#05「観察の観察」久慈達也コラム【はじめての観察】

2018/01/24

WRITER久慈達也

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#05「観察の観察」久慈達也コラム【はじめての観察】

観察について教わったことがありますか? という問いかけで始めた本コラム。過去4回にわたり、世界に目を凝らすための技術として、観察を「記述」「体験」「収集」という3つの行為に分けて捉え直してきました。

デザインは、アイデアに形を与える行為です。観察者としてのデザイナーは文字に偏ることなく、触覚や聴覚による体験、あるいは言語化できない視覚情報などもバランス良く受け取らなければいけません。必要とされるのは、多様なチャンネルを備えた観察力です。

さて、対象から情報を受け取ることができたとして、増え続ける情報を放置してはせっかくの宝も持ち腐れです。最後に、観察で得られた情報の役立て方を考えてみます。

観察の観察

夏休みの宿題と違って、大人の観察は仕事の課題解決や着想のために使われます。アイデアを得るという目的に向かって観察をより有意義なものとするために、「観察の見直し」というプロセスを経る必要があります。いくつかの方法がありますが、次の3つを基本とするのが良いでしょう。

「観察の見直し」

まとめる-分類-

まとめる-分類-

関連する内容のファイルを一つのフォルダに入れるように、条件を決めて整理することで似通った要素や関係をもつ情報の集合を作り出します。「チャンキング」(塊作り、チャンクchunk=塊)とも呼ばれる作業です。「四角」や「黄色」のように、目に見える外見的特徴でまとめられる他、かき氷やアイスクリームの看板など「発しているメッセージ」で分けることもできます。同じ機能を果たすものも一つに括れます。

くらべる-比較-

くらべる-比較-

人は複数の情報を比較することで、それぞれの特徴を認識します。「カフェのインテリアについて調べよう」という時、1軒だけの観察ではそのお店の状態は把握できても、それが一般的なカフェらしさなのかは判断できません。2軒3軒と足を運び、他の業態の飲食店とも比べることで、初めてカフェらしい空間とは何かが分かってきます。比較するための情報が増えれば理解も進み、それぞれの特徴を的確に言い表すことが可能になります。同時に、自分の好き嫌いも自覚できるでしょう。

つなげる-連想-

つなげる-連想-

何かを思い出すことも、発想につながる観察の大事な側面です。マインドマップ的に思考を広げることもあれば、実際に街を歩きつつ見る対象を転々と変えて連想を繰り返す場合もあります。連想にはその人の個性が強く表れます。「赤い車」を目にした際、ある人は「アニメ映画」を、別の誰かは「イタリア」を想像するかもしれません。観察における個性は、観察者がそれまでの人生で仕入れた知識や経験に支えられています。ですから、同じ観察対象であっても人任せにしないことです。連想する内容が違うのですから、一人一人が観察者となって世界と向き合うことは無駄ではありません。

近年、発想法に関する多くの書籍が出版されています。マインドマップやオズボーンのチェックリストなど発想の技術についての詳細を知りたい方は探してみて下さい。デザインの初学者にとって読みやすく、かつ長期的に活用できる本として、次の2冊を紹介します。

・ウィリアム・リドウェル他『Design Rule Index デザイン、新・25+100の法則』BNN新社、2010年。

・エレン・ラプトン編『問題解決ができる、デザインの発想法』BNN新社、2012年。

「同じ土俵」の定め方

上記いずれの場合も、まずは複数の情報を関係付ける条件を整えることから始まります。2つ以上のものに共通する要素のことを「共通項」と言いますが、これを見つけることが「まとめる」「くらべる」「つなげる」の土台になります。観察から発想へと至る一歩目は、共通項に気がつくことです。

第2回の「書いて観察」で取り上げた「観察のポイント」を覚えていますか? 共通項という「同じ土俵」の発見に必要なのは、「記述」の技術と同じで対象を細かく分けることに尽きます。つまり、「記述」の練習が「観察の見直し」の練習にもなるわけです。

ただし、作るべき土俵は狭すぎても広すぎても無意味です。観察にセンスがあるとすれば、この「同じ土俵」の作り方に最も差が表れるはずです。「黄色」の要素をもつモノを抽出しただけでは、それ以上の広がりを想像するのは困難です。「椅子」や「机」のような種類でも行き詰まるでしょう。「椅子」という名詞を土俵にすれば分類は簡単ですが、思考を広げるための共通項にするためには別の品詞が必要です。

この場合、「座る」という動詞を含んだ言葉に置き換えるのがコツです。服であれば「身につけるもの」、スプーンであれば「すくい上げるためのもの」という具合に、名詞の代わりに人間の行為を含ませることで、広がりがある「同じ土俵」が出来上がります。

共通項を駆使して「フォルダ分け」が自在に行えるようになれば、後述するようにアイデアを出すこと自体は苦になりません。デザインで大変なのは、むしろその先です。アイデアに形を与える長い道のりが待っています。

2016年の「ノザイナー かたちの理由」展
モノの系統が作品化された、2016年の「ノザイナー かたちの理由」展。

「プレ・アイデア」という考え方

最初に思いついた「アイデア」のことを、私は「アイデア未満」という意味を込め「プレ・アイデア」と呼ぶことにしています。基本的に、観察とは「プレ・アイデア」に至るまでの情報収集と分析だと考えてよいでしょう。

アイデアが1つしか思いつかないという経験をしたことはないですか? この場合の多くが「プレ・アイデア」からコンセプトを抽出できていないことに原因があります。コンセプトとは発想の母体となるルールであり、アイデアはそれによって形作られる具体策のことです。先ほどの言い方をするなら、コンセプトという「同じ土俵」さえ作れれば、アイデアの量産も可能です。

私が関わっている大学のデザインプロジェクトで「どこか一部が欠けた家具を作る」という、ちょっと変わった課題が出たことがありました。それに対して、ある学生が「欠けたところから飼っている猫が顔を出すと面白いのでは」と気がついたようで、「猫の隠れ場所になるベンチ」という案を持ってきました。これが「プレ・アイデア」です。

DESIGN SOILの学生作品
神戸芸術工科大学のデザインプロジェクトDESIGN SOILの学生作品。

さて、ここから発想を広げるためには、自分が出した「アイデア」を点検しなければいけません。いったい自分はその案で何を実現しようとしていたのか? と自問して、「ペットと人が触れ合える家具」と捉え直すことができました。これがコンセプトです。その後はコンセプトに従う限り、猫は犬やインコへ、ベンチは机や鏡台へと、変えてもよい部分を取り替えながらアイデアのバリエーションをいくらでも生み出すことができます。この段階で「プレ・アイデア」がやはり優れていると思えば、自信をもってアイデアとして採用できます。

説明のため順を追って書きましたが、卵と鶏どちらが先かという話で、瞬間的に全てを見通すこともありえます。「プレ・アイデア」→コンセプト→アイデアという情報の構造化と自己点検ができるようになれば、はじめの案に囚われることなく、自由にアイデアを乗り換えていくことが可能です。また、実現すべきことから大きく外れることもないので無駄がありません。

発想の構造主義的アプローチとでも呼ぶべき考え方

これは発想の構造主義的アプローチとでも呼ぶべき考え方です。生物の分類が、種・属・科と入れ子構造を採るように、発想の際も種にあたる「アイデア」(プレ・アイデア)から、それを包摂する上位の属や科を導き出すことでコンセプトまで辿り着けます。およそ発想法と呼ばれるものは、総じてカテゴリー作りとその中での情報の操作が基本です。数式にも似たこの思考パターンを覚えてしまえば、デザインにおける観察は効果的なものになります。そして、頭の中だけで考えず発想の起点に観察を置く限り、この世界は枯れることのないアイデアの源泉です。

まとめ

最後に今回の内容をまとめましょう。

・観察で集めた情報から「分類」や「比較」、「連想」をおこなう
・そのためには複数の情報にまたがる要素「共通項」を意識する
・プレ・アイデアからコンセプトを抽出する思考法を身につける
・発想の下地としての観察を忘れずに


観察を「記述」「体験」「収集」という3つの行為に分けて捉えることで、より効率よく世界から情報を受け取ることができるのではないか。そんな考え方で書き進めてきた「はじめての観察」、いかがでしたか。

この「デザインのための観察論」は、得られる情報の種類(文字・経験・造形)から逆算しているので、3つのベクトルを意識していれば、世界認識の精度とともにデザイナーの武器となる色や形の参照資料も自然に増えていくはずです。観察は思考のトレーニングとレファレンスの構築、2つの意味でデザイナーを育てます。

実際のところ、観察は地味で地道な行為です。世間をあっと言わせる発見など、一生かかってもないかもしれません。「見つけてやろう」と肩肘を張らずに「見つかればラッキー」くらいの感覚でこの世界と向き合うことを楽しんでください。あなたの準備が整えば、世界は必ず答えてくれます。
最後までエンジョイ!観察。

「観察する」ってことばの捉え方が変わった連載だったわね。久慈さんありがとう!

ほほえみ
  • 久慈達也(デザインリサーチャー、DML代表)
  • プロフィール

    久慈達也 (デザインリサーチャー、DML代表)

    http://dm-lab.com/

    1978年、青森市出身。東北大学大学院国際文化研究科博士課程を中退後、神戸芸術工科大学図書館研究員を経て、2012年にデザイン専門の展覧会企画・編集事務所DMLを設立。展覧会企画や原稿執筆のほか、デザインに関する講演や講座も担当している。

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