#03「動いて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】

2017/11/13

WRITER久慈達也

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#03「動いて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】

少し前に東京で、プロダクトデザイナー・深澤直人さんの展覧会を拝見しました。無印良品のデザインを数多く手がけられているのでご存知の方も多いでしょう。家具や食器、時計にいたるまで。自分がデザインしたものだけで日常の風景を作れてしまう数少ない日本人デザイナーです。

彼のデザイン哲学の一つに「without thought=思わず」という言葉があります。「人間の意識していないときの行動の中にデザインのきっかけがある」のだそうですが、この“思わず”を見つけ出すのが難しいですよね。

さて、今回のテーマは「動いて観察」です。観察力向上の鍵である「記述」「体験」「収集」のうち、「体験」について掘り下げましょう。

体験 Action
見ている以上に対象から情報を引き出すこと。現代はインターネットから集めた情報だけでかなりの分析を行うこともできますが、“視覚”に偏った情報になりがちです。モニターから離れて、できる限り現場に足を運べば、視覚以外の四感(触覚・聴覚・味覚・嗅覚)で得られる「生」の情報が待っています。
【はじめての観察】#1「観察って何だろう?」より

本来なら「体験」をactionと訳すのは間違いですが、結果として得られる経験(experience)に先立つ能動的な「ふるまい」こそが観察を進める鍵である、という点を強調したいと思います。まずはやってみるという気持ち。それが「見る」を超えた観察の始まりです。

観察における体験には、1)自分が体験する、2)誰かの体験を見る、の2つのパターンがありますが、今回は「見ているだけの状態を超える」ことが目的なので、視覚以外の感覚を軸に前者の話をしましょう。

体験を通して得る情報

体験が大切と言われれば、多くの人は“旅行”を思い出すことでしょう。今日では「ストリートビュー」で知らない街の裏通りの様子もわかりますし、ネット上で画像をいくらでも集めることができます。けれども、当然ながら臭いや素材感はその場に行ってみなければ分かりません。

例えば、空港の「臭い」。20年近く前、ニューデリーの空港に降り立った瞬間に感じたスパイスとアンモニア臭が混じったような香りは今でも忘れられません。画像や文字の上では得られない情報をもたらし、検索の範囲を超えて情報を与えてくれるのが「体験」です。食べたことがないものを食べ、椅子があれば座ってみる、そういう積み重ねが身体化された知識となって観察者の知覚を支えます。

デザインの現場でも体験は重視されています。以前、大学のプロジェクトに関わっていて「おや?」と思ったことの一つに、学生たちが“スケッチに費やす時間の長さ”がありました。アイデアを固めるために手を動かすのは良いのですが、アイデアスケッチだけを延々と繰り返し描いているのです。絵ではなく、触れられる状態にして初めて「気がつく」ことも多いというのに、なんという時間の無駄でしょう。

体を張るのが「デザイン思考」

紙の上では大丈夫だと思っていても、実際に模型を作って触ってみると期待通りに事が進まなかったということはよくあります。それを知っているプロのデザイナーたちは、アイデアを可能な限り早く試作して検証します。ベニヤ板や段ボール、現在では3Dプリンターを用いてアイデアが実現可能なのかどうかを探りつつ、改良点を見つけ出すのです。時には即興で素材を切り貼りしながら、アイデアの精度を文字通り「手を使って」高める作業が行われます。

こうした手法は、プロトタイプによる速やかな検証という意味で「ラピッド・プロトタイピング」と呼ばれています。いわゆる「デザイン思考」と呼ばれるものづくりでもよく用いられる手法です。試作を重ねることで、平面的に見るよりも多角的に対象を捉えることができます。加えて、椅子であれば座り心地や背もたれの具合など、行動(体験)を介してアイデアを検証できるのもポイントです。「思わず」やってしまうようなことを見つけ出す可能性も、こうしたプロセスの中に潜んでいます。「デザイン思考」と呼ばれていても、頭の中だけで済むような話ではないということですね。

Konstantin Grcic:The Good,The Bad,The Ugly展における椅子のプロトタイプ展示

ミュンヘンにあるデザイン・ミュージアムDie Neue Sammlungで開催されたKonstantin Grcic:The Good,The Bad,The Ugly展における椅子のプロトタイプ展示。

試しにコメント付きのスケッチをしてもらうと、観察者がモノをどのように捉えているかがよく分かります。メガネなどがよい例ですが、オブジェとして捉える人は外形のみを詳細に描きます。動きに注目しない人は意識がそこに向いていないので、その情報を書き込みません。これは観察が「眺める」の段階で止まっている証拠です。「身につけるもの」という意識が少ないと、ツルの稼働部分やかけ心地など別の視点から情報を引き出すことができないのです。

行動は凝視に勝る?

子供が体験するべき50の危険なこと』という本には、「やりを投げよう」や「指を瞬間接着剤でくっつけよう」など、「やってみた」系動画のネタには困らなそうな事例が紹介されています。「動いて観察」の教科書として、お子さんを持つ親御さんに強く勧めたい一冊です。

無茶に見えるこれらの体験が、観察者としての経験を膨らませることでしょう。序文にある「自分でたき火をおこしたり、木にのぼったりした経験のある子どものほうが、それをビデオで見ただけの子どもよりも、そこで目撃した物理現象を、ずっと深く、具体的に理解できます」という言葉の通り、一つ一つの行動に伴う身体感覚が学びになります。

もちろん、自分の体験だけでなく、形態学的に観察した他人の行動も貴重な情報源になりえます。「行動観察」のように他人の体験を注視することも「動いて観察」の範疇です。左利きや視覚障がい者など「多数派」とは異なる世界の捉え方をしている人々の行動から気づきを得ることでも、世界の見方は拡がります。肝心なのは「見る」と「やる」のバランスなのです。

見ずに知る世界

異なる世界の捉え方を体験するのに、うってつけのプログラムが「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」です。

参加者は完全に光を遮断した空間の中へ、グループを組んで入り、暗闇のエキスパートである視覚障がい者のアテンドにより、中を探検し、様々なシーンを体験します。その過程で視覚以外の様々な感覚の可能性と心地よさに気づき、コミュニケーションの大切さ、人のあたたかさなどを思い出します。(主催者HPより

視覚に障がいを抱えるということは、それ以外の感覚を最大限活用して日常と向き合うということです。歩くことさえも困難な暗闇の中で、事も無げに参加者をまとめる案内人の「姿」に、自分がいかに視覚中心の世界を生きていたのかを実感できます。同時に、プログラムを通して触覚と聴覚がだんだんと揺り動かされていくのも感じました。その経験から、私も社会人講座等では「目を閉じてモノを触ってみる」というプログラムを取り入れるようにしています。

以前、博物館を誰もが楽しめる場所になることを目指す「ユニバーサル・ミュージアム」のシンポジウムに参加した際、パネラーのお一人から興味深い話をうかがいました。視覚障がい者のお客様を見晴らしがよい平原にお連れしたとき、「ここは景色が良いですね」とおっしゃられたそうです。肌に触れる風の流れから風景の変化を読み取られたのでしょう。見ずに知る。そういう世界の捉え方もあるのです。
(この手の問題は、伊藤亜紗さんの著書『目の見えない人は世界をどう見ているのか』で詳しく扱われています。ぜひ読んでみてください)。

私たちも観察の練習のために、五感(視覚・触覚・嗅覚・聴覚・味覚)を個別に体感する機会を設けてみる必要があるでしょう。目隠しをして「紙を触って感触を言葉にする」だけでも、ステレオタイプな表現から逃れられます。目を閉じたまま「コップを水でいっぱいにする」という行為を試してみるのも良いですね。注ぐ音の変化に気がつき、コップが満たされる瞬間を感じることができるはずです。

大阪の国立民族学博物館「世界をさわる」

大阪の国立民族学博物館には「世界をさわる」というコーナーがあります。同館が所蔵する世界各地の品々を実際に「見ながら」と「見ないで」触ってみることができるので、ぜひ一度足を運んでみてください。

まとめ

最後に「動いて観察」で大事なポイントをまとめましょう。

・視覚以外の情報をもとめて自ら動くこと
・頭で考えつつも手を動かすこと
・他人の「動き」から気づきを得ること
・五感を分けて新たな知覚に挑むこと

デザインはデザイナーによって生み出されるのは間違いありません。ですが、大抵はデザイナーという観察者によって「見つけ出された何か」に「かたち」を与える場合がほとんどです。「ご馳走」という言葉に「走る」という漢字が含まれているように、良いデザインもデザイナー自身が「動き回ることで」生まれます。見つけ出すために自ら動く、それが観察を深める方法です。さて旅の支度を始めましょうか。次回もエンジョイ観察!

「観察」と書くと視覚がメインだと考えちゃうけど、他の感覚も観察には大事なのね

なるほど
  • 久慈達也(デザインリサーチャー、DML代表)
  • プロフィール

    久慈達也 (デザインリサーチャー、DML代表)

    http://dm-lab.com/

    1978年、青森市出身。東北大学大学院国際文化研究科博士課程を中退後、神戸芸術工科大学図書館研究員を経て、2012年にデザイン専門の展覧会企画・編集事務所DMLを設立。展覧会企画や原稿執筆のほか、デザインに関する講演や講座も担当している。

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