9月1日公開、映画「寝ても覚めても」濱口竜介監督インタビュー。「人生の危うさをリアルに描きたかった」

2018/08/31

WRITERテキスト:トライアウト・黄田 駿/撮影:トライアウト・中村光明

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©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS

愛の真実を問うた映画「寝ても覚めても」が2018年 9月1日に公開。濱口竜介監督は4 時間を超えるの長編作品「親密さ」と「ハッピーアワー」が数多くの映画賞を受賞、最新作「寝ても覚めても」も第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品されるなど、国内外からも注目を集めています。今回、濱口監督に単独インタビュー。今作に対する思いやカンヌのレッドカーペットを歩いた感想を伺いました。

・予告動画

・作品情報

出演:東出昌大 唐田えりか 瀬戸康史 山下リオ 伊藤沙莉 渡辺大知(黒猫チェルシー)/仲本工事/田中美佐子
監督:濱口竜介
脚本:田中幸子、濱口竜介
原作:「寝ても覚めても」柴崎友香(河出書房新社刊)
音楽:tofubeats
主題歌:tofubeats「RIVER」(unBORDE/ワーナーミュージック・ジャパン)
英題:ASAKOⅠ&Ⅱ
2018/119分/カラー/日本=フランス/5.1ch/ヨーロピアンビスタ
製作:『寝ても覚めても』製作委員会/ COMME DES CINÉMAS
製作幹事:メ〜テレ、ビターズ・エンド
制作プロダクション:C&Iエンタテインメント
配給:ビターズ・エンド、エレファントハウス
www.netemosametemo.jp


「寝ても覚めても」あらすじ

「寝ても冷めても」
©2018 映画「寝ても覚めても」製作委員会/ COMME DES CINEMAS
東京。サラリーマンの亮平は、会社にコーヒーを届けに来た朝子と出会う。真っ直ぐに想いを伝える亮平に、戸惑いながらも惹かれていく朝子。ふたりは仲を深めていくが、朝子には亮平に告げられない秘密があった。亮平は、かつて朝子が運命的な恋に落ちた恋人・麦に顔がそっくりだったのだ――。

フィクショナルなストーリーを実にリアルに描きたかった

――作品拝見しました。同じ顔を持つ麦と亮平の間で揺れ動く朝子の繊細な心理描写と雨が晴れていく様子を写したロングショットなど、濱口監督ならではの心を打つシーンばかりで感動しました。そしてラスト30分の展開には驚かされてしまい、鑑賞後も深い余韻の残る今まで観たことのないラブストーリーでした。今作は柴崎友香さんによる同名小説が原作ですが、以前からお好きだったんですか?

5年くらい前に原作を読んで、「この作品を映画にしてみたい」と熱望していたので、今回は本当に嬉しかったです。

――そうだったんですね。原作の映画化は初めての経験だったんでしょうか?

学生時代は過去の名作を原作にしたりしましたが、実際に作者とコミュニケーションを取りながら製作したのは初めてでした。これまではオリジナルのフィクション作品を撮っていて、「どこにリアリティの基準を置けばいいんだろう」と悩むことが多かったんです。今回はすでに世界観が構築されていて、僕自身が原作のリアリティを感じる部分に惹かれていたんです。なので、迷わずに撮影できたと思っています。

――原作を忠実に再現した、というよりは「大切に描いている」という印象でした。原作者の文体も意識されていたんでしょうか?

映画「寝ても覚めても」濱口竜介監督インタビュー。「人生の危うさをリアルに描きたかった」-画像-02

そこはかなり意識していたので、感じ取っていただけて嬉しいです。原作を読んだ時に、自分たちの生活に直結した世界の中に朝子や亮平に麦といったキャラクターが存在している日常的な部分と、同じ顔をした男性を好きになってしまうという非日常的なテーマが同居しているのが魅力だと思っていました。そう感じたことは映画の中に残そうとしています。フィクショナルなストーリーなんだけど、これを実にリアルに描けないものか、と思ったのがスタートラインですね。そうすれば原作と同じく、映画も面白くなるだろうという確信があったんです。

――僕自身もフィクションの世界だとは思えないほど、ストーリーをリアルに感じ朝子に感情移入しながら見入っていました。今作で描きたかったテーマはなんだったんですか?

映画「寝ても覚めても」濱口竜介監督インタビュー。「人生の危うさをリアルに描きたかった」-画像-03

「人生は安心できないぞ」ってことですかね(笑)。先ほど、鑑賞後に「深い余韻が残った」とおっしゃっていましたが、まさしくそれが起こればいいなと思っていました。麦と亮平が非日常と日常を象徴しているように思えますが、日常と非日常ってくっきりとした隔たりがあるように見えて、そこまで違いがないんだよってことを伝えたかったんです。それが「人生は安心してはいけないぞ」って部分につながります。

――まんまと濱口監督の術中にはまってしまいました(笑)。これまでは4時間を超える「親密さ」、さらに5時間超えの「ハッピーアワー」といった長尺の作品が続いていました。今作が商業デビューとのことでしたが、今までと変わったことはありますか?

全然違う、ということはなかったんですが、上映時間を2時間以内に収めるというのは一つの目標でした。今までは説得力をもたせるために、描写を重ねるという手法を使っていました。今回は描写を重ねずに説得力を持たせるにはどうしたらいいだろうってことを考えていました。

――あえて台詞を削って、演技だけで見せるといったことでしょうか? 

台詞を削ることによって観客の想像が膨らむにはどうしたらいいかって感じですかね。少ない要素で、より多くの情報を受け取ってもらえるようにするにはどんな伝え方をすれば丁寧かを考えていました。

心に響くような素直な演じ方

――あえて想像の余地を残して作られていたんですね。唐田えりかさんは初のヒロインにして本格演技デビュー作。東出昌大さんは一人二役と、まったく異なる人物を見事に演じ切っていました。東出さんが「クランクイン前のワークショップが多く、初めて耳にする演技法を習った」とおっしゃっていましたが、どのようなことをされたのでしょうか?

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キャストの方々には、キャスティングした時点で全幅の信頼を寄せていました。素直に台詞を発してもらえれば、観客に良い形で届くだろうと。その素直さを求めた結果、ワークショップではニュアンスを抜いてひたすら本読みをしていました。役者さんであれば脚本を読み重ねていくうちに、演技プランが浮かんでくると思うんです。それが決して悪いわけではないんですが、よりフラットな状態で本番を演じてもらえるために徹底的に本読みを続けました。本番中はあまり口出しせず、自由に演じてもらっていました。

――キャストを信頼して役を託すという思いだったんですね。その演技法は以前からされていたんでしょうか?

このワークショップをすることで演技に存在感や厚みが一層増すんじゃないか、と思って前作から取り入れてました。「ジャン·ルノワールの演技指導」という短編ドキュメンタリー映画があって、その中で登場する演技法なんです。その作品は20分だけの短いものなので全貌はわからないんですが、素人みたいな女性がひたすら本読みを繰り返していくと女優顔負けの演技に仕上がっていくんです。

――それぞれの役を演じるにあたって、唐田えりかさんと東出昌大さんの印象をお伺いできればと思います。

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唐田さんは透明感という言葉に尽きますね。朝子は本当にこう思っているんだろう、と見える人でした。オーディションの時から素直に脚本を読んでくださっていたのが印象的で、セリフがまっすぐストンと違和感なくこちらに届く感じがしました。そのまっすぐさは朝子というキャラクターを描く上でなくてはならない要素だったんです。

――いい意味で演技経験の少なさや真っ白な部分が良かったんでしょうか?

それはあると思います。ただ演技は相互作用が大きく関わってくると思うので、唐田さんのストレートな表現が東出さんによって引き出されているという印象でした。

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東出さんは一人二役という難しい役どころで、どう演じ分けるかを思案されていたそうですが、僕は麦も亮平も台詞の性質が違っていたので、ありのままの東出さんで演じてもらえたら大丈夫だという安心感がありました。1つの役を徹底的に真っ直ぐ演じる、ということを2つやってもらったって感じですね。ご本人は、「同じ作品だけど、2つの映画を撮っている感覚だった」とおっしゃっていました。

――瀬戸康史さんが先日の舞台あいさつで「撮影が終わった後も、月1のペースで会っている」とおっしゃっていました。キャスト同士の雰囲気作りは監督も気にされていたんですか?

こればっかりは相性としか言えないのですが、東出さんが座長として、「この映画を絶対に良いものにしよう」と献身的に振る舞ってくれたのが大きいですね。ワークショップの時から、みんなを食事に誘うなどグイグイ引っ張ってくれたので、撮影の時にはいい雰囲気で取り組めました。

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唐田さんもリラックスした状態で演じられたんじゃないですかね。僕が何かしたというわけじゃなく、相性や運の良さが化学反応を起こしたってことかもしれませんね。そのきっかけを作ってくれたのは、紛れもなく東出さん。彼のおかげです。

――監督自身も撮影が進む中で、雰囲気の良さは感じてらっしゃったのでしょうか?

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そりゃもう思いましたよ、控室から常に笑い声が聞こえていたので。楽しそうだなっていつも思っていました(笑)。

ずっと朝子の味方、見守るような気持ちでした

――最高の環境の中で撮影されていたんですね。原作を丁寧になぞりながらも映画的な表現もふんだんに盛り込まれていました。中でも東日本大震災のシーンがショッキングでした。あのシーンはどういった意図があったのでしょうか?

原作は1999年から2008年の話で、2001年に起きたアメリカ同時多発テロ事件が描かれています。それと同じようにストーリーと現実の世界で起きた社会的な流れを描こうとしていたので、2008年からの8年間を描く映画の中では東日本大震災のシーンは必然的でした。日常と非日常の境界の曖昧さをテーマにしていただけに避けて通れないなと。逆になかったことにしてしまう方がおかしなことだといつからか思っていました。

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僕自身もあの震災が起きてからは、ずっと続くと思っていたものがある日突然途切れてしまうといった感覚を抱えたままです。そうした出来事をフィクショナルなストーリーと現実に起きた災害、スケールの大小を両方見せることで、一本筋の通った作品になるんじゃないかと思いました。ただナイーブな問題でもあるので、東北で出会った人たちの顔が曇らないようにと考えながら描きました。

――震災のシーンで、「これは映画の中だけの話じゃないぞ」と突きつけられるような感覚を覚えました。もう一つ印象的だったのは、写真家の牛腸茂雄さんの写真展がたびたび登場していました。あちらはなぜ牛腸さんだったんでしょうか?

原作に写真展が出てきているんですけど、この「写真」ってなんだろと考えた時に、真っ先に牛腸さんの双子の少女の写真が頭に浮かんできたんです。それは同じ顔の男性という、この映画のテーマとリンクするなと思ったんです。

――冒頭で「今まで見たことのないラブストーリー」とお伝えしたのですが、それは終盤の朝子の行動についてです。リアリティのある怖さを感じたのと同時に、自分でもそうしてしまうだろうなとも思いました。監督自身はあのシーンは感情移入しながら描かれたのでしょうか? 

感情移入という言葉が当てはまるのかはわかりませんが、あのシーンを読んだ時に驚きと同時に、納得感を覚えたんです。「朝子って自分の気持ちに正直な人だよな」って。おそらく僕はずっと朝子の味方だったと思うんです。「あなたはそうするしかないんだからそうしないさい」と見守るような気持ちでした。

主題歌「RIVER」とカンヌ、大阪への思い

――俳優さんの演技やストーリーもさることながら、tofubeatsさんの劇伴と主題歌の「RIVER」も素晴らしかったです。緩やかに流れる川のラストシーンから、エンドロールが始まり川のせせらぎのように流れるピアノの伴奏に、心をグッと掴まれました。監督自身、初めて聴いた時の印象はいかがでしたか?

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クランクインして1週間後くらいにデモを聴いたんですが、震えましたね。未来からラストを見て書いたんじゃないかと思うぐらいぴったりで。「映画の言いたかったこと全部が歌詞にされている」と嫉妬を抱くほどでした(笑)。このイントロがラストに流れるんだと思いながら撮影できたのもモチベーションの一つになっていました。

――tofubeatsさん自身は今回が初めての劇伴だったとおっしゃっていましたが、依頼するにあたってはどんなお気持ちだったんでしょうか?

以前から親交があって僕自身、彼のファンでしたし、素晴らしいミュージシャンだということは疑うことない事実です。ただ映画音楽って作品のイメージを決定づけるもので、彼は劇伴の経験がなかったため、どうなるか全然わからなかったんです。少なからず不安はありましたが、今までにないものが出来上がるんじゃないかなという期待がより大きかったですね。

――カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出。これまでも数々の国際映画祭を受賞されていますが、レッドカーペットを歩かれた率直な感想はいかがでしたか?

昔から映画が好きで、数々の映画監督がカンヌのレッドカーペットを歩く様子をずっと見ていました。そういう場所に自分がいるというのは不思議な感覚でしたね。

――カンヌで上映される前と後の心境はいかがでしたか?

ブーイングが飛ぶとか、人がどんどん出ていくとか、ゾッとするような噂はよく聞いていたので不安でいっぱいでしたね(笑)。上映が終わってスタンディングオベーションが起きた時にホッとしました。

――今回、大阪と東京を舞台にされていましたが、大阪での思い出はありますか?

国立国際美術館に行きました。昔から好きな美術館で、今作も国立国際美術館のシーンから始まることは決まっていました。それで久しぶりに美術館のある中之島に行くと川が流れていて、大阪を舞台にするんだったら最初と最後のシーンに川を出してみようかと提案しました。川は湖と違って、どこかに繋がっていますよね。東京と大阪といった違う土地を舞台にしたこの作品を描くうえで、とても重要なシーンになるだろうと思ったからです。

――まさしく川がこの作品に一貫して流れる水脈として通っていたんですね。本日はありがとうございました。

  • 濱口竜介さん
  • プロフィール

    濱口竜介

    東京大学文学部卒業後、映画の助監督やTV番組のADを経て、東京藝術大学大学院映像研究科に入学。在学中は黒沢清監督らに師事し、2008年の修了制作「PASSION」がサン・セバスチャン国際映画祭や東京フィルメックスで高い評価を得る。15年に発表した監督・脚本作「ハッピーアワー」では、ロカルノ国際映画祭やナント国際映画祭など、数々の国際映画祭で主要な賞を受賞。商業映画デビュー作品「寝ても覚めても」(18)が、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出されるなど、国内外で注目される。

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