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橋本病とは?症状・治療・妊娠中の影響について【医師監修】

女性の罹患率が高いと言われている「橋本病」。 橋本病は顔のむくみ・甲状腺の腫れなどの身体不調を引き起こす他、妊娠中の女性がかかるとおなかの赤ちゃんに影響を与える可能性があります。そこで今回は橋本病の症状・原因・治療・食事の注意点などを、糖尿病や内分泌の専門医である加藤純子先生に教えていただきました。

加藤純子

大阪府済生会茨木病院 内科(糖尿病・内分泌)部長

大阪府生まれ。日本糖尿病学会 糖尿病専門医。日本内分泌学会 内分泌代謝科(内科)専門医。糖尿病や下垂体、甲状腺、カルシウム代謝異常に関連する副甲状腺、副腎、ホルモンが関連する高血圧、膵・神経内分泌腫瘍などの内分泌の病気の診療に携わっています。

橋本病は原因不明の自己免疫疾患

●橋本病とは

橋本病は1912年に日本の橋本博士が初めて報告した病気なので、「橋本病」という名前がつきました。甲状腺に生じる自己免疫疾患(※1)で、別名「慢性甲状腺炎」と呼ばれています。自己免疫機能に異常が発生し、甲状腺に炎症が起きて甲状腺機能が低下したりします。自己免疫異常が起きる原因は、今のところ分かっていません。

橋本病は圧倒的に女性に多く、患者の男女比は1:20と言われています。また、若年から中高年の女性に多い病気です。

(※1)自己免疫疾患とは 自己免疫疾患とは、本来ウィルスなどから体を守るための免疫システムに異常が生じ、自分自身の臓器や細胞を攻撃してしまっている状態を指します。自己免疫疾患は体の様々な部位で生じます。

●甲状腺とは

甲状腺は喉仏のすぐ下にある、蝶のような形をした内分泌腺です。体全体の新陳代謝をつかさどる「甲状腺ホルモン」を分泌する役割をしています。 なお、甲状腺ホルモンは、脳下垂体から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって分泌が調整されています甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンは、いわばシーソーのような関係です。甲状腺ホルモンが少ないときは甲状腺刺激ホルモンが増え、甲状腺ホルモンが多いときは甲状腺刺激ホルモンが少なくなります。

●橋本病で起こりうる身体症状 / 橋本病が疑われる身体症状

甲状腺ホルモンの不足が原因で甲状腺機能低下症になると、以下のような症状が見られます。ただし、すべての橋本病患者に症状があらわれたり、治療が必要になったりする訳ではありません。

甲状腺機能低下症の症状

  • 疲れやすい
  • 顔がむくむ
  • 声が低くなる
  • 出にくくなる
  • 汗をかきにくくなる
  • 寒がりになる
  • 皮膚がかさつくようになる
  • 眉毛が薄くなる
  • 毛が抜ける
  • 忘れっぽくなる
  • 便秘がちになる
  • 無気力になる
  • しゃべり方や動作がゆっくりになる
  • 脈がゆっくりになる

ただし、これらの症状は他の病気でも見られます。そのため他の病気と勘違いしてしまい、橋本病に罹患していることに気がつきにくいケースがあります。 また甲状腺機能の低下が長びくと、心臓を包む袋(心のう)に水がたまって心不全を起こします。酷くなると、レントゲンで肺の部分がほとんど隠れてしまうくらい心臓の陰影が大きくなっていることもあります。

橋本病の検査・診断方法は?

●橋本病の診断方法

橋本病は甲状腺全体の腫れがあるかどうかと、甲状腺に対する自己抗体が存在するかどうかで診断します。

約70%の橋本病患者は甲状腺機能に異常をきたしていません。甲状腺機能異常があるかどうかを調べるには採血検査をします。血液中のコレステロールが高いことで、甲状腺機能低下症が見つかることもあります。

橋本病による甲状腺機能低下をきたしているときの治療方法は?

●橋本病の治療は、内服による甲状腺ホルモンの補充が基本

血液検査で甲状腺ホルモンが足りていないことが判明した場合、甲状腺ホルモン薬を用いて甲状腺ホルモンを補充する治療をします

●治療が不要なケースも!?

橋本病でも甲状腺ホルモンが正常範囲であれば、特に積極的な治療は必要ないケースもありますしかし甲状腺が急に大きくなったり、痛みや発熱・動悸など変調があったりした場合は、検査をしましょう。

●妊娠中の女性における治療

妊娠中は甲状腺ホルモンが正常域にあったとしても、甲状腺刺激ホルモンの値によっては胎内環境を整えるために内服治療を行うことがあります。

食事など日常生活で気をつけるべきこと

【食事】ヨウ素を含む食品に注意
ヨウ素を多く含む「昆布」を大量に摂り続けていると、甲状腺機能に影響が出ることがあります。特に根昆布はヨウ素の含有量が多く、注意が必要です。昆布で出汁をとるお鍋ものなどをあまりに食べ続けていると、ヨウ素の過剰摂取になる恐れがあります。 なお日本では海産物を食べることが多いため、特に意識しなくてもヨウ素不足になる心配はありません。

【服薬】薬の中断に気をつける
服用を中断したり長期間飲み忘れたりしてしまうと、機能低下が進み、はじめからやり直しになりかねません。心不全など危険な状態になることもあるので、高齢の方は家族みんなで服薬をしたかどうかを確認しておくとよいでしょう。

 

●甲状腺機能に異常がなければ、生活面での制限は特になし

橋本病と診断されていても甲状腺機能に異常がない方は、特に日常生活で何かを制限する必要性はありません。運動や旅行なども可能です。ただし前述したように、甲状腺機能に影響を与えるヨウ素を含む食べ物の連続摂取は控えるようにしましょう。

まとめ

甲状腺は普通に生活している中ではあまり意識することのない臓器ですが、甲状腺機能に異常が起こると様々な身体不調が発症します。逆に言うと、原因不明の体調不良の影には橋本病による甲状腺機能の異常が隠れている可能性も考えられます。 これをひとつの知識にして、ご自身の体調管理にお役立てください。

大阪府済生会茨木病院 内科(糖尿病・内分泌)部長 加藤純子

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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