『ビックリマンと僕らの次代』第1回 「ネーミングからビジュアルをつくる/アナログデザインの魅力」

2017/08/28

WRITERインタビュー:Zing!編集部・ピーター/インタビュー・テキスト:トライアウト・福井英明/撮影:萩尾智子

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『ビックリマンと僕らの次代』第1回 「ネーミングからビジュアルをつくる/アナログデザインの魅力」

1980年代に一大ブームを巻き起こしたビックリマンチョコの魅力と「これから」を探る『ビックリマンと僕らの次代』。第1回は、特徴的なキャラクターが生まれるまでの発想やひらめき、そして多くの子どもたちを惹きつけた温かみのある絵のタッチに隠された秘密を探ります。

昔、集めたビックリマンシールに描かれていたキャラクターのビジュアルと名前を思い出してみてください。ダジャレの効いた「クスッ」と笑える名前、その名前と秀逸にマッチするイラスト……大人になった今でも「上手いなぁ」と舌を巻くシールが多いのではないでしょうか。

魅力あふれるキャラクターの名前とビジュアルの間にはどんな関係があるのか、どのような発想を経てビジュアルが生み出されるのか。この秘密に迫るべく、ビックリマンのキャラクターを30年以上にわたって描き続けているグリーンハウスの米澤さん、兵藤さんにお話を伺いました。後半には手描きによるアナログデザインにこだわるお二人から、デジタル世代のクリエイターに向けた貴重なアドバイスも!


自分たちが面白がっていたのが良かった

――今回は「ネーミングからビジュアルをつくる」というテーマでお話を伺います。有名な話から入ると、「スーパーゼウス」の顔は当時の阪神タイガースで活躍していたランディ・バース選手がモデルになっているんですよね?

そうですね。「ゼウス」というと全知全能の神なので、そこから「神」をどうやっておもしろく表現しようか考えました。そして、当時、阪神ファンの私にとっては神様のような存在だったバースにしよう、と。主人公のヒーローって普通は若くてかっこいいビジュアルなんですが、バースをモデルにすることで結果的にオジイサン顔のヒーローが生まれたんです。斬新ですよね(笑)。

『ビックリマンと僕らの次代』第1回「ネーミングからビジュアルをつくる/アナログデザインの魅力」-画像-01

――そうですね。他のキャラクターも、このように名前から何かを連想してモデルを決めてきたのでしょうか。

基本的にはそうですが、色々なパターンがあります。名前だけでは面白くならないので、自分なりにダジャレの要素を加えたものもあれば、その当時に流行っていたものを組み合わせたりしたものもあります。あと、三すくみの共通テーマをビジュアルにどうやって盛り込むか、というのもポイントですね。

――せっかくなので、実際のキャラクターを例に、ビジュアルが生まれるまでのプロセスを教えてください。

【1】十字架天使/ニンニク満助/魔人ドジキュラー

十字架天使/ニンニク満助/魔人ドジキュラー

この3キャラは、ドラキュラが共通テーマになった三すくみの関係ですね。ドラキュラといえば十字架、ニンニク、コウモリ、というキーワードが出てきますので、それぞれをどう表現するか、考えるんです。

ドラキュラにとどめを差す十字架を持った「十字架天使」でいうと、普通に牧師が十字架を掲げていても面白くない。だから弓矢の先に十字架を付けて、それを女の子に持たせて可愛く表現しようと。で、なぜレオタードを着ているか、というと……これは完全に僕の個人的な趣味ですね(笑)。

お守りの「ニンニク満助」は、名前の響きで分かる通り、当時人気だったプロレスの漫画に結びつけたんです。そして「魔人ドジキュラー」は、ドラキュラをモデルにしつつ、顔の表情で「ドジ」感を出しています。ドラキュラというと怖いイメージですが、このようなマヌケの要素を入れることで、コミカルになるんですね。このマヌケ要素は他のキャラクターを描く上でも大切にしています。

【2】一発助役

一発助役

これは、ギャンブルがテーマになっているお守りキャラで、天使の「成りキング」、悪魔の「魔ル貧」と三すくみの関係です。ギャンブルを表現するため、手に競馬新聞と宝くじを持たせました。さらに歯は麻雀牌になっています。こんなの子どもには分からないですよね(笑)。あと、お察しの通り、宝くじの「ヘの9314」は「屁の臭いよ」です。こういうダジャレを考えるのが楽しいんですよ。

【3】小助セブン

小助セブン

これは「ヴィーナス白雪」という天使と、「お化ちゃ魔」という悪魔との三すくみで、童話の「白雪姫」が共通テーマになっています。「ヴィーナス白雪」は白雪姫、「お化ちゃ魔」は魔女をモチーフにしているので、この「小助セブン」は七人の小人になってきますよね。でも、この画角の中に7人もキャラクターを入れるのは無理なので……当時吸っていたタバコ「セブンスター」の箱を胴体のモデルにして「7人」を表現したんです。このように、単純に自分が好きだったり使っていたりしたものを絵に取り入れたケースもたくさんあります。

【4】助角さん

助角さん

こちらは、「黄門天人」、「代官魔」との三すくみで、名前から分かる通り水戸黄門が共通テーマになっています。見ての通り、助さん角さんの2人をモデルにしたキャラなのですが、1つのキャラでどうやって2人を表現するか、悩みましたね。最初は普通に2人を並べて描いたのですが、イマイチ面白くない……。それで、2人の横顔を合体させて1人にしたんです。このような新しい手法が出てきたときは、自分でもニヤっとするんですよ。絵がネーミングに勝った瞬間といいますか、絵を左右してしまうネーミングの固定概念を絵でつぶせた瞬間なので、快感ですよね。

黄門天人/代官魔

そして、3つのキャラクターをよく見れば分かると思いますが、この三すくみは某有名映画が裏テーマになっています。その映画に出てくる武器を「助角さん」に持たせました。

【5】水かける蔵!王

水かける蔵!王

これは「懺悔(ざんげ)」を共通テーマとした三すくみの天使。他の2つのキャラクターを見れば、あの懐かしいテレビ番組をモチーフにしているのが分かります。

お祈り神父/男魔ザンゲ

そう、80年代の伝説的バラエティ番組「オレたちひょうきん族」の「ひょうきん懺悔室」です。ブッチー武者さん扮する神様が手を「×」にしている所ですよね。でも絵をそっくり似せるわけにはいかないので、顔を「大魔神」風にしています。神様と水掛け地蔵と大魔神をミックスしたんですね。

――なるほど。どれもお題の解釈のしかたが面白いですね。

いや、苦しまぎれですよ(笑)。でもつくっている僕たちが面白がっていたのは事実ですね。それがないと、子どもたちにも伝わらなかったと思います。「仕事」と割り切ってつくっていても問題はなかったと思いますが、それだと作品のモチベーションも下がっていったと思います。やっぱり「こんな顔にしたら子どもが笑うだろう」と常に想像しながら、面白さには徹底的にこだわりましたね。

――お二人でアイデアを出しながら?

そうですね。お互いのアイデアに対して、「もっと、こうしたらどう?」というやり取りがありました。一人で考えていると、どうしても視野が狭くなってしまいますが、二人でディスカッションしながら作ることで、より面白くなっていきましたね。お互いにこだわるので、相手の案に対して「それではアカンやろ~」と。そうすると意地になってブラッシュアップする。それが良かったと思いますよ。

『ビックリマンと僕らの次代』第1回「ネーミングからビジュアルをつくる/アナログデザインの魅力」-画像-02

――そこまでこだわると、制作にかける時間も膨大だったのではないでしょうか。どのくらいのペースでキャラクターをつくられていたのですか?

ストーリー1弾あたり36のキャラクターとヘッドキャラがあって、それを2~3カ月で仕上げていましたね。一番時間がかかるのはアイデア出しと、線画の作業です。あと、色付けの作業も大変でしたね。今みたいにクリックひとつで色を変えられる時代ではなかったので。

アナログだからこそ技術の差が出る

――確かに、今から考えると大変な時代でしたよね。でもキャラクターの面白さに加えて、絵のタッチもアナログ時代ならではの魅力があります。特に輪郭の線が特徴的ですね。

この線は、2本のラインを引いて、その間をサインペンで塗りつぶして描いています。実はビックリマンの仕事をする前に少しだけギャグっぽいキャラクターを描く仕事をしていたのですが、その中で「線を太くしたらキャラクターが強く見える」と気付いたんです。漫画でも色々なタッチがありますが、ギャグっぽい漫画に出てくるキャラクターは線が太いんですよね。実際に線の太さを変えて描き分けてみたら、太い方が個性的に見えてきたんですよ。だから「これは手法としてアリだな」と。ただ一筆では描けないので手間がすごくて、途中から後悔しました(笑)。

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『ビックリマンと僕らの次代』第1回「ネーミングからビジュアルをつくる/アナログデザインの魅力」-画像-05

――色付けも大変だったのでは?

大変でしたね。当時は線画を焼きつけた透明のフィルムに裏からアニメ画材を使って色を塗るんですよ。それを若手の後輩にやらせるのですが、僕は色が気に入らないとすぐ「やり直し」と言って。そうすると全部色を落として、最初から塗り直さないといけないんですね。それを何回もやらせて(笑)。何人か辞めていきましたね。

線画を焼きつけた透明のフィルムに裏からアニメ画材を使って色を塗る

――あと、キャラクター名を書いている文字の書体も独特ですよね。これも手描きで作られたのですか?

そうですよ。キャラクターが天使、悪魔、お守りと3種類の性格に分かれているので、書体にも善悪を付けながら考えました。ロゴタイプをつくるのと同じですよね。文字の印象で良いキャラに見えるのか、悪いのか、その中間か。その辺は考えましたよ。これを既成のフォント、当時でいう写植の文字でつくっていたら面白くなかったでしょうね。やはり手間をかけて手描きにすることで個性が出たんだと思います。

――やはり手描きから醸し出される「個性」は大切ですよね。

すごく大切ですね。今はデジタルソフトでのデザインはテクニックの優劣が出にくいですよね。同じソフトで同じ機能を使えば、同じクオリティのデザインができるので。アナログだと線1本引くのでも職人技なので、優劣が出て、そこに個性が表れるんです。

それに手描きだと「失敗できない」という緊張感があるので、「ワンクリックで描き直せる」と思いながらデザインするのとでは「こだわり」が変わってきますよね。デザイナーに指示する側も、いいかげんなことを言えない。どこにこだわるのか、なぜこだわるのか、までしっかり伝えて、ぶつかり合う必要があります。昔はそういうのがあったのですが、今はちょっと希薄になっている気がしますね。

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――デジタルソフトで育った現代のクリエイターにアドバイスはありますか?

デジタルのデザインでも個性を見せられるだけの感性と能力が自分にあるかどうか。クリエイターにはこの感覚が絶対に必要です。今はアナログの時代と仕事のスピード感が全然違うので逆に大変だとは思いますが。

かつては線1本にしても「この人の描く線はやっぱりキレイ!」というのがあって、「この線を引くにはこれだけの気合が必要だ」というのを肌で感じることができました。これをデジタルの時代にどう表現するか、ぜひ探究してほしいと思います。

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(次回は9月下旬更新予定です)

©LOTTE/ビックリマンプロジェクト

聖蝶士も好きです

喜び
  • 米澤稔さん
  • プロフィール

    米澤稔

    株式会社グリーンハウス取締役兼チーフデザイナー。1954年、兵庫県姫路市生まれ。1977年、グリーンハウスに入社。ビックリマン「悪魔VS天使シリーズ」のキャラクターデザイン・作画を手がける。

  • 兵藤聡司さん
  • プロフィール

    兵藤聡司

    1963年、兵庫県尼崎市生まれ。1984年にグリーンハウスへ入社。米澤さんとともにビックリマン「悪魔VS天使シリーズ」のキャラクターデザイン・作画を手がける。

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