#04「集めて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】

2017/12/22

WRITER久慈達也

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#04「集めて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】

無印良品で2003年から始まった「Found MUJI」は、その土地の生活や文化にあわせて作られてきた日用品を「Found(Find)=見つけ出す」ことで、現代の生活の中に再び価値づける企画です。お店で見かけるとつい旅に出かけたくなってしまうので、私にとっては悩ましい存在ですが、観察による発見が企業活動として実装されているという意味で色々と勉強になります。

さて、「記述」「体験」とお話ししてきた観察力向上の鍵、今回は「収集」について掘り下げましょう。

収集 Collection
自分が観たことや体験したことを目に見える形で保管すること。ここで念頭においているのは視覚情報です。デジタルであれアナログであれ、後から自分が見直すことができる状態(可視化)にしておくと、やがてその蓄積が新たな発想の源になります。
http://eonet.jp/zing/articles/_4100847.html

前回までの内容を振り返ってみると、「記述」とは「見たら、書く」ことであり、「体験」は「見る以上を、やる」ことでした。イメージからテキストへ、イメージからエクスペリエンスへ。これらは観察を通じて文字や体験を集める作業ですから「記述」も「体験」も収集的な活動だったといえます。対して、ここで用いる「収集」はイメージをイメージのまま残すということ。それがデザインや造形表現に関わるものにとっての秘術ではないか、というのが今回の内容です。

#04「集めて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】-画像-01

ゼロからの創造という幻想

まず前提として、人が何かを考えたり作ったりするときに全くのゼロから生み出すということはありえません。20世紀を代表するデザイナーのチャールズ・イームズも「現実には、人はその道の先輩から影響を受けていることを認めないわけにはいかない」と表明しているように、誰もが何かしらの参照元があって制作ができるのです。だからこそ、人は創造の源泉として様々な形で情報を集めます。

レンブラントのような歴史的な画家たちも描くために珍しい品々を集めていました。アムステルダムのレンブラントの家を訪れれば、今でもその名残を目にすることができます。「見る」と「作る」はコインの裏と表のような関係です。有史以来、形が形の発想源であったと私は考えています。

#04「集めて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】-画像-02

表現における視覚資料の価値

色はどこまで言葉にできるのか? と以前に問いかけましたが、形についても同じことが言えます。色や形に関することを全て文字に置き換えることはできません。直観像記憶をもつ『ダ・ヴィンチ・コード』の主人公のように、視覚情報を文字に変換してしまわないことも、デザインにおいては大事な一面だろうと思います。ただし、特殊能力を持たない私たちは、もっぱら脳内ではなく「外部メモリ」に頼ることになります。

脳機能研究においても、画像と文字では異なる記憶領域が関与しており、言語的に理解することと視覚的な記憶は別の働きの上に成り立っていると考えられています。モノのフォルムや質感に注意を払わず、「~はこういう役割を持った存在だ」と機能的な面のみを書き留めるような人は、視覚情報の蓄積が絶対的に不足します。ボールの蹴り方を知っているだけで練習をしなければ、サッカーの試合に出ても活躍できるわけがないのと同じことです。

「デザイン思考」はデザイナー自身が蓄積した非言語的な情報を軽んじていると感じます。デザイナーに形を生み出させているのは、彼らがそれまでに見てきた形の蓄積でしょう。色や形の問題を扱うデザイナーにとって、見た事を言語化する記述的観察だけでは足りません。画像やモノそれ自体から造形的な情報を収集しておくことは未来のアイデアの種を育てる作業です。

観察は一つの仕事のためだけでなく、長期に渡って観察者を支えます。何年かの時間が経ってからまた画像を見直せば、その時点の自身の能力により新しい発見や気づきがもたらされます。ですから、後から見返せるように視覚情報を視覚資料として蓄積しておくことが大切です。

観察ツールとしての「写ルンです」

今、「写ルンです」が再び人気です。フィルムのアナログ感やSNSでの目新しさが理由のようですが、観察のツールとしても優れています。ワークショップ等で用いれば、機材の性能差がないため撮影者の視点がクローズアップされます。「枚数が決まっている」「消せない」「並べ替えられない」というフィルムの特徴は、その時々の観察者の感覚をあぶり出すのに有効です。頭で考えて撮るのではなく、なるべく反射的に「気に留まった」色や形を撮影していくと、自分の造形感覚の「現状」がはっきりしてきます。

視覚資料に限らぬことですが、情報収集には集める主題がはっきり決まっている場合とそうでない場合があります。前者についての説明は不要でしょうが、後者は日々の生活における「態度」のようなものです。ふと気に留まる出来事にあなたがどのように反応できるかが問われます。デザイナーを目指す方はぜひとも「画像でメモする」習慣を身につけてください。

直観的に撮影し、後から画像を見直して精査する。この繰り返しによって観察者の感覚と思考は鍛えられていきます。画像であれ現物であれ、モノを集めるという行為は自らの興味をあぶり出すことです。現代思想家のジャン・ボードリヤールが指摘したように「人間が収集するのはつねにその人自身」なのです。

デザイナーたちの実践

さて、デザイナーたちの「収集」の実践を参照しましょう。日頃から画像を収集しているプロフェッショナルは大勢いますが、建築家のジョン・ポーソンとプロダクトデザイナーのジャスパー・モリソンを紹介します。

ジョン・ポーソンは2012年に刊行した『A Visual Inventory』(視覚の目録)において、創造の源泉として集めた画像を紹介しました。これまでに集めた画像は20万枚以上に及び、それらが設計においても重要な役割を果たしているそうです。彼のInstagramでも写真が定期的に公開されていますので覗いてみてください。

ジャスパー・モリソンも同様に観察を重視するデザイナーです。彼のデザインはどこかで目に留めたものを改良・発展させることで生まれます。『A World without Words』(言葉のない世界)は彼が大学の講義のために準備したスライドから生まれた書籍ですが、その内容は多様な時代・文化から彼が見つけ出した画像のみで構成されています。

日々膨大な視覚情報の蓄積を続ける彼らは、ずっと観察日記を続けているようなものです。SNSでアカウントをフォローすれば、トップデザイナーの関心を垣間見ることができるなんて! ひと昔前では考えられませんでしたが、今は素直にこの恩恵にあずかりましょう。

ジョン・ポーソン:
https://www.instagram.com/johnpawson/
ジャスパー・モリソン:
https://www.instagram.com/jasper.morrison/

ミュージアムを活用する

今日、視覚資料の多くはデジタル化されていますので、集めるのにさして苦労はありません。ただし、実物を集めるとなると金銭的な面でも保管場所という面でも一気にハードルが高くなります。

そんな時に便利な施設が、美術館や博物館などのミュージアムです。よくわからない芸術作品や古めかしいモノに溢れた「つまらない場所」と思う人もいるかもしれませんが、公立のミュージアムは私たちの代わりに様々なモノを集めてくれている場所です。そこを役立てない手はありません。

関西にお住まいの方であれば、国立民族学博物館は観察者にとって素晴らしい楽園となるでしょう。コレクションにはお菓子のパッケージから霊柩車まで、生活のあらゆるものが含まれています。そこから新しいデザインのヒントを得る可能性もあるのです。

実際、2009年に国立民族学博物館で行われた「千家十職×みんぱく 茶の湯のものづくりと世界のわざ」展では、千家十職という茶の湯道具制作の大家が博物館の収蔵資料からひらめきを得て、新しい作品を作り出しました。最近だとチューリッヒにあるデザイン美術館(Museum fur Gestalteng)が自分たちのコレクションの中からデザイナーに気になるものを選ばせて「マイコレクション」という展覧会を開催しています。その1回目のセレクターが前述のジャスパー・モリソンでした。展覧会のために新しい作品が作られた訳ではありませんが、博物館がデザイナーにとって刺激的な発想の源泉になり得ることを示したのです。

#04「集めて観察」久慈達也コラム【はじめての観察】-画像-03

現在、日本には身の回りのデザインを集めた「デザインミュージアム」が存在しません。私たちのためにデザインを集めてくれる場所がないのです。現代の生活を理解する上でこれは非常に困った問題です。美術大学以外にデザインについて学ぶことができる機会がもっとあれば、デザインに対する理解も進み、コレクションを媒介に新たな発想も生まれるはずです。

まとめ

最後に今回の内容をまとめましょう。

・記述とともに視覚資料そのものを収集する
・主観的に、気になるものを画像でメモする
・他のデザイナーの視点に学ぶ
・発想の源泉としてミュージアムを活用する

非言語的な知識の収集と蓄積は、デザイナー含め造形に関わる者が日常的に行っている行為です。「デザイナーのように考える」という際には、彼らの背後に膨大な非言語的な観察の積み重ねがあることを忘れないでください。もしもあなたがデザイナーになりたいのであれば、すぐにでも彼らと同じように日々の観察を始めてください。プロが実践している以上に観察を蓄積しなければどうして追いつくことができるでしょうか。観察の良いところはスポーツのように辛く苦しい経験をしなくてすむことです。手に入れるのは発見の喜びのみ。エンジョイ! 観察。

  • 久慈達也(デザインリサーチャー、DML代表)
  • プロフィール

    久慈達也 (デザインリサーチャー、DML代表)

    http://dm-lab.com/

    1978年、青森市出身。東北大学大学院国際文化研究科博士課程を中退後、神戸芸術工科大学図書館研究員を経て、2012年にデザイン専門の展覧会企画・編集事務所DMLを設立。展覧会企画や原稿執筆のほか、デザインに関する講演や講座も担当している。

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