精神を病み、会社を休職・退職。これは人生のリタイアなのだろうか

2019/02/18

WRITER吉川ばんび

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精神を病み、会社を休職・退職。これは人生のリタイアなのだろうか

悲鳴を上げる体と心を酷使し続けた、あの頃

「あ、おはようございます、あの、すみません、ひとつ手前の駅まで来たんですけど、また電車の中で体調が悪くなって、途中で降りてしまいました……すみません、今は駅のトイレにいます……はい、すみません、しばらくして落ち着いたら出社します、本当にすみません……」

会社員として働いていた頃、会社に遅刻連絡の電話を何度掛けたか、はっきりと覚えていません。でも、少なくとも2週間に1日、ひどいときは週に何日も、こうした状況が続いたことを覚えています。「また会社に迷惑をかけてしまった」「みんなから仮病だと思われているのではないか」と思うと、当時の私は恐ろしくてたまりませんでした。「なんとかしなくては」と焦ると同時に、自分の弱さを憎み、心底情けない思いでいっぱいでした。

その頃の私は仕事にやりがいを感じていなかったし、不眠症だったし、夜遅くまで残業をしなければいけなかったり、休日出勤が多かったりでいつも疲れていて、日に日に体の限界を感じていました。もともと家族関係が原因で学生時代から精神を病んでいた私は、不定期に訪れる体調不良を、心療内科で処方してもらった薬を飲みながら、なんとかだましだまし毎日を過ごしていたのです。

しかしそのごまかしは、長くは続きませんでした。悲鳴を上げる体と心を酷使し続けた結果、体調はさらに悪化し、異常な行動を取るようになったのです。毎日「消えてしまいたい」としか考えられないようになり、食事もとらず、ろくに眠りもせず、ぐちゃぐちゃになった気持ちを落ち着かせるために、衝動的にそこにあったマグカップを手に取り血が滲むまで頭を殴りつけるなど、私は明らかに正常な状態ではなくなってしまいました。

地獄のような日々に疲れ、会社に迷惑をかけている後ろめたさに耐えられなくなった私は、2年間働いたあと、とうとう退職願を提出したのでした。

人生をリタイアしてしまう気がして怖かった

同じような経験をされた方には分かっていただけるかもしれませんが、当時の私は「自分に何が起こっているか」という事の重要性に気づいていなかったのです。はたから見れば「そんなに辛いなら早く仕事を辞めてしまいなよ」と思うことでも、渦中の本人にとっては、これがどんなに危険な状態なのかが分からないのです。

「仕事を辞めるわけにはいかない」「みんなもしんどいだろうし、これはただの甘えなのかもしれない」「自分が辞めてしまうと、仕事が回らない」。自分の状況を客観的に見ることができずに、そんな風に自分をどんどん追い込んでしまう人って、今思い返せばとても多いのだと思います。
私は、こんな状態で仕事を辞めてしまうと、人生をリタイアしてしまうような気がして怖かったのです。だから病んでしまった人たちは、どんなに辛くても「現状維持」を選んでしまうし、いわゆる「思考停止」の状態になるのではないでしょうか。これが人間の心理の恐ろしいところだと私は考えています。

「無理をしないこと」から得られた大切な気付き

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とはいえ、自分で「無理をしないこと」を選択するのはとても難しくって、勇気がいることだと思います。先に申し上げた通り「仕事は辞められない」「これは甘えなのではないか」と思ってしまう自分に厳しい人ほど、自分が楽になる道を選ぶことを「悪」だと思いがちだからです。でも、それは決して「逃げ」や「甘え」なんかではないことをみなさんには知ってもらいたいのです。

会社を辞めたあと無職になった私は、何もできない状態に陥っていました。今転職してもますます病状が悪化するだけだと判断し、貯金を切り崩しながら生活し、投薬治療を続け、毎日眠り続けるだけの日々を送りました。私が再び次の仕事のことを考えられるようになるまでにおよそ半年ほどかかりましたが、今思えばこの期間は私の人生において、最も重要な時間であった気がします。

「体が弱い私にとって、ストレスや負荷のかかる仕事はきっと向いていないんだろうし、焦って就職したとして、また同じことを繰り返すだけなんだろう。そうなると、また辛い思いをし続けることになるし、この先も精神状態が良くなることはないだろうなあ」。こんな簡単なことに、私は会社から離れて、自分を見つめ直して初めて気が付いたのです。貧すれば鈍する、という言葉があるように、心が貧しくなっているとき、人は正当な判断ができなくなるのだと実感しました。

27歳になって、今感じていること

それから自分に見合った働き方を考えた結果行き着いたのが、今の「フリーライター」という仕事です。在宅ワークのため、電車の中で気分が悪くなって遅刻をする心配もなければ、体調が悪いときは無理をせずに休むことができる。この働き方を始めてから1年以上が経ちましたが、今は仕事によって苦痛を感じたり、精神状態が悪くなることもなくなりました。きっと、あの半年間の「何もしない期間」がなければ、今の私はいなかったでしょう。

精神を病んで休職や退職をしてしまった人は、そこで人生をリタイアすることになるでしょうか。答えは、NOです。辛い思いをしてボロボロになっているあなたがするべきことは「今の環境で耐えること」ではなく、「環境を変えて休むこと」です。そして気持ちが少し楽になったら、少しずつでいいから、自分の体と心との付き合い方を考えることです。誰しもが同じ環境で、同じように生きられるわけではありません。あなたには、あなたに合った「無理をしなくていい働き方」が必ずあるはずなのです。そしてそれはきっと、あなた自身にしか分からないことです。

誰かのアドバイスが必要なときもあるとは思いますが、自分がどのような状況にあるのか、自分が楽しく生きるためにどうしたいのかを、まずはあなた自身が考えて、理解してあげてください。
これから何十年、いかに苦痛を感じずに生きていくか、最終的にどうありたいのか。もし今どうしても辛いのであれば、少し休んで、これからの長い人生について考えてみてもいいのではないでしょうか。

  • 吉川ばんびさん
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    吉川ばんび

    1991年生まれのフリーライター。若者の働き方について多数のメディアで執筆活動を行う。取材・インタビュー・コラム・エッセイなど幅広く活躍中。

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