久慈達也コラム【はじめての観察】#02「書いて観察」

2017/10/13

WRITER久慈達也

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久慈達也コラム【はじめての観察】#02 「書いて観察」

NHKで放映されている『デザインあ』という教育番組をご存知の方も多いでしょう。その中に、野菜やトランプなど身の回りの品をできる限り分解していく「解散!」というコーナーがありまして、それが実に面白いのです。男の子なら誰しも経験があると思いますが、壊れたラジオなんかを元に戻せなくなるまで分解してしまった、幼き日のワクワク感覚にも通じるコマ撮りアニメです。例えば「マンガ」の回では、セリフ・効果線・吹き出し・トーン・人物・背景・コマという具合に要素をどんどん分けて整列させていきます。それを見ると「ああ、普段読んでいるマンガというのはこれらの組み合わせによって出来上がっているんだなあ」とお子さんでも理解できるようになっています。

分けることで、気づく

解散にせよ分解にせよ、言葉はなんでもよいのですが、ここに観察の大事なポイントがあります。それは「いったん分けて考える」ということ。風景でもオブジェでも、目の前にある物事をより深く認識しようと思うなら、観察対象をまずは細かく区切ってみるのです。ほら、漢字でも「わかる」を「分かる」と書くでしょう?

分けることで、気づく。それを説明するのにうってつけの英単語があります。「発見」を意味するdiscoverは、一息で言い切ってしまうと案外気がつかないのですが、dis-とcoverに分けられます。dis-には否定の意味があり、ラップの人たちが使う「ディスる」もここから来ていますね。coverは文字通り「カバー(覆い)」のこと。つまり、英語圏において「発見」というのは「目の前を覆っている布を取り去る」ことなのです。目の前にあるのに見えていない世界、「分ける」はそこに切り込むための有効な手段です。

観察力向上の鍵は「記述」「体験」「収集」という三つの活動にあると私は考えています。今回は「記述」の話をしましょう。つまり、「書いて」する観察。見ている世界を言葉にして書き残すことがなぜ大切なのでしょうか。

書くこと=分けること

書くこと=分けること

実は「分ける」を実践するための、もっともシンプルな方法が「書く」という行為です。状況を分解し、順序立てて文章化する、あるいは箇条書きにするかしら。自分が見た風景を言葉にするとき、一瞬で全部を書くことはできませんよね? 瞬間的な記録が可能なカメラと違って、「書く」という行為が筋肉を使った一連の運動である以上、必ず相応の時間を要します。「この部分はこうなっていて」ということを、ひとつひとつ時間をかけて書き記すしかありません。「書いて」観察は「分ける」ための自然な方法なのです。

認知科学的にも書くことは理にかなっています。目で捉えた視覚的な情報は右脳に蓄積されますが、人間の論理的思考をつかさどる言語中枢は左脳にあるといわれています。したがって、自分がいったい何を見たのか、自分自身で再確認する作業が「言語化」を通して生じているということです。書き出すことで観察で得られた情報を視覚化できるという利点も忘れてはいけません。頭の外に出して目に見える状態にしておけば、いつでも見直すことができますものね。

インスピレーションの解体

「直観は分節される前の論理である」と以前何かの本で読んだ記憶がありますが、この一節は「見る」と「書く」の関係性をよく表していると思います。瞬間的に「見えた・わかった!」という状況がまず先にあって、それをなんとか定着させるために頭を整理しながら書き留めていく。その過程に「分ける」が発生します。

独断で言ってしまえば、デザイナーの中には「見る(直観)」が大変に優れている一方で「書く(説明)」を苦手にしている人が多いのではないかしら。「どうしてその形にしたの?」と聞くと「なんとなくとしか説明できない」というのです。このことを私も長らく不思議に思っていましたが、そもそも記憶領域が異なるのだから情報のしまい方や引き出し方が違うのだろうと最近では考えるようになりました。この問題は「集めて観察」の機会に改めて。色や形という別のコミュニケーション手段を言葉に置き換えるのは、実はけっこう難題だと思うのです。

焦点と解像度

焦点と解像度

さて、行動と思考において分節化を必然とする「書く」という行為は、観察の練習に最適です。練習とはその状況に慣れるということですから、日頃から観察ノートを習慣にしておけば、世界を分解することにも慣れることができます。メモやスケッチを意識的に取ることで、誰でも観察眼を鍛えられます。観察における「焦点」と「解像度」さえ意識しておけば、そこにセンスは必要ありません。

例えば、1個のカップが写った写真が目の前にあるとしましょう。「何色なのか」「中に何が入っているのか」「取っ手はどんな形をしているか」「飲んでいるのは誰か」「素材は何か」などなど。これらは全て、目の前の状況の「どこを切り取るか」という問題であって、いうなれば観察の「焦点」です。これが観察の第一歩目。次にしなければならないのは、それぞれの「焦点」の精度を高めることです。

試しに「色」の話をしましょうか。観察ノートに「赤い」カップと書いた人と「郵便ポストのような赤」のカップと書いた人では後者のほうがより厳密さを求めていることに気づくでしょう。「赤」という色の中から特定の色味を指定して記述する。これが観察における「解像度」です。「なんだ、そんなこと当たり前じゃないか」と思っている貴方もご注意ください。ある風景のなかにカップが置かれて「全体の一部」になったとき、人は案外「赤いカップ」の段階で観察を止めてしまっているものです。

目に見える部分から考えよう

「赤いカップ」の話からもわかる通り、「書いて」する観察では、5W1Hの「どのように(how)」の部分に差が出るものです。とりわけスナップショット的に身の回りの日常を観察する際は、「どこに」「なに・誰が」「どんな状態で」を把握することが大切です。これらは「見てわかること」である場合が多いのです。対して「いつ」と「なぜ」は目にしただけではわからなかったりもします。

その上で「どんな状態か」というのを要素ごとに詳しく把握していくわけですが、基本となるのは下記の9つのものでしょう。個々の「解像度」の問題に加えて、「対比」や「位置」など要素同士の関係性を扱う項目があることがわかりますか? したがって「いったん分けて考えた」物事をもう一度つなぎ合わせてみる必要もあるのです。

  1. 1.color 色
  2. 2.line 線
  3. 3.shape 形状
  4. 4.size 大きさ
  5. 5.pattern 柄
  6. 6.texture 肌理(きめ)
  7. 7.function 機能
  8. 8.position 位置
  9. 9.contrast 対比

目に見えない部分も忘れずに

観察が難しいのは、目に見えない部分があるからです。朝顔の観察日記であれば、朝顔という対象自体の成長(変化)だけでなく、日付や天候といった観察対象を取り巻く環境についても書きましたよね。大人になってからの、つまり「こうしなさい」という誰かの指示がない状態で行う観察では、これを忘れることが多いのです。

ダイソンの「羽のない扇風機」は今思い返してみても画期的な商品でした。扇風機を言語的に分解すると「電気を使って」「羽をまわして」「空気を送って」「涼しさを得る」のが扇風機であると多くの人が思っていたところに、空気が送れるならその手段は羽じゃなくても良いのだと挑戦的な提案をしたのです。この時、当たり前すぎて忘れられがちなのが「電気を使って」という部分です。普段意識の外に置かれていることにまで焦点を合わせられるかどうか。言葉を分けて考えると、隠された要素に気がつく可能性も高まります。

色はどこまで言葉にできるのか?

色はどこまで言葉にできるのか

ここまで「書く」ことによって視覚(画像)を言葉に置き換える、という話を続けてきました。しかし「百聞は一見にしかず」という言葉があるように、誰かが見た色をいくら言葉で説明されても他人が体感した色の正確なところまでは伝わりません。おまけに「記憶色」といって、人は知覚した色を自分勝手に捏造してしまうことが多々あります。正確に「PANTONEの●●番だったよ」と即答できる人がいれば話は別ですが、これまでの人生でそんな人には一度も会ったことがありません。 視覚と言葉、体験と伝聞、やはりそこには大きな乖離があります。したがって色や形を扱うデザインにおいては文字以外の方法で、視覚や体験を記録する方法を考えなければいけません。つまるところ、観察というのは「見る」の「その後」をきちんと実行することだと思うのです。その方法のひとつが「書く」ということでした。観察において「見る」は終わりではなく、始まりなのです。次回は、言葉を超えた「体験」による観察についてお話しましょう。エンジョイ!観察。

  • 久慈達也(デザインリサーチャー、DML代表)
  • プロフィール

    久慈達也 (デザインリサーチャー、DML代表)

    http://dm-lab.com/

    1978年、青森市出身。東北大学大学院国際文化研究科博士課程を中退後、神戸芸術工科大学図書館研究員を経て、2012年にデザイン専門の展覧会企画・編集事務所DMLを設立。展覧会企画や原稿執筆のほか、デザインに関する講演や講座も担当している。

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