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関西の専門医が語るドクター's コラム

緑内障とは

米本 壽史

執筆:医療法人米壽会 米本眼科 院長

昭和54年和歌山県立医科大学を卒業後、近畿大学医学部、阪和病院、阪和住吉病院を経て、平成5年に米本眼科を開業。緑内障、加齢性黄斑変性、糖尿病網膜症、白内障など、地域の患者さまのさまざまな眼科疾患に対応しながら、日々診療にあたっている。

緑内障とは

緑内障とは、眼圧が高くなるなどして視神経が圧迫され、視野が欠けるなどの特徴的な変化が起こる病気です。急性の緑内障以外はほとんど自覚症状がなく、気付かない間に進行します。日本で詳しい調査をした結果、40歳以上の人では約20人に1人(5%)が緑内障で、その内8割以上の人は自覚症状がなく未治療です。さらに、70歳代では約10人に1人、80歳以上では約7~8人に1人が緑内障であることが分かりました。
緑内障は、「早期発見」が大切です。
40歳を超えたら年に1回、眼科健診を受けるようにしましょう。

健康診断で緑内障の疑いによる再検査を促されるようなことになっても、その時点ではまだ心配する必要はありません。そのような場合、視神経乳頭の形が、少し正常でない可能性を指摘されることが大半だからです。仮に緑内障と診断されても、すぐに失明するようなことはまずありません。多くの緑内障は、ゆっくり進行するものであり、失明に至る例はごくわずかです。

ドクターズメモ

眼球は、直径25mm程度の少し変形したボールのような形をしています。「見える」ということを、脳が認識・自覚するには、光が「眼底(網膜)」まできちんと届いて、きれいな像を結ぶことが必要です。私たち人間は、眼球の中心部(黄斑部)で物を見ていますが、網膜に映った像の信号が神経の線維を伝わって、脳(後頭葉)まで行って初めて見えたと自覚するのです。「視神経乳頭」は網膜の各所から出発した、多くの神経の線維が集まって、束になって眼球の後ろへ出て行く場所です。この神経の束は1つに見えますが、細い線維が崩れてばらばらにならないよう、乳頭の後ろで多くの穴が開いた「篩板(しばん)」という場所を通っています。眼圧が高いと、この部分で神経が圧迫され、徐々に神経の細い線維が傷んで弱っていきます。そして、徐々に視野が欠けていきます。
緑内障は、眼圧が高くなることが主な原因です。しかしながら、どの程度以上の眼圧になると障害が生じるのかは、個人差が大きく一概には言えません。

緑内障のタイプ

緑内障にもいくつかの種類があります。大別すると、自然に発症するタイプの「原発緑内障」と、何らかの病気に併って発症するタイプの「続発緑内障」に分かれます。緑内障の中でもっとも一般的なのは「原発緑内障」ですが、これについても「隅角(ぐうかく)」という部分の状態によって、大きく2つのタイプに分類されます。

隅角は眼球内部の圧力(眼内圧=眼圧)を維持している「房水(ぼうすい)」が眼球内から出ていく場所で、房水の流出抵抗が眼圧の高さに影響を与えています。隅角が十分開いているタイプは「開放隅角緑内障」で、狭く閉塞しているタイプは「閉塞隅角緑内障」になります。両者を比べると、前者のほうがとても多く、また、開放隅角の中で眼圧の高いもの(眼圧が21mmHg以上)と正常域の眼圧で緑内障を引き起こす正常眼圧緑内障(眼圧が21mmHg未満)があり、日本人では正常眼圧緑内障が大部分を占めます。

≪正常眼圧緑内障(NTG)≫

眼圧の正常値は「9~21mmHg」とされますが、眼圧が特別に高くない、あるいは、常に正常であるにも関わらず、緑内障の典型的な症状である「視神経の変化」や「視野の変化」といった緑内障の症状が見られる場合を「正常眼圧緑内障」と言います。
正常眼圧緑内障が起こる理由は、一人ひとりの眼の強さが違うからです。それは、人間の体に、体格(身長・体重)や筋肉量などの色々な違いがあるように、眼の強さ(視神経の強さ=抵抗力)にも個人差があるということを示しています。視神経のしっかりした、抵抗の強い人では、少しくらい眼圧が高くなっても圧迫による変化が起きません。ところが、視神経の抵抗性が弱いために、正常の眼圧でも障害の生じる人がいるのです。分かりやすく言い換えれば、ガッシリした体格の人は、少しぐらい体を押されてもビクともしませんが、病弱で足腰の弱った人なら、少し押されただけで倒れてしまいます。視神経の強い人・弱い人というのは、それと同じようなものです。

したがって、眼圧が高くても視神経が強ければ、緑内障になりにくいと言えます。眼圧を計測するたびに、21mmHgを超えていても、視神経や視野に何の異常も見られない人もいるのです。そのような場合は「高眼圧症」と呼ばれます。「高眼圧症」と言っても病気と考える必要はありません。人によっては25mmHgぐらいまでは治療せずに様子をみます。

ドクターズメモ

人種によって異なる緑内障

日本人は正常眼圧緑内障の人が多く、欧米では眼圧が高い原発開放隅角緑内障の人が多いというデータがあります。正常眼圧緑内障という病名が確定する20年くらい前は、眼圧が低くても緑内障が見つかったので低眼圧緑内障と呼んでいたこともありました。日本人の正常眼圧は21mmHgよりは少し低い19~20mmHg程度で、これが異常との境界と考えてよいかもしれません。


≪閉塞隅角緑内障≫

中高年の女性に多い緑内障のタイプが「閉塞隅角緑内障」です。もともと眼球の奥行きが少し短い遠視の人に多く見られます。閉塞隅角緑内障には、急速に起こるタイプ(急性発作)と慢性に起こるタイプがあります。急性発作では、30~60mmHgへと急激に眼圧が上昇し、激しい眼痛、かすみ、視力低下、眼の充血、頭痛、吐き気、嘔吐が起こることもあります。このような場合は早急に処置、治療をしないと、失明してしまうこともあります。一方の「慢性原発閉塞隅角緑内障」は、急性の症状が認められないものの、前房(ぜんぼう)※が浅く閉塞隅角の所見があるもので、眼圧は必ずしも高いとは言えません。
※前房(ぜんぼう)
前房とは角膜と虹彩の間のことを言います。中は「房水」と呼ばれる水で満たされています。

緑内障を早期発見するには

緑内障は自覚症状に乏しい病気ですので、発見された時には、かなり進行している例が多く見られます。しかも、緑内障は非常にゆっくりと進行するタイプが多いので、いつのまにか進行していて、いつから悪くなったのか分からないといった例が多くなります。また、目が少し見えにくくても、「老眼である」と自己判断されている例が多いようです。このようなことを防ぐためには、何よりも定期的な眼科健診が大切です。

ドクター's コラム「緑内障」

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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