2002年芥川賞“一行の決定的なインパクト”『パーク・ライフ』“湿ったユーモア”『しょっぱいドライブ』が受賞

2018/11/29

WRITER文:菊池良/絵:つのがい

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2002年芥川賞“一行の決定的なインパクト”『パーク・ライフ』“湿ったユーモア”『しょっぱいドライブ』が受賞

何もない街で父親ほど離れた年齢の男とする『しょっぱいドライブ』

パーク・ライフ

2002年下半期の芥川賞は大道珠貴『しょっぱいドライブ』が受賞した。それはこんな物語である。

34歳で独身のミホは、60代前半と思われる九十九さんとドライブをしている。
ミホは九十九さんが暮らす街から高速バスで45分かかる場所に住んでおり、そこで劇団の看板俳優の追っかけをやっていた。
街には映画館も何もないので、ドライブをしていても適当にぐるぐる回るぐらいしかすることがない。
ミホと九十九さんは親子ほど年齢が離れているが、2人は一度寝床をともにしたことがあり、ミホは「またああいうことのつづきをしてもいい」と思っている──。

選考委員たちには「湿ったユーモア」(黒井千次)、「さみしいユーモア」(高樹のぶ子)と評価された。

19歳で文学に目覚めて小説家になり、山のなかの古民家に暮らす

大道は1966年生まれ。高校卒業後の19歳のときに太宰治と出会い、それまで読むことのなかった文学を読み始める。そして、小説を書くことを決意したという。
いくつかの職を経て24歳ごろからラジオドラマの脚本を書く仕事を始める。NHK福岡やNHK名古屋に年4、5作のペースで脚本を書いていた。
29歳で小説を書くために福岡から上京した。2000年、33歳のときに「裸」で九州芸術祭文学賞を受賞してデビューした。その「裸」が文學界に掲載されると、すぐに講談社から書き下ろしの依頼があり、『背く子』を書く。
2002年12月号の『文學界』に載った『しょっぱいドライブ』で芥川賞を受賞した。2005年には『傷口にはウォッカ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞する。
1人で生きる女性を題材にすることが多い。自身も独身で、鎌倉の古民家を購入して移住した。山のなかで自ら家を修繕し、暮らしているという。


しょっぱいドライブ (文春文庫 (た58-2))

公園という都会のエア・ポケットで繰り広げられる奇妙な交流『パーク・ライフ』

何かをやっている途中、ふと通りすがった公園で、何の目的もなく休憩をしたことはないだろうか? あるいはそういう人物を見かけたことは?
上記のような質問をされると、多くの人がうなずくのではないだろうか。2002年上半期に芥川賞を受賞した吉田修一の『パーク・ライフ』は、そんな都会のエア・ポケットをめぐる小説だ。

入浴剤を売る会社で営業職をやっている「ぼく」は、日比谷公園で何をするでもなくベンチに座って過ごすのが趣味だ。別居を始めた友人夫婦のマンションに、ペットの猿の世話をすることを名目に仮住まいをしている。
ある日、「ぼく」は電車を乗っているとき、先輩社員がまだ近くにいると勘違いして、見知らぬ女性に話しかけてしまう。赤面した「ぼく」だったが、女性はまるで十年来の知り合いのように、「ぼく」に返事をする。
話はそれで終わったのだが、しばらくして「ぼく」はその女性と日比谷公園で再会をする。そこから公園を介した奇妙な交流が始まったのだった──。

選考委員の高樹のぶ子は「たった一行で、さりげなく決定的なインパクトを読者に与える」、三浦哲郎は「隅々にまで小説の旨味が詰まっている」と評した。

純文学とエンタメの境界で書き、ベストセラーを連発する

吉田を「純文学作家」と言うと、違和感を持つ人もいるかもしれない。『悪人』、『横道世之介』、『怒り』などの小説はどれもベストセラーとなり映画化もされている。吉田は純文学とエンタメの境界線をひた走る作家だ。それを現すように、『パーク・ライフ』で芥川賞を受賞した同年に、『パレード』でエンタメ小説に贈られる山本周五郎賞を受賞している。1人の作家がこの2つの賞を受賞することは史上初だった。
吉田は1968年生まれ、法政大学経営学部卒業。就職活動はせず、卒業後はアルバイトをして暮らした。24歳のときに少しずつ小説を書き始め、29歳のときに『最後の息子』で文學界新人賞を受賞した。吉田によると小説を書き始めた理由は特になく、「気がついたら書いてた」そうである。
芥川賞を受賞後の吉田は『悪人』で大佛次郎賞、『横道世之介』で柴田錬三郎賞を受賞。先述したように多くの作品が映像化しており、当代きっての売れっ子作家と言っても過言ではないだろう。
小説を書くときは、食事以外ではほぼ外に出ず、マンションに籠もって書き続けるという。2016年11月には芥川賞の選考委員に就任。最年少の選考委員となった。


パーク・ライフ (文春文庫)
  • 菊地良
  • PROFILE

    菊池良

    1987年生まれ。ライター、詩人。2009年に「二代目水嶋ヒロ」を襲名。著書に『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)、『世界一即戦力な男』がある。

  • つのがいさん
  • プロフィール

    つのがい

    漫画家・イラストレーター。静岡県生まれ。漫画を描くこと、読むこととは無縁の生活を送ってきたが、2015年転職を境にペンを握る。絵の練習としてSNSに載せていた「ブラック・ジャック」のパロディ漫画がきっかけで、2016年手塚プロダクション公式の作画ブレーンとなった。

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