2011年芥川賞は、小説製造機になりたい円城塔、職歴なしで小説を書いた田中慎弥

2018/09/26

WRITER文:菊池良/絵:つのがい

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2011年芥川賞は、小説製造機になりたい円城塔、職歴なしで小説を書いた田中慎弥

古典的な「父と子」の物語を下関でつむぐ

共喰い

「もらっといてやる」

高飛車なその発言は「風俗に行こうと思っていた」と言った、前年144回芥川賞受賞者の西村賢太と同様、多くの注目が集まった。
高校卒業後、32歳で作家デビューするまで職歴がなかったことも注目に拍車をかけた。

『共喰い』のあらすじはこうだ。
17歳の篠垣遠馬は父親の円(まどか)とその恋人の琴子の3人で暮らしている。遠馬の産みの親の仁子は川を一本隔てた橋の向こうで魚屋を営んでいる。
円はセックスのときに恋人へ暴力を振るう癖があり、それが原因で仁子は家を出ていった。
遠馬には会田千種という恋人がおり、セックスをするが、遠馬は「こんなんでええんかなぁ。」と思っていた。
ある日、千種に暴力を振るってしまい、遠馬は自分にも暴力的な円の血が流れているのかと恐怖する。
街では夏祭りが近づいており、千種は社で待っていると言うが──。

『共喰い』は父と子の物語だ。逃れられない宿命を目の当たりにし、子は父を超えようと葛藤する。
選考委員の小川洋子は「古典的なテーマでありながら尚、新鮮な力で読み手を引っ張る」、島田雅彦は「この古臭さは新鮮だ」と評した。

就職せずに『源氏物語』を読み、小説を書いた

田中は1972年、山口県生まれ。
子供のころから勉強が嫌いで、本を読むしかなかったという。中学から川端康成などを読み始める。川端の『雪国』は「これを読まなければ高校を卒業して、すんなりと就職していたと思う」ほどだと評価する。
母親と2人暮らしで、32歳でデビューするまでは文章を書き、本を読むだけの生活だったという。その間に『源氏物語』を何度も読み通す。
その経歴がフォーカスされがちだが、本人は「もし大学に受かっていたら行っていた」「大学の試験に落ちて勤労意欲が湧かず、そのまま就職せずに過ごした」と語る。
新潮新人賞を受賞する『冷たい水の羊』は、10年かけて執筆され、10回は書き直したという。
芥川賞受賞作の『共食い』は青山真治監督で映画化もされた。
受賞後も政治ネタを盛り込んだSF的なディストピア小説『宰相A』、『美しい国への旅』など話題作を発表する。
現在も山口県の実家に暮らし、365日1日も欠かさず小説を書く。


共喰い (集英社文庫) amazon.co.jpより

受賞作は「言葉の綾とりみたいなできの悪いゲーム」!?

『道化師の蝶』で芥川賞を受賞した円城塔に関して、選考委員の石原慎太郎はこう書いている。

「こうした言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒というよりない」

そして、今回限りで選考委員を辞退するとし、「さらば芥川賞」と綴っている。
しかし、それに対して同じく選考委員の島田雅彦は「それ自体が言語論であり、フィクション論であり、発想というアクションそのものをテーマにした小説だ」と好意的だ。
では、そんな『道化師の蝶』とはどんな作品なのか。

あらゆる言語で小説を書く「友幸友幸」という男がいる。彼は手芸を通して各地の言語を習得しながら、小説を書いているようなのだが、その正体はわかっていない。
実業家で『飛行機の中で読むに限る』という著作をヒットさせているA・A・エイブラムスは、友幸友幸の正体を追おうと、莫大な資産を投入したが叶わなかった。
現在は「A・A・エイブラムス私設記念館」がその遺志を引き継ぎ、たくさんのエージェントを雇って友幸友幸を追っていた──。

『道化師の蝶』にはウラジミール・ナボコフのネタが随所に入っている、と翻訳家の沼野充義は指摘する。
例えば、友幸友幸という変な名前は、ナボコフの『ロリータ』に出てくるハンバート・ハンバートという同語反復の名前のキャラクターを意識していると。
「難解」という評価を与えられがちな円城作品だが、実は作品の随所にはこういったユーモアが忍ばされている。
設定も物語の展開も、読んでいて吹き出してしまうような「変」なことが繰り返されるのだ。
実験小説好きのマニアックな作品というより、もっと広く「なんだかよく分からないけど面白い文章が読みたい」という人を受け入れるだろう。

研究者をやめて作家になり、「小説製造機になるのが夢」と語る

円城は1972年札幌生まれ。
高校生のころから安部公房を読み、影響を受ける。東北大学ではSF研究会に入り、部誌に短編を書いていた。
東京大学の大学院に進み、ポストドクター(任期付き研究員)として北海道大学、京都大学、東京大学で研究員を勤める。
しかし、研究員としての競争にしんどくなり、小説を書き始めた。
朝2時間、夜2時間と決めて執筆し、それを指導教官の金子邦彦に見せたところ、「小松左京賞に応募すれば」と薦められる。ちなみに「円城塔」というペンネームは金子が書いたSF小説に出てくる「円城塔李久」という物語生成プログラムから取っているという。
小松左京賞は落選したが、同賞の予選委員をやっている翻訳家の大森望の紹介もあり、早川書房に持ち込むと、出版が決まった。
さらに同時進行で文學界新人賞にも『オブ・ザ・ベースボール』を投稿しており、そちらは受賞となった。
その選評で島田雅彦は「理系の狂い方は文系の狂気とは一味違う」「世界のなめ方において、群を抜いている」と絶賛している。
奇しくもSF小説と純文学両方でデビューするという異例の状態となった。
芥川賞の受賞者インタビューでは「小説製造機になるのが夢」と語った。賛否両論がつねにつきまとうこの作家はどこまで行くのか。


道化師の蝶 (講談社文庫) amazon.co.jpより

第148回は「10年に1本」書く75歳

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  • 菊地良
  • PROFILE

    菊池良

    1987年生まれ。ライター、詩人。2009年に「二代目水嶋ヒロ」を襲名。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)、『世界一即戦力な男』がある。

  • つのがいさん
  • プロフィール

    つのがい

    漫画家・イラストレーター。静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。

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