城崎温泉、インバウンド成功3つの法則。外国人観光客が5年で36倍

2018/10/10

WRITERテキスト:トライアウト・黄田 駿/撮影:トライアウト・井上雅央

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城崎温泉、インバウンド成功3つの法則。外国人観光客が5年で36倍

兵庫県北部の豊岡市に位置し、風情漂う日本の原風景を望むことができる城崎温泉は、近年外国人観光客が急増していることで注目を集めています。外国人宿泊者数が、わずか5年間で36倍と驚異的な伸び率を達成。右肩上がりで急増するインバウンド需要は、どのような取り組みによって生み出されたのか、城崎この先100年会議理事長の高宮浩之さんに話を伺いました。

――インバウンド施策に取り組まれる前の、城崎温泉の課題は何でしたか?

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関西エリアでの認知度は高かったですが、関東地方では低かったんです。それと11月から3月までのカニのシーズンは賑わっても、それ以外の時期は客足が落ち着いていました。日本の人口が減少していく中で、いずれ国内の観光客だけでは厳しくなる時代は来るだろうと思っていました。そうなる前に海外の観光客を増やさなければならないなという意識はぼんやりと持っていたんです。インバウンド対策に本腰を入れて、旅館組合や観光協会、商工会とともに話し合いをしたのが6、7年前のことです。その頃は世間的にもインバウンドが注目されるようになった時期でした。

――なるほど。その話し合いではどういったことを決めましたか?

意識共有として
1.個人客に絞る
2.英語圏をターゲットにする
3.城崎名物の外湯めぐりの文化をそのまま体験してもらう
この3つのルールを決めただけで、いつまでに海外からの旅行客を何倍にするといった明確な数字は意識していませんでした。
ルールを決めると、戦略もスムーズに決まって行きました。城崎は小規模な旅館ばかりのため、団体客というより小グループの旅行客が多いんです。団体客を狙うと海外の旅行代理店に売り込みに行くために渡航したりする手間がかかります。従来通り個人客にターゲットを絞ったので、Webや雑誌だけでプロモーションでき、初動もかなりスピーディーでした。

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なによりも気を配ったのは、海外の観光客に目を向けるあまり今まで親しんでくださっていた日本のお客さまが離れてしまうこと。海外からのお客さまだからといって特別扱いせず、プランや価格も据え置き。また料理も日本人と同じメニューを味わってもらう。畳の上でお箸を使って和食を食べる、というのが日本旅館の魅力だと自信を持っていました。そういった城崎の文化を楽しんでくれるお客さまが良かったんです。その部分はみんな強い意識を持っていたので、安心してスタートできました。

――具体的にはどういったことを行われたんですか?

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70数軒が加盟する旅館組合は海外向けのWeb予約サイトを、商工会は街の看板の英語表記、賛同してくれた飲食店はマップを作成するなど、街全体で取り組みました。

英語の観光情報サイト「kinosaaki inn concierge 」

2015年には宿泊予約機能を備えた、英語の観光情報サイト「kinosaaki inn concierge」を立ち上ました。

――そういった取り組みの中、すぐに一致団結できたんでしょうか? 話し合いが上手くまとまらない場面もありましたか?

それがあまりなかったんですよ。昔から城崎は街全体で話し合ってきたベースがあった分、考え方もすんなりと共有できました。それにいっときだけ、インバウンドで賑わえばいいとは誰も思っていなかったんです。

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例えば、看板を多言語で表記してしまうと街の風情がなくなってしまう。インバウンドを中心に考えて、街をガラッと変えてしまうことはしたくなかったんです。

――そこからどのようにして、海外観光客が増えていったのでしょうか?

海外の雑誌に取り上げてもらったのがきっかけですね。2008年に世界的旅行ガイドブック『ロンリープラネット』に「Best Onsen Town」として掲載され、ミシュランの『ミシュラン・グリーンガイド』では星2つをもらいました。

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最初に話し合いをした時から1、2年くらいで、欧米を中心に火が付き出したという感じですね。また城崎の色んな旅館が「トリップアドバイザー」や「ブッキングドットコム」といった海外の予約サイトを使い始めてから、口コミで旅行客が一気に増えていきました。ありがたいことに海外サイトでの口コミの評価が高かったんです。

――どういった部分が高評価の理由だと思われますか?

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あくまでも僕らの分析ですが、浴衣を着て、下駄を履いて、木造3階建てが並ぶ風情ある街並みの中を外湯めぐりする。これは城崎温泉ならではの体験で、日本に滞在する中でもとても印象深いものになるんじゃないかなと思っています。

――文化に触れるというのは、観光の醍醐味ですものね。日本客にとっても海外の方が浴衣を着て歩いているという光景は面白いですよね。

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そうですね、私共の旅館に茶室があるんですが、「体験してみたい」という方もいらっしゃいます。やっぱり日本ならではの経験がしたい方が多いんじゃないかなと思います。

――順調に観光客を増やされていっていますが、先ほど挙げられていた時期的な課題もクリアしたんですか?

4月から10月の閑散期に、海外のお客さまが多く来られているんですよ。私たちからすると年間通じてコンスタントに来ていただけているのが嬉しいですね。お客さまにしても、混み合っている時期だと楽しみづらいので。海外のお客さまはカニを目当てにされる方は少ないんですよね。

――国内のリピーターと海外からの観光客で絶妙なバランスで成り立ってるんですね。

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トラブルもなく、マナーのいいお客さまが多いです。個人で来られる方は、ご自身で予約し、よく調べてからお越しになられるので文化への理解度が高いんですよね。半年以上前から予約が入ることがほとんどで、わざわざ来なければならない場所にあるため、2泊以上される方も多くいます。

――訪れる国や地域が違うと思うのですが、それぞれの国に対しての施策を取られていますか?

その点はまだまだですね。最初は大枠の戦略のみでしたが、6年目を迎え軌道に乗ってきました。これからは蓄積したデータを分析し、戦略を組み立てていこうとしています。僕はこのことを「城崎インバウンド2.0」と呼んでいます(笑)。

――こんなに早く見込みが取れると思っていましたか?

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全然思ってなかったですね。日本人だけじゃ厳しくなる時代が訪れるだろうなと思っていましたが、まだ先のことだと思っていました。インバウンド客の増加と同じく、首都圏のお客さまも増えているような気もしています。首都圏の人もカニにあまり興味がなく、距離的に遠い。そういった意味ではインバウンド客と条件が似ているんですよ。

――インバウンド向けの施策が首都圏からの利用客増加にも役立っているんですね。それでは最後にこれからの展望を教えてもらえますか?

海外のお客さまは、日本人観光客と行動範囲が全然違っているんです。先ほど言ったような茶室体験はもちろん、海に行きたいという人がとても多いんです。実際に海に行って何をしているかはわかりませんが、海を絡めたプログラムに取り組んでみたいと思っています。

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また外湯めぐりだけでなく、ピラティスやヨガといったウェルネスを上手く絡めたような取り組みを進めていけたらなと思います。そういったことができていけば、より満足度の高い体験が提供できるはずです。城崎というエリアだけでなく、兵庫県や鳥取県といった広い範囲での体験や周遊プランを作って、日本のローカルシーンを盛り上げていければと思っています。そのためにも 50年、100年後を見据えた上で、共通の意識を持ち続けていくのがもっとも重要ですね。


伝統を守りつつ、新しい取り組みに果敢に挑戦していく城崎温泉。それぞれの旅館が思い思いの施策に乗り出すのではなく、街全体が一丸となってひとつの目標に取り組む。城崎に深く根付くおもてなしの心が、海外観光客にも響いているのだと感じました。

  • 高宮浩之さん
  • プロフィール

    高宮浩之さん

    山本屋旅館の代表取締役を務めるかたわら城崎この先100年会議理事長として数々の講演会にも出席する。

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