森翔太インタビュー「自分にしか出せない“ネガティブ”の力」

2017/07/24

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:野田真

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森翔太インタビュー「自分にしか出せない“ネガティブ”の力」

「仕込みiPhone」のバズから4年余り、現在では数々のプロモーションビデオ、Web CMなどの映像制作も手掛ける森翔太さん。独自の発想で映像を作り続ける彼は、どんな視点で世の中を見ているのでしょうか。その唯一無二のストーリーは、どのような空間で、どのような思考回路を経て生み出されるのでしょうか。今回、森さんの自宅兼作業場にお邪魔して、その答えの一端を探ってみました。

多忙な映像クリエイターの部屋だけに、さぞかし本や書類が散乱しているのかと思いきや、通された部屋はすっきりと整頓された空間。8畳ほどの部屋の一角に作業スペースとなるデスクがあり、反対側にテレビとウォーターサーバー、中央に小さなテーブルとソファが置いてある程度です。

デスクの上には2台のパソコン。ここで絵コンテを書いたり、映像をつなぎ合わせたりしているそうです。その脇にはシーンの事例集や、脚本作りのノウハウ書、ファッション関連の本などの書籍が並んでいますが、多くは次の仕事で必要な知識を得るための本だそうです。

撮影をしていると、一匹の猫がノッソリと入ってきました。森さんの飼い猫で、名前は「おこた」。友人に付けてもらった名前で「コタツに入るのが好き」というのが由来とのこと。この空間で森さんは、時に猫と戯れながら独創的な映像作品を生み出しているのです。


アイデアが形になるまで

――お仕事の依頼を受けてお題を与えられたら、まず何から考え始めるのでしょうか?

僕の場合、オモシロ企画を求められることが多いのですが、とっかかりは大きく分けて2つあります。1つはパロディ。既に世の中にあるものを活用して新しいものを作る、というやり方です。もちろん、それだけだと限界があるので、そこにプラスアルファの別の要素を付け足すことを考えるようにはします。

2つ目はシンプル勝負になってきますけど、何か工作物やオリジナルドラマを作る、という方法。初期のころは「工作で何かお願いします」というオーダーが多かったですね。工作なんて、ほとんどできないんですけど。

――パロディで作るとき、元ネタにするのはどんな映像なのでしょうか?

多いのは昔の映像作品ですね。例えば70年代のニュースとか、昭和のCMや料理番組、通販番組など。YouTubeにその辺の映像がゴロゴロ落ちているので、すごく参考になります。昔の番組って今と感覚が違いすぎて逆に斬新ですよね。
あと、母親がすごく映画好きで昔からたくさん見ているので、映画の名シーンなんかはけっこう把握しています。映画もパロディに使いやすいんですが、「知っている人にしか分からない」みたいにならないようにするのが悩みどころですね。

――アイデアはいつも一人で考えているのでしょうか?

いや、最近はその時のチームでブレストを繰り返しながらアイデアを練ることが多いですね。企画から頼まれることが多いんですが、実は企画がすごく得意なわけじゃないんですよ。頭悪いし、趣味も偏っているので。正直なところ、動画の企画って未だにコツが分からない。僕もふんわりと「こんなのがやりたいな」というときはあるんですが、企画の得意な人にアドバイスをもらわないと前に進まない、なんてことがしょっちゅうです。

例えば鳥取県のPRで「カニニュース」という企画の動画を作ったのですが、これはチームで取り組んだお陰でたくさんのアイデアが出て形になった好例です。最初はなかなか企画が思い浮かばなかったのですが、「鳥取県は松葉ガニの水揚げ高が日本一」という話が出て「じゃあカニを柱に考えよう」と。蛇口からカニ身が出てくるアイデアもブレストの中で生まれたものです。

SF小説と一人遊び

――森さんの「視点」に影響を与えてきたものは何なのでしょう?

元々は本やマンガが好きで、それは今でも土台になっていますね。特に影響が大きいのはSF小説、中でも筒井康隆さんの本で、高校生の時には全作品を読みました。SF小説は「現実には起こらないこと」の発想につながるのですが、筒井さんの作品は本当にネタが満載。最初に読んだときの衝撃は今でも引きずっています。実験的な小説で難しい表現も多いのですが、「文房具どうしが殺し合う」という奇抜なストーリーの『虚航船団』や、魔法が現実に溶け込んでいるみたいな設定の『旅のラゴス』なんかが最高ですね。初めての人なら、『笑うな』みたいな短編集がおすすめです。

――昔から「現実に起こり得ないもの」を表現することが好きだったのでしょうか?

そうですね。小さい頃、家に大量のキンケシ(編集部注:ゆでたまごによる漫画『キン肉マン』の無彩色塩化ビニルフィギュア)があって、それでよく一人で遊んでいました。一人遊びが好きだったんで、一人で自分を喜ばせることをしないといけなくて……。その頃に培ったものが今も生きているのかも知れません。その後、演劇をするようになってからも、一人で奇抜な物をよく作っていましたね。

武器は「不審」と「鬱屈」

――ご自身の「見た目」を自虐的に表現する作品がいくつかありますが、どんな狙いがあるのでしょう?

劇団にいた頃から役柄として不審者が多かったんですが、見た目の「不審さ」って武器だと思っていました。「仕込みi Phone」も最初は「不審さ」で注目されたんです。「あいつは何なんだ?」と。当初、日本のメディアでは「現代の殺し屋」という見出しで紹介され、YouTubeにも「気持ち悪い」みたいなコメントが並んでいたんです。

でも1年後に海外でニュースになると、みんな掌を返したように「いいじゃん!」とか。僕の見た目は確かに不審ですけど、僕はもっと世間に対して不信だらけですね(笑)。

友人が監督した、私が逮捕されるフェイクニュースの作品があるのですが、公開して2週間くらいしたら本当のニュースみたいに話題になっていて、びっくりしました。「不審」の力ですね。

――でも過去には不審すぎて職務質問を頻繁に受けていたとか。

はい、もう100回以上は受けてるんじゃないでしょうか。最近はYouTuberとか、個人的に撮影する人が増えたので、1人で撮影していても職務質問されることは減ったのですが、昔は多かったですね。1人で何かやっていると必ず「何やってるんだ?」と。「あ、結婚式のビデオです」といって逃げる、というパターンでした(笑)。

ペットボトルで女性の人形と遊ぶ「PET Bottle Lover」という映像作品があるのですが、それを撮影していたときが一番職務質問が多かったですね。撮影の行き帰りに必ず交番の前を通るんですが、毎回同じお巡りさんに呼ばれて。その人も楽しんでて「今日も寄っていけよ」なんて。僕もよく分からなくなってきて、職務質問されている所を作品のネタに使いました。

――ネガティブなことを面白く捉えて表現するのが森さんのスタイルなんですね?

基本的に、世間に対してネガティブなんですが、視聴者のことを考えると面白くしないと受け入れられない。ネガティブなものをネガティブなまま表現しても伝わらないので、エンターテイメントにしないと。でも上手くいかないケースが多くて、やっぱりでき上がったものを見ると暗いんですよ。僕としてはポップに作ったつもりでも、「トーンが暗い」と言われます。うまくいかないことばかりです。

――本当はネガティブなまま表現したい、という気持ちもあるのではないでしょうか?

昔よりもネガティブなことを隠さないようにしたくなってる、というか、キレイごとで終わらないように、と最近になって思い始めています。その辺は最近の課題でもあって、ネガティブなものを、ちゃんとネガティブに映す手段を模索中です。暗くてバッドエンドの映像作品とかも作っていきたいな、と。

高校生の頃に見た『世紀末の詩』(1998年10月14日~12月23日放送)という野島伸司さんのドラマにすごく影響を受けたんですが、登場人物がほとんど報われないんです。でも報われない出来事を見て、自分は感動するんです。カッコいいとか関係なくて、不恰好でも必死にもがいている人を見ると、僕は感動するんです。

やっぱり、ハッピーだけの話ってパワーが弱いというか。登場人物が不幸な目に遭うからこそ胸に訴えかけるものがある。「現実は暗いんだよ」ということをストレートに伝えることで、逆に光が見えてくるんじゃないかな、と。

――「ネガティブ」が森さんの映像作家としての武器なんですね?

世の中には「イケてるもの」と「イケてないもの」がありますが、僕は圧倒的に後者。それを武器にするしかないんです。僕の映像制作のモチベーションの多くは「鬱屈」なんだろうなと思います。
CMを作る人たちってみんな華やかで「ポジティブなものをポジティブに作る」ということができるんです。僕はキラキラしたものは作れないので、「キラキラできない」ことを伝えるしかない。“逃げ”です。でもある意味、エネルギッシュさは出ていると思っています。

「人」こそがコンテンツ

――映像を作る上でのポリシーみたいなものはありますか?

映像について言うと、例えば、凝ったCG映像はハマらないんじゃないか、というのはあります。チャレンジ的には憧れますよ。ただ、生身の人間が何かやっているのが好きなんですよね。映像の面白い所って、いかに絵コンテや脚本が完璧でも結局は人に左右される所。人が面白いトーンを持っているからこそ面白いと感じるし、人こそが面白さを生むコンテンツなんです。
打ち合わせでも「こうすればバズる」「過去にこんなのがバズッた」みたいな話がよく出るんですが、ただ最終的には読めないことってたくさんあると思っています。でもそこが面白いんですよね。

――人の面白さを活かすために撮影で工夫していることなどはありますか?

絵コンテ通りに撮るのではなく、現場で出る「こうした方が良くない?」みたいな意見を大事にしていますね。あと、役者のミスとか、予期しないものが出てくると、それこそ「ラッキー!」という感じ。そういう「人」が生み出す偶然性みたいなものってCGやアニメーションでは生まれないですよね。人と人とが何かをやっているからこそハプニングとかも生まれて、面白い映像が生まれる。決して「ミスが良い」というわけではなく、「完璧なことをやろうとして、偶然出てきてしまった奇跡」みたいなものですね。そういう「アナログ感」は自分の作品の特徴だと思っています。

夢破れて今がある

――以前は劇団に所属されていましたよね?

高校生の頃から役者に憧れていて、大学時代も演劇の世界に進みたい、という気持ちはありました。でも卒業の年に「無理だな」と感じて一般企業に就職したんです。22歳で夢破れた、という感じですね。自分の“嫌な奴”感が出ますが、最近、「昔、夢破れてしまった人のブログを読む」というのがマイブームなんですが、僕も夢破れたと思いながら生きてきたので自分と重なるんですよね。すごく感情移入してしまいます。でもそのブログの人とか、逆に色んな道にどんどん進んでいて、本当にドラマみたいなんですよ。「捨てたような人生なんだから、逆に何でもできるぞ」というエネルギーが生まれるのかも知れません。



――なるほど。実はすごくポジティブなんですね!

いや、「人生、辛いことってあるな」と思うことだらけですよ。プレゼンで落ちたりすると、「やっぱりイケイケで華やかな人たちが勝つんだな……」とか、「僕もキラキラしたCMを作ってみたいな」とか。でもやっぱり「自分が今度は何ができるんだろう」ということを考えないと、すぐにうまくいかなくなるので、自分と折り合いを付けながら日々模索しています。失敗だらけです。助けてください!

――ありがとうございました。最後に、今後の目標を聞かせてください。

年々、映像って奇跡的なことなんだなって思うことが多くなってきています。自分の中ではまだまだ映像制作の経験が浅く、ここ数年で少しずつできる事が増えてきている、という感覚です。お仕事の依頼を通して「できなかったことに挑戦して、できるようになる」ということが続いていて、「お前がしなくてもいいだろ」みたいなことも任せてもらえて、それがすごく糧になっているんですね。この流れに乗って、今後はテレビや映画など、幅広い表現媒体にチャレンジしていきたいです。職務質問されないように気を付けながら……。

私もおこたと戯れたい!

喜び
  • 森翔太さん
  • プロフィール

    森 翔太

    映像監督/俳優。
    1983年生まれ。鳥取県出身。静岡文化芸術大学卒業後、商社勤務、演劇活動を経たのちに、2012年より独学で映像製作を始める。2013年、「仕込みi Phone」が第17回文化庁メディア芸術祭「エンターテインメント部門」審査委員会推薦作品に選出。オーストリアメディアアートフェスティバル、Ars Electronica(アルスエレクトロニカ)【next idea】Honorary Mention(入賞)。以降、映像監督として音楽PVや企業のPR動画などを手がけている。

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