バズった『三省堂現代新国語辞典』第6版。「キメる」「刺さる」…さらに「攻めてる」点を紹介

2018/12/05

WRITERながさわ

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バズった『三省堂現代新国語辞典』第6版。「キメる」「刺さる」…さらに「攻めてる」点を紹介

2018年10月の発売直後から、巷の話題をさらっていった辞書がありました。『三省堂現代新国語辞典』第6版です。

AbemaTVの「けやきヒルズ」で採り上げられたのを皮切りに、日本テレビ「スッキリ」やテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」、フジテレビ「ワイドナショー」などで『三省堂現代新国語辞典』第6版に多くの新語が取り入れられたことが報じられ、Amazonでは一時的に品切れになるほどでした。『広辞苑』以外の辞書、それも高校生をメインターゲットにした学習用の辞書がワイドショーで大々的に扱われるとは、たいへんな椿事です。

ことの発端はというと、筆者のブログ記事

「高校生向け『三省堂現代新国語辞典』第6版がヤバいから高校生じゃなくても買え」
http://fngsw.hatenablog.com/entry/2018/10/18/174528

が世に言う「バズる」状態になったことでありました。なぜかラジオ局からお声がかかり、気がついたら一介の辞書ファンがラジオ番組で『三省堂現代新国語辞典』について解説しているという面妖な事態も生じました。RCCラジオ「おひるーな」のみなさま、お世話になりました。

ブログ記事は、『三省堂現代新国語辞典』に「沼」や「マウント」などのことばが新たに収録されたことに触れ、「新語、俗語をたくさん取り入れていてすごい」と賞賛する論調で書いたものです。これだけバズると、「辞書にこんなことばを載せるなんてけしからん」という非難が続々と寄せられるのではなかろうかと危惧しました。ところが蓋を開けてみると、そういった意見はわりあい少なく、むしろ新語や俗語の立項に共感を示す反応が過半を占めていました。現実のことばをうつし取るという辞書の一側面が理解されているようで、嬉しく思います。

バズ・る〈自動五段〉[←buzz=うわさ・評判]
SNSで、ある投稿が一気に広まったり、ネット上で大きな話題になったりする。

「バズる」も今回の改訂で新たに加えられた一語です。

ブログでは、『三省堂現代新国語辞典』第6版で新しく立項されたことばのほかに、「誤用」とされることの多い語の扱いや、「ちりばめる」などの語の漢字表記についても触れていたのですが、テレビでは新語についてしか扱われませんでした。他の話題はワイドショーのネタにするには地味ですから、当然かもしれません。

それにしても、テレビで採り上げられた新しい項目のうちの大部分が、私のブログで紹介したものと共通していたのはどういうわけでしょうか。いや、私に何かの権利があるわけでもなく、べつに構いやしないのですが、まだまだ他にもおもしろい例があるのに、丸写しで事足れりとしている様子に少々もやもやが残ります。

せっかくなので、もう少し別の切り口からも『三省堂現代新国語辞典』第6版に載った新しい語・用法を味わってみたいと思います。

〈基本的な動詞の意味の追加〉

ごく基本的な動詞を引いてみると、意味の区分が追加されているものがあることに気づきます。

あが・る【上がる】[一]〈自動五段〉
㉓←テンションが上がる。[若い世代の言い方。多く「アガる」と書く]
き・める【決める】[二]〈自他動下一〉[「キメる」とも書く]
②違法な薬や、強壮剤などを用いる。[隠語的な言い方]
ささ・る【刺さる】〈自動五段〉
②深く納得できるような感動や印象を与える。「そんな言い方では刺さんない」
せ・める【攻める】〈他動下一〉
②[見て感心したり、期待を上回ったりするほどの]積極的な行動に出る。「攻めてる新聞広告」

「攻める」「刺さる」の新しい意味は新語の立項に積極的な『三省堂国語辞典』(第7版、2014年)にもなく、この規模の辞書には初めて登場しました。「若者に刺さるコンテンツ」「攻めたファッション」など、ごく当たり前のように使われ、もはや新しい意味であると意識することすらないかもしれませんが、こういった用法もしっかりフォローしていることがわかります。

「決める」については、飲食するという意味が近世からあり、その復権と考えることもできますが、現代語のみを対象とする辞書でこの意味を載せるものは他にありません。

〈地味ながら光る新項目〉

一見すると地味ですが、するどい観察眼が冴える以下のような項目もあります。

アンバサダー〈名〉[ambassador]
①大使。使節。
②企業や製品を応援するファン。

そもそもこのことばを立項しない辞書も多く、あったとしても基本的には①の意味のみです。ところが、ここではさらに進んで「企業や製品を応援するファン」という意味を載せています。「ネスカフェアンバサダー」などというときの「アンバサダー」です。言われてみれば納得ですが、なかなか気がつかない新用法です。

きせかえ【着せ替え】〈名・他動サ変〉
①[子供や病人の]着ている衣服をぬがせて、別の衣服を着せること。「―人形」
②[スマートフォンなどで]初期画面の背景やアイコンのデザインを、別のものに かえること。「―アプリ」

②の意味が新しく加わっています。スマホなどの「着せ替え」は①の意味では説明できず、独立した語釈を与える必要がありますが、デジタルを含む既存のどの辞書も見落としています。

ゴーグル〈名〉[goggles]
①スキーや水泳、溶接作業などをするときに、目をおおって保護する器具。
②目をおおうように装着して、内側のディスプレイを見る装置。「VR―」

この②には感動すら覚えました。確かに、VRゴーグルなどのゴーグルは、形こそ似ていますが目を保護するゴーグルとは違っており、従来の辞書の語釈では説明できません。

華やかな新語ではありませんが、どれも現実のことばにしっかり目を光らせているからこそ記録できた語です。

〈方針転換か、それとも……〉

『三省堂現代新国語辞典』が新語・俗語を多く取り入れたのは、第6版からの新方針なのでしょうか。それとも、旧版でも行われていたことなのでしょうか。ブログの記事を書いた段階では、そのあたりははっきりしていませんでした。これが、各メディアの取材によって、意識的な方針転換であったことが明らかになりました。

ITmedia NEWSは、第5版までは俗語の収録に抑制的であったと報じた上で、「高校生が『こんな身近な言葉も載っているのか!』と思うような語を入れることで、辞書に対して親近感を持ってもらえたらと考えた」という担当者のことばを紹介しています(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1810/29/news040.html)。

ところが、旧版においても、若い世代のことばをまるきり無視しているわけではないという例も存在しています。たとえば、「やばい」がそうです。

今回の改訂に関する報道の中で、「やばい」の意味として新たに「自分でもどうしていいかわからないほど好ましい」が追加されたと報じるものがありましたが、これは正確ではありません。

「やばい」を好意的に使う意味は、2007年の第3版からすでに加えられていました。

やば・い〈形〉[俗語]
①つごうがわるい。まずい。「見つかると―」
②あぶない。危険である。「―仕事」
③すごい。とてもすてきだ。「この曲は―」[若者がつかう]

第6版で、表現が以下のように変わり、補説も詳しくなったというのが正確な経緯です。

やば・い〈形〉[「ヤバい」とも書く]
①都合がわるい。まずい。「見つかると―」
②あぶない。危険である。「―仕事」
▼[隠語的な言い方]
③自分でもどうしていいか わからないほど好ましい。「このスイーツ、―」[①を転用した、若い世代の言い方。たんに「あっ」や「おっ」の代用をする感動詞のようにも用いられる]

「やばい」の新しい意味は10年以上も前から記録されていたのです。当時の辞書で肯定的な「やばい」に触れていたのは『大辞林』(第3版、2006年)くらいのものでした。『三省堂現代新国語辞典』のことばに対する視線のするどさは、今も昔も大きくは変わらないのではないかと感じます。

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    ながさわ

    一介の辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている。「四次元ことばブログ(http://fngsw.hatenablog.com/)」で辞書や言葉について発信中。

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