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関西の専門医が語る ドクター's コラム

摂食障害(過食症・拒食症) 診断と治療法

摂食障害の治療

摂食障害の治療の基本は、外来治療です。ただし著しい低体重に陥った場合には、入院治療が考慮されます。

外来治療

外来治療には以下のような方法があり、患者さんの症状によって、いくつかを組み合わせて治療が行われます。

〇薬物療法

摂食障害そのものに効果のある薬はありませんが、摂食障害だけでなく、不安、焦燥、不眠などを抱えている場合も多いことから、対症療法としてそれらを改善する薬を用いることはあります。一方、摂食障害が社交不安障害、強迫性障害、双極性障害の部分症状であると判断される場合は、それらに対する薬物療法を行います。

〇精神療法、心理療法

摂食障害に対する精神療法には、支持的に接するという基本的なものから、カウンセリング、認知行動療法、対人関係療法、力動的精神療法、弁証法的行動療法といった、より専門的な治療を行うものがあります。しかし、まだ、それらの専門家が少ないのが現状です。

カウンセリング
  • カウンセリング
    困っていることや悩んでいることを話すことを通じて、自身を振り返っていく作業を言います。いわゆる経験豊富な人からのアドバイスや悩み相談とは違い、明確な解決策が提示されるわけではありません。カウンセリングは、患者が自らに向き合うことで、新しい理解や洞察に自発的にたどり着くプロセスのことです。従って、摂食障害に合わせた形のものがあるわけではなく、患者が何を望むかによって変化します。日本で最も一般的にされている心理療法です。

  • 認知行動療法
    海外では摂食障害に対する最も一般的な治療法です。
    認知行動療法は、まずは食事日誌(24時間自己監視し、食事を記録すること)が基本となります。さらに、状況を客観的にとらえ、その考え方を点検する「認知再構成法」などを通じて、自己評価や自分に対する価値観が体重や体型に縛られているのを徐々に解きほぐして行きます。また抱えている問題を具体的に解決する方法を身につける「問題解決法」を用いて、家族、友人関係で陥っている問題を順序よく解決していくことを目指します。

  • 対人関係療法
    私たちのストレス原因の多くは、対人関係にあるとも言えます。親や配偶者、恋人などの身近で重要な他者との関係が安定していると、問題が起きたり、落ち込んだりすることがあっても、何とかやっていけるものです。対人関係療法は、身近にいる重要な人との現在の関係に焦点を当て、その対人関係における態度やコミュニケーションのあり方を考えていく療法です。対人関係療法はうつ病に対するものが一般的ですが、摂食障害でも、その発症の前後における対人関係を自ら振り返り、重要な他者との関係を見直すことで摂食障害が改善していくことが知られています。

  • 力動的心理療法
    自分自身をより深く理解し、自分なりの生き方やあり方を見つけていくことを目指します。力動的心理療法においては、患者はカウンセラーへの信頼や愛着とともに、不満や怒りなどいろいろな感情を体験します。このような体験をカウンセラーと話し合うことによって、過剰な不安や恐怖におびえることが少なくなり、現実生活に起こるさまざまな葛藤に、より柔軟に関われるようになるのです。摂食障害の症状を直接的に取り上げて話し合うわけではありませんので、効果に時間がかかることが知られています。一方で、過剰な不安や恐怖におびえることが少なくなり、現実生活に起こるさまざまな葛藤に、より柔軟に関われるようになるなど、生活全般の様々な場面に対する波及効果があることは見逃せません。

入院治療

やせ細った摂食障害の患者さんには対症療法的に、点滴による栄養補給が行われることもありますが、普通の点滴では水分の補給は可能でも、体重が回復するほどのカロリーを補給することはできず、入院前よりも体重が減少して退院するということも少なくありません。
そこで行われるのが、行動制限療法です。家で食事をとらない摂食障害の患者さんは、入院したからといって簡単に食事をとるようにはなりません。そのため、自ら十分な量の食事を摂取するまで、両親との面会、携帯の利用、病棟内での自由などさまざまなことを禁止・制限します。食事を摂らない場合は、点滴ではなく鼻腔から胃にチューブを挿入して栄養を補給する、ということも行われます。
ただし、入院治療で行われることが十分に説明され、理解されれば、ほとんどの患者さんは、外来治療のなかで緩やかに体重を増やすことを選択します。

ドクターズメモ

受診拒否の場合は、その家族が心理療法を受けることも

アルコール・薬物使用障害では、患者本人は何の問題もないと否認し、その行動を改めず、受診・治療を拒否することが一般的です。説教をしたり叱ったりすることは、有効ではなく、突き放すしかないとされてきました。
摂食障害の患者さんも、アルコール・薬物使用障害と同様に、本人に危機意識が少なく、受診させるのは困難です。しかし思春期の若い女性患者が多いため、その家族にとっては「突き放す」ことは、とうてい不可能です。そこで、まず家族が心理療法を受ける場合があります。これによって「ポジティブなコミュニケーシヨンスキルの獲得し」、「上手にほめて望ましい行動を増やし」、「先回りをやめ、しっかりと向き合って望ましくない行動を減らす」ようになると、「治療機関への受診をうまく勧める」ことができるようになることが知られています。

ドクター's コラム「摂食障害(過食症・拒食症)」

※上記掲載の情報は、取材当時のものです。以降に内容が変更される場合がございますので、予めご了承ください。

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