シカクが語る「リトルプレスの現在」第5回

2017/11/08

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:トライアウト・田村朋子

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シカクが語る「リトルプレスの現在」第5回

リトルプレスを中心に、さまざまなインディーズ出版物を扱うセレクトショップ「シカク」が、イチオシの作品を紹介するコーナー。第5回となる今回は、気持ちが安らぐ“癒し系”の作品をご紹介。慌しい日々のスキマ時間にサッと読んで心の休憩を!


『金沢民景』

http://shikaku.ocnk.net/product/1481

『金沢民景』

こちらは石川県・金沢市在住のクリエイターさんが集まって、街の何げない風景を集めたフォトエッセイです。有名な観光スポットではなく、そこに住む人々が生活の中で生み出したものの様式に着目して紹介しているんです。2017年9月に第1号から5号まで出たのですが「100号出す」という目標を掲げているそうです。

最初に出た5冊のテーマはそれぞれ「第1号 門柱」「第2号 バーティカル屋根」「第3号 私有橋」「第4号 たぬき」「第5号 バルコニー」です。普段は気付かないけれど、集めてみたら街の特徴が見えてくる。そんな面白さがありますよね。

例えば、この「バーティカル屋根」とか、あまり私の住んでいる関西では見ない形ですよね。本によると、屋根を急勾配にしてビビッドな色の瓦にすることで遠くからでも目立つ看板みたいな効果があるそうで、昭和に建てられた店舗によく見られるそうです。

バーティカル屋根

「私有橋」は自宅の前を流れる用水に、住民が「便利だから」と築いた橋を集めたもの。人々のリアルな生活の工夫が垣間見られて面白いですよね。このような、土着的というか、街の人々が徐々に築き上げていった風景は私も好きです。観光ガイドには載らないものを集めているので、貴重な本だと思います。

私有橋

そして、表紙のかわいいデザインもこのシリーズの魅力。雑貨のように、部屋に並べて飾りたくなりますよね。ゆめかわいい系の色合いの中にどこか昭和っぽさもあって、そのバランスが絶妙です。ミシン綴じで製本しているのもいいですよね。毎月増えていくのが楽しみです。

『金沢民景』
http://shikaku.ocnk.net/product/1481


『#片側通行ポスター ハンドブック [2017春]』 Eidantoei

http://shikaku.ocnk.net/product/1488

『#片側通行ポスター ハンドブック [2017春]』 Eidantoei

これは着眼点が面白い作品です。よく駅の階段に「左側通行」とか「右側通行」というポスターがありますよね。ある日、JR中央線「西国分寺駅」の階段で見つけたポスターが少しずつアレンジされた形で他の駅にも点在することに気付き、注目するようになったそうです。

というのも、この著者の方は以前に「野良サイン」というものを集めた『銀座線で見た野良サイン』という本を出されています。「野良サイン」というのは著者の造語で、駅員さんが手づくりした案内表示などで、元のデザインフォーマットに似ているけど統一感がない……みたいなもの(笑)。

『#片側通行ポスター ハンドブック [2017春]』 Eidantoei

少し毛色が違うのですが、『太子楼五體字類』という本も出されていまして、これは東京にある「太子楼」という中華料理店の前にあるメニュー黒板を定点観測した作品です。マスターが毎日書き替えるメニューの文字が少しずつ違うことに着目し、その変化を並べているんです。同じ「海老」でもこんなにバリエーションがあるんですね。このように、デザインのちょっとした変化を面白く紹介するのが上手いんですよ。

太子楼五體字類

この片側通行ポスターも野良サインの一種で、同じようなフォーマットのデザインですが、手づくりなのでバラつきがあったり、その駅ならではのアレンジを加えていたりするんです。ポスターを紹介しつつ、いつ、どの駅で発見したかをまとめた年表も載せています。このポスター、東京のごく一部の駅に点在しているらしく、東京の知人に聞いても「知らない」という人が多いんです。というか、そもそも気付かないですよね(笑)。

『#片側通行ポスター ハンドブック [2017春]』 Eidantoei

2017年春に出たのですが、その後の変遷をまとめたものを後から挟み込んでいます。そして撮影したポスターの写真はアーカイブとしてWebでも公開しているようです。「タレ込みもお待ちしています」とのことなので、皆さんも片側通行ポスターを見つけたら情報提供してあげてください。

※太子楼は2015年5月に閉店しました。

『#片側通行ポスター ハンドブック [2017春]』 Eidantoei
http://shikaku.ocnk.net/product/1488


『文藝誌 園 創刊号』

http://shikaku.ocnk.net/product/1453

『文藝誌 園 創刊号』

初めて文芸誌を紹介します。こちらは明治屋さんという輸入食品などを扱う老舗企業が発行していた『嗜好』というフリーペーパーをモデルにつくられたものです。エッセイを中心に、詩やインタビュー記事など計18編の作品を掲載しています。創刊にあたり、この文芸誌の理念が最初のページに書かれています。

本誌は 土地を耕し
豊かな緑や花 果実を蓄えるように
またそこに集まる人々の賑わいや平穏 さみしさや苦しみ
あらゆる知恵や感情に集う「園」として
2017年新たに誕生しました

文芸誌の理念が最初のページに書かれています

この理念の通り、日常のワンシーンや心に残っている思いをすくい取って綴っている作品が集まっているんです。インパクトのある話題ではなく、読んでいてホッとするような、少し救われるような文章がたくさん散りばめられているんです。誰かの「思い」にじっくり触れる機会は少ないと思うので、改めて読んでみると小さな発見がたくさんありますよ。

私のお気に入りは「やさしい朝ごはん」という話。著者が過去に台湾でホームステイしていたときの話ですが、ホストのお母さんがいつもおいしい朝ごはんを食べさせてくれたことを書かれています。日本で一人暮らしをしていたときは朝食を食べないことが多かったけど、ホームステイ中は「朝ごはんを食べないと元気が出ないわよ!」と言われたそう。そして帰国後も交流が続いている、という話です。特に大きな事件やトピックスがあるわけではないのですが、こういう心あたたまる人の交流っていいですよね。

私のお気に入りは「やさしい朝ごはん」という話

デザインにも落ち着きがあって、すごくリラックスした気分で読めますね。表紙のやわらかい絵も好きです。何よりもポケットに入るサイズ感がいいですよね。一つ一つの作品が短いので、持ち歩いて空いた時間にサッと読めますよ。

一つ一つの作品が短いので、持ち歩いて空いた時間にサッと読めます

『文藝誌 園 創刊号』
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『心のクウェート』 香山哲

http://shikaku.ocnk.net/product/1172

『心のクウェート』 香山哲

これは独特な漫画作品です。著者の香山哲さんの自伝的な作品で、かつてドイツとポーランドで生活していたときの実体験に、「心のクウェート」という架空の場所をめざすというフィクションを織り交ぜたストーリー。哲学的でいろいろと考えさせられるシーンもあるのですが、登場人物を動物みたいにデフォルメしていて、ファンタジー作品のような感覚で読めるんです。海外の方にも親しんでもらえるよう、絵の下には各セリフの英訳も載せています。

絵の下には各セリフの英訳も載せています

巻頭と巻末には滞在中の写真もたくさん載っているので、現地の街並みや生活文化を知ることもできます。また、ストーリーの中でも電車に乗ったときの話や街で買い物をした話などが出てきて、その辺はノンフィクションなので勉強になりますね。

巻頭と巻末には滞在中の写真もたくさん載っている

香山さんは経歴も面白くて、フリーランスのプログラマーとしてゲームをつくったり、本や漫画を出版したりされています。2002年には「ドグマ出版漫画賞」という賞を自分でつくり、第1回の賞を自分に授与しているんです(笑)。すごい発想ですよね……。2013年には『香山哲のファウスト』という漫画作品が第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で審査委員会推薦作品に選ばれたので、実力は折り紙つきです。

シカクが語る「リトルプレスの現在」 第5回-画像-15

香山さんの作品には人生哲学が盛り込まれたものが多く、『心のクウェート』にも『香山哲のファウスト』にも「生き方」に対する考え方などが詰まっています。それを独特のタッチの漫画で表現するので、本当にこの方にしか描けないユニークな作品ですね。言葉にもキレがあるので「見る」というよりは「読む」漫画だと思います。

『心のクウェート』 香山哲
http://shikaku.ocnk.net/product/1172


『谷口菜津子のごはん自由帳』 谷口菜津子

http://shikaku.ocnk.net/product/1298

『谷口菜津子のごはん自由帳』 谷口菜津子

こちらは漫画家・イラストレーターとして活躍されている谷口菜津子さんによる、ごはんをテーマにした作品です。谷口さんはごはんをつくるのも食べるのも大好きな方。レトルト食品のアレンジ方法など、手軽にできる料理の提案が主な内容です。

料理本のようにキレイな写真や細かいレシピが載っているわけではなく、鉛筆デッサンのようなタッチのイラストの横に材料だけがざっくり書いてあるので、料理へのハードルがグッと下がります。すぐに試せるものばかりで、特に一人暮らしの方には役立つ一冊ですね。

鉛筆デッサンのようなタッチのイラストの横に材料だけがざっくり書いてある

それぞれのレシピにちょっとトゲのあるコメントがついているのもいいですね。「蕎麦はダイエットにいいと言うけどこんだけ具が乗ってたら痩せない」とか……。また、所々にカップルの何げない会話を描いた漫画も入っていて、これがまたホッとするんですよ。でも、ちゃんと栄養の話なども載っていて、実用性も忘れていません。

所々にカップルの何げない会話を描いた漫画

表紙の卵の絵や、黄色い紙を使った手づくり感のある見た目がすごくかわいいですよね。このテイスト、女性は好きだと思います。仕事であまり料理をする時間のない人や、彼氏に料理をつくってあげたいけどスキルに自信がない、という女性におすすめです。

『谷口菜津子のごはん自由帳』 谷口菜津子
http://shikaku.ocnk.net/product/1298

  • シカク
  • 店舗データ

    シカク

    住所:大阪市此花区梅香1-6-13
    Tel:06-6225-7889
    営業時間:13時00分~19時00分
    定休日:火・水曜
    アクセス:JR・阪神なんば線西九条駅から徒歩15分
    阪神なんば線千鳥橋駅から徒歩5分
    公式ホームページ:http://uguilab.com/shikaku/
    オンラインショップ:http://shikaku.ocnk.net/

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