「静かな笑いから突然憤死しそうな人」を描く、宮崎夏次系。『アダムとイブの楽園追放されたけど…』2巻発売

2018/12/21

WRITERZing!編集部 ピーター

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「静かな笑いから突然憤死しそうな人」を描く、宮崎夏次系。『アダムとイブの楽園追放されたけど…』2巻発売

2018年12月21日に2巻が発売された『アダムとイブの楽園追放されたけど…』(講談社・ベビモフ連載)の漫画家・宮崎夏次系さん。初期の短編集『変身のニュース 』を読んで「漫画ってこんなに面白かったんだ!」と感動した記憶は今も忘れておりません。クスリと笑っちゃうけど切実でかわいいキャラクター、豊かに描き込まれた背景、最高と最悪の瞬間が同時に来るクライマックス、切ない話を笑顔で語るような切り口。
今回、メールインタビューの機会をいただき、漫画家になった経緯、どのように描くのか、作品を描く上で何を大切にしているのか、などについて伺いました。


アダムとイブの楽園追放されたけど…
アダムとイブの楽園追放されたけど…(1) (モーニング KC)』(©宮崎夏次系/講談社)

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はじめて編集部から電話をもらった日の景色を覚えている

――今回は取材の機会をいただきありがとうございます! いきなり野暮な質問で申し訳ないですが……「夏次系」というお名前はどこから来たものなのでしょうか?

何か意味があれば良かったですが、なにもないんです。大学のころバイトで住宅街を回っているときに、”三次”という表札があって。「次」という漢字がいいなと思いました。あとは夏生まれなので夏、系は……形が好きです。

――小さいころ、宮崎さんはどんな漫画を読んでいたんですか?

『クレヨンしんちゃん』の2巻を、小学に入りたての頃、床屋さんの帰りにはじめて買ってもらって。その本屋さんは今でもつぶれていなくて、懐かしくて入ってみようという気もしましたがやめました。

それからまたキャンプに行く途中のコンビニに『(名探偵)コナン』の12巻があって、途中からでよく分かりませんでしたがテントの中で読んだらもっと読みたくなって、それから少しずつ『コナン』『金田一(少年の事件簿)』をそろえていって……そして従兄のお兄さんが『ブラックジャック』文庫版の1巻をくれました。1巻から読んだのは新鮮でやっと地に足がついたと思いました。”せがれ”と”後生”という言葉を覚えました。

――今読んでいる、好きな漫画はありますか?

『血の轍』が怖くて……。『赤パン先生!』は読むと懐かしい気持ちになるので時々読み返します。その他は『銃座のウルナ』『レッド』。雑誌で楽しみに最初に読むのは新田章さん、渡辺ペコさん。たぶんもっとたくさんあるんですが……あと『極道めし』は家の廊下でよく読んでいます。

――宮崎さんが漫画家になろうと思ったきっかけは?

正直に言ってなるべく家にいたいなと思ったのが動機です。机が好きですし……。

今回、提供いただいた、宮崎夏次系さんの仕事場写真。この机ですてきな作品の数々が生まれているのですね
今回、提供いただいた、宮崎夏次系さんの仕事場写真。この机ですてきな作品の数々が生まれているのですね。

――そうなんですね。漫画家になったのは、どういう経緯だったんでしょう。

モーニング編集部に応募して拾ってもらいました。
冬の夜の帰り道、編集部の担当さんからはじめての留守電が入っていました。うれしかったです。その時の景色の中のビルの形や色をなんとなく覚えています。

好きなことをどう続けていくのかというような不安もありましたし、今もあります。自分のために描いていると言えたらいいですが、自分の描いたものを好きだと言ってくれた、会ったことのない人が……というのが、その時から今現在も仕事をするきっかけ……みたいに思えます。

背景は教科書の落書きのような、けだもの的楽しさから

――宮崎さんの作品を読んでいて感じるのは、1コマの情報量がとても多いこと。例えば『アダムとイブの楽園追放されたけど…』の背景にもわら人形とか「LED」って描いた照明からヒモがぶらさがってたり。『なくてもよくて絶え間なくひかる 』でもあまり場面には関係なくヨタヨタ歩く犬が細かく描かれてたり……絵本を読んでいるような楽しさもありますし、時間を長くも感じます。そういう背景・小物へのこだわりを教えてください。

(c)宮崎夏次系/講談社
©宮崎夏次系/講談社

読んでくださってありがとうございます。いまだにマンガの絵を描くのは緊張します。ネームを描いている間に、原稿の初心者に戻ってしまう気分になって……というのもB4の投稿マンガ用紙をみるたびに、いまだにこんなに主線を描くのは恥ずかしいし無理だよと、かならず弱腰になるというか……。

慣れというのは全然なくて苦手なことばかりですが、背景の小物などを描くときはほっとします。教科書の余白に描く落書きのような感じでけだもの的な楽しさがあります。
見づらいこともあると思いますが、すみません。

今回特別に見せていただいた、『アダムとイブの楽園追放されたけど…』のネームと原稿です。カッくん(カイン)がターザンロープで移動する様子。たくさん木の種類があるのが見てて嬉しい。 ©宮崎夏次系/講談社
今回特別に見せていただいた、『アダムとイブの楽園追放されたけど…』のネームと原稿です。カッくん(カイン)がターザンロープで移動する様子。たくさん木の種類があるのが見てて嬉しい。
©宮崎夏次系/講談社

――その背景が私は最高だなと思っています! 『アダムとイブ~』は今までの作品よりギャグに振っていたり、コマ線が太かったり……しますがWeb掲載や紙での違いはあるのでしょうか?

枠線は、媒体によってというよりは静かな雰囲気の話の枠線は細くなっていると思います。にぎやかだったり荒唐無稽なものは太いです。『アダムとイブ~』も太い方だと思いますが、それよりこの話は線がかすれないように気をつけました。かすれると、なにか奥行きがありそうな不吉なかんじがしませんか。といいつつ原稿を見返したら結構かすれてましたが…『アダムとイブ~』は悩みがあっても明るい画面にしたくて。

――コマ枠は『変身のニュース』などのときは『アダムとイブ~』よりも細く、影は黒ベタが強かった印象があります。

作品の雰囲気によって特に黒ベタは控えめになりました。『変身のニュース』の頃は今振り返りますと一コマ一コマをそれぞれの独立した絵として仕上げようと黒ベタをこまめに入れてしまうところがありました。『アダムとイブ~』はもっと主線などを太くトーンも多めにして、目に優しい絵柄にしたかったんです。

静かに笑っていたのに突然憤死しそうな人に惹かれる

――宮崎さんの描かれる人物はそれぞれが魅力的ですが、特に女の子は本当に可愛いなあと思うんです。描く上でたとえば体の部位・髪型、性格など重視されるのはどういう点ですか?

どうもありがとうございます。女の子のふくらはぎや脇の下は丁寧に描きたいと思っています。二の腕の裏とかも。鮎の腹を流水で洗う場面を思い出します。

――「こういう女性像がいい」という理想はありますか?

どこかわがままな女性が好きですが、静かに笑っていたと思ったら突然憤死してしまいそうな……(?)人に惹かれます。

――まさに宮崎さんの漫画や出てくる女性を言い表した言葉ですね!
『アダムとイブ~』収録の読みきり「オカリちゃんちのお兄ちゃん」でも良いシーンがとてつもない暴力が起きた後の現場だったり、『僕は問題ありません』の「肉飯屋であなたと握手」でも嘔吐する瞬間と感動の瞬間が重なったり……。宮崎さんの作品でクライマックスに最高・最悪の瞬間が同時に来るのが「良いなあ」と思うのですが、お話づくりの上で意識されたりしますか?

意識はあまりしていませんが、日常生活でも怒りのあまり涙とか鼻水とかが出て、その状況がおかしくて笑ってしまうとかいうこともあるかと思うので、いろんなことが同時に迫ってきたほうが、描くときに実感があります。

――『アダムとイブ~』でも堕天使ルシファーがビジュアル系で暴走族みたいなことしてたり他の漫画でも突然ネッシーが現れたり、シュールでクスっとする設定要素が多いけど主眼がキチッとしているのでいつも感動するのですが、どういう作業で(ネームなどで)お話を考えて、何を大切にされているんですか?

好きなシーンがひとつでも入っているかどうかを気にしています。
好きなところが無いと原稿を最後まで仕上げるのがしんどくなりますし、読む人にそういう気分が伝わると思います。いい時も悪い時も、読む人に筒抜けなんだと思います。
短編のネームは描きたい見開きから描いてネームをつくっていましたが、最近は話が決まっていなくてもとりあえず描いてみて、機会に恵まれるまで導入部をうだうだと描いたり消したりしているかんじです。

――宮崎さんの漫画のセリフは本当によくて、スッと入ってきます。『アダムとイブ~』でも「あ、こんな感じでもイブはちゃんとアダムを信頼してるんだな」ってセリフとか、「オカリちゃん~」でも兄弟の絆が分かるモノローグとか……その言葉自体がいいのもあるのですが、コマ割りでより一層感動が深まっていると思っています。人物の発する・思う言葉についてのこだわりを教えてください。

「静かな笑いから突然憤死しそうな人」を描く、宮崎夏次系。『アダムとイブの楽園追放されたけど…』2巻発売-画像-05

(『アダムとイブの楽園追放されたけど…』収録「オカリちゃんちのお兄ちゃん」p146-147)
(『アダムとイブの楽園追放されたけど…』収録「オカリちゃんちのお兄ちゃん」p146-147)
これも今回特別に見せていただいた、「オカリちゃんちのお兄ちゃん」のネーム。お兄ちゃんの表情と動作、オカリちゃんの可憐さとモノローグもこの段階でグッとくるように仕上がってますね。 ©宮崎夏次系/講談社
これも今回特別に見せていただいた、「オカリちゃんちのお兄ちゃん」のネーム。お兄ちゃんの表情と動作、オカリちゃんの可憐さとモノローグもこの段階でグッとくるように仕上がってますね。
©宮崎夏次系/講談社

どうもありがとうございます。気持ちがこもった場面は、できるだけ少ない言葉でできたらと思っています。絵に添わっているくらいのかんじで。

――『アダムとイブの楽園追放されたけど…』はどんどんキャラクターが増えていっていますよね。2巻でぜひ注目してほしい部分を教えてください。

新しいキャラクターのマンG(マンモス爺)が、この巻では一番大きくてかわいいのでよろしくお願いします。2回しか出てきませんが……。そして2巻目が出るのは初めてなことなので、最終話がどんな風になるのか、楽しみにしていてもらえたらうれしいです。

――お話ありがとうございました。これからも宮崎さんの漫画を楽しみにしています。これから描いていきたい漫画、どう描いていきたいかなどを教えてください。

どうもありがとうございます。線をもっとしっくりくるようにがんばりたいです!

アダムとイブの楽園追放されたけど…
アダムとイブの楽園追放されたけど…(1) (モーニング KC)

(c)宮崎夏次系/講談社
アダムとイブの楽園追放されたけど…(2) (モーニング KC)』(©宮崎夏次系/講談社)

  • 宮崎夏次系さん
  • PROFILE

    宮崎夏次系

    作者の初単行本『変身のニュース』(短編作品集)が文化庁メディア芸術祭マンガ部門「審査委員会推薦作品」に選出され、「このマンガがすごい!」にランクインするなど、デビュー当初からその才能に注目が集まる。その他の著書に『僕は問題ありません』『夢から覚めたあの子とはきっと上手く喋れない』『ホーリータウン』『夕方までに帰るよ』『なくてもよくて絶え間なくひかる』(以上すべて全1巻)『アダムとイブの楽園追放されたけど…』(全2巻)がある。現在はSFマガジン(早川書房)で読み切り、コミックビーム100(KADOKAWA)で「培養肉くん」を連載中。

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