「音楽とは何か」を示唆できる作品を志向していきたい―牛尾憲輔が語る「リズと青い鳥」と音楽(2)

2018/05/25

WRITERインタビュー:トライアウト・北山真衣/構成・テキスト:Zing!編集部 ピーター/撮影:トライアウト・佐野将宏

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「音楽とは何か」を示唆できる作品を志向していきたい―牛尾憲輔が語る「リズと青い鳥」と音楽(2)

――ここからは牛尾さんご自身の音楽活動についてもお伺いしたいと思います。まずは劇伴をつくられることの面白さ、醍醐味を教えてください。

劇伴と自分のアーティスト仕事は、まず「これでOK」という人が違います。
個人の仕事では、自分が「OK」と言うまでは終わらない。自分のセンスで決まっていく。
劇伴は監督と決めることなので、僕が「100%」だと思った曲でも作品にとっては「120%」で、必ずしもそれが良いとも限らないんですね。
具体的に説明しましょう。切ないシーンがあったとして、そこに美しいメロディをつくることができたとします。メロディが歌っている、いっぱい動いている、ってときにそこまでシーンが切なくないかもしれないじゃないですか。そうしたら「メロディの音数を減らしていこう」「あまり高音まで弾かないようにしよう」という風に少しずつ成型していくんですね。そういう作業って誰かとのコラボレーションじゃないと出てこない。そういうのは劇伴だとやれることですね。

自分の思いもしないところで音が抜けたり、メロディが出てきたりするんです。そういうのは自分ひとりではできないことです。山田監督たちとの対話の中で自分では予期しなかったものができてくる、というのが劇伴の醍醐味ですね。

また、個人の仕事では基本的にダンスミュージックをつくっています。ダンスミュージックでは4小節とか8小節とか16小節という単位で物事を動かしたくなるんですよ。「16小節後に何が起こるといいな」とか「ここから先ドラムがお休みするのは16小節がいいか32小節がいいか」とか、あるいはそれをどう壊すか……とか。
でも「リズと青い鳥」のオープニングやエンディングような仕事では、さっきお話したように、自分の思いもしないところで音が抜けたり、メロディが出てきたりするんです。そういうのは自分ひとりではできないことです。山田監督たちとの対話の中で自分では予期しなかったものができてくる、というのが劇伴の醍醐味ですね。

――これからどんな映画音楽、音楽をつくられていきたいかを教えてください。

最近はメロディが良い、コードが良い、リズムが良いという音楽的な良し悪しに全然興味がないんです。音楽に対してラディカル(革新的)というか……例えば音楽から何が抜けたら音楽じゃなくなると思いますか? あるいは音楽に必要なのはなんだと思いますか?

――うーん……難しいですね。

歌詞がなければ音楽じゃないって人もいるだし、リズムがなきゃ嫌だって人もいるかもしれない。音楽家、ジョン・ケージに「4分33秒」という曲があります。ピアノの前に演奏者が座って、フタを閉じて4分33秒間座って帰るんですね。音が鳴らないんですよ。それが音楽かどうかって議論が20世紀に散々されてきたんですけど、それは革新的なことじゃないですか。そういう哲学のようなものをずっと持っていたいなあと思っています。

――無音の曲を聴くと、どんな反応になるんでしょうか。

例えばこのインタビューの場で4分33秒間、無音でいるというのは辛いと思うんですね。でも音に注目せざるを得ない状況になる。今この空間で言えば空調の音に注目する、とか。道端であれば人の足音や隣を走る車の音がリズムとして聴こえてくる。あるいは自分でリズムをとろうとすると思うんですよ。

――自分の足音も合わせにいくかもしれませんね。

実はジョン・ケージの「4分33秒」って「何があっても音楽は鳴る」っていう作品なんですね。

そうなんです。実はジョン・ケージの「4分33秒」って「何があっても音楽は鳴る」っていう作品なんですね。ケージは無響室という音が全く聴こえない部屋に入ったときに高周波の音を聴くんですね。どうして何もないところで音が聴こえるんだってケージがある神経医に聞いてみると、どうやら完全な無音の中では内耳から視床下部を通って神経が明滅する音を自分の耳がとらえるみたいなんですね。だから、何があっても音楽は鳴る。

――どんな状況でも音楽は鳴る、というのは面白いですね。

ジョン・ケージ「4分33秒」の議論から導き出される答えは「音楽に必要なのは時間だけ」っていうことなんです。その時間の中に音楽が鳴ろうが鳴るまいがどんなメロディやリズムがあろうが、それは音楽なんじゃないか。時間に対して革新的なのは何なんだろう?というのを今後考えていきたいです。

コンセプティブに「音楽ってどういうものなんだろう」と示唆できるような作品を志向していきたいと思います。

ケージが「4分33秒」の次に発表した曲は「0分00秒」なんですね。音が何もないのであれば、それは音楽の絶対零度というか音楽の終わりだと思うんですけど、この曲は音が鳴るんですよ。美術館に椅子を並べて別の場所で鳴っている音をアンプで拡大して聴いたり。でもそうやって音が鳴るので、どうしても時間が存在するんですね。じゃあ時間というものを否定する音楽はどこに存在するんだろうっていうのは哲学を持つ音楽家はみんな探しているんじゃないかなと思います。
ケージには演奏するのに639年かかる曲もあったりして。そういう風にコンセプティブに「音楽ってどういうものなんだろう」と示唆できるような作品を志向していきたいと思います。「良い曲」は他の人に任せて(笑)。僕はその謎にチャレンジしていきたいなと思っています。


映画 「リズと青い鳥」は2018年4月21日から全国の映画館で公開中。

© 武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会

  • 牛尾憲輔
  • PROFILE

    牛尾憲輔

    ソロアーティストとして、2007年に石野卓球のレーベル"PLATIK"よりリリースしたコンビレーションアルバム『GATHERING TRAXX VOL.1』に参加。
    2008年12月にソロユニット"agraph"としてデビューアルバム『a day, phases』をリリース。石野卓球をして「デビュー作にしてマスターピース」と言わしめたほどクオリティの高いチルアウトミュージックとして各方面に評価を得る。2010年11月3日、前作で高く評価された静謐な響きそのままに、より深く緻密に進化したセカンドアルバム『equal』をリリース。
    同年のUNDERWORLDの来日公演(10/7 Zepp Tokyo)でオープニングアクトに抜擢され、翌2011年には国内最大の屋内テクノフェスティバル「WIRE11」、2013年には「SonarSound Tokyo 2013」にライブアクトとして出演を果たした。  
    一方、2011年にはagraphと並行して、ナカコー(iLL/ex.supercar)、フルカワミキ(ex.supercar)、田渕ひさ子(bloodthirsty butchers/toddle)との新バンド、LAMAを結成。 2003年からテクニカルエンジニア、プロダクションアシスタントとして電気グルーヴ、石野卓球をはじめ、様々なアーティストの制作、ライブをサポートしてきたが、2012年以降は電気グルーヴのライブサポートメンバーとしても活動する。
    2014年4月よりスタートしたTVアニメ「ピンポン」の劇伴を担当した。
    2016年2月には3rdアルバムとなる『the shader』〈BEAT RECORDS〉を完成させ、同年9月に公開された京都アニメーション制作、山田尚子監督による映画『聲の形』の劇伴を担当。映画公開に合わせて楽曲群をコンパイルしたオリジナル・サウンドトラック 『a shape of light』がリリースされた。
    2018年初春、Netflixにて全世界配信された「DEVILMAN crybaby」の劇伴を担当。
    2018年2月17日に公開された白石和彌監督による映画「サニー/32」の劇伴を担当。
    その他、REMIX、プロデュースワークをはじめ、CM音楽も多数手掛けるなど多岐にわたる活動を行っている。

    http://www.agraph.jp

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