シカクが語る「リトルプレスの現在」第1回

2017/07/24

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:トライアウト・田村朋子

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シカクが語る「リトルプレスの現在」第1回

「リトルプレス」という言葉をご存じでしょうか。出版社が企画したものではなく、取次を介さずに流通する少部数の出版物のことです。似たような言葉に「ミニコミ誌」や「同人誌」「ZINE(ジン)」などがあり、作る人の思想やこだわりによって使い分けられています。

そのリトルプレスを中心に、さまざまなインディーズ出版物を扱うセレクトショップとして2011年、大阪の中津にオープンしたのが「シカク」です。今年7月には此花区の昭和風情漂う一角へ移転し、リニューアルオープン。塗り替えたばかりの白壁と木の梁のコントラストが美しい店内には、常時1,000冊ほどの作品が並び、奥にはギャラリースペースも備えています。

そんなシカクとともに、リトルプレスの魅力を発信する連載をスタートします!


――まずはお店の紹介をお願いします。

お店を始めたきっかけは、自主制作で一般には流通していないような本に店長である巴が興味を持ったことです。集め始めて気付いたのですが、東京にはそのような出版物を扱うお店がたくさんあるのに、関西には当時すごく少なかったんです。コミケやコミティアのような即売会では買えるけど、日常的に買えるお店がない。大阪という都会に住んでいながら、近場ですぐ手に入らないのは嫌だ……という思いが湧いてきて、「じゃあ自分たちで作ろう」となったんです。それから1年くらい物件を探しまわって、2011年5月、中津に最初のお店をオープンしました。

――店舗経営のノウハウはお持ちだったんですか?

いえ、まったくありませんでした。最初は右も左も分からず、とにかく色々な作家さんにメールで連絡して作品を集めていきましたね。当時は「納品書」の意味も分からなくて、「受け取ったけど、どうしたらいいんだろう?」という感じで(笑)。ホームページも、東京にある似たようなお店のを真似して作ったものの、更新する方法が分からなくて苦労したことも。とにかく手探りで続けてきたという感じです。でも、その内に同じようなお店が関西にも少しずつ増えてきて、お店どうしの交流も活発になってきたんです。そこでの情報交換を通じて徐々に色々なことが分かり、ますますリトルプレスの魅力に取りつかれていきました。

――シカクさんにとってリトルプレスの魅力とは?

1つは一般の書籍ではあまり扱わないテーマを取り上げていること。みんな何となく興味はあるけど、あまり触れられないアングラなことを扱ってることがあるので、面白い発見が多いと思います。あとは書く人の熱量ですね。元々、ミニコミやZINEは反体制的な思想がエネルギー源になっていて、古くは宮武外骨のように「投獄されてもいいから書く」みたいな熱意がすごかった。その精神は受け継がれていて、「売れなくても書く」「自分にしか書けないものを書く」といった熱意が作品から伝わってきます。

最近では大型書店にもリトルプレスのコーナーが置かれるようになり、間口が広がってきました。みんな存在を知らなかっただけで、知れば「読みたい」と思う人も多いはず。実際、誰かのSNSでリトルプレスの本を知った人が近くの書店に「置いてませんか?」と問い合わせるケースもあり、これからもっと注目されていくのではないでしょうか。

――ありがとうございます。ではシカクさんオススメの作品をいくつかご紹介いただけますでしょうか。

『フィリピンではしゃぐ。』はしゃ

『フィリピンではしゃぐ。』 はしゃ

http://shikaku.ocnk.net/product/1318

イラストレーター、漫画家として活躍する「はしゃ」さんが、フィリピンに半年間の語学留学へ行った体験を綴った作品です。はしゃさんは主にインターネットで作品を発表している人気の作家さん。語学留学の間、作品づくりをお休みされていたはしゃさんが久しぶりに出された本なので、ファンにとっては待ちに待った作品です。

はしゃさんは海外旅行が好きなのですが、以前は英語があまり話せず、せっかく現地で親切な人に出会ってもコミュニケーションが取れずに歯痒い思いをされていたんです。それで一念発起して語学留学へ行こうと決意されたんですね。英語の留学先で思い浮かぶのはアメリカやイギリス、オーストラリア、カナダなどですが、圧倒的に物価が安いのでフィリピンを選んだそうです。

作品では留学先での授業や日常生活の様子が描かれていますが、ストーリーの中心はルームシェアしていた韓国人の女の子との友情談。最初はお互いに英語が話せなくて意志の疎通が上手くいかずギスギスすることもあったのですが、だんだん仲良くなって一緒にクラブへ行ったりケーキを食べたりするエピソードに心を動かされます。でも半年の留学が終わればお別れしないといけない。それがまた切ないんです。本の作りとして、1カ月ごとに章を分けているので、読み進めるごとに「あと1カ月でお別れ……」と寂しくなるんです。



他にも命がけの洞窟探検ツアーに行ったり、気候や物価に関する豆知識なんかも散りばめたりしていて、観光ガイドとして読むこともできますね。私も読んでたら留学に行きたくなってきました。半年間の留学だったのですが、はしゃさんは4カ月目くらいには日常会話に困らないほど英語が上達していて、本の中に出てくる英語の細かい表現が上達ぶりを物語っています。最後に留学でかかった費用も書いてあって、これは要チェックですよ。

――書籍としてのクオリティも高いですね。

本当にそうなんですよ。人気の漫画家なので絵のクオリティはもちろんなのですが、エッセイとしての書き方も上手い。表紙はニス加工した紙で、普通に書店に並んでいても遜色ない仕上がりです。自主制作の本って昔はカッターで切った紙を製本テープで止めただけのものが多かったのに、今は印刷費も安くなっていて自分でここまで作れる時代なんですね。本としての佇まいが素晴らしい一冊です。

『精神病院へようこそ!』小林エリコ(宮沢楽)

『精神病院へようこそ!』 小林エリコ(宮沢楽)

http://shikaku.ocnk.net/product/1317

ちょっと構えてしまうタイトルですが、とても面白いです。仕事で悩んだ末に薬で自殺未遂をした著者が、精神病院に強制入院させられる所から話は始まります。入院してからの日常生活を描いた作品なのですが、暗い感じではなく淡々と事実を語っていてすごく読みやすい。精神病院って「ヤバい」とか「入ったら終わり」みたいなイメージを持つ方もいるかも知れないんですが、そこには「普通の生活がある」ということが伝わってきます。

精神病のようなテーマは、普段はフタをされていることが多いのですが、実はみんな興味があるんじゃないでしょうか。いつ自分が鬱になるか分からないし、すごく身近なテーマなんですね。一定期間を別の場所で過ごす、という意味では先ほどの『フィリピンではしゃぐ。』と同じく異文化交流記を読むような感覚です。

最近は精神病の人も発表する機会が増えている気がします。そもそも人の心なんて一人ひとり違いがあるのに、「精神病」という1つの言葉でくくってしまうのがおかしい。同じケースなんてないんだから「私の場合はこうでした」というのをたくさん発表した方が良いですよね。それが多様性への理解につながると思います。

――絵がやわらかくて読みやすいですね。

昔は漫画の編集者をされていた方なので、コマ割りが上手ですよね。大きいコマ割りで、寄り引きのメリハリがしっかりついているので、すごく読みやすい作品だと思います。絵のタッチがソフトなのもいい。コマの線まで手描きになっていて、シリアスなテーマなのに何となくユルい印象を与えてくれますよね。今までこういうテーマを敬遠していた方にはぜひ読んでほしい作品です。

『さいはて紀行』金原みわ

『さいはて紀行』金原みわ

http://shikaku.ocnk.net/product/1092

「珍スポトラベラー」として全国の珍スポット、B級スポットなどを取材して回っている金原みわさんのルポルタージュです。金原さんは雑誌でも多くの執筆経験を持つライターさんで、文章が読みやすいですね。珍スポットはブームでもあるので、同様の本は他にも出ているんですが、この本の特徴は文章が中心で写真が少ないところ。珍スポットって見た目のインパクトがあるので写真中心で紹介されることが多いのですが、この本は、そこにある人間ドラマに焦点を当てているんです。

本のプロローグには、「珍スポットは遠く離れた場所ではなく、日常のすぐ隣にある」といったことが書かれています。どんな変わった場所でも、そこには人が住んでいて、その場所は人が作っている。私たちとの間に境目なんてないんです。金原さんが珍スポット取材を通して訴えたいことは、そういうことなんですね。

だから金原さんは、ただ訪れて写真を撮って帰るのではなく、その場にいる人とじっくり話をしているんです。東北のストリップ劇場を訪れた章でも、踊り子や受付の方と対話し、その人情に触れる話が展開されています。そして金原さんがどんな気持ちでそこを訪れ、その結果どんな気持ちになったか、という心象が描かれているんです。まさに金原さんにしか書けないストーリーですね。

――取材相手への敬意が感じられますね。

そうですね。取材後も菓子折りを持って足を運ばれることもあるようで、つながりを大切にされています。「取材して終わり」ではないんですね。「珍スポット」って、何となく上から見てしまう風潮もあるのですが、金原さんにはそんな気持ちがない。いかに珍スポットが自分たちの身近にあるか、常に感じているのが文章から伝わってきます。

この本でも刑務所の美容室や、河川敷のホームレスが紹介されていますが、私たちもいつその一線を越えてしまうかは分からない。そういう意味では、珍スポットって日常の裏側にあるものなんです。だから金原さんも「珍スポ」ではなく、もっと別の言い方がないか、と模索されていますね。

――写真メインで紹介する本も出されています。

『日本昭和珍スポット大全』ですね。これは昭和ムードが漂う珍スポットを、ビジュアルメインでズラッと紹介する本です。廃れたテーマパークやピンク映画館など、「日本にこんな場所があったの?」と思うようなスポットがたくさん出てきます。ぜひセットで読んでみてください。

『日本昭和珍スポット大全』
http://shikaku.ocnk.net/product/1326

『スキマレシピ』パリッコ

『スキマレシピ』パリッコ

http://shikaku.ocnk.net/product/1290

「酒ライター」のパリッコさんが、すき間の時間を使って作れる料理を紹介する本です。元々はnoteという投稿アプリでレシピを紹介していたんですが、その中で反響の高かったものを書籍化することに。かわいらしいイラストが料理へのハードルを下げてくれますね。

この本の最大の特徴は、載せている料理が必ずしも美味しいとは限らないこと。基準は「ラクなこと」と「酒に合うこと」の2つだけ。取りあえずパリッコさんが実験的に作ってみただけの料理も載っています。一般の料理本では考えられない発想ですよね。

また、もう1つの特徴が、料理を写真ではなく絵で紹介していること。普通の料理本てすごくキレイに撮った料理写真を載せて、いかにも美味しそうですよね。それが手描きのイラストなのも親しみやすさを与えてくれますね。

――料理が苦手な人にもおすすめですね。

その通りで、一般の料理本って「簡単」と書いていても実際作るには難しいことが多いんですよね。そういった本はやっぱり料理好きな人が読むことを前提にしているので、そろえるのが難しい食材を使っていたり。この本は本当に「レベル1」の入門書で、「切って混ぜるだけ」みたいなレシピが多いんです。分量も書いてなくて、「ドボドボ」とか適当な感じがいい。まえがきに「分量は書いてませんが加減してください」とちゃんと書いているんですが、確かに「大さじ2」とかいちいち計ってたら無理ですよね。

どん兵衛のかき揚げをご飯に乗せただけのかき揚げ丼なども、けっこう話題になりました。「長所:超カンタン/短所:いい大人が食う適量を越えている」って(笑)。でも残業とかで疲れて帰って、家で晩酌する人とかには、すごくオススメですよね。

さらに面白いのが、料理によって熱の入れ方が違う所。「肉豆腐」だけやたらこだわっていて、このレシピだけ文字量がすごく多いんです。こういう著者の熱量がダイレクトに伝わってくる所や、フォーマットにバラつきがある所も、リトルプレスならではの魅力ですね。

『私的標本 捕まえて食べる話』玉置豊

『私的標本 捕まえて食べる話』玉置豊

http://shikaku.ocnk.net/product/828

こちらは体当たり系のライターさんの作品で、変わったものを食べる本です。といっても、いわゆる「奇食」を集めて紹介するものではなく、自分で釣ったり生け捕りにしたりしたものを調理して食べるまでを詳細に記録しているのがすごい所です。東京の川でウナギを釣るとか、クラゲを拾って食べるとか……。見た目がちょっとキツイものも多いのですが、写真が白黒のページが多くて、ちょっと緩和されています。
ちゃんと捕まえ方から調理方法まで詳しく解説してくれているので、真似しようと思えばできる。ある意味でノウハウ本ですよね。普通は真似できないけど「真似してみたい」と思わせるパワーがある。そのまとめ方も上手いですよね。

「ホンオフェ」と呼ばれる韓国の料理を作って、友達を集めて試食する話があるんですが、これが地獄だったようで……。これはエイの刺身を発酵させた保存食で、「世界で2番目に臭い」といわれる料理(編集部注:ちなみに世界で一番臭い食べものとされることが多いのはスウェーデンの塩漬けのニシンの缶詰シュールストレミング)。そんなエピソードが飛び出すのも、この本ならではです。

自分で捕って食べるという趣旨の本は「食を通して命について考える」みたいな重いテーマになりがちなんですが、これはとても軽くて読み口があっさりしています。「何か楽しそう」というノリで読めるのがいいですね。著者の方は、普段から「東京にある雑草で、どれが食べられるか」みたいなことを軽いノリでリサーチしてる人なんです。だからこの本も軽いノリで読めるんですね。

実はこの本、大手出版社から書籍化されることも決まり、そこには書き下ろしの文章も入ります。期待したいですね。

http://yaplog.jp/hyouhon/archive/2150


今回、紹介していただいた5冊も含め、「世の中には、まだまだ知らない本があるんだなぁ」と素直に感じさせられました。出版不況といわれていますが、1年に発行される本の数は増えているのが現状。単に「売れなくなった」というよりも、本以外の媒体も含め「受け手の興味が細分化された」というのが正しい視点かも知れません。人々の興味、関心が多様化しているので、それを受け止める本の種類も多様化するのは自然なこと。その多様性を守り続ける上で、シカクのような書店はとても重要な存在だと気づかされました。この先、どんな本が出てくるのか、ますます楽しみです。

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本屋さんにある本より尖ってて、すごい情熱を感じる本がいっぱいよね

驚き
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  • 店舗データ

    シカク

    住所:大阪市此花区梅香1-6-13
    Tel:06-6225-7889
    営業時間:13:00~19:00
    定休日:火・水曜
    アクセス:JR・阪神なんば線西九条駅から徒歩15分
         阪神なんば線千鳥橋駅から徒歩5分

    公式ホームページ:http://uguilab.com/shikaku/
    オンラインショップ:http://shikaku.ocnk.net/

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