コロナ鬱・災害時のPTSD・・・災厄時のメンタルケアにどう向き合うか

2020年7月22日掲載

コロナ禍や地震・災害などの有事の際は、不安感を強く持ったり、精神的に不安定になったり、うつ状態になったりする人が少なくありません。災害時にはPTSD(心的外傷後ストレス障害)がよく話題になるほか、最近では「コロナ鬱」という言葉も登場しています。

そこで今回は、災厄がメンタルにどのような影響を与えるか、またまわりの方にメンタル不調の兆候が見られる時の対処法、メンタルケアの必要性などについて精神科医の木内邦明先生に教えていただきました。

市立東大阪医療センター 精神科部長 木内 邦明

奈良医大を卒業後、奈良県立医科大学附属病院や堺市こころの健康センターにて勤務。2018年より現職。老年精神医学を専門に、認知症の診断・治療に取り組む。

コロナ鬱・災害時のPTSD…災厄は心に大きな負担をかける

現在、コロナウイルス感染症の影響で環境や生活に大きな変化がもたらされ、ストレスを感じている方は多いと思います。変化に順応しようと頑張るあまり、それがストレスになることも。このような状況下では、メンタルや体に不調が現れてもおかしくありません。また、ストレスの影響があまりに強すぎると、具体的な症状となって現れることも。

もちろんこれはコロナ禍だけの話ではありません。地震や台風などといった災害時にも、ストレスによる心理的影響・肉体的影響が出やすくなり、心身に不調をきたすことがあります。

コロナ禍のストレスが原因で「適応障害」に陥る人も

●適応障害とは

適応障害とは、ストレスが原因で引き起こされる心理的・身体的な症状によって日常生活が困難になったり、社会生活に支障をきたしたりする状態です。ストレスに上手く適応できないときに生じやすくなります。適応障害の症状は、うつ状態・不安状態など。急激な環境変化がストレスとなり、いわゆる「コロナ鬱」と呼ばれているものの多くは、これに該当すると考えられます。

【適応障害によるうつ状態とは】

適応障害によるうつ状態では、「気分が晴れない」「憂鬱だ」といった感情が大きくなります。そのせいで、眠れない・ごはんが食べられない・何をしていても楽しくない・集中できないなどといった状態に陥ることもあります。

【適応障害による不安状態とは】

適応障害による不安状態では、「常に不安感に襲われる・じっとしていても胸がざわざわして落ち着かない」といった症状があらわれます。中には、不安感を解消するために過度な飲酒や食べ過ぎるなどの行動が見られたり、イライラして怒りっぽくなったりする人もいます。

適応障害によるうつ状態や不安状態は、どんな人であっても発生します。普段はメンタルが強い人でも、過度のストレスに晒されると適応障害に陥る可能性はあると覚えておきましょう。


●うつ状態とうつ病、不安状態と不安障害は別物!

一般的にうつ状態と呼ばれるものの多くがストレスが原因で起こり、その多くが適応障害と考えられます。適応障害の症状としてのうつ状態・不安状態は、うつ病・不安障害とは異なるものといえます。うつ病や不安障害は、神経伝達物質が発症に関与する脳の病気で、適応障害とは異なります。

【うつ病】

脳のセロトニンなどの神経伝達物質が減少することによってエネルギーがなくなり、気分の落ち込み・興味の喪失・不眠・食欲低下などを生じ、心や体の活動がスムーズに行えなくなる脳の疾患です。ホルモンバランスや加齢・元々の性格などが複雑に絡まり合って発症します。

【不安障害】

不安や恐怖を調節する扁桃体と呼ばれる脳の領域の異常で起こると考えられています。うつ病に似た病気で、セロトニン神経の働きを改善する薬で治療します。動悸やめまい、発汗などの自律神経症状が現れ、置かれている状況からすれば過剰な不安を抱き、不安感を自分でコントールできないといった状態になります。パニック障害や社交不安障害などが有名です。

脳疾患であるうつ病や不安障害は、抗うつ薬で治療が可能です。しかし、適応障害の治療はストレスの緩和、回避や克服などで、うつ状態や不安状態に対する精神科の薬は根本的な治療にはならず、対症療法でしかありません。不適切な処方によってかえって症状を悪化させたり、精神薬への依存を引き起こしたりする恐れも考えられます。

なお、適応障害には基本的に投薬治療を行いませんが、不眠や不安などがひどいケースでは睡眠薬や抗不安薬を一時的に処方することがあります。原因が解消すれば、速やかに減薬や投薬治療を中止をする必要があります。


●災疫下の適応障害では、ストレスを上手に発散させることが大事

一般的な適応障害は、その原因となるストレスを解消すれば治ることがほとんどです。例えば、夫婦間の不和によるストレスが原因であれば、夫婦間の問題が解決すれば適応障害の症状もなくなることが多いのです。しかし、コロナ禍や災疫下でのストレスの場合、ストレスそのものをなくすのはなかなか困難です。家の中にずっといてストレスが溜まるのであれば、普段なら出かければ良いですが、そういうわけにもいきません。

そこで大事なのが、別の方法でストレスを発散させることです。ストレスの原因そのものを排除するのは難しくても、別の方法でストレスの逃げ道を作ってあげられれば、心理的な負担は軽減し、うつ状態や不安状態から抜け出しやすくなります。

災疫後に、PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症する人も

●PTSDとは

災疫時、ストレスが原因となって生じる疾患では適応障害の他にPTSD(心的外傷後ストレス障害)という疾患があります。PTSDは、自分や身近な人の命が危機に晒されるような出来事に遭遇するなど、強い恐怖を感じた後に発症します。急激なストレスがかかった後、過覚醒状態(強い緊張状態)が持続し、時間が経ってもその記憶が悪夢として現れることや、何度もフラッシュバックして同じような恐怖を感じる状態が続きます。4週間を超えてこのような状態が続けばPTSDと診断されます。事故・事件・地震・台風などの災害の後に生じる場合があります。


●PTSDの症状

トラウマとなっている記憶と関連する物を見た・音を聞いたなど、何らかのきっかけで当時の記憶がフラッシュバックし、急に涙が止まらなくなったり、怒りがこみ上げてきたり、パニックに陥ったりします。また、その出来事に関連した悪夢を見ることもあります。その出来事について考えないようにしたり、明るく振る舞おうとしたりしても、ふとした瞬間に当時に引き戻されてしまうのです。楽しいことや将来のことなど、どんなことに対しても不安に感じるようになったり、過覚醒状態(強い緊張状態)が持続したりするなどの症状が見られます。


●PTSDは自然回復することも。重症化する場合は専門的な治療が必要

PTSDは、安全で安心できる環境に身を置くことによって自然回復することがあります。「今はもう安全だから大丈夫」「私は守られている」という安心感が回復につながるのです。ただし、日常生活に影響するような症状が持続している場合や、徐々に悪化しているようであれば、医療機関の受診を検討してください。

災厄時のメンタルケア、周囲の人にできること

●「眠れない日が続いている」は、心の病のひとつのサイン

家族や親しい人に元気がないとき、それが単なる一過性のものなのか心の病と呼ぶべきものなのか、気になる方は多いかと思います。心の病が疑われるひとつのサインは不眠症。眠れない日が続いているようであれば、自分で気づかないうちに心の病になっている可能性があると考えて良いでしょう。不眠には寝付きが悪い、途中で何度も目が覚める、朝早くに目が覚めて睡眠時間が短くなるなど、さまざまな症状があります。PTSDでは、トラウマと関連した悪夢を見ることもあります。


●家族や親しい人がメンタル不調のとき、どう接するべき?

まずは本人の話を聞いてみるのが大切です。問題そのものが解決するわけでなくとも、話すだけで心が楽になることは十分あります。本人が話したがらないときは、「言いたくなったらいつでも言ってね」「いつでも話を聞くからね」といった声がけを。いつでも話せる環境があると伝えるのも、安心感につながります。

話を聞くときのポイントは、否定しないこと。「それは間違っているのでは?」と内心思ったとしても、否定はせず、本人の辛さを理解するよう努めましょう。また、相手を責めるのはもちろん、自分や他の誰かを責めるのも良くありません。

話を聞く以上に良いのは、できるだけ一緒にいてあげることです。ただ今はコロナの影響でそれが難しいケースもあるかと思います。そういった場合は、電話やビデオ電話・メッセージなどで話を聞くなど、「あなたは一人じゃないよ」と伝わるようコミュニケーションをとっていくのが良いでしょう。


●医療機関への受診目安は?

周囲の人とのコミュニケーションや自分自身でストレスを解消することで、心の問題は解決することもあります。しかし、以下のような状態であれば一度精神科への受診をおすすめします。

  • 精神的な混乱によって生活に支障が出ている
  • 眠れないせいで日中の活動ができない
  • 食欲がなく痩せていっている
  • 不安が抑えられなくて何も手につかない
  • 人と話していてもいつもイライラしてしまう

不安になりやすい時代だからこそ、メンタルケアが必要

●正しい情報を手に入れ、正しく恐れる

未知の新型コロナウイルスによって、罹患の不安やこれからの生活や将来への不安を感じている人は多いかと思います。また、頻発する地震や台風などの災害も不安の種になっているかもしれません。人間は、よく分からないもの・想定できない物に対して不安や恐怖を持つ生き物なので、それは当然です。心の健康を保つためには、むやみに恐れたり不安になったりしないよう、正確な情報を手に入れ、正しく恐れることが大事です。


●「待ちの姿勢」を受け入れる思考も必要

また、コントロールできない状況によって生じるストレスもあるでしょう。今の世界は、かつてないほど先が見えにくい状況です。自分ではどうしようもない出来事や想定外の事態に、振り回されてしまっている人も多いはずです。こういった状況下では、「待ちの姿勢」を受け入れる思考に切り替えることも大切です。今は分からなくても、時間とともに明らかになってくること・解決することはたくさんあります。


●ケアする人も、ストレス反応が現れることがある

注意深く見守ったりケアをしたりするのは大事ですが、知らず知らずのうちご自身まで不調になってしまわないよう気をつけましょう。例えば、お酒の量が増えたり、暴飲暴食をしたり、すぐにイライラしたりするようであれば、メンタル不調のサインかもしれません。ご自身のメンタルケアにも気を配ることが大切です。


●どこでも・いつでもできるストレス解消方法を見つけよう

日頃から自分なりのストレス解消方法・リラクゼーション方法を確立しておくと、いざというときのメンタルケアにつながります。例えば、ヨガやストレッチはリラックスを促す効果があります。動画を見ながら体を動かすのは、コロナ禍でも自宅でできるでしょう。また、音楽を聴く・本を読む・日記をつけるなども良い方法です。


●生活リズムを整えると、メンタルの安定につながる

人間は昼行性の動物であるため、昼夜逆転生活をしていると、体や脳の活動を制御するホルモンが正常に分泌されにくくなります。例えば、睡眠誘発ホルモンであるメラトニンの分泌は、通常およそ22時に活発になります。しかし、夜きちんと寝て朝しっかり起きる生活をしていないと、この分泌リズムに乗ることができず、不眠の原因に。その結果、うつ状態や不安状態を助長してしまうことも考えられます。できるかぎり規則正しい生活を心がけましょう。

まとめ

今は、コロナの影響もあり、多くの人が不安やストレスを抱えています。また、頻発する台風や地震などの災害に不安を感じている方も多いかと思います。災疫時のメンタル不調は誰にでも起こりうることです。家族や親しい人・自分自身がそうなった時に備え、日頃からメンタルケアの重要性を理解し、対処法を知っておきましょう。

市立東大阪医療センター 精神科部長 木内 邦明