久慈達也コラム【はじめての観察】#01「観察ってなんだろう?」

2017/09/20

WRITER久慈達也

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久慈達也コラム【はじめての観察】#01「観察ってなんだろう?」

神戸を拠点にデザイン展などを企画しているDMLの久慈達也さんによるコラム「はじめての観察」。第1回は「観察ってなんだろう?」と題し、観察をする上で大切なことや観察が私たちの日々にどう役立つのかを考えます。


小学校の夏休みの宿題。その中に朝顔の観察日記があったという人が多いのではないでしょうか。私もその一人です。学校で育てはじめた朝顔の鉢を、学期末の日までに小さな身体で持ち帰りました。まだインターネットがなかった時代、夏休みの終わりに慌てふためきながら絵を描き、成長の記録をでっち上げ、泣きながら夏休み中の天候を新聞で調べる、なんてこともあったかもしれません。夏の終わり、すっかり枯れてしまってカラフルな支柱と土を残すだけになったプラスチックの鉢を軒先に見つけるたび、そんなこともあったよねと懐かしく思い出します。

観察について教わったこと、ありますか?

さて、小学生にとってひと夏の一大行事である観察日記の作成ですが、思い返してみると、観察の方法についてきちんと教わったことがあったでしょうか。小・中・高といろんな場面で「しっかりと観察しましょうね」と言われてきても、そもそも観察の基本について勉強する機会がなかったのではないかしら。それとも、誰かに教わらなくても観察は自然に身につくものなのでしょうか。私はそうは思いません。

走り方を教わらなくても走ることはできますが、速く走るためには正しい知識と練習が必要です。観察も同じことです。大学に入ってからフィールドワークの手法を知って、観察という行為をはじめて体系的に学ぶことができましたが、それがなければ「なんとな~く観察」という状態を今でも続けていたかもしれません。

世の中を変える観察

大人になって、デザイン業界の片隅で仕事をしながら日々感じるのは、観察という行為をどこかできちんと教えられたほうが多くの人が幸せになるのではないかということです。昨今ビジネスの現場で流行った「デザイン思考」も行動観察が基本ですし、アイデアのブレイクスルーも状況をきちんと観察できてはじめてスタート地点に立つことができます。

観察が上手にできるということは、身の回りの世界から受け取れる情報量が増えるということです。気づけなかった問題点に気づき、より多くの情報を基に判断が下せるようになる。それが観察の利点です。

現在、JR西日本が酔客の転落防止策としてホーム上のベンチの向きを変える社会実験を行っていますが、これはビデオに映った酔客の行動を観察した結果です。酔ってベンチで座りこんでいた利用客がふと立ち上がったかと思うと、ホームに向かってまっすぐに進み、転落する。全く予想しえなかった行動です。酔っ払いといえば、漫画などではホームの端をふらふら歩いていて転落する描写が一般的ですよね。

効果の検証にはまだ時間がかかるでしょうが、観察が私たちの日常の風景を実際に作り変えた事例といえるでしょう。ただし「酔客の転落防止」のようにはっきりと課題が見えている場合は稀で、問題の輪郭すら掴めていないことのほうが多いのも事実です。

「ものの見方」の土台をつくる

「ものの見方」の土台をつくる

課題がはっきりと可視化されていない、そんな場合にこそ観察は力を発揮します。デザインの仕事では "Hit the Mark"=「的を射たアイデア」が出せるどうかにかかっています。誰にも見えていない課題や伝えるべき内容を明らかにするため、観察等により現状を把握することから始めます。そうして狙うべき「的」が課題として浮かび上がってきます。対象とどのように向き合えばよいか、観察はそのヒントを与えてくれます。

誤解がないように言っておきますと、観察は必ずしも客観的である必要はありません。観察と観測は違います。むしろ数値で表される定量的なものだけでは足りません。美術館で絵画をみる場面を想像してください。誰が描いたか、何が描かれているか、どんな色を使っているかと同時に、その絵が好きか嫌いか、どんな意味があるのかと想像したりするでしょう? 記憶の扉が開いて昔の出来事を思い出すこともあるでしょう。それはとても個人的な体験です。「あなた」が見てどう感じたか、その積み重ねが「ものの見方」の土台を作ります。小学校の朝顔の観察であっても、本当はそうした心の動きをもっと書きとめるべきなのかもしれません。

観察の経験は自分のなかに蓄積される。それがまた別の機会に役立つことも多いのです。後からじわじわ効いてくる、それもまた観察の一面です。ここまで読むと、私が想定している観察が世間一般で理解されているものに比べてかなり幅の広いものだということがわかってもらえるのではないかしら。「ワタシ」という観察者がこれまでに得た知識や経験を使って、全身で世界を感じとること。観察とはそういうものです。そこに近道はありません。けれども、要点を知り、適切に練習を重ねれば、余計な回り道は避けられるでしょう。

観察をはじめる前に

さて、観察を支える私たちの「認識(知覚)」には、ひとつ厄介な性質があります。それは「興味がないものは見ることができない」ということです。人間は自分の鼻を常に視界の中に捉えているはずですが、「いつも見えている必要がないもの」と脳が認識しているので、改めて注意を向けるまでは見えないままです。同じように、目の前にあっても気にも留めない出来事がいかに多いかは言うまでもありませんね。

「しっかりと観察しなさい」という言葉をより正確に表現するならば「見るべきものに目を向けなさい」ということでしょう。こちらが見ようと努めれば、世界は見るべきものでいっぱいです。

「じっくり」と「なんども」も観察について語られる際によく耳にする単語ですが、ここに一つの落とし穴があります。積み重ねた観察は自分の知識になりますが、同時に先入観を形成することをお忘れなく。知れば知るほど、触れれば触れるほど、その影響で色眼鏡は濃くなっていきます。「前はこうだったから、今回もそうに決まってる!」目の前の事態よりも経験を優先して死の危機に直面するのは、B級映画のサブキャラあたりのお約束ですよね。

「はじめて」向き合う気持ちをどこか心の片隅に。「なんで」「どうして」を連発する子供たちのほうが訳知り顔の大人たちよりもよっぽど刺激的な毎日を過ごしているのは、「はじめて」とちゃんと向き合っているという点に理由がありそうです。

3つの観察方法

ずいぶんと前置きが長くなりました。今まで以上に身の回りの世界から情報を手にいれるため、私たちが取り組むべきことはなんでしょうか。私の観察論では、観察力向上の鍵を「記述」「体験」「収集」という3つの活動に見出しています。

この3つの観察活動は、それぞれ論理的・経験的・視覚的な知識を観察者にもたらします。とりわけ視覚的な知識は、デザイナーにとってはアイデアの源泉として無視できません。現代においてもっとも一般的な情報の入手経路である「モニター画面」(つまり画像)を中心に据えると次のように図化することができるでしょう。

【図】観察活動の概念図

1)記述 Description

見たことや体験したことを言語化すること。「なにを見たのか」「どういう体験をしたのか」は、書き留めなければすぐに忘れてしまいます。また「言葉」という他人に伝わる形にしないと観察の結果を誰かと共有することもできません。「書く」という明確な目的をもって注意を向けることがより詳細な観察につながります。あわせて、観察対象についての説明や数値化だけではなく「自分はどう感じたのか」という観察者の視点も大切です。

2)体験 Action

見ている以上に対象から情報を引き出すこと。現代はインターネットから集めた情報だけでかなりの分析を行うこともできますが、ついつい「視覚」に偏った情報になりがちです。モニターから離れて、できる限り現場に足を運べば、視覚以外の四感(触覚・聴覚・味覚・嗅覚)で得られる生の情報が待っています。それだけでも物事の新しい一面を見つけられるかもしれません。

3)収集 Collection

自分が観たことや体験したことを目に見える形で保管すること。ここで念頭においているのは視覚情報です。デジタルであれアナログであれ、後から自分が見直すことができる状態にしておくと、やがてその蓄積が新たな発想の源になります。実際、書籍やPinterestなどを通して日頃から画像収集しているプロは沢山います。毎日膨大な視覚情報の蓄積を続ける彼らは、いわば観察日記をずっと続けている人たちなのです。
練習もせずにいきなりサッカーの試合に出ても活躍できるわけがない……ということはわかっても、デザインや造形活動に関してはなぜか社会全体がそういう当たり前のことを忘れてしまっているように感じます。おそらくは「インスピレーション=自己表現」神話の後遺症なのでしょうが。

ともかく、観察には「書いて」「動いて」「集めて」という明確な方法があるのです。少し変わった観察の考え方ですが、アイデアに「かたち」を与えるデザイナーにはどれも必要な内容です。じゃあ具体的にはどのように記述・体験・収集すればよいの? ということですが、そのお話はまた次の機会に。

世界の新しい一面を見せてくれる観察は、本来とってもワクワクするものです。さあ、身の回りの世界を自分だけのアイデア辞典として活用しましょう。エンジョイ! 観察。

「視点」と言っても視覚だけじゃなく、他の感覚も使ってみるのは良いアイデアよね

ほほえみ
  • 久慈達也(デザインリサーチャー、DML代表)
  • プロフィール

    久慈達也 (デザインリサーチャー、DML代表)

    http://dm-lab.com/

    1978年、青森市出身。東北大学大学院国際文化研究科博士課程を中退後、神戸芸術工科大学図書館研究員を経て、2012年にデザイン専門の展覧会企画・編集事務所DMLを設立。展覧会企画や原稿執筆のほか、デザインに関する講演や講座も担当している。

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