国語辞典の「しりとり」の例を比べてみた。鳥しばり、「ん」で終わる…辞書ごとに特徴が

2019/02/12

WRITERながさわ

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国語辞典の「しりとり」の例を比べてみた。鳥しばり、「ん」で終わる…辞書ごとに特徴が

国語辞書のことば遊びに関する項目では、説明のために実例が添えられていることがあります。『新明解国語辞典』の「しゃれ」の項にこんなしゃれが書いてあることは、辞書好きの間ではよく知られています。

しゃれ【洒落】[一](一)〔その場の思いつきとして〕類音の語に引っかけて、ちょっとした冗談や機知によってその場の雰囲気を和らげたり
盛り上げたり する言語遊戯。例、潮干狩に行ったがたいして収穫がなく、「行った甲斐〔=貝〕がなかったよ」と言うなど。〔以下略〕
――『新明解国語辞典』第7版

この例そのものが面白いんだか、辞書にしょうもない冗談が書いてあるから面白いんだかわかりませんが、ユーモラスなのは確かです。ただ、「しゃれ」の項目にしゃれの実例が書いてある辞書は案外少なく、『岩波国語辞典』に「へたなしゃれはやめなしゃれ」(第7版新版)とあるほか数冊がある程度です。

そんななか、多数の辞書に実例が添えられていることば遊びがあります。「しりとり」です。

たとえば、『角川必携国語辞典』では

しりとり【尻取り】[名]前の人の言ったことばの、最後の音節で始まる新しいことばを、次々に言って続けていくことば遊び。たとえば、「ねこ→こま→まり→…」など。
――『角川必携国語辞典』

と、何の変哲もないしりとりが展開されています。

このように、2文字の単語を続けるという最もシンプルなしりとりを採用している辞書には、ほかに『大辞泉』と『日本国語大辞典』などがあります。

しり-とり【尻取り】①前の人の言った語の最後の一音を取って、それで始まる新しい語を次々に言い続けていく言葉の遊び。「くり・りす・すみ…」など。〔以下略〕
――『大辞泉』第2版
しり-とり【尻取】〘名〙①遊戯の一つ。二人以上で、前の人の挙げた物の名の語尾の一音を、次の人が語頭に置いて別の物の名をいい、これを順々に言い続けてゆくもの。「やま、まつ、つる、…」の類。〔以下略〕
――『日本国語大辞典』第2版

『日本国語大辞典』の「やま、まつ、つる」は、その前身である『大日本国語辞典』(1915~19年)からの歴史ある例でもあります。

しり-とり 尻取 (名) 二人以上の人が集まりて、一人が言ひ出だしたる語尾の一字を頭字として他の者がいひ、かくして順次に其れを承けていひあふこと。例へば、一人がやまといへば、まつといひ、次につるといふ類。
――『大日本国語辞典』

のちの『大辞典』(1934~36年)はこれを完全にパクっています。

シリトリ 尻取 遊戯の一。二人以上の人が相集りて行ふ。先づ最初の人が一語を言ふと、次の者はその語の語尾の一字を頭字として語を続ける。かくして順々に承けて行く。例へば一人がやまといへばまつといひ、次につるといふ類。
――『大辞典』

なぜかよく出る「あめ→めだか」

さて、しりとりの例など無限に作ることができるはずですが、どういうわけか、まったく違う辞書どうしでよく似た単語の組み合わせを見ることがあります。

しり-とり【尻取り】(名)前の人の言った語の終わりの音をつぎの語のはじめに置く形で、つぎつぎに物の名を言い合うことばの遊戯。「あめ、めだか、からす…」の類。「―をして遊ぶ」
――『旺文社詳解国語辞典』
しり とり【尻取り】①言葉の遊戯。前の人の言った言葉の最後の音を語頭にもつ言葉を順々に言い合う遊戯。「あめ・めだか・かい・いす」のように続ける。〔以下略〕
――『大辞林』第3版
しり とり【尻取り】ことば遊びの一つ。前の人の言ったことばの語尾の一音節を、次の人がことばの頭に置く形で、次々に物の名を言い続けるもの。例えば「あめ・メダカ・カメ…」などと続ける。
――『集英社国語辞典』第3版
しり とり[尻取り](名)前の人の言ったことばの最後の音で始まる新しいことばを順々に言い続けて楽しむ遊び。「ん」で終わることばを言うと、負になる。例、あめ-めだか-かき-キリン
――『三省堂国語辞典』第7版

「あめ・めだか」ペアの採用率の高さが気になります。見たところ、この組み合わせを採用した最初の辞書は1973年の『角川国語中辞典』のようです。

しり-とり【尻取(り)】①二人以上の者が、前の人の言った物の名の語尾の音を取って、その音で始まる別の物の名を順次に続けていくことば遊び。「あめ→めだか→かい→いぬ」など。〔以下略〕
――『角川国語中辞典』

翌年には『三省堂国語辞典』第2版が「あめ・めだか」ペアを採用しています。ただし、第4版(1992年)からは「キリン」が加わり、今のところ唯一の「負けている」辞書になっているのは見逃せません。また、『三省堂国語辞典』は、「『ん』で終わると負け」というしりとりに欠かせないルールに触れている数少ない国語辞書のひとつでもあります。

「鳥しばり」の伝統

国語辞書のしりとりでは、なぜか鳥が人気です。かの『広辞苑』も、

しり-とり【尻取り】①言葉遊びの一つ。はじめの人が言った物の名の語尾の一音を、次の者が頭字として別の物の名を言い、これを順につづけてゆく。「いす・すずめ・めじろ…」など。〔以下略〕
――『広辞苑』第7版

と、スズメにメジロと鳥が続いています。ひょっとして、「しりとり」にかけてのしゃれでしょうか。この組み合わせは初版以来変わっていませんが、『広辞苑』の前身である『辞苑』では「椅子、鮓(すし)、鹿」でした。『広辞苑』になってからの方針転換のようです。

『新潮国語辞典』はさらに徹底しており、「鳥しばり」が決まっています。

しり とり【尻取(り)】前の人の言ったことばの最後の音を、次の人が語頭において、順々に新しいことばを言い続けることば遊び。「からす・すずめ・めじろ…」など。
――『新潮国語辞典 現代語・古語』第2版

『広辞苑』の「いす」を「からす」に変えただけにも見えますが、偶然かもしれません。『明鏡国語辞典』も「鳥しばり」に挑戦し、しかも4回も続けています。

しり-とり【尻取り】〘名〙ことば遊びの一つ。前の人の言った語の最後の一音を取って、次の人がそれを語頭に置いた別の語を言う形で、次々に物の名などを並べていくもの。例えば「たか・からす・すずめ・めじろ…」などと続ける。
――『明鏡国語辞典』第2版

よく見ると『新潮国語辞典』のしりとりに「たか」を足しただけですが、偶然なのでしょうか。

調査した辞書のうちで最も長いしりとりを披露しているもののひとつが『旺文社国語辞典』で、なんと5語も続けています。その上、「動物しばり」までやってのけているから気合いが入っています。

しり-とり【尻取り】前の人の言った物の名の終わりの音を次の語のはじめに置いて、順番で物の名を言い合う言葉の遊戯。「あり・りす・すずめ・めじろ・ろば」のように続ける。
――『旺文社国語辞典』第11版

ここでもスズメとメジロが仲良く並んでいます。

辞書のしりとりでここまで鳥が愛されているのには、「しりとり」を立項した辞書としてかなり早い『ことばの泉』(1898~99)が鳥を例に挙げていたことが影響しているのかもしれません。

しり-とり[名]尻取。遊戯の名。ことばの尻の文字をとりて、更に、他のことばにいひつづくること。例えば、一人が、たかといへば他の一人が、かめといひ、又、他の一人が、めじろといひつづくるが如し。
――『ことばの泉』

独自路線をゆく辞書たち

似たようなものばかり採り上げてきましたが、独自路線を突き進む辞書も少なくありません。

しり-とり【尻取(り)】①ことば遊びの一つ。前のことばの最後の音を次の語の最初において、「あさ・さくら・らくだ・だちょう」のようにことばを連ねていくもの。
cap verses〔以下略〕 ――『講談社カラー版日本語大辞典』第2版
しり とり【尻取り】[名]「つくえ、えんぴつ、つばさ、さとう」のように、前の人が言った物の名の最後の一音を、次の物の名の頭につけて、順々に言うことば遊び。
――『清水新国語辞典』
shiri-tori 尻取り(名) 数人集まつて,順次に他人の言つた言葉の最後の音を頭(カシラ)として,別の言葉を言いつづける遊び.きつね・ねずみ・みつば・ばけつ・つつじという類.[capping]
――『ローマ字で引く国語新辞典』

中でも学習用の国語辞典はユニークなしりとりを繰り広げているものが目につきます。中学生向けの『例解新国語辞典』を見てみます。

しりとり〖尻取り〗〈名〉「たまご→ゴリラ→らっきょう」のように、前の人が言ったことばの、最後の音で始まることばを言いつなげていく、ことばの遊び。
――『例解新国語辞典』第9版

食材でゴリラを挟んでいます。

高校生向けの『ベネッセ表現読解国語辞典』にいたっては、

しり-とり【尻取り】〔名詞〕「ピアノ→のこぎり→リュックサック→くるみ」のように、前の人が言った物の名の最後の音を次の語の初めに置いて、順々に言い合う、ことばの遊び。
――『ベネッセ表現読解国語辞典』

と、狭い紙面の貴重な文字数を「リュックサック」が侵食しています。「リュックサック」の7文字は、調査対象の辞書のしりとりに使われた単語の字数では最長です。「リュック」でもしりとりの結果は同じなのに、あえて「リュックサック」と略さず言う気概をたたえたいと思います。

小学生向けの辞書では、『例解学習国語辞典』や『三省堂例解小学国語辞典』など、わざわざコラムを設けてしりとりの遊び方を説明しているものもあり、力が入っています。小学生にことばに親しんでもらおうという意図がはっきり感じられます。園児から小学校低学年向けの『ドラえもんはじめての国語辞典』第2版には、なんと「『しりとり』で負けない技」と題したコラムがあり、しりとりで勝つための方法まで指南しています。

ここで採り上げたもののほかにも、しりとりの例が示されている辞書はまだまだあります。ぜひ引き比べて楽しんでみてください。


例解学習国語辞典〔第十版・オールカラー版〕 amazon.co.jpより

  • ながさわさん
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    ながさわ

    一介の辞書コレクター。暇さえあれば辞書を引いている。「四次元ことばブログ(http://fngsw.hatenablog.com/)」で辞書や言葉について発信中。

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