庄司智春の「ミキティ〜〜〜〜〜」はナムアミダブツだ「僧侶だけど煩悩まみれ」第1回

2018/11/30

WRITER(文)稲田ズイキ(絵)しりもと

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庄司智春の「ミキティ〜〜〜〜〜」はナムアミダブツだ「僧侶だけど煩悩まみれ」第1回

本物の僧侶でライター、稲田ズイキによる連載企画「僧侶だけど煩悩まみれ」。俗世のカルチャーから仏教のエッセンスを引き出し、日々の煩悩との向き合い方を考えていきます。


「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!」

同居人の男とテレビを眺めていると、やけに筋肉質な半裸の男が叫んでいた。
お笑いコンビ「品川庄司」の庄司智春氏だ。

「嫁の名前を叫ぶだけって、人類史上最もクリエイティビティに欠けるギャグちゃう?」

同居人はそう言った。

たしかに。それなら、僕の小学生の頃の口癖だった「しっこ ぶらぶら ソーセージ」の方が創造性は高いんじゃないか、とも思える。

だがしかし、いざ僧侶の立場からこのギャグを見てみると、仏の功徳が味わえる代物だったのだ。
僕は「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」に「南無阿弥陀仏(ナムアミダブツ)」と同じ匂いを感じている。

僧侶だって、嫁の名前を叫びたい

正直、羨ましい。
嫁の名前を呼ぶだけで、お金が振り込まれる生活を送りたい。僕も目黒に住みたい。

冷静になって考えてみよう。

「半裸になって、嫁の名前を叫ぶ」

どんな芸だよ。「世界の中心で愛を叫ぶ」のとはわけが異なる。

オダギリジョーが「香椎由宇〜〜〜〜〜〜〜!!!!」と叫んでいるようなものだ。
今すぐ僕も「小松菜奈(事実上の嫁)〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!」と原稿に書き散らしたい。

とはいえ、さらに冷静になって考えてみると、そんなことはできないことに気づく。
僕もオダギリジョーもそんなことはできない。

人前で、嫁の名前を呼ぶなんてこと、できるわけないじゃないか。ましてや、仕事の現場で。
恥ずかしいし、みっともないし、カッコ悪い。

だがしかし、庄司にはそれができている。
しかも、バラエティ番組という血で血を洗うトークの戦場で、言葉をも捨て、一匹の動物となり、ただ嫁の名前を叫ぶのだ。

「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!!」と。

まるで赤子が母の名前を呼ぶように。
それは本能的な「タ・ス・ケ・テ・ク・レ」のサインに近いのではないか。

おしゃべりで多才な品川に比べ、庄司はいわゆる「ポンコツ芸人」という枠で語られることが多い。
そんな苦労人、庄司がたどり着いたのが、この境地なのかもしれない。
そう視点を変えてみると、このギャグの見え方が変わっていった。

ミキティ〜〜〜〜〜は「南無阿弥陀仏」だ

一見、情けないようにも見える「半裸になって、嫁の名前を叫ぶ」行為は、人間のあるべき姿を思い出させてくれる。

世の中はどうにもならないことの方が多い。
人は老い、いつかは死ぬ。
僕は童貞を捨てられないし、藤田ニコルもいつかはバラエティ番組から消えるのである。

「どうにもならないことがある」という事実を僕たちは忘れがちである。
心の底で「自分の力でなんとかできる」と思ってしまっている。
そのおごりが理想を生み、現実とのギャップで苦しみを抱えてしまうのだろう。

それに対し、「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜」はどうだろうか。
あまりにも潔い。
己の無力を悟り、どうにもならないこの世界に対し救いを求める、祈りにも近い言葉だ。

あるのは、ミキティーへの完全なる忠誠。
そこに、一人で生きていけるという傲慢、独りよがりな生き方は見受けられない。

「自分の限界を悟り、救いを求める」
今、僕たちが忘れているのは、「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜」な姿勢なのではないか。

ここで、一人の僧侶として思い出されるのは、念仏だ。
お坊さんがよく言っている「南無阿弥陀仏(ナムアミダブツ)」は、「南無」と「阿弥陀仏」に分けることができる。

南無とは「帰依」を意味する。要するに、「ああああああ助けてくださいお願いします」であり、「ああああああありがとうございます」ということだ。
つまり、南無阿弥陀仏とは、「ああああああ助けてください阿弥陀仏さまお願いします」「ああああああ阿弥陀仏さまありがとうございます」と叫んでいるのだ。

それは古来より数々の僧侶が「煩悩を捨てられないどうしようもない僕たちがどうしたら救われるのか」苦悩の末に、導き出した一つの修行法なのである。

このように、僧侶が厳粛なムードで唱えているように見える念仏も、実は本質的に「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」とやっていることとなんら変わりない。

僧侶が日頃伝えようとしているのも、この「ミキティ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」な姿勢なのだ。

めまぐるしく過ぎる日常にミキティ〜〜〜〜〜を

今日もやけに筋肉質で半裸な男がテレビで叫んでいる。

同居人の男はテレビを眺め、こう言った。

「うるさい。嫁の名前をテレビで叫ぶな。家の中でやれ。」

フゥーとため息を一つ。

「しっかり彼の姿に目を凝らしてみたらどうや?」
僕がそう語ると、彼はこう言った。

「庄司って、けっこう綺麗な乳首してたんやな」

違う 違う そうじゃ そうじゃない。

  • 稲田ズイキさん
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    稲田ズイキ

    26歳の僧侶。ライター。京都の寺の副住職ですが、寺に定住せずネットとリアルで煩悩タップリな企画をやっています。
    Twitter:https://twitter.com/andymizuki

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    しりもと

    イラストや漫画を描いています。 麺をよく食べます。
    Twitter:@shirimoto

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