2005年芥川賞『沖で待つ』絲山秋子『土の中の子供』中村文則が受賞。初心者にもおすすめ

2018/11/08

WRITER文:菊池良/絵:つのがい

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2005年芥川賞『沖で待つ』絲山秋子『土の中の子供』中村文則が受賞。初心者にもおすすめ

10年営業職を勤めた作家が書く『沖で待つ』

沖で待つ

兼業作家は数多いが、作家が営業職をやっていると聞くと、意外に思う人が多いかもしれない。
絲山秋子は大学卒業後、住宅設備機器メーカーに営業職で就職。福岡営業所、名古屋営業所と転勤しながら、10年そこに勤めた。
そのときの経験を元にして書かれた小説が『沖で待つ』だ。2005年下半期の芥川賞を受賞した。

『沖で待つ』はこんなストーリーだ。
来月、浜松に転勤にすることになっている「私」は、同僚の牧原太が住んでいるマンションの近くにきたので、ふと立ち寄ってみる。
そこには「しゃっくりが止まらない」と情けない顔をする牧原がいた。しかし、牧原は3ヶ月前に死んだはずだった。
「私」は牧原と過ごした日々を回想する。

『沖で待つ』は家族でも恋人でもない「同僚」という奇妙な関係性を描いた小説だ。
選考委員の河野多恵子は 「その無駄のなさは小気味がよいほど」と評した。
芥川賞は中編が審査対象だが、そのなかでも『沖で待つ』は短い。また、小説には珍しく「です・ます調」で書かれている。気軽に読める芥川賞受賞作として、初心者にピッタリかもしれない。

病院で小説を書き始め、表現者として自由でい続けたいと思う

絲山は1966年、東京生まれ。
小さいころから読書が好きで、『ドリトル先生』シリーズを好んで読んだ。
中学生のときはル・クレジオやロレンス・ダレルなどの海外文学を読み、高校時代は一転して石川淳を読む。
大学を卒業後は会社に就職したことは前述したが、小説を書き始めたのは入院がきっかけだった。デビューの3年前、病院であまりにも暇で小説を書き始めたのだという。
2003年に『イッツ・オンリー・トーク』でデビュー。翌年、「袋小路の男」で早くも川端康成文学賞を取り、注目される。
絲山は「表現者として常に自由でなければいけない」「いろんな政治的なもの、思想的なものから自由でいたい」と言う。
最新作は『群像』2018年5月号から連載されている『御社のチャラ男』。自由であるために、絲山は書き続ける。


沖で待つ (文春文庫)amazon.co.jpより

暴力と恐怖による生命のドラマ『土の中の子供』

2005年上半期の芥川賞は中村文則『土の中の子供』が受賞した。

『土の中の子供』はこういうストーリーだ。
両親に捨てられて親戚にも虐待され、施設で育った「私」。
大人になった「私」は教材のセールスの仕事をしていたが辞め、タクシー運転手をやっていた。
家を失ったという元同僚の白湯子と成り行きから同棲を始める。
白湯子は酒乱で暴力的な父親に育てられ、何があっても別れない母親を嫌っていた。
「私」は時おり破滅的な行動をとり、公園でたむろするヤンキーに吸い殻をぶつける。
白湯子も倒れるまで酒を飲む癖があり、クラブで転落して病院に運ばれたのだった──。

中村は1977年に愛知県で生まれた。福島大学を卒業後、2002年に『銃』で新潮新人賞を受賞。
『土の中の子供』は5作目の小説だった。
この小説を選考委員の黒井千次は「暴力や恐怖に曝され、死とすれすれのところで超低空飛行を続ける生命のドラマ」と評した。

純文学とエンターテインメントの境界を泳ぐ

芥川賞を受賞直後の手帳には、「広い海に、小さな船で放り出される」と書きつけていたという。
高校生のときに日記の延長のような文章を書き始めた。大学生になって初めて小説を書き始める。
そして、「2年間は就職しない」と決めて大学を卒業し、コンビニでアルバイトをしながら執筆。デビューを掴んだ。
中村の純文学の出身だが、エンターテインメント的な側面も積極的に取り入れていく。
自作にミステリーの要素を入れるようになり、2013年の『去年の冬、きみと別れ』で本格的なミステリーに挑戦。この小説は映画化もされた。
社会的な主題を盛り込んだ小説も書く。『教団X』ではカルト宗教を題材にし、『R帝国』では独裁政権を描いた。
中村の小説は海外でも読まれている。『掏摸』は『ウォール・ストリート・ジャーナル』の2012年の年間ベスト10にも入った。2014年には日本人で初めてアメリカの「David L. Goodis賞」を受賞する。
「小さな船」で放り出された中村は、海を超えて広い場所で読まれるようになった。


土の中の子供 (新潮文庫)amazon.co.jpより
  • 菊地良
  • PROFILE

    菊池良

    1987年生まれ。ライター、詩人。2009年に「二代目水嶋ヒロ」を襲名。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)、『世界一即戦力な男』がある。

  • つのがいさん
  • プロフィール

    つのがい

    漫画家・イラストレーター。静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。

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