備えて、あらかじめ病院で処方してもらっておくと安心です。

なお、患部を冷やすときは冷やし過ぎに注意を。凍傷の恐れがあるので、氷を使用する場合は氷枕やタオルに巻いて使用しましょう。

寝ている間にかいてしまう……炎症を悪化させないための8つの工夫

どんなに気をつけていても、寝ている間に無意識にかいてしまうことがあります。寝ている間にかかないように、寝る前に次のような工夫をしておきましょう。

  1. 入浴後、体の熱が冷めてから寝る(※)
  2. 患部に保湿剤を塗っておく
  3. 爪を短く切っておく
  4. 手袋をしておく
  5. 患部にガーゼや包帯を巻いておく
  6. 長袖・長ズボンを着用する
  7. 室内を乾燥させないよう、冬場は暖房を消して加湿器をつける
  8. 寝る前に抗ヒスタミン剤を服用する

※体温が上がり血行が良くなると、かゆみが出やすくなるため

かき壊しによる色素沈着を予防するためには?

かき壊しの状態が続いたりこすり過ぎたりすると、色素沈着することがあります。

色素沈着を防ぐためには、根本の皮膚トラブルをしっかりと治療して、炎症を繰り返さないことが大切です炎症を短期間で治療できれば、色素沈着になる可能性は高くありません。

また、紫外線対策も色素沈着予防に効果的です。日焼け止めクリームをこまめに塗って、紫外線から皮膚を守りましょう。ただし、かき壊しが起きている部位は刺激に弱くなっています。肌にやさしい製品を選んでください。

まとめ

虫刺されやアトピー・じんましんなど、皮膚トラブルが原因で生じるかき壊し。かき壊しが悪化すると、かゆみの悪循環に陥って、症状がなかなか治らなくなってしまいます。

かき壊しを防ぐためには早めの対処が重要なので、かゆみに悩んだら皮膚科で治療を受けるようにしましょう。日常生活のなかでできる予防対策も、ぜひ実践してみてくださいね。

多根総合病院  中井 大介

多根総合病院 URL: http://general.tane.or.jp/

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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