シカクが語る「リトルプレスの現在」 第9回『すこし低い孤高』『郷土愛バカ一代!』など

2018/03/07

WRITERテキスト:トライアウト・福井英明/撮影:トライアウト・佐伯亜由美

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シカクが語る「リトルプレスの現在」 第9回『すこし低い孤高』『郷土愛バカ一代!』など

リトルプレスを中心に、さまざまなインディーズ出版物を扱うセレクトショップ「シカク」が、イチオシの作品を紹介するコーナー。最終回となる今回もインパクトの強いものから、静かに生き方を考えさせてくれるものまで、リトルプレスの奥深さを教えてくれる作品がそろいました。前回に続き、スタッフの赤井あぞさんにもコメントをいただきました。


『すこし低い孤高』ラショウ・香山哲

http://shikaku.ocnk.net/product/1666

『少し低い孤高』 ラショウ・香山哲

こちらはラショウさんと香山哲さんという2人のクリエイターが、生き方について語り合っている対談集です。そもそも、この2人が何者かというと……すごく難しいのですが、大まかにいうと「クリエイター」です。2人に共通するのは「ゲームを作ったことがある」ということと「漫画を描いたことがある」という2点。それぞれ他に舞台を作ったり民芸品を作ったり、まったくジャンルにとらわれない活動をされています。

そんな2人がこの本で語るのは「それなりの高さで楽しく生きる」方法。特定のジャンルで最高峰をめざすのではなく、山の中腹くらいで楽しく生きるにはどうするか。それを「低い孤高」と呼んでいるんですね。巻頭の「この本について」に、その哲学が表れています。

低くても孤高だから、他人と自分を比べて惨めな思いをすることもないし、自分の楽しいことに集中しやすい。簡単に言うと、本書はそれをやるための手引きだ。

そして、この本を読んで欲しい人として「他人との競争にうんざりしている人」や「周りの意見に流されたくない人」などを挙げています。

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ラショウさんは、その昔「ボコスカウォーズ」というゲームソフトをヒットさせた方なんですが、その後はゲーム制作とはまったく違うことばかりされてきました。普通だったら、また同じゲームの世界で続けてヒットを狙うと思うんですよね。でも、そんな世間一般とは逆行した行動を取るところに香山さんも共感し、何かを学び取ったんだと思います。

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この本は、他の自己啓発本のように「こうすればうまくいく」とアドバイスするものではなく、「僕たちはこうやって、それなりに幸せに生きている」と、あくまで選択肢を提示する姿勢に徹しているところがいいですね。正解を教えるのではなく、考えるきっかけを与えてくれる。だから「そういう視点もあるのか」という感じで気楽に読んでもらえると思います。

『すこし低い孤高』ラショウ・香山哲
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『文芸逡巡 別冊 郷土愛バカ一代!』ピストン藤井

http://shikaku.ocnk.net/product/1603

『文芸逡巡 別冊 郷土愛バカ一代!』 ピストン藤井

ピストン藤井さんは富山在住のフリーライター。この方が地元・富山を紹介するシリーズ本なのですが、紹介といってもガイドブックとはまったく違います。紹介するものがとにかくディープで、一般的な観光ガイドにはぜったいに載らないマニアックな場所や変わったイベントばかりを集めているんです。

例えば「奇天烈フードで登山客の胃袋をアタック! 富山が誇る珍奇コンビニ」という記事では、立山のふもとにある風変りなコンビニを紹介しています。ここの二代目が作るサンドイッチがすごくて、たこ焼きやブリ、おでんなど、何でもかんでもパンにはさんで売ってしまう(笑)。

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あと面白いのは、地元ソングの「最新ヒットチャート」を紹介するコーナー。ヒットチャートといいながら、灯油販売の車が町を巡回するときのBGMや、地元のクリーニング店のCM曲を紹介している。ゆるキャラを紹介するコーナーでは「ボッコボコの顔をした田舎者カップル」など、ストレートすぎる表現に思わず「これ大丈夫?」と思ってしまいます(笑)。

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なぜ、こんなにもディープなネタばかり紹介されているのかは、最後のあとがきを読めばわかります。「町おこしをしたいわけではなく、くだらなくて、バカタレで、トゥー・マッチなものにただ単に出会いたくてやってきました」と。とにかく、こういう“ふざけた”ものが好きなんでしょう。表紙の「文芸逡巡」というパロディーや「なぜこの写真?」というビジュアルなど、こういうふざけたものが作れるのもミニコミ誌の魅力です。

『文芸逡巡 別冊 郷土愛バカ一代!』ピストン藤井
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『ザ・閉店2 -デウスエクスマキな食堂17年冬号-』ガキ帝国

http://shikaku.ocnk.net/product/1641

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これはタイトルの通り、閉店した飲食店だけを集めている本です。表紙の「何処へ行ってもやってないゾ」というキャッチコピーで、いきなりやられちゃいますね。しかも「北鎌倉で一番使えない食堂ガイドブック」というサブタイトル付き(笑)。しかし、決してふざけた本ではなく、中の記事はすごく充実しています。

著者のガキ帝国・刈部山本さんは「デウスエクスマキな食堂」というシリーズ名で、たくさんのグルメ本を出されている方。以前はコーヒー専門店を自営されていたこともあり、飲食店の取材記事のクオリティがすごく高いんです。この本も、既に閉店している店にも関わらず、あたかもその店の中にいて食べながら書いているようなリアリティがあるんです。

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そして、何よりすごいのが、紹介しているメニューを「食べたい」と思った読者のために、似たようなものが食べられる別のお店を紹介しているんです。この情報量はすごい。普段からたくさんのお店に足を運んで、お店の特徴や食べたメニューを詳細に記録してきたからこそできるんですね。

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そもそも、なぜ閉店して行くことができない店のガイドブックなんか作ったのか、疑問ですよね。私が思うに、この本には刈部さんのこんな思いが込められているような気がするんです。「お店はいつまでもあるとは限らない。ある日突然なくなる可能性もあるから、行けるときに足を運んで食べ支えてほしい」と。

『ザ・閉店2 -デウスエクスマキな食堂17年冬号-』ガキ帝国
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『メートル』斉所

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『メートル』 斉所

漫画家・斉所さんによる、漫画家をリアルに描いた作品です。漫画家だからこそわかる苦労話や人間ドラマ、心の葛藤などが忠実に表現されていて、心に刺さるシーンがたくさん出てきます。漫画家だけでなく、クリエイターの世界をめざしている人にはすごく響く作品だと思います。

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主人公は2人の女の子。一人は商業で既に活躍している漫画家で、もう一人はなかなか芽が出ない漫画家の卵。2人は学生からの友達で、漫画を描くことの苦しみや悩みを共有できるからこその友情を軸にストーリーが展開されていきます。所々に心象風景を哲学的に描いたシーンもあり、「ハッ」とさせられる名言なんかも出てくるですよ。「どんな生き方を選んでも迷う時は来る。その判断を人に委ねてはいけない」など、けっこう深い。かと思えば、2人でテレビゲームに興じているシーンなんかもあって、リアルな日常を描いたカジュアルさと人生哲学を語るシリアスさのバランスがいいですね。

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『メートル』というタイトルも意味が深そうですね。作品の中でこの意味を説明しているわけではないので、読者に考える余地を与えてくれています。漫画家としての高みを表す距離なのか、漫画を描き進めることを表す距離なのか、2人の立場の違いを表す距離なのか……その辺を考えながら読むのも面白いですよ。

『メートル』斉所
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『RIDE』ながまき

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『RIDE』 ながまき

これは切り絵の可能性を広げてくれるというか、「白と黒」の2色の表現力に驚かされる作品です。本としてはすごくシンプルな作りで、6点の切り絵の作品と最小限のクレジットが載っているだけ。でもビジュアルのインパクトがすごくて、見ごたえは十分です。

載せている6つの作品はすべて「乗り物」を切り絵にしたもの。

(1)富士急ハイランドのジェットコースター
(2)わたらせ渓谷鉄道 足尾駅
(3)航空自衛隊入間基地のヘリコプター
(4)東京ビッグサイトで見たF1マシン
(5)JR酒田駅
(6)国道1号線 箱根駅伝5区で見た白バイ

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切り絵って白黒なので、どこを黒くしてどこを白くするか、というセンスが問われます。その点、この方のセンスがすごくいい。かなり大胆に黒を残しているんですが、不思議と造形が分かるんです。このF1マシンとか、ほとんど黒なのにフォルムのカッコ良さが表現されていますよね。

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ながまきさんは、この他にも手描きのフォントを作って紹介する『my letter』という本も出されています。「切り絵作家」というわけではないんですよ。それでこのクオリティって、驚きますよね。きっと細かい手作業が得意で、目も正確なんだと思います。作品の実物が見たくなってきます!

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『RIDE』ながまき
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  • シカク
  • 店舗データ

    シカク

    住所:大阪市此花区梅香1-6-13
    Tel:06-6225-7889
    営業時間:13時00分~19時00分
    定休日:火・水曜
    アクセス:JR・阪神なんば線西九条駅から徒歩15分
    阪神なんば線千鳥橋駅から徒歩5分
    公式ホームページ:http://uguilab.com/shikaku/
    オンラインショップ:http://shikaku.ocnk.net/

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