大人にこそ読んで欲しい、岩波ジュニア新書おすすめ6冊。教養が数時間で身につく!

2018/12/18

WRITER堀越英美

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大人にこそ読んで欲しい、岩波ジュニア新書おすすめ6冊。教養が数時間で身につく!

テレビっ子な小学5年生の娘に『理系アナ桝太一の 生物部な毎日』をねだられたことをきっかけに、岩波ジュニア新書の棚をよくチェックするようになりました。子供時代は真面目そうに見えて敬遠していましたが、読んでみると意外に面白い。一流の専門家がまとめた各分野の教養を数時間で摂取できるぜいたくさに、大人になってから気づいた次第です。そこでネット世代の若者にとっても面白そうな岩波ジュニア新書をいくつかセレクトしてみました。

『生きづらい明治社会 不安と競争の時代』松沢裕作

「社会が悪いと嘆くより自分が変われ」「弱者でいるのがいやなら努力して這いあがれ」……学校、ドラマ、マンガ、自己啓発書、J-POPの歌詞など、いたるところでこのような言い回しを目にします。確かに一見かっこいい言葉です。少年マンガの主人公がネットで政治批判に明け暮れるばかりでは、ちっとも話が進まず面白くありません。とはいえ、現実は「努力、友情、勝利」の物語とは違います。努力しても貧困に陥ることはありますし、勝ち組になれなかったのは道徳的に正しくない行いをしたからというわけでもありません。それなのに貧困層や苦しみを訴える弱者はダメ人間とみなされ、冷たい視線を浴びせられてしまうのです。
日本の歴史学では、「人が貧困に陥るのは、その人の努力が足りないからだ」という考え方のことを、「通俗道徳」と呼ぶそうです。なぜ日本人が支配層に都合のいい「通俗道徳」に染まってしまったのか。歴史学者による本書は、その原点を明治社会の厳しさに見出します。弱者を救う余裕のない小さな政府、景気の変動、急激な資本主義化、進学の道が開けたことによる立身出世熱に受験競争……。当時の議員らの言動を見ると、人情ゼロかよ?と言いたくなるくらい厳しいものだらけ。でも厳しさのからくりを知れば、自分に「ダメ」のレッテルを貼って苦しまなくても済むかもしれません。「成功する人の5つの習慣」的な自己啓発記事や、グチをもらせば「自己責任」と返されるSNSにお疲れ気味の大人におすすめです。

【おすすめ1冊目】


生きづらい明治社会――不安と競争の時代 (岩波ジュニア新書)
(c)松沢裕作/岩波書店

『マンボウのひみつ』澤井悦郎

全国の小学生が投票する“こどもの本総選挙”で見事1位に輝いた『ざんねんないきもの事典』。うちの子供たちも大好きです。速い、賢い、強いといった能力の高さではなく、個性豊かな「ざんねん」という切り口で動物を形容するスタイルが、競争にさらされがちな子供たちに脱力した笑いと癒しを与えているのでしょう。しかし同書に記された「マンボウの99.99%はおとなになれない」は、専門家によれば不正確らしい。マンボウ、ざんねんじゃないってよ。
正しいことより面白いことのほうが広まりがちなのは世の常です。ならば真のマンボウの姿を面白く紹介しよう。幼少期からその魅力にとりつかれ、「マンボウ好きをこじらせた」若き農学博士による本邦初の一般向けマンボウONLY本が本書です。著者によれば、水棲生物、ことに巨大でなかなか獲れないマンボウ(著者が世界最重量硬骨魚であることを明らかにしたウシマンボウは3メートル前後)の研究は困難をきわめ、大学院時代は病んでいたそうです……。そんな障壁を乗り越えて著者がマンボウの謎を解明する過程は、生物研究最新事情の勉強になりますし、研究に賭けた青春物語としても楽しめます。「おぼれた子供を助ける」「3億個の卵を産む」「ジャンプした着水の衝撃で死ぬ」「とにかくすぐ死ぬ」といったマンボウ都市伝説の真偽も明らかに。初音ミクやスマホゲーなど若手研究者ならではのネタも多く、親しみやすさはピカイチです。

【おすすめ2冊目】

『正しいパンツのたたみ方 新しい家庭科勉強法』南野忠晴

家事とケンカはウェブの花。家事の分担をめぐっては、男女間で論争が絶えません。このすれ違いは、長らく家事が「女の道徳」と深く結びついてきたことに起因するのでしょう。「正しいやり方」をしなければ笑いものになるという強い抑圧の中で育った日本女性は、そんな抑圧と無縁に生きられた人々に怒りを覚えてしまう。一方、生活能力の低さが男らしさにつながると信じ、家庭に居場所をなくしたり不摂生で体を壊したりする人もいます。縛られれば苦痛だし、ないがしろにすればいつか怪物となって人生を食い荒らす。「生活といううすのろ」(©佐野元春)は、実にやっかいです。
元・男性家庭科教師による本書は、家事を「女の道徳」から引きはがし、忍従の美徳の証であるお作法ではなく、生活を主体的に作り上げる技術として提示します。著者によれば、家庭科とは「どんな暮らし方が自分にとって快適なのかを追究し、快適にするための実際の方法(やり方)を身につける教科」です。だから「正しいやり方」は人それぞれ。定年後に洗濯物の干し方で妻に怒られる男性に対して、著者はまず自分の分をやりたいようにやってみなさいとアドバイスします。しわが気になりだしたら、そのとき干し方を学べばいいと。誰かの作法に黙って従うのではなく、自分の快・不快に向き合い、快適さを自分でコントロールできるようにする。個として自分の生活を作り上げた者同士なら、互いを尊重して共生できる。それこそが著者の教える家庭科のゴールです。家事が苦手な人だけでなく、家族の家事にイライラしてしまう人にもおすすめです。

関連:丁寧に家事をやろう。『正しいパンツのたたみ方』南野忠晴「生活のズレを面白がれば平和に」
https://eonet.jp/zing/articles/_4102714.html

『フランス革命 歴史における劇薬』遅塚 忠躬

ファッション誌を読んでパリジェンヌの知的なセンスに酔いしれ、子供向け絵本でお母さんが酒飲んでクラブで踊る描写に自由を感じる。人並におフランスに憧れる人生を歩んできましたが、報道で目にするフランスはずいぶん殺伐としています。日産問題ではフランス政府が大砲を持ち出すなんて言い出すし、暴動起きてるし。フランス人は10着しか服持ってないなんてオシャレーなどと言うてる間に大砲で撃たれそう。思えば自由・平等・友愛の原点であるフランス革命こそ、殺伐の固まりのような歴史イベントなのでした。
歴史物に定評のある岩波ジュニア新書の中でも特に名著と名高い本書は、フランス革命の暗部に光を当てます。餌付けされたことのない猛獣=大衆が革命の担い手として登場したことが、「劇薬」となる最大の原因となったフランス革命。革命を主導するブルジョアがある時点で大衆と手を組んだことで、デモクラシーの原理が生まれた代わりに独裁と恐怖政治を招いた経緯が分かりやすく(ベクトル図付きで)解説されています。人間の尊厳を回復するために暴れる大衆はかっこいい。一方でひどく残忍でもあったその所業の分析は、「パリジャンを見習って暴動で増税延期したーい」というホワホワした気持ちに冷や水をぶちかけるに十分。もっとも上からの改革で近代化した日本では、大人しさと引き換えに人権がおざなりにされがちです。「血まみれの手からの贈り物」である人権を守るにはどうすればいいのか、たまにはまじめに考えたい。革命前後のフランス史をポップに把握できる『お菓子でたどるフランス史』(池上俊一)、フランス革命を招いた産業革命を含む西洋史を概観できる『砂糖の世界史』(川北稔)もお勧めです。

【おすすめ4冊目】

【おすすめ5冊目】
【おすすめ6冊目】

砂糖の世界史 (岩波ジュニア新書)
(c)川北稔/岩波書店
  • PROFILE

    堀越英美

    ライター。著書に『不道徳お母さん講座』(河出書房新社)『女の子は本当にピンクが好きなのか』 (ele-king books)等。訳書に『世界と科学を変えた52人の女性たち』(青土社)、『ギークマム』(オライリー・ジャパン、共訳)。

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