岸田繁・光田康典対談「民族音楽もゲーム音楽も好きになったらとことん突き詰める」(後編)(1)

2017/08/31

WRITERインタビュアー:Zing!編集部ピーター/テキスト:ピーター・トライアウト組橋信太朗/撮影:田中利幸

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
岸田繁・光田康典対談「民族音楽もゲーム音楽も好きになったらとことん突き詰める」(後編)(1)

くるり・岸田繁さんと、作曲家・光田康典さんの対談の後編です(前編はこちら)。今回も(ほぼ)ノーカットでお届けします!

常にそのときの一番新しいやつが一番やと思ってます(岸田)

――お二人は共通して好きになったらとことん掘り下げていくんですね。あるときは楽器まで買うという一連の体験が重要なんですかね。

光田:ある程度消化しないと出てこないですよね。コーヒーを淹れるみたいに、フィルターを通して凝縮して絞り出したものじゃないとなかなか自分のものにならない。

岸田:そうですね。だから「コレが流行ってるからコレやってみよう」と思ってやるとペラッペラの薄いものになってしまいますよね。

光田:深みがなくなりますね。

岸田:まあ、それもポップ・ミュージックの良さだったりもするかもしれないけど。でも、やっぱり本格的にはまって再現しようと思って、それが何かの拍子にふっと出てきて「よっしゃ!」と思うことがあります。

――自分が腑に落ちるまでやるということでしょうか。

光田:納得するというか、こうだったんだなと理解するというか。そういうことなんでしょうね。

岸田:試験前に因数分解とか、たとえばリチャード何世とか覚えるけど、覚えてもし良い点とれたとしても、すぐ忘れるじゃないですか。そういうことって音楽でもあって、「こういう風にやろう」って勉強することはあるんです。けど、古典対位法とかグレゴリオ……とかなんとかやってて、「なるほど」とそのときは思っても、それを活かしてやり始めると全然違う。本格的にそれが面白いなと思ったときはたぶんそのあとで生きてくるな、と思うんですけど。

――それが最高にはまった、好きなものとことん詰めてできたものってありますか? これは会心の一撃だったな、というような。

岸田:常にそのときの一番新しいやつが一番やと思ってます。例えばこれ(「Liberty&Gravity」)なんかもつくってるときは「俺すごい」とか思ったけど、今つくってるもんの方が新しいというか。

――「Liberty&Gravity」は最初聴いたとき衝撃でしたね。展開がどんどん変わるおもしろい曲ですよね。

岸田:この曲は最初弾き語りでつくったんですよ。そういう「一筆書き」でできたからやと思います。弾き語りでつくってメンバーに聴かしたら「いや、意味わからん」って言われましたけど。

岸田繁・光田康典対談「民族音楽もゲーム音楽も好きになったらとことん突き詰める」(後編)(1)-画像-01

一同:(笑)。

岸田:じゃあこうやってこう、ってメンバーと合わせて。コードとかは理解されなかったんで、とりあえずわかりやすいコードにして。

――そういう弾き語りを佐藤さん(佐藤征史さん、くるりのベーシスト)たちに聴いてもらって佐藤さんがベースラインを考えて……という風に曲作りをされるんですか?

岸田:この曲とかはそうですね。ただ、バンドやってるからそこらへんはややこしくて。自分はベーシックなアイデアしか投げへん場合もありますし、自分で全部書いてメンバーにお願いする場合もあります。あるいは僕が何かをやった風で何もやってなくてバンドの人たちが作り上げたのもあります。それによって音楽のスタイルは変わりますね。
ふわーっとロックっぽい曲というのは自分では何もしていないこともあります。もちろん楽器弾いて歌ってるんですけど、曲をこうつくって、という感じではないものも。これ(「Liberty&Gravity」)は割と「こうしたい」というのがあったんで、細かくフレーズもつくってたんですけど。ずっとバンドとしてやっていて、コードと拍子とかは指定したとしても、曖昧に間違ったままやってそれが良いこともあります。例えば、ロックバンドとかの音楽じゃない、それこそ光田さんがやられている音楽の世界っていうのは僕はたぶんできないと思うし、同時にすごく憧れがあるんですよね。1人でやられていて、マニピュレートができて。でも、そんなにやりたいことは変わらないんやな、とは思って。僕も年齢が年齢なんで、バンドの表現とは違うこともやっていこうと思っているんです。

そういう1つのシークエンスから、ちゃんとした楽曲に移り変わっていた時代だったんですよね(光田)

光田:1人でつくっていると、こう、閉じこもっているじゃないですか。2年くらい前に20周年ということでライブをやったんですけどすごく楽しかったんですよ。人とやる楽しさっていうか、こういう楽しみ方もいいな、と。

岸田:そのライブのときの編成はどういうのだったんですか。

光田:編成は少し変わってて、イーリアンパイプと、アコーディオンと、ブズーキ、コーラス隊でブルガリアンっぽいのをやったりとか。

岸田:光田さんの音源でそういう民族音楽っぽいのってありますか?

光田:無国籍なのが多いんですよね。「クロノ・トリガー&クロノ・クロス アレンジアルバム/ハルカナルトキノカナタへ」とかですかね。この「マブーレ」なんかはけっこう民族音楽っぽいですよね。いろんなのが詰まってますね。1曲目(「時の傷痕 ~ハジマリノ 鼓動~」)なんかはレッド・ツェッペリンみたいなのも入ってます。

岸田:あ、この曲は吉良さん(ロックユニット・ZABADAKの故・吉良知彦さん)とやられているんですね。

光田:そうなんですよ。すごく仲が良かったんですよね。

岸田:すごく好きでした。

(マブーレが流れる)

「マブーレ」は上の動画の3:13~

光田:イントロは北欧っぽいですね。

――原作(「クロノ・クロス」)では、地中海というか九寨溝みたいなきれいな場所で流れるんですよね。

岸田:すごく「クロノ・クロス」やりたくなってきました。(「マブーレ」)すごくいいですね。アイリッシュっぽくて。すごくきれいな音で録れてますね。

光田:はい。ハイレゾでも録ってるんですよね。

――原曲は中世の古楽ですよね。それに途中に入るフレーズがゲーム内では重要な意味を持っているんですよね。

光田:そうですね。いろいろなテーマと絡んでいて。

岸田:光田さんはゲームをやられるのも好きなんですか。

光田:はい、好きなんですけど最近はなかなかプレイする時間がなくて。

岸田:大人ってやる時間ないですよね(笑)

――僕は最近「アナザーエデン」をやっているんですけど、オープニング曲は光田さん、他の曲は光田さんと同じプロキオン・スタジオの土屋さんとマリアムさんがてがけられていますよね。ゲームの内容的にも、音楽的にも「クロノ」に通ずるところがあって、すごく良いんですよね。

岸田:あ、これからいっぱい(光田さんの曲とゲーム)追いますね。マブーレ、すごくいい曲ですね。好きです。手に入れよう。

光田:ありがとうございます。

(「次元の狭間」流れる)

「次元の狭間」は上の動画の3:43~

岸田:これもいいですね。「良い」しか言えへんけど。

――僕も「クロノ・クロス」で一番好きな曲です。オリジナルサントラのライナーノーツでは、この曲は「2時間ぐらいでできた」とありましたが。

光田:これはイメージがしっかりしてて、自分探しがテーマでしたからね。

――ゲーム内でもそういうシーンで流れますもんね。カオスフィールドっていうよくわからないところに主人公が急に落とされるんですよね。自分が宿敵と入れ替わってしまって、というすごくつらいシーン。僕はここでこの曲が流れて、もう籠絡されたというか、一番へこんでいるときにこんな曲流されたら……と。

岸田:ええ話ですね、それは。光田さんはゲームの音楽って聴いてはりました? 好きなゲーム曲とか。

光田:そうですね。やはり「ドラクエ」や「FF」は好きで、僕が小さい頃、姉がよくやっていたので隣で聴いていましたね。自分でゲームをするようになってからは、ファルコム(日本ファルコム)のゲームが好きでしたね。

岸田:何のゲーム出してたところでしたっけ?

光田:「イース」とか……。

岸田:「イース」! ああ……。

光田:「ザナドゥ」とか……。

岸田:「ザナドゥ」!

光田:その辺のゲームから、当時PC-8801mkⅡとかからFM音源をのせはじめて、ピープ音、いわゆるピコピコしたゲームっぽい音から、音楽表現が広がった時代でしたね。ゲームのなかでもちゃんとBGMとして音楽が流れ始めたころで。

岸田:ちょうどそのくらいですよね、背景音楽が流れたのは。こう、和音がついててとか。

光田:それまでは「ゼビウス」みたいなのが多かったですよね。

岸田:あれはあれでかっこよかったですよね。パコッパコパコみたいな。

光田:そうですね。そういう1つのシークエンスから、ちゃんとした楽曲に移り変わっていた時代だったんですよね。

すぎやまさんがいらっしゃらなかったら、ゲーム音楽というのも今とは違うものになっていたでしょうね(光田)

岸田:そう考えると、すぎやまこういちさんってすごいですよね。

光田:ゲームに対して「音楽」というアプローチを初めてされた方なので。すごかったですよね。すぎやまさんは初めPCのゲームをやられていたんですよね。聞いた話では、ゲームが好きでやりこまれていたみたいですね。歌謡曲も書かれていたんですけど「ゲームがやりたい」ってご自分で売り込みにいったみたいなんですよね。そこから「ドラゴンクエスト」につながったと。

岸田:奥さまがエニックス(現スクウェア・エニックス)に書簡を送られたみたいですね。クレームというか……「森田将棋」か何かのバグを見つけた、と。で、当時「ドラクエ」の音楽を誰に依頼するか悩んでいた担当の方が「そういえばクレーム対応で来てるこの『すぎやま』さんってあの『すぎやま』さんかな?」ってなって、そこから話が進んだと聞いたことがあります。
「ドラクエ」の音楽はお城に入ったらバロックがかかって、序曲はワーグナー的なファンファーレでとか。大人たちが「所詮ゲームだよね」っていう世界観から全然違うところにいって。あの音楽を聴きながら育てたのはラッキーやったなって今でも思います。

岸田繁・光田康典対談「民族音楽もゲーム音楽も好きになったらとことん突き詰める」(後編)(1)-画像-02

光田:すぎやまさんがいらっしゃらなかったら、ゲーム音楽というのも今とは違うものになっていたでしょうね。

岸田:そういえばさっきの「ザナドゥ」もすごく音楽好きやったんですよね。

光田:アラブっぽい音楽で、面白いアプローチでしたよね。

岸田:あと「ハイドライド」とかも好きでしたね。浅倉大介さんも昔ゲーム音楽やられてたんですよね。

――ゲーム音楽ってほとんどループして繰り返し聴くものが多いと思うんですが、その作り方って難しいところはあるんですか。

光田:そうですね、やっぱり転調すると戻ってこなきゃいけない、ってところですかね。僕はプログレが好きなんで、どんどんどんどんキーが変わっていくような曲は好きなんですけど、戻ってこれなくてどうしよう、みたいな(笑)。

――「クロノ・クロス」の「航海 アナザー・ワールド 」はまさに転調して戻ってくる曲ですよね。いわゆる「II-V(ツー・ファイブ)」の進行で。

光田:そうですね。これもそういう展開の曲です。あとはゲーム音楽では、飽きさせないつくりにするのが難しいですね。

岸田:音楽によってゲーム自体がだれる、というのもありますもんね。

(航海 アナザー・ワールド 」が流れる)

光田:この頃は内蔵音源なので、限られた容量のなかで作っていかなければいけない時代でしたね。

――このギターのフィンガーノイズも内蔵音源で再現されていたのですか?

光田:そうですね。そういう音もわざと入れて。

岸田:そうなんですか。

光田:1つの音色、フィンガーノイズだけだと嘘くさいので細かく数種類、5種類ぐらいつくって入れていましたね。でもそういうことをやっていると容量がなくなってくるんですよね。そこのさじ加減が難しくて。

岸田:なるほど。(「航海 アナザー・ワールド 」を聴きながら)あ、ここで転調して……戻ってきましたね。

光田:船の上ですーっと進んでいくときに流れるので、「前へ前へ」とやりたいんですけど、転調したら戻さないといけないという。そこがとても難しかったですね。

次のページ

関連記事


この記事はいかがでしたか?
よろしければアンケートにご協力ください。

TOPに戻る