高齢者の運転が心配。認知症の初期症状は?知っておきたい正しい知識【専門医監修】

2019年10月24日掲載

最近、高齢者ドライバーによる交通事故のニュースをよく耳にします。この問題を考えるときに軽視できないのが「認知症」です。重大な事故が起きた一要因に、認知能力や判断能力・知能の低下など認知症の症状が関係していることがあるからです。今回は、認知症の症状や原因、ご家族はじめ周囲の方が発症に気づくためのチェックポイント・日常生活で気をつけるべきポイントなどについて、認知症を専門に扱う精神科医の木内 邦明 先生に教えてもらいました。

市立東大阪医療センター 精神科部長 木内 邦明

奈良医大を卒業後、奈良県立医科大学附属病院や堺市こころの健康センターにて勤務。2018年より現職。老年精神医学を専門に、認知症の診断・治療に取り組む。

認知症の種類とそれぞれの特徴

●認知症の定義

認知症とは、一度獲得された知的な機能が後天的・持続的に低下する状態を指します。日本全国での推定患者数は500万人から600万人。特に80歳以上の方では、3分の1程度の方が認知症を患っていると考えられています。


●認知症の種類

認知症にはさまざまなタイプがあり、それぞれ症状にも特徴が見られます。ここでは代表的なタイプをご紹介します。

(1) アルツハイマー型認知症

認知症患者の50~60%が該当すると考えられているのが、アルツハイマー型認知症です。症状は物忘れから始まり、進行すると能力に全般的な低下が見られるようになります。例えば、家事がうまくできなくなったり外出ができなくなったりなど、日常生活に支障をきたすことも。

アルツハイマー型認知症が発症するはっきりとした原因は分かっていません。有力な説としては、脳に「アミロイド蛋白(たんぱく)」という物質が蓄積されて発症するのではと考えられています。

(2) 血管性認知症

アルツハイマー型の次に多いと考えられているのが、血管性認知症です。認知症患者全体の15~20%が該当すると言われています。血管性認知症は、脳梗塞(こうそく)や脳出血・くも膜下出血など脳血管疾患をきっかけに発症します。特にラクナ梗塞と呼ばれる、小さな血管に梗塞が生じる病気をきっかけに発症する方が多くいます。血管性認知症の特徴としては、認知機能低下に加えて人格が変わったように怒りっぽくなったりイライラしたりといった症状が挙げられます。

(3) レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、認知症患者全体の10%程度を占める症状です。脳にαシヌクレインという異常なタンパク質が蓄積し「レビー小体」というものが見られるようになり、脳神経細胞が減少することによって発現すると考えられています。レビー小体型ではパーキンソン症状(※1)・認知の動揺(正常に認知できる時とそうでない時がある状態)・レム睡眠行動障害(夢をみているときに大声を出す、手足を動かすなど)・ありありとした幻視(詳しい内容を説明できる具体的な幻視)などの症状がみられます。

※1 パーキンソン症状とは 全身に「振戦」「固縮」「寡動・無動」「姿勢反射障害」といった運動障害が出ること

(4) その他

このほかにも、前頭葉と側頭葉が萎縮する前頭側頭型(ぜんとうそくとうがた)認知症や、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫(まんせいこうまっかけっしゅ)に起因する認知症もあります。正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫によって生じる認知症は、これらの病気の治療によって改善します。


●認知症と生活習慣病の関連

糖尿病や高血圧といった生活習慣病が認知症のリスクを増加させることが分かっていますが、特に糖尿病ではアルツハイマー型認知症や血管性認知症のリスクをそれぞれ2倍にします。認知症は原因がはっきりと判明しておらず予防が難しい病気ではありますが、生活習慣病の改善は効果的だと言えます。

早期に気づくことが大事!認知症の初期症状チェック

認知症は進行するにつれて症状が深刻化し、日常生活の支障が大きくなっていきます。そのため初期の段階でご家族や周りの方が異変に気づき、しかる対処をすることが大事です。なお、認知症の症状の出方は、前項でご紹介した種類によって異なりますが、ここでは最も多いアルツハイマー型の初期によく見られる言動パターンをご紹介します。


●アルツハイマー型認知症の初期に見られる言動パターン
  • 最近の記憶が曖昧である
  • 同じことを何度も言う
  • 予定を何度も確認する
  • いつも何か探しものをしている
  • 家計の管理(お金の管理)ができなくなった
  • 買い物の支払いが大ざっぱになった(細かな小銭を出さなくなった)
  • 日付や曜日が分からなくなることがある
  • 身なりがだらしなくなった(ひげ・髪型・服装など)
  • できないことを取り繕う
  • 怒りっぽくなった
  • 性格が変わった
  • 慣れた作業が出来なくなった(家電製品の使用など)


高齢者の方でこういった言動パターンが顕著に見られる場合、認知症が疑われます。 また物忘れの自覚がなく、記憶のつじつまを合わせようとして話を作るため、周りからはうそをついているように見えてしまいます。

認知症と物忘れはどう違う?見分けるポイント

認知症の初期症状は、加齢に伴う物忘れとよく間違えられます。しかし、両者にはいくつかの違いがあります。ご家族や周囲の方の見極めによって認知症の初期症状に気づけると、然るべき対処ができます。


認知症 物忘れ
記憶 体験そのものを忘れる 体験の一部または詳細を忘れる
時間や場所の認知 今がいつでどこにいるのか、分からなくなる ほとんどの場合、把握している
自覚 忘れているという自覚がない 忘れたことを自覚している
症状の進行速度 1~2年の短期間で急速に進行することもある 年齢にともなってゆっくりと進行する
日常生活への支障 支障が出る 大きな支障はない


認知症の方は、例えば「先週〇〇さんに会った」という記憶そのものがすっぽり抜けてしまいます。しかし本人は「忘れている」という自覚がないため、取り繕いや言い訳が多くなります。また、時間や場所が分からなくなる「見当識障害(けんとうしきしょうがい)」が出る方も多く、家の周りなどを徘徊することも。

一方、加齢に伴う物忘れの場合、「先週〇〇さんに会った」のは覚えていますが、「どこで会った」「何を話した」といった詳細や体験の一部が抜けやすくなります。また、本人には「忘れっぽくなった」という自覚があります。そのため、「大事なことはメモする」などの対処ができ、日常生活にはさほど支障をきたさないで済みます。

認知症かな?と思ったら病院へ。

●有効な治療法はまだないが、タイプによっては治療可能なことも

アルツハイマー型・血管性・レビー小体型ともに、認知症に対する有用な治療法は見つかっていません。しかし、なかには治療できる認知症もあります。前述したように、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫による認知症は、根本の病気の治療で治すことが可能です。治せる認知症を見逃さないためにも、認知症が疑われる場合は病院で検査を受けましょう。


●認知症の検査と診断方法

認知症の検査では、問診で生活履歴や治療履歴などを確認します。さらにCTやMRIを使って脳の画像検査や採血検査を行い、最終的な診断を行います。

なお、認知症の患者は、体験自体は忘れても感情の記憶は覚えていると言われています。診察でどんな話をしたか・どんな検査をしたかは覚えていなくても、「嫌な思いをした」という感情だけが心に残ってしまう可能性があるのです。そのため、病院ではできるだけ患者への精神的な負担がないよう配慮をしています。


●認知症の治療方法

認知症の治療は、一部のタイプを除いては対症療法です。認知機能の改善をサポートするお薬や、睡眠障害がある場合は安全な睡眠薬を処方することもあります。


●家族の負担軽減のためにも病院へ

認知症は現在は治らない病気ですが、それでも一度病院で診てもらう意味はあります。 まず、病院で認知症と診断された場合、今後の生活に関して具体的な支援を考えられるようになります。例えば、市町村の地域包括支援センターを紹介する・介護保険サービスの申請をするなど。認知症の人のお世話をご家族だけでするのはとても大変ですが、地域のサポートサービスや介護保険サービスを利用することでご家族の負担は軽減されるはずです。

認知症の人と接するときの心構え

前述したように、現在日本の認知症患者数は多く、決して人ごととはいえない病気です。そこで、ご家族が認知症になったときの心構えや注意点を覚えておいてください。


●別人になってしまうわけではない

認知症になると人格がすっかり変わってしまい、別人になってしまう……そんなイメージを抱いている方は多いかと思います。たしかに認知症の一部の症状では、人格に大きな変化が現れることもあります。しかし、だからといってその人の個性が完全に失われてしまうわけではありません。


●心配しすぎないように

ご両親やご家族など身近な方が認知症と診断されると、ショックを受ける方がたくさんいます。しかし、認知症の症状・進行速度には個人差があり、必ずしもすぐに日常生活に支障をきたすような事態になるとは限りません。今後の具体的な支援策はしっかりと考えつつも、あまり心配しすぎない・パニックにならないのも大事です。


●現在の生活を維持できるようにサポートを

認知症の方は、前述したとおりご自身の変化に気づいていません。認知の動揺やゆがみがあっても、それを知っているのは周りの人だけなのです。そのため認知症と診断されても、ご本人は今までと同じように生活したいと望むケースが多いものです。そういった際はできるだけ現状の生活を維持しつつ、ご本人もご家族も負担なく暮らせる方法を話し合ってみてください。前述した地域包括支援センターなどは、そういったときの助けになるはずです。


●衰えていない機能を維持するサポートを

認知症は知能・認知機能低下を伴うため、掃除や洗濯・料理・家計の管理など今まで普通にできていたことができなくなります。つい「できなくなったこと」ばかりに目が向いてしまいますが、「できていること」つまり衰えていない能力を維持できるようサポートを。


●「さっきも言ったじゃない」等の指摘はしない

認知症になると体験そのものが記憶から抜け落ちてしまうため、言ったことや言われたこと・したことを忘れてしまいます。当人にはどうしようもないことなので、「その話さっきもしたじゃない」「〇〇しないでと何度も言ってるでしょ」などといった指摘は控えましょう。


●本人しか知らない情報は聞いておく

例えば銀行口座の暗証番号や大事な資産の在り処など、ご本人にしか知り得ない情報がある場合は、後々困らないよう早いうちに聞いておいた方がいいかもしれません。


●車の運転は「させない」がベスト。家族のアシストが必須

冒頭でも触れた高齢者ドライバー・認知機能に問題があるドライバーによる交通事故。認知症患者の車の運転は非常に危険です。認知症の方が自動車事故を起こすと任意保険の支払いがなされないケースもあります。本人や他の人を危険にさらすだけでなく、金銭的なリスクも背負うことになるのです。

とはいえ、認知症患者に運転をやめてもらうのに苦労するケースも少なくありません。一度は「もう運転はしない」と同意してもらえても、その約束自体を忘れてしまいこれまでの習慣で車に乗ってしまう人もいます。そういった場合は、その都度思い出せるように運転席の目立つところに「運転はしないで」と書いた紙を貼っておくなどの工夫を。

市立東大阪医療センター 精神科部長 木内 邦明