最新の芥川賞は、「ちょっと暇だったから小説を書き始めた」高橋弘希の『送り火』が受賞!

2018/08/09

WRITER文:菊池良/絵:つのがい

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最新の芥川賞は、「ちょっと暇だったから小説を書き始めた」高橋弘希の『送り火』が受賞!

村上龍が退任し、「美しい顔」が騒動になる

送り火

第159回の芥川賞は受賞が決まる前から話題が多かった。
まず村上龍が選考委員を退任したこと。村上は自身も『限りなく透明に近いブルー』(1976年)で芥川賞を受賞しており、2000年から選考委員を務めていた。選評では候補作全体に苦言を呈することも多く、具体的な理由は明かされていないが、今回の候補作が発表される前から退任の意向を示していたという。
村上は前回の選考会には欠席していた。前々回の選評では「当選作『影裏』は、上質な作品だったが、わたしは推さなかった」「物語は『予定調和』の連続となり、読み手としての想像力も換気されることがなかった」と書いている。
候補作である北条裕子『美しい顔』に盗作疑惑も浮上した。震災に関する描写が、複数のノンフィクション作品の表現と酷似していると指摘されたのだ。盗作か否かの線引きは、とてもセンシティブなことなので、ここでは指摘の事実を書くに留めるが、同作は雑誌掲載時から評判がよく、受賞も噂されていた。ちなみに芥川賞の選考委員は「盗用にはあたらない」としている。

生徒数12人、「習わし」が残る土地で巻き起こる少年たちの加虐性

そんな話題に事欠かなかった第159回芥川賞であるが、受賞は高橋弘希の『送り火』に決まった。
高橋は1979年、青森県出身。「指の骨」で新潮新人賞を受賞してデビューした。同作は太平洋戦争を舞台にしており、戦争を経験していない世代が、本格的な戦争小説を書いたことに、驚きを持って迎えられた。選考委員の川上未映子には「小説を構成するもののすべての水準が、極めて高い」と絶賛されている(川上は『乳と卵』で芥川賞を受賞)。同作は芥川賞候補にもなった。
では、『送り火』とはどんな小説なのか。
物語は中学生の「歩」が、東北に一家で引っ越すことになったところから始まる。歩の父親は転勤族で、いずれ東京に戻ることを前提とした引っ越しだった。そこは平川という土地で、歩は「地理は得意だが、聞いたことがない」。
わずか12人の平川の中学校に転校してきた歩は、「随分と大人びて見え」る晃と友達になる。晃は「学級の中心的人物」に見えるが、女子によると過去に暴行事件を起こしているらしい。
学校には稔という物静かな少年がいた。歩は男子グループと遊んでいるうちに、晃の稔に対する加虐性に気づいていく。しかし、稔は何も言わないし、晃も時折は稔を庇うような行動をする。二人の奇妙な関係が紡がれ、夏に向かって気温と湿気が上がるなか、村の「習わし」の日が近づいてくる──。
『送り火』は少年たちの加虐性と、学校という空間ゆえの一筋縄じゃない人間関係を描いている。またまるで太陽光のレンズフレアを感じさせるような自然描写と、痛さがこちらに伝わってくる暴力描写も魅力的だ。小説に出てくる少年たちの関係性は、学校に通っていた人間なら誰もが「胃の奥が痛くなるような共感」を覚えるだろう。
高橋は受賞の心境を「うれしいっちゃうれしい」と表現した。

ものを作ることはぜんぶ似ている、絵も、音楽も、映画も

高橋は文教大学を卒業後に、作家デビューまでの間、塾講師をしながら音楽活動をやっていた。見た目もバンドマン風だ。芥川賞受賞を発表後、インターネット上では高橋の風貌が「バンプ・オブ・チキンの藤原基央に雰囲気が似ている」と話題にする人もいた。
現在は音楽活動はしていないそうだが、作っていた音楽は「オルタナ系」だという。
雑誌「文學界」のインタビューにて、聞き手の藤田直哉に「音楽の作り方と似ています?」と聞かれると、「ものを作っていくのって全部似てると思うんですよ。絵も、音楽も、映画も、小説も」と答えている。

送り火(文藝春秋) amazon.co.jpより

  • 菊地良
  • PROFILE

    菊池良

    1987年生まれ。ライター、詩人。2009年に「二代目水嶋ヒロ」を襲名。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)、『世界一即戦力な男』がある。

  • つのがいさん
  • プロフィール

    つのがい

    漫画家・イラストレーター。静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。

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