シカクが語る「リトルプレスの現在」 第8回『僕は君とか好きじゃないけど』『酒をみつめる対話集 酒の穴』など

2018/02/14

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:トライアウト・吉川寿博

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シカクが語る「リトルプレスの現在」 第8回『僕は君とか好きじゃないけど』『酒をみつめる対話集 酒の穴』など

リトルプレスを中心に、さまざまなインディーズ出版物を扱うセレクトショップ「シカク」が、イチオシの作品を紹介するコーナー。お酒が好きな人、素敵な絵に癒されたい人、知らない土地の人間ドラマに浸りたい人……第8回も、たくさんの人が楽しめる作品がそろいました。今回は、スタッフの赤井あぞさんにもコメントをいただきました。


『2016 2017』 石井嗣也

http://shikaku.ocnk.net/product/1577

『2016 2017』 石井嗣也

イラストレーターとして活躍されている石井嗣也さんが、1年間に手がけた作品をまとめた作品集です。『2014 2015』『2015 2016』と合わせて、3冊が出ています。石井さんのイラストは、白と黒の色味、緻密に描いた部分と大胆な余白のコントラストが魅力なんですよ。

コートを脱ごうとしている瞬間の絵

コートを脱ごうとしている瞬間の絵や、部屋でくつろぐ女性を後ろから見ている絵など、描くシーンも独特です。白黒の絵でも空気感や季節感が感じられて、見ていたら音まで聞こえてきそうで、すごくドラマチック。しかも、文字による説明が一切なく、イラストだけを淡々と載せているんです。どれも想像力をかき立てられる作品ばかりですね。

石井さんはロットリングという、製図などに使われる精密な線が引ける万年筆を使ってイラストを描かれています。精密な部分は、原画を見ると本当に感動しますよ。一本一本、丁寧に線を引いている姿が目に浮かびます。この、多くを語らぬ冊子と同様、石井さんも寡黙な方で、黙々と丁寧に作業される方なんです。

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一度、シカクで展示会を開いたことがあるのですが、ファンの方からサインを頼まれたときに「見られていると描けないから」と奥に隠れて、そこですごく丁寧にサインを描いていました(笑)。お店の扉にも絵を描いてもらったのですが、その時も「恥ずかしいので、描いているところは見ないで」と。すごく時間をかけて丁寧に描いてくれていました。

お店の扉にも絵を描いてもらったのですが、その時も「恥ずかしいので、描いているところは見ないで」と。

『2016 2017』 石井嗣也
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『小冊子 kalas 33号』 kalas Books

http://shikaku.ocnk.net/product/1585

『小冊子 kalas 33号』 kalas Books

こちらは三重県の津市で「kalas books」という古本屋を営んでいる西屋真司さんが、編集から執筆まで手がけている小冊子です。「翼のある小冊子」をテーマに、津で生きるさまざまな人へのインタビュー記事で構成されています。面白いのは、小説のような書き出しで始まったり、話した言葉がそのまま記事になっていたりと、1冊の中にいろいろなスタイルのインタビュー記事が混在しているところ。1人のライターが書いているのですが、何人もの執筆者が寄稿しているような錯覚を受けます。

普通、インタビューをする際って事前にある程度の下調べをしますよね。でも西屋さんはそういうのがなく、インタビューの中でゼロから教えてもらっているような感じなんです。例えば、「造本家」という職業の方にインタビューした記事では、「『造本家』とは何か、という所から教えてもらいました」みたいな展開になっているんです。だから、読んでいると、モニター越しに見ているのではなく、西屋さんと一緒に話を聞いている感覚になるんですよ。

面白いのが、毎号の特集タイトル。最新号の「かさねぎのたまねぎ」をはじめ、「振らない賽子」「内側の範囲」など、いつも意味深なタイトルが付けられています。

そして、もうひとつ面白いのが、毎号の特集タイトル。最新号の「かさねぎのたまねぎ」をはじめ、「振らない賽子」「内側の範囲」など、いつも意味深なタイトルが付けられています。これは、最初から決めているのではなく、西屋さんが4人、5人とインタビューしていく中で、わずかな共通項を見出し、それを暗喩のように表現しているんです。読んでいる方も、記事を読み進めていく中で、その意味がちょっとずつ見えてくる。そんな不思議な感覚がありますね。

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インタビュー以外にもいくつかコーナーがあります。例えば、「界隈」という連載コーナーでは地元の写真家の方が撮った風景写真を毎号載せているのですが、普通の町中の景色を切り取っているのがいいんですよね。特徴のあるランドマークなどを写しているわけではなく、ありのままの「津」が感じられるのがいい。普段なじみのない土地でも、人の営みや素の風景を見ているうちに、何かワクワクしてくるんですよ。そんな、ガイドブックとは違った魅力がこの本にはあります。

特徴のあるランドマークなどを写しているわけではなく、ありのままの「津」が感じられるのがいい。

『小冊子 kalas 33号』 kalas Books
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『最初期短編集(2003〜2009)』 真造圭伍

http://shikaku.ocnk.net/product/1489

『最初期短編集(2003〜2009)』 真造圭伍

2012年の第16回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で新人賞を獲得した『ぼくらのフンカ祭』や、2016年に映画化された『森山中教習所』などで知られる漫画家・真造圭伍さんの、初期の短編集です。2003年から2009年の作品なので、高校生の頃に描いていた作品も見られます。ファンにとっては、たまらない作品集ですね。

1冊を通して、絵のタッチがだんだん変わっていくのがよくわかります。高校生の頃の作品は、荒々しいシュールな絵柄だったのが、後半になるほど繊細なタッチになっていくんです。2003年からの6年間で、色々な描き方を試行錯誤したんだろうな、とつい想像してしまいますね。

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この短編集の本当の価値は、最後のページにある解説を読むとよく分かります。それぞれの作品がいつ頃のもので、どんな媒体に載ったかが書かれているのですが、加えて「実はあの作品の原型」といった秘密も。例えば、この冊子にある「夏至」という作品が『ぼくらのフンカ祭』の原型になったと書かれています。これってファンにとってはすごく貴重ですよね。真造さんの代表作が、原型からどのように再構成されて変わっていったのか、それらが分かる資料として、すごく価値の高い1冊だと思います。

この短編集の本当の価値は、最後のページにある解説を読むとよく分かります。

『最初期短編集(2003〜2009)』 真造圭伍
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『僕は君とか好きじゃないけど』 六条くるる

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『僕は君とか好きじゃないけど』 六条くるる

六条くるるさんは、独特のトゲのあるメッセージで人気の短歌作家。過去に発表した「恋愛アレルギー」「Young, Dead, in Love」という2冊の作品集を1冊にまとめたものです。タイトルを見ただけで「ちょっと毒づいてるな」と感じますよね。これは、中にも収録されている

もし君が僕を好きならいいのにな 僕は君とか好きじゃないけど

という作品から付けられています。

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このように、皮肉っぽくて、ちょっと斜に構えているような作風が特徴なんですが、なぜか共感してしまうんですよ。人間が持っている、ちょっと腹黒い部分や、わがままな部分をうまく表現していて。若い人たちの「本音」との親和性がすごく高いんですよね。中には有名な短歌を六条さん流に皮肉った

「この味がいいね」と君が言ったことそれが別れた原因だった

なんて作品もあります。

こんな、一見ネガティブで毒のある作品ばかりの六条さんですが、時々、すごくピュアな側面が垣間見られる作品に出合うんです。例えば

新しい恋をしなくちゃ今よりも君を嫌いになれますように

など。シニカルな短歌が並ぶ中に、こんなピュアな歌を挟んでくるので、そのギャップがいい。攻撃的なことを言っているようで、実は「生きづらさ」みたいなことを上手く表現してるんですよね。

シカクが語る「リトルプレスの現在」 第8回『僕は君とか好きじゃないけど』『酒をみつめる対話集 酒の穴』など-画像-15

ちなみに表紙のイラストを描いているのは、原田ちあきさんというイラストレーターです。この方も「悪口」をテーマに作品を発表されていて、若い世代に人気の方。六条さんのファンとしても知られています。みんな腹黒い気持ちとかズルい気持ちとかを持っているけど、普段は表に出せなくて悩んでしまう若者って多いと思うんです。だから、この二人のような代弁者がいると癒やされるんですね。

『僕は君とか好きじゃないけど』 六条くるる
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『酒をみつめる対話集 酒の穴』 スズキナオ×パリッコ

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『酒をみつめる対話集 酒の穴』 スズキナオ×パリッコ

こちらはシカク出版の最新刊です。「酒場ライター」のスズキナオさんとパリッコさんの2人が、お酒を飲みながらダラダラと繰り広げる会話を、そのまま再現した対談集。これほど人生の役に立たない本は珍しいかも知れません(笑)。ちなみにスズキナオさんは大阪在住、パリッコさんは東京在住なので、一緒に飲んでいるわけではなく飲みながらスカイプのチャットで会話しているんです。そのテキストを本にしてしまったんですよ。斬新ですよね。

「酒場ライター」のスズキナオさんとパリッコさんの2人が、お酒を飲みながらダラダラと繰り広げる会話を、そのまま再現した対談集。

タイトルの「酒の穴」というのは、この2人のユニット名です。2人はとにかくお酒が大好きで、以前からお酒の飲み方の可能性を追求してきました。それで「居酒屋やバー以外にも、おいしくお酒を飲める場所はたくさんあるんじゃないか」という考えに至り、公園のベンチや池の畔など、取りあえず飲めるスポットを探し歩くようになりました。そんな場所を「酒の穴」と名付けたのが始まりです。

お酒を飲んでる時の会話って、あまり中身のない話が多いですよね。この本もまさにそうで、脈絡も結論もない話が延々と続いているんです。例えば、「唐揚げにレモンをかけるかかけないか……」みたいな論争について語っている所があるのですが、勝手にレモンをかける人を「梶井と名付けよう」みたいな。そして「梶井」という架空のキャラクターについて「梶井は絞った後のレモンの皮を床に捨てて証拠隠滅する」とか、勝手に話をつくって盛り上がっているんです。

「唐揚げにレモンをかけるかかけないか……」みたいな論争について語っている所があるのですが、勝手にレモンをかける人を「梶井と名付けよう」みたいな。そして「梶井」という架空のキャラクターについて「梶井は絞った後のレモンの皮を床に捨てて証拠隠滅する」とか、勝手に話をつくって盛り上がっているんです。

2人とも普段は音楽活動をしたり小説を書いたりしているので、想像力や表現力がすごく豊か。どうでもいい話なのに、妙に笑えるんです。読んでいると、自分自身も2人と一緒に飲んでいるような錯覚に陥るんですよ。ぜひ、1人でダラッと飲んでいるときに読んでほしいですね。人生の役に立つことは何も書いていませんが、頭が疲れたときや、何も考えたくないときには最高の癒しになりますよ。

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『酒をみつめる対話集 酒の穴』 スズキナオ×パリッコ
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  • シカク
  • 店舗データ

    シカク

    住所:大阪市此花区梅香1-6-13
    Tel:06-6225-7889
    営業時間:13時00分~19時00分
    定休日:火・水曜
    アクセス:JR・阪神なんば線西九条駅から徒歩15分
    阪神なんば線千鳥橋駅から徒歩5分
    公式ホームページ:http://uguilab.com/shikaku/
    オンラインショップ:http://shikaku.ocnk.net/

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