映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」主演・南沙良、原作・押見修造、『どもる体』伊藤亜紗が語る(前編)

2018/07/04

WRITERインタビュー・テキスト:Zing! 編集部ピーター/撮影:トライアウト・佐野将宏

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映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」主演・南沙良、原作・押見修造、『どもる体』伊藤亜紗が語る(前編)

映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』が2018年7月14日より公開されます。
主人公・大島志乃は吃音(きつおん)を持つ少女。彼女がそれ以外のコンプレックスにも悩みながら周囲と関わっていく姿が描かれています。
今回は主演の南沙良さん、原作者の漫画家・押見修造さん、東京工業大学の研究者・伊藤亜紗さんによる鼎談(ていだん)です。
伊藤さんは吃音がテーマの『どもる体』(医学書院)を出版されるということで、参加いただきました。作品のことはもちろん、吃音や、コミュニケーションについていろいろとお話を伺いました。

・映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』公式サイト
http://www.bitters.co.jp/shinochan/

・映画 予告編


生々しくて、まっとうな青春映画。でもサスペンス感もある

――まず映画についてお話を聞きたいと思います。押見さんと伊藤さんは映画を観られてどんな感想をお持ちですか?

映画「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」主演・南沙良、原作・押見修造、『どもる体』伊藤亜紗が語る(前編)-画像-01

押見修造さん(以下、押見):南さんの演技がすごかったですね。加代役の蒔田彩珠さんも菊地役の萩原利久くんも、演技が生々しくて素晴らしかった。とてもきれいな青春映画だと思いました。風景もきれいだし、佇まいもそうだし、まっとうな青春映画。でも原作のきれいなだけじゃない根幹の部分もちゃんと引き継いでいてくれてうれしかったです。

押見修造さんによる原作漫画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(amazon.co.jpより)
©押見修造/太田出版

伊藤亜紗さん(以下、伊藤):私も、南さんの演技が素晴らしいなと思いました。特に感極まったシーンでの鼻水が素晴らしかった(笑)。

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南沙良さん(以下、南):忘れてください(笑)。

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伊藤:私の本『どもる体』の中でも、吃音の当事者の方にお話をいろいろ伺ったのですが、ある方が「吃音とは言葉じゃなく体が出ちゃうことだ」って言っていました。だから鼻水で語る、というのはよく分かりました。

伊藤亜紗さんの『どもる体』(シリーズ ケアをひらく 医学書院)

伊藤:吃音は言葉の問題だと思われていることが多いんです。言いたいことが流暢に出てこないとか。でも実際は体と言葉の関係がうまくいかない、体が言うことを聞いてくれないんだと思います。だから言葉のことだけじゃなくて、体の生々しさが映画にはよく出ていて良かったです。

――南さんは今のお二人のお話を聞かれてどうですか?

南:鼻水のシーンは自分でもがんばりました(笑)。演技していたときも「これすごい感じで映ってるだろうな……」と思ってたんですけど、改めて観たときやっぱりすごかったです(笑)。普段はあんな感じにはならないんですけど。

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伊藤:私は、吃音って映画と相性がいいな、と思いました。多面的に見えてくるというのもあるし、言おうとしているけど出てこない、待ちの時間に味わいやサスペンスがある。

押見:確かに『志乃ちゃん~』の映画を観てサスペンスだな、と思いました。漫画だとそこは難しいところがあります。漫画よりも映画のほうが間ができやすい、だから体の説得力がありますよね。登場人物が力をぐっと入れているシーンには、観ている方も力が入る。それが映画の生々しさなのかもしれませんね。

伊藤:言葉じゃなくて体で伝える、っていうのは映画的ですよね。吃音のテーマが活かされているのはそこじゃないでしょうか。実際に目の前で吃音で困っている人がいたら、「どうしたらいいんだろう」「配慮しなきゃ」というモードになって、相手の言葉が出るのを待てない場合もあると思うんです。でも映画だと、サスペンスとしてエンタメになっているので、待てる。

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志乃ちゃんが自分の名前を言えないのは押見さんの体験から

――映画の冒頭で、志乃ちゃんが自分の名前を言えない、自己紹介のシーンがありました。「大島志乃(おおしましの)」の最初の「お」が言えない。それは押見さんもそういうことはあったんですか?

押見:そうですね。僕も自分の名字の「お」が言いづらい。だから自己紹介が一番怖かったです。「大島志乃」という名前は、僕の名前「押見修造」のイニシャル「O・S」と同じになるように設定したんです。

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――そうだったんですね! 南さんはこのシーンを演じられていかがでしたか? 見ているこちらも、辛いというか緊張しました。

南:私も自己紹介とか大勢の前で話すことが得意ではないので、とても緊張しました。

押見:自己紹介が好きな人っているんですかね? 学生のときは、周りのみんなが自己紹介苦手だって言っていて一応は理解できてたんですけど……「俺のほうが大変なはずだ」とは思ってましたね(笑)。

――菊地くんが志乃ちゃんの自己紹介をからかってくるのは、吃音に対してじゃなくても「あるある」なことだなって思いました。

伊藤:このお話は、志乃ちゃんの周りにいる人たちの関わり方も良いですよね。吃音に対して「面白い」「しつこい」とかはっきり言う。性格もあるんでしょうけど、あんまり優しすぎないですよね。

押見:僕は哀れむ目線を敏感に察知して、優しく接してこようとする人から逃げてきたところがあります。かえってがさつな人とか、笑ってくれる人に近づいていく習性がありました(笑)。

伊藤:菊地くんのキャラクターは原作とはまた変わってましたよね。

押見:そうですね、映画のほうがより彼のバックグラウンドが掘り下げられていましたね。

南:現場でも、菊地役の萩原くんはムードメーカーでしたね。ずっとしゃべってくれてました。

――押見さんの学生時代にも菊地くんのような友だちはいましたか?

押見:いましたね。直接モデルにしたわけではないですけど。テンション高くてやたら絡んできて……当時は嫌でしたけど、今思うとあの目は寂しそうな目だったな(笑)。かまって欲しい、というか。僕以外に相手をする人がいなかったのかも(笑)。

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歌や独り言のときは吃音が出ない?

――南さんは演技に入るまでに、どういう風に作品をご自身の中に落とし込んでいったのでしょうか。

南:原作を読むまで吃音がどういうものかよく分かっていなかったんですね。だから撮影に入る前に吃音について知ろう、と当事者の方にお話を聞かせていただきました。皆さん、普通に私と雑談してくださいました。お話を聞く前は、もっと違うことを想像していました。

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押見:もっとシリアスな悩みを持っているんじゃないかって思ってたんですね。

南:そうですね。例えば音楽活動をされてる方は「歌だったら大丈夫」っておっしゃっていて。

――映画でも志乃ちゃんはスムーズに歌っていますもんね。押見さんの原作漫画でもそうですが、歌が大丈夫というのはご自身の経験からなのでしょうか?

押見:そうですね。歌とか、独り言とかは大丈夫ですね。

伊藤:そのへんの描写はすごく丁寧ですよね。独り言の部分は特に、当事者じゃないと分からないよなと思いました。いつもどもるわけではない、という。

押見:はい、どもりには波があるんですよね。

――歌や独り言だと吃音が出ないというのは伊藤さんの『どもる体』にも書かれていますよね。

伊藤:ほぼ100%、どの当事者の方もそれは言われてましたね。人格がスイッチする感じが面白いです。いきなり歌うと別人になる。

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押見:南さんは、どもっているときの演技には力が入ってました?

南:吃音の方に取材したときにそう聞いていたので、同じように力を入れて演技していました。足とかには特に。

押見:自分は意識せずとも吃音が出るので、意識してどもる演技は大変なんだろうなと思いました。無意識を意識に持ってこなきゃいけないから。観ていて自分のことがフラッシュバックするような演技でしたね。

――当事者の体の中では何が起こっているんだ、というのは伊藤さんの本にも書かれてましたね。

伊藤:吃音のタイプにもよると思いますね。難発だと体は緊張していて、連発だと緊張がなさすぎる。当事者の方も「吃音の演技はできない」っておっしゃっていました。

押見:意識してやるのは確かにできないですね。

――吃音のセリフ部分について脚本にはどういう風に書かれていたんでしょうか?

南:「二、三回どもる」というようには書かれていましたけど、監督には「気にしなくていいよ」と言われていたので、自然に演技をしていました。

――では、志乃ちゃんはこういうときこうどもるだろうな、というのは南さんが考えてやったんですか?

南:そうですね、監督とお話をしながら進めました。

押見:ほぼセリフ全部アドリブみたいな感じですね。

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――それはすごいですね!

伊藤:前もって準備したというよりは、出ちゃったみたいな感じですか?

南:はい、だからちょっとやりすぎかな?と思うこともありました(笑)。

押見:面白いですね。撮影現場に行かせていただいたとき、同じシーンを通しで撮ったあとに、また別の角度からまた通しで……みたいなこともよくあったんです。すごいエネルギーを使うよな、力入るよなと思って見ていました。それはすごかったですね。


後編はこちら

・映画『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』公式サイト
http://www.bitters.co.jp/shinochan/
2018年7月14日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー。

  • PROFILE

    押見修造

    1981年3月19日生まれ。群馬県出身。2002年「真夜中のパラノイアスター」でデビュー。これまで思春期の少年少女をモチーフに、独創的な作風で数々の作品を発表。「惡の華」がTVアニメ化、また「漂流ネットカフェ」、「ぼくは麻理のなか」がTVドラマ化、「スイートプールサイド」が2014年松井大悟監督により映画化されるなど、人気作品の映像化が続いている。自身の体験をもとに描いた「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」は、2011年12月~2012年10月太田出版WEB連載空間ぽこぽこに連載され、大きな感動と反響を呼んだ。その後、2012年に単行本化され、ロングセラー作品として幅広い読者に愛読されている。現在、「ハピネス」(別冊少年マガジン/講談社)「血の轍」(ビッグコミックスぺリオール/小学館)を連載中。

  • 南沙良さん
  • PROFILE

    南沙良

    2002年6月11日生まれ。第18回ニコラモデルオーディションのグランプリを受賞、現在も雑誌「nicola(ニコラ)」専属モデルとして活躍。一方、女優としてはデビュー作『幼な子われらに生まれ』(17/三島有紀子監督)に出演、主人公・信(浅野忠信)の再婚相手の連れ子という複雑な役どころを演じ切り、報知映画賞、ブルーリボン賞新人賞にノミネートされるなど、高い演技力で注目を集める。また、行定勲が監督を務めたロックバンド・レベッカの17年ぶりの新曲「恋に堕ちたら」のMVに主演、透明感あふれる存在が話題となる。7月14日公開の『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』で、映画初主演を務める。

  • 伊藤亜紗さん
  • PROFILE

    伊藤亜紗

    東京工業大学リベラルアーツ研究教育院准教授。専門は美学、現代アート。もともと生物学者を目指していたが、大学3年次より文転。2010年に東京大学大学院人文社会系研究科基礎文化研究専攻美学芸術学専門分野博士課程を単位取得のうえ退学。同年、博士号を取得(文学)。主な著作に『どもる体』(医学書院)、『目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社)など。WIRED Audi INNOVATION AWARD 2017受賞。


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