ゲームがクラウド化する時代。「売れること」と「作品性」を両立させるには? イバイ・アメストイインタビュー

2017/09/01

WRITERインタビュー:Zing!編集部 ピーター テキスト:トライアウト・堀家千晶/撮影:佐伯亜由美

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ゲームがクラウド化する時代。「売れること」と「作品性」を両立させるには? イバイ・アメストイインタビュー

以前にこちらの記事で紹介したゲーム配信サイト「PLAYISM」を運営する株式会社アクティブゲーミングメディア(以下AGM)。「PLAYISM」以外にもゲーム情報サイト「AUTOMATON」の運営や、国内外のゲームなどの作品のローカライズ、ゲーム開発などの事業を展開されています。今回はAGMの代表を務めるイバイ・アメストイさんにお話を伺いました。来日のきっかけから起業までのエピソードや今後のゲーム業界の展望、「面白い」コンテンツを発信していく同社の取り組みなどについて、イバイさんならではの視点で語っていただきました。『ゴルゴ13』や手塚治虫作品のファンだというイバイさんが考える、昨今の日本コンテンツの課題とは?


日本のコンテンツが持つ「濃密な物語性」に惹かれて来日

――まずはイバイさんの来日のきっかけを教えてください。

大学生の頃、「とにかく海外に行きたい」と強く思っていました。生まれ育ったスペインを出て、違う国の言語や文化に触れてみたかったんです。「じゃあどこに行こう?」と考えた時に、ヨーロッパの国々には行ったことがあったし、北米にはあまり興味がなかったので、「日本しかない!」と思ったんです。

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――なぜ日本だったのでしょう?

10代の頃から日本のコンテンツに興味があったんです。私は元々、小説を読むのが好きだったのですが、海外向けに翻訳された日本の漫画やアニメなどに触れて、その濃密な物語性や作家性に惹かれました。
来日してしばらくは、フリーで漫画翻訳の仕事をしていました。日本に来る前から大好きだった『ゴルゴ13』や『ブラック・ジャック』などの名作に携わることができたのは、素晴らしい経験でした。

――なるほど。翻訳のお仕事を始められたとき、日本語はマスターしていたんですか?

実はほとんどできなかったんです。仕事をしながら、ひたすら辞書を引いてマーカーで線を引いて勉強しました。今は電子辞書やネット翻訳などもありますが、やっぱり手で辞書を引かないとダメですね!
あとは「漫画」という媒体が日本語の勉強に向いていたのも幸運でした。小説ほど文字量が多くありませんし、漢字にはふりがながついていることが多いので、ひらがなさえマスターすれば、漫画は読めるんです。漫画は仕事の資料であり、絶好の教科書でもありました。「声に出して読むこと」と「辞書を引くこと」は言語習得においてとても重要だと思っていて、今でも続けていますよ。

――その後、どういった経緯でゲーム業界に?

漫画の翻訳をしていた時のつながりで、コーエー(現コーエーテクモゲームス)から声がかかり、「戦国無双」などのゲームの翻訳やデバック作業に携わりました。その後、ローカライズディレクターとして、マーベラスエンターテイメント(現マーベラス)に移りました。

――ローカライズといえば、現在のAGMの主幹事業ですよね。2社での経験を武器に起業されたわけですね。しかし経験があったとはいえ、起業にあたって問題や壁はなかったのでしょうか?

意外だと思われるかもしれませんが、とてもスムーズでしたよ。よく日本は安心・安全で社会制度が整備された国だと言われますが、外国人が起業を考える上でもとても挑戦しやすい環境が整っていると思います。幸い人材にも恵まれ、現在は20か国以上から集まった120人以上のスタッフが揃っています。

アクティブゲーミングメディア 朝礼風景1

アクティブゲーミングメディア 朝礼風景2

アクティブゲーミングメディア 朝礼風景3

全スタッフが一堂に集まる週に一度の朝礼。東京支社のスタッフはスカイプで参加する。各部署からさまざまな案件の進捗が報告されるほか、スタッフが日々の業務の気付きを発表する2分間スピーチも。朝礼では日本語のほか、当たり前のように英語も飛び交う。

――苦労はまったくなかったのですか?

もちろん100%順調だったわけではありません。外国人だから、というよりはゲーム業界そのものの問題です。ほかのエンタメコンテンツに比べて、ゲーム業界は若い(歴史の浅い)業界です。映画や文学、舞台などはそれこそ何百年、何千年も前から創作され、人々に受け入れられてきた歴史がありますが、ゲームはたかだか35年ほど。また、文学などは創作の目的が作者の自己満足だったりすることもありえますが、ゲーム会社は「売れる」ゲームを作ることが目的です。だからこそ技術の進化に伴うハードの変更や、消費者のニーズについていかなければなりません。せっかく習得した技術やメソッドがすぐに使い物にならなくなることもザラですよ。

――それはゲーム業界に身を置く以上、今後も常に直面する問題ですね。

そうですね。しかも「今後、ゲームはこうなっていくだろう」というメディアの予測通りに市場が動くことは、ほぼありません。昨今は「いよいよVRやARが来る」と言われていますが、実際にはまだまだ先のことだと思います。本当に先読みの難しい業界ですが、最近は結構、予想が当たるようになってきました。そろそろ自分の「肌感覚」を信じて進んでもいいかなと思っています。

クラウド化するゲーム業界

――イバイさんの「肌感覚」では、今後、ゲーム業界はどうなっていきますか?

この先、ゲームはクラウドの時代になっていくと思います。10年前に比べるとストリーミングの技術やサービスが充実してきたことと、消費者もNetflixやHuluなどのサービスに慣れてきたこと。今まさに需要と供給が合致し始めているので、必ずその時代がきます。
ただクラウドの時代が来ると、ゲーム制作会社の経営は間違いなく厳しくなってくるでしょう。CDや本が売れない時代になって、音楽業界や出版社が苦境に立たされているのと同じように、ゲームも単価が下がったりソフトが売れなかったりという時代になっていくかもしれません。そうなると、音楽や小説は一人でも作れますが、シナリオライターやプログラミング技術者、グラフィックデザイナーなど多くのスタッフが関わるゲーム制作は、一層厳しい状況に置かれるでしょうね。

――クラウドの時代にAGMはどのようなビジョンを掲げていくのでしょうか。

我が社の規模では業界や市場を動かしていくことはできませんが、よいコンテンツを提供していくことが業界のサポートになると考えています。日本はコンテンツ大国と言われていますが、海外で流行っているものといえば「スーパーマリオブラザーズ」や『ドラゴンボール』、『ONE PIECE』など、実際には20年以上前に発表された作品ばかりです。この20年で日本のコンテンツ大国としての認知度は向上しましたが、肝心の作品のクオリティ自体は、下がってしまったような気がします。もちろん最近の作品の中にも面白いものはあるのですが、そういった作品は海外向けの発信ができていなかったり……。こうした状況の中で我々にできることは、面白いコンテンツを探し、ローカライズして世界に発信すること、反対に世界の面白いコンテンツを日本に紹介することだと思っています。

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――その思いが「PLAYISM」の立ち上げにもつながっているわけですね。最近の日本のコンテンツが、なかなか海外でヒットしないのはなぜなのでしょうか。

よくも悪くも、日本は漫画文化が定着しすぎたのかもしれません。最近は言語やファッションにまで漫画の影響が出てきていると言われており、ゲーム業界も大きく影響を受けています。その結果、ストーリーはそれぞれ違って複雑さもありますが、肝心のゲーム性やキャラクターのビジュアルがどれも同じようなものになってしまいました。
このマイナスのスパイラルはなかなか止まらないかもしれません。漫画を読み、漫画を実写化した映画やドラマを見て育った若い世代が、ひと昔前のような面白いコンテンツを作り出せるとは思えないからです。

――なるほど。確かに「売れる」コンテンツにするためか、最近は新規の作品よりも漫画の実写化や昔流行った漫画のリバイバルの話題ばかりですね。この負のスパイラルを止めるためには何が必要なのでしょうか。

私は海外との交流だと思います。ゲームであれば、言葉は分からなくても洋ゲー(海外のゲーム)に触れてみるとか。最近は映画館に行っても、洋画はハリウッドの超大作が数本程度しか上映されていませんが、それ以外にも世界には上質な映画がいくらでもあります。もっと積極的に海外のコンテンツを見たり読んだりすることで得られるものはあると思います。70年代~80年代の日本の若者は、もっと海外に興味を持って海外作品を見たり聞いたりしていたんじゃないでしょうか。テレビでさえミニシアター系のフランス映画を放送したりと、もっとバラエティに富んでいましたよね。

作品性を生かしたローカライズ

――ストリーミングサービスが充実して、誰でも簡単に多彩な海外のコンテンツを見られる環境になってきているのに、選択肢が広すぎて逆に売れているものしか見ないという状況は残念ですね。

もちろんヒット作には売れる要素が詰まっていて、それが支持されるのも分かります。ただ、日本には昔からメジャーなものを楽しむ一方で、マイナーな作品も理解できる懐の深さがありました。しかし最近はメジャーなもの、わかりやすいものに偏っている印象があります。結果、「売れるもの」とその「作品性」が比例しない状況になっているんですね。我が社がローカライズした作品でも、私が一番面白いと思ったゲームはあまり売れなかった……ということもありました。

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――日本のコンテンツが評価されてきたのは、その作品性からだったと思うのですが、最近はそれを生かした展開ができていないということですね。

そうですね。欧米に比べて日本はそこが弱いように感じます。ゲームでもアニメでも人気作品同士のコラボなどはよく行われていますが、ただ「持ってきただけ」で両方の作品性を生かし切れているとは言い難い。例えば私が大好きな手塚治虫作品。単純に各作品の翻訳版を海外で発売するだけでなく、もっと新しい見せ方や包括的な紹介の仕方があるんじゃないかと思っていたんですね。そこで手塚プロダクションに直談判して、手塚作品のキャラクターが200人以上登場するゲーム「アトム:時空の果て」を作ったんです。

――このゲームについては、次回のインタビューで詳しくお聞きしますが、企画立ち上げの際のイバイさんの行動力がすごかったとお聞きしています。

手塚治虫に影響を受けた方やリスペクトしている方々に参加してもらいたかったので、イラストレーターやコンポーザーには、一人ひとり直接声をかけて協力をお願いしました。私もそうですし、参加してくれた人たちも、根底にあるのは手塚作品が「好き」だという気持ち。その思いが熱量となって作品に反映できたと思います。「アトム:時空の果て」は海外版もリリースしていますが、手塚作品を知らない日本の若い世代にもぜひ楽しんでほしいですね!
ローカライズとは、その製品やサービスの魅力を新たな形で新たなターゲットに伝える作業です。そのためには、いかにその作品の本質的な魅力、つまり作品性を見抜いて、どう展開するかが肝要です。これまでに培ってきた我々の強みを生かしつつ、今後は日本⇔海外のローカライズはもちろん、漫画⇒ゲームなど、新しいメディアへのローカライズにも意欲的に取り組んでいきたいと思います。

イバイさんの手塚治虫愛について、もっと聞いてみたかったわ

ほほえみ
  • イバイ・アメストイさん
  • プロフィール

    イバイ・アメストイ

    アクティブゲーミングメディア 代表取締役。2008年に会社を設立。さまざまなゲームやアニメ、コンテンツのローカライズを主幹に、ゲームのダウンロード販売を行うWebサイト「PLAYISM(http://playism.jp/)」の運営や、ゲームやアニメの音声収録、デバッグ、マーケティング、プロモーションといったサービスを提供。また近年では、ゲームの企画・開発・運営も行っている。

    アクティブゲーミングメディア:http://www.activegamingmedia.com/
    PLAYISM:http://playism.jp/

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