日々の気づきを仕事に活かすには?ヒットゲームを作る東山朝日「10歳の目線で面白がろう」

2018/11/28

WRITERZing!編集部 ピーター

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日々の気づきを仕事に活かすには?ヒットゲームを作る東山朝日「10歳の目線で面白がろう」

ゲームクリエイターの東山朝日さんはナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)でフライトシューティングゲーム「エースコンバット」を開発し大ヒット、その後もタイトーで音楽ゲーム「グルーヴコースター(アーケード版)」のコンセプト開発に関わるなど、多くのタイトルを手掛けてこられました。現在は「Fate/Grand Order」などのゲーム開発・運営を行うディライトワークスに所属し、新たなゲームタイトルを開発中とのこと。
とあるきっかけで知った東山さんのメモ術や「自分の心がどう動いたか」の分析が面白く、ぜひ話を聞きたい!ということでお話を伺ってきました。どんな仕事にもつながるヒントがあると思います。


人間が面白いと思うからには理由がある。それを知りたい

――東山さんは自分の心がなぜ動いたかを分析し仕事に活かされていると聞きます。なぜそのような分析をされるようになったんでしょうか?

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24歳のときに「エースコンバット」の開発にプランナーとして関わったんですが、その頃はまだお客さまと自分の年齢が近かったこともあり、純粋に自分が面白く感じ、欲しいものをつくれば、お客さまも共感して楽しんでくれるだろう、と思っていました。1作目はおかげさまでヒットしたんですが、その後ディレクターとして「エースコンバット2」をつくることとなり、不安になったんです。

――どういう不安だったんでしょうか?

「エースコンバット」ならではの面白さを自分自身できちんと把握し、続編としてそれをさらに強化できるのか、という不安でした。また自分は天才タイプではないと思っていましたので、50歳、60歳になってもゲームの世界で食べていくには、面白さをいち早く感じ取る「直感」と、それがなぜ面白いのかを裏付ける「論理」のバランスをとっていかないといけない、とも思いました。
人間は他の動物と違い、社会性や文化を持っています。人間が面白いと思うことには、そう思わせるに足る理由や仕組みがあるんじゃないか。そう考えた結果、まず直観で感じ取った面白さを「なぜ面白いと思ったのか?」メモして論理的に分析しようと思ったんです。

――以前受けられていたインタビューの中で、テレビ番組「しくじり先生」の例がありましたね。感動されて、なにが自分の心を動かしたのか、タイムラインに沿って記録された、と。

録画して観た「しくじり先生」は夫婦のお話の回で、どんなに旦那さんが度を外れたしくじりをしても奥さんが支える、その「ひたむきな愛情」に感動したんです。そこで横軸を番組進行のタイムライン、縦軸を番組中の発言にした「心情チャート」をつくり、時間に沿ってどんなセリフが展開され、「なぜ感動に至ったのか」を分析してみました。

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――どうして縦軸をセリフにとろうと思ったんでしょうか?

ゲームでいう「仕様」にあたるのが「出演者のセリフや反応」だと思ったからです。もしカメラワークが気になったら、時間軸に沿ったカメラワークを記録していけばよいと思います。観察対象のどの部分が一番自分の心を動かすキーになったのか、を抜き出すのが大事ですね。

「ダイ・ハード」ד容赦のなさ”=「96時間」?

――ほかにもそういう分析をされた例はありますか?

例えば、映画「96時間」を観ていたときのメモがこれです。

――おお! 「ダイ・ハード」を思い出した、と。

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はい。リーアム・ニーソン演じる父親が、娘を誘拐した敵を相手に戦っていくんですが、

・家族を人質にとられている
・孤立無援
・大勢の敵と戦う
・警察の協力を取り付けられない

という設定、プロットはかなり「ダイ・ハード」に近いなと思ったんです。このときはただその気づきをメモしただけなんですが。

その後、またそれをふと思い出して、もう一度考えました。「ダイ・ハード」は1988年の映画、「96時間」は2008年。似ているとはいえ何かしら面白さの質が異なるところがある、ということは何かが違っているはず。じゃあどこが違うのか?……と2つの映画を分解して比較していくと……「96時間」の主人公は娘を救うための行動に「容赦がない」ことに気づいたんです。だから「ダイ・ハード」の主人公×容赦のなさ=「96時間」じゃないか、と。

――なるほど! 「ダイ・ハード」のブルース・ウィリスも一人で戦う強い男だけど、茶目っ気がありますもんね。

手書きのメリットはテンションを思い出せること

――気づきのメモが習慣するコツはなんですか?

3つあります。
1つは「目的意識を持つ」こと。私の場合は「ゲーム制作に活かせるか?」ですね。目的意識をもって観察することで、様々な情報が「機会」や「問題」となって見えてくると考えています。2つ目は「気楽に着手する」こと。メモするだけであれば手軽ですから。3つ目は「楽しむ」ことです。「やあ、これは面白いぞ」という気づきを溜めていく遊び、と考えればいいわけです。ペンはその場にあったものを使うので、見たとおり文字の色はところどころ違います。大きな紙にスケッチしたものを縮小コピーして貼りつけたりもしています。

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――別の紙に描いたものもこのメモに集約するんですね。メモはほぼ手書きなんですか?

今はスマホのメモと手書きと半分ずつぐらいですね。スマホのいいところは検索性が高いところ。手書きがいいのは、書いたときのテンションが分かりやすいことです。文字の大きさや量で、そのときの熱量を思い出せる。あとパソコンやスマホで書くと、大したことじゃなくても賢くそれっぽく見えてしまうんですよ。手書きだと雑なことは雑に書いてしまいますから(笑)。

――なるほど。メモごとにナンバリングもされているんですね。

あとから見返すときに分かりやすいのと、番号が増えていくことに快感を覚えて続けようとするのでそうしています。

――ゲームニクスがここにも活かされているんですね! 

気づきをメソッドに落とし、他者と共有

――気づきを貯めていったあとは、どうされるんでしょうか。

収集→蓄積→熟成→イメージの衝突
という順番で考えています。
気づいたら収集(メモ)、それがどんどんノートに蓄積されていく。時間が経つと、気になることは自然と思い出して考え直します。これが熟成。「イメージの衝突」というのは、さっきの「ダイ・ハード」と「96時間」のように、2つのものをぶつけあって、差異や共通点、抽象化された法則などが飛び出してくるのを待つことを指しています。


思考の整理学 (ちくま文庫)amazon.co.jpより

外山滋比古『思考の整理学』にあった言葉「見つめるナベは煮えない」を思い出しました。じっと眺めて考えるより、気づきを貯めておくといつかアイデアが熟成・発酵する、と。

――気づきを仕事に活かした具体的な例はありますか?

僕は割と可愛いものが好きなんですが「可愛いってどういうことだろう?」と調べるうちに、コンラート・ローレンツという動物行動学者の「幼児信号」という考えを知りました。これがそのときのメモです。

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幼児信号とは、動物の親が子を「可愛い」と思い、世話がしたくなるような、動物や人間の子供に共通する特徴のこと。例えば「頭が大きい」「ふくよかで手足が短い」「ぎこちない動作」など。この考え方を拡張することで、ゲームのキャラクターデザインに活かせないか?と考えました。頭が大きい=可愛い、であれば頭が小さい=かっこいい、など「反対に振れば違うイメージのキャラがつくれるのではないか」と。それで考えたメソッドが「SDT/C」です。

SDT/Cとは、キャラクターの特徴を表す要素と、それをゲージに表したもの。

S=シルエット。輪郭が「ディフォルメ」か「リアル」か。
D=ディテール。詳細情報が「簡略」か「詳細」か。
T=テクスチャ。質感が「高い」か「低い」か。
C=カラー。メインカラー、サブカラー、アクセントカラーは何か。

キャラをイメージして、S、D、Tそれぞれの線分上に点を置いていきます。
例えばシルエットは「リアル」寄り、ディテールは中間ぐらい、質感は「低い」寄り。どういうキャラクターが思い浮かびますか?

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――うーん……、ブ、ブラック・ジャック?

ブラック・ジャックはシルエットがディフォルメ寄りですかね。これは江口寿史さんの描かれるイラストの女の子をイメージしています。

――なるほど! 確かに江口さんのキャラは漫画的なキュートさもあるけどリアルっぽくもあり、描線はフラットでかっこいいですもんね。

逆にシルエットがディフォルメ寄り、ディテールが簡略寄り、質感がすごく高い……だとどうでしょう?

――ディフォルメが強いから子供向けっぽいので……かつ質感は美味しそうな肌感の……アンパンマン?

アンパンマンはセルアニメなので、そういう意味では質感が高いとは言い難いですね(笑)。「モンスターズ・インク」のサリーなんかがこれに当てはまりますかね。

――確かに! サリーはディフォルメされてるけど毛並みのフカフカ感が特徴ですもんね。いろいろとキャラを分解できますね。

あとはキャラクターのカラーの配分を考えていくと、よりイメージしやすくなります。
さらにスペックを細かく分けていったのがこの「スペックゲージ」。色白で、やせ型、美人、理性的、ショートヘア、お酒に強い……。

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――『働きマン』の主人公・松方弘子を思い出しました!

いいですね! そういった形で、「かわいいと感じさせる仕組み」から「キャラクターイメージを共有するメソッド」が生まれた、というわけなんです。

――現実の人も分析できますね。『手塚治虫のマンガの描き方』を思い出します。

「このキャラはこの女優っぽくて……」と説明しても、人によって抱くイメージは違います。その点、こういったメソッドに落とすと、イメージ共有がしやすくなります。
SDT/Cを活かしてつくったのが「電車でGO!!」のイメージキャラやゾンビ対人間の対戦シューティング「LEFT 4 DEAD -生存者たち-」のキャラなどです。アクションゲームなどではプレイヤーが瞬時に敵・味方を判断する必要があります。なので、シルエットや色など、思想を持って分類するのは重要なことなんです。

――こういう風に気づきが仕事に活かされていくんですね。

現場の観察と「エクスペリエンスマップ」で仮説発見・検証

――今までは「自分は何を面白いと思うのか?」の主観の分析について伺ってきました。客観的な分析についてはどうでしょうか。

以前に「グルーヴコースター」のコンセプト開発を行った際、「誰向けに」「どんな筐体にするか」が課題になりました。そこで、国道16号線沿いのゲームセンターを何店舗も見て回ったんです。それこそ一日中ゲームセンターに張り付いて。
最初のうちははただひたすら観察するだけなんですが、しばらく通ううち「音楽ゲームコーナーで遊んでいる人を遠巻きに眺める子供」が何人かいることに気づきました。話を聞いてみると「太鼓のゲームは卒業したけど、ボタンの多い音楽ゲームやダンスをするゲームはうまいお兄さん・お姉さんがいるからやりづらい」ということでした。
それらの観察を受け、もしその子たちにつくるならどんなゲームがウケるのか。調査のためにつくったのが「エクスペリエンスマップ」です。

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――これはどういうものなんでしょう?

横軸が1年ごとのタイムライン、縦軸に主要な音楽ゲームを置き、どのゲームがいつリリースされ、どんなお客さまに遊ばれているのか、などを年表の形にしたものです。
ゲームセンターでの観察で音ゲーコーナーの筐体を遠巻きに眺めていた子供たちは、年齢で見てみると「最初の音楽ゲーム=太鼓ゲーム」だったようなんです。それが成長してさらに複雑な音ゲーをやりたいけど、主流の音楽ゲームはナンバリングが既にたくさん出ていて、うまい先輩がたくさんいる。ちょっと入って行きづらい雰囲気らしいんですね。
そこで、この世代の「マイ・ファースト・音楽ゲーム」をつくればヒットするんじゃないか?と仮説をつくり、それを検証しながらゲームを開発していきました。ちょっと背伸びした感覚が味わえる「スタイリッシュな筐体」で、没入感が味わえる「大画面モニター」を使用した、操作が比較的簡単な音楽ゲーム。「君たちが最初に始められる、君たち向けのゲームだよ」というメッセージを込めた筐体に仕立てることができ、おかげさまでこれもヒットしました。

――現場を観察することで「はざまの世代」を発見したわけですね! デザインコンサルファームのIDEOの仕事術にも通ずるものがありますね。ちなみにこういった情報のソースはどこで調べるんでしょうか?

特別なものは特にありません。「事実」と「印象」を区別する必要はありますが、書籍やネット上の情報など手に入る範囲で、ある程度の信ぴょう性が得られるものであれば良いと思います。
エクスペリエンスマップは市場を予測するための仮説立てに役立てるものなので、その人が何歳のときに何を経験してきたかを知るため、一番下に「年齢ゲージ」を入れているのが重要なところです。大学の授業でこのマップをつくるワークを実施したのですが、「高校時代、女子がヤマンバギャルだった世代の男子の一部が、その後草食系男子と呼ばれているのでは」という仮説をあるチームが発見しました。自分以外の誰かの視点で見られるのがいいところですね。

――なるほど、ある地点から体験を見渡すから、年表というよりはマップなんですね。参考になりました。

関連:「タイムスリップ!平成ひらめき物語」各記事の最後に、使えそうなリンクを参考文献として入れております。こちらも参考にどうぞ。

10歳の目線で世の中を面白がろう

――最後に、自分の心の動きに敏感であるためには何を一番心がけるべきでしょうか?

継続するためには先にも話した「目的意識を持つ」「気楽に着手する」「楽しむ」ことが大事ですが、心の動きに敏感であるために、という観点では「好奇心」が最も大事ですね。歳をとるといろんな物事をつい分かったつもりになってしまいがちだったり、斜に構えて見がちだったりしますが、僕が常々心がけているのは、「10歳ぐらいの精神年齢で世の中を眺めてみる」ことだったりします。好奇心あればこその成長だと思っています。

――ありがとうございます! ちなみに、東山さんが10歳くらいの頃はどんなお子さんだったんでしょう。

僕は1969年生まれなので、9歳の頃に「スター・ウォーズ」の第1作が、10歳の頃に「エイリアン」の第1作が公開されて夢中になりました。スター・ウォーズのおもちゃが欲しくなったのですが、当時は輸入品が高くて手に入りませんでした。そこで得意だった折り紙でX-ウイングを折り学校に持っていったら一躍人気者になったことを覚えています。

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東山さんに提供いただいた、当時作った折り紙のX-ウイングの再現。細かいこだわりを感じます。

――すごいですね! 自分の好きなものを分析して、そこから人を喜ばせるものをつくる体験が東山さんの原点なんですね。まずは気軽にメモをとってみることから始めてみます。ありがとうございました!

  • PROFILE

    東山朝日

    1993年、株式会社ナムコ(現バンダイナムコエンターテインメント)に企画職として入社、「エースコンバット」(プランナー)、「エースコンバット2」(ディレクター)、「機動戦士ガンダム戦記」(製作プロデューサー)などを担当。2012年、株式会社タイトーに転職。「グルーヴコースターアーケード」、「電車でGO!!」などのコンセプト開発を担当。2017年、ディライトワークス株式会社に転職。ゲーム開発に従事。

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