いい仕事をつくるには?兼松佳宏 「自分の“座右の問い”をみんなの共通言語にしていく」

2019/02/19

WRITERZing!編集部 ピーター

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いい仕事をつくるには?兼松佳宏 「自分の“座右の問い”をみんなの共通言語にしていく」

いい仕事とは何か。みなさんならこの問いにどう答えますか? 私は、その仕事をする人、受け取る人が肯定的な気持ちになる仕事じゃないかと思っています。人の役に立つことで、自分が肯定もされる。その仕事は自分の根底の部分とリンクしていると尚いい。自分の中の根本的な問いや、得意なこと。それが社会(誰か)の問題解決につながること。そんな仕事が一番、幸福度が高いんじゃないか。

自分で仕事をつくっている人たちは何を考え、どう仕事をつくっているのか。いい仕事とは何で、どういう在り方がそれをつくるのか。それを知りたいと思いました。

まずお話を聞いたのは、勉強家の兼松佳宏さん。勉強家とは、兼松さんの「beの肩書き」。「doの肩書き」はWebデザイナー、世界の先進的なソーシャルデザインを紹介するgreenz.jpの編集長を経て、現在は京都精華大の特任講師。ワークショップの企画やデザインもされています。
(詳しくは『beの肩書き』や兼松さんのstudyhallをぜひ読んでみてください)。
いい仕事をつくるには。兼松さんにお話を伺いました。

見つけてもらうには600字でいい

――兼松さんのお仕事遍歴ですが、まずWebデザイナー、greenz.jpの編集長、そして今は大学教員。どういう風に今の仕事につながっていったんですか?

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まず大学の頃になんでもいいのでデザイナーになりたい!と思ったんです。秋田生まれの田舎者だったので、横文字の肩書きに憧れていたんですよね。結果的にWebデザインのアルバイトをいただいて独学しながら実績をつくって、新卒で採用してもらうことができました。その会社には2年半くらいお世話になったんですが、仕事のし過ぎで気胸になってしまったんです。

――それは大変ですね……!

いったん仕事のペースを休みながら、プライベートの時間に取り組んでいたのがNPOのWebサイトをつくることだったんです。その流れで、Webデザイナーとしてgreenz.jpの立ち上げに関わることになりました。でも少しずつ企画にもいろいろ口を出すようになってついに「僕に編集長やらせてほしい」と言ったんです。そしたら、当時の編集長が「その言葉を待っていた」と言ってくれて。それで編集未経験にも関わらず編集長になりました。編集部の仕組みを整えたり、記事の型を作ったりしながら、2012年には『ソーシャルデザイン』という本を出版することができました。はじめの頃は一番最初にライターさんが書いてくれた原稿を読める喜びをひしひしと感じていたんですが、2013年に子供が生まれてからは少しずつプライオリティが変わってきていることを実感するようになって。原稿を見るのがしんどくなってきた2015年には、「そろそろ潮時だな」と思うようになりました。

――なるほど。分からなくもなくもなくもないですが(今は楽しいです)。

そんな時期に大学教員のお話をいただいたのはまさに渡りに船でしたね。今は京都精華大学長を務めるウスビ・セコさんから「人文学部の再編の柱のひとつをソーシャルデザインにしたい。ぜひ教員をやってほしい」と。そのときは鹿児島で子育てをしていたのですが、京都だったら住んでみたいなあと素直に思ったので「ぜひ!」とお受けしました。

――そういう流れだったんですね! 『ソーシャルデザイン』の本、アイデアインクの本もとても参考になる本でした。

この本が生まれたきっかけは、東京で流通しているフリーペーパー「メトロミニッツ」でのソーシャルデザイン特集だったんです。2011年の東日本大震災の直後でみんな少し落ち込んでいる感じだったので、世の中を少しでも元気にしたいとgreenz.jpに声をかけていただき、10Pぐらいで事例を紹介する特集を担当したんです。その冒頭で導入となる600字ぐらいの短いコラムを書いたんですが、その文章をアイデアインクの編集者・綾女欣伸さんも読んでくれていたようで、「あの文章は素晴らしかったので、一冊の本にしませんか」とオファーをいただいて。


ソーシャルデザイン (アイデアインク) amazon.co.jp

――それが兼松さんのターニングポイントなんですね。

そうなんです。600字のような短い文章でも、見る人が見れば分かるんだなあとビックリしました。もちろん僕にとってのgreenz.jpのように何かしら実際に動いていることは大前提ですが、その人の可能性をお互いに引き出しあうエディターシップ(編集者としての関わり)がとても重要なんだと思っています。大学の授業でも、お互いがお互いの編集者になるような関係をつくることを何より大切にしています。

自分は究極のアマチュアだと思っている

――大学教員の仕事を始めてみて、いかがですか?

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greenz.jp時代に社会人向けのワークショップはたくさんやってきましたが、15週連続で授業をする経験はなかったので最初は大変でしたね。やっと3年目にしてコツをつかめてきた感じです。

――どういうところが大変でしたか?

そもそもどうしてソーシャルデザインが必要なのかを伝えること、そして自分で動こうとする勇気を引き出すことですね。どうしても大学の必修科目となると最初の頃はモチベーションが高くないですし、そもそも何かを作る、クリエイティブなことをやろうとするには人からの評価に耐えるといった強さも必要になります。一方で、僕が出会った多くの学生は小・中・高で「好きなことについて話をすると馬鹿にされた」みたいな苦い経験を持っていて、ひとことでいえば傷ついているんです。でもその分、内に秘めたマグマの熱量はすごいものがある。そんな学生たちの変化を実感できるのはとても楽しいです。

――すてきですね。講師の仕事は編集やWebデザインとはまた違う職能が必要な気がするのですが、どういう風に体得されていくんですか?

新卒のときはもちろん、編集長でも大学教員でも、いつも新入社員の気持ちです。「勉強家」という肩書きは「アマチュアであることのプロ」という意味もあるので、いろんな壁にぶつかりながらプロの人が思いつかないようなことを思いつくのが楽しいんです。いまの僕にとっての幸せは授業のための毎週ワークショップを考えなくてはいけない状況にあること。大学の任期は2020年度で終了しますが、次の仕事もそんな環境だったらいいなと思っています。

座右の問い、beの肩書き

――今はどんなバランスでお仕事されているんですか?

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大学との契約は週3日で、それ以外はフリーランスとして本を書いたり、ワークショップをしたり。とはいってもその日の出番を終えて一日分のギャラをいただく単発的な仕事が多くて、一年かけてひとつのものを作るみたいな長期的なプロジェクトにはほとんど関わっていません。いまは子育てを最優先にしたいのと、これまで編集長として多くの人を支えることをしてきたので、今は自分自身を充電するべき時期だなと割り切っています。ただもう数年したらまた考え方も変わるかもしれません。

――それはどういうことですか?

自分のペースにしすぎたり、単発の仕事が増えすぎて、極端な無茶振りが減ってきたように思っているんです。自分の知らない世界のことを勉強できることも仕事の醍醐味だと思うので、そういう新しいものとの出会いもどこかで求めているような気がします。やっぱり長期的な仕事の中でいろんな修羅場を共有して初めて、真の人間関係が育まれていくと思うので。

ちなみに今は本が出たばかりの『beの肩書き』について話す機会が多いのですが、毎回同じような話をしていても学びがあって、毎回ブラッシュアップされていく感じが楽しくて。この感じは「落語家」に近いなあと思っています。

――落語家的な働き方。それはまさしくbeの肩書きですね。この短い言葉にコンセプトを落としこめたのがすごいですよね。

beの肩書き

「肩書き界の革命児!」と紹介されたときは嬉しかったですね(笑)。「同じこと考えてました」とか言ってくれる方もたくさんいたので、考え方そのものはオリジナルではないと思っていますが、誰でもbeの肩書きを見つけられるように再現度の高いワークを真剣にデザインした人はあまりいなかったのかなと思っています。数えてみたら年80回もワークショップをしてきたんですが、それって4日に1回のペースなので。

――分かりやすく言語化されているし、さらにフレームワークにも落とされていますもんね。

僕にとってのいい仕事は「自分が考えた言葉がみんなの共通言語になること」なんだと思います。それは別に拡大解釈でもいいんですけど、「最近beの肩書きが分からなくてさー」みたいな会話になっていたりするのがとても嬉しいんです。

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最初の原体験は『ソーシャルデザイン』で書いた「座右の問い」という言葉で、これが思いのほか反響があったんですね。元ネタとなったのは、世界的なファシリテーターたちが震災復興のために来日していたときに、

「誰にとってもWickedQuestion(気の利いた質問)が必要だ。すぐに答えは出なくても、探究したくなるような問いを持ち続けなさい」

というメッセージを残してくれてとても感銘を受けたんです。それを分かりやすく言ったらどんなことかなと考えていて、座右の銘ならぬ座右の問いという言葉が閃いた。
 
――Wicked Question っていい言葉ですね! でも「座右の銘」や「beの肩書き」って言葉の方ががなじむし、自分ごとになりやすいですね。

「beの肩書き」という言葉も思いついたときは不安なんですよね。でも、飲み会とかで何人かに話をしてみたら案外いい反応をもらえたので、その手応えのもとに小さなエッセイを書いてみたら多くの人に読んでいただくことができました。自分でも何が広がるのか分からないので、1つのことを広めたいと思うなら、普段から引き出しの中に100は入れておかないとな、といつも思っています。

「頼まれなくてもやる」仕事を続けるのが大事

――座右の問いをご自身で持っている、とずっと自覚されてましたか? モヤモヤすることはなかったんでしょうか。

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ずーっとモヤモヤしてますよ。モヤモヤしていないと僕じゃない、くらい思っています。greenz.jpも東日本大震災のように価値観が転換するような大きな出来事が起きるまではそれほど注目もされていませんでした。でも、ずっと続けてきたことで「やっぱりこっちなんじゃないか」と多くの人に見つけてもらえた。それまでは企業に提案しにいっても「いつかできるといいですね」だったのが、「これは今すぐ取り組むべきだ」に変わっていったんです。

――頼まれ仕事じゃないからこそ続けられたし、価値も磨けたんでしょうね。

マイプロジェクト、頼まれなくてもやる仕事を持っているということが、もっと当たり前になってほしいと思っています。それは『自分の仕事をつくる』の西村佳哲さんも書かれてますよね。社会的に求められてるかは分からないけど、響かなくても問い続けること。

――西村さんの本は働き方を考える上でとても参考になりますよね。『beの肩書き』の「マウナケア・スケッチ」(※下の図を参照)は西村さんの『自分をいかして生きる』がヒントになったと書かれていましたね。最後に、今後はどういう仕事をされていきたいですか?

マウナケア・スケッチ

編集長から大学の教員をするようになって、ソーシャルデザイン教育のためのワークショップを発明すること、そのことについて文章を書くことが、自分にとって幸せことなんだと気づくことができました。そのひとつの成果が『beの肩書き』となったように、毎年、新作をリリースしていきたいと思っています。今後は「ワークショップができる哲学者」になりたいと思っています。哲学もすべて独学なので、プロの哲学者には怒られると思いますが、じっくり向き合っていきたいです。


初めてのことも次々に勉強して関係性と仕事をつくっていく兼松さん。
TEDトークで話題になり『マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法』という本を書いたエミリー・ワプニックさんを思い出しました。エミリーさんは映画学校に行ったあとWebデザイナーになったり法律の勉強をしたり自分の興味の赴くまま活動しているんですが、周りからは「やりたいことを1つに決めなきゃ」と言われたそう。でも「なりたいものすべてになってもいいんじゃない?」と、複数の仕事に興味を持ち同時にやる人、次々にやる人をマルチポテンシャライトと呼び肯定しています。兼松さんもマルチポテンシャライトだなと思いました。

いずれにしろ、兼松さんは問いを持ち続けてきたからいい仕事をつくってこられたのだと思います。

兼松さんとのお話からいい仕事をつくるには
・人生をかける自分の問いを持つこと
・それを誰から頼まれるでもなく問い続けて形にすること
・問いを誰もが分かる言葉に落とし込むこと
が大事なのではと感じました。

いい仕事をつくるには、という問いは続けていきたいと思います。

  • 兼松佳宏さん
  • PROFILE

    兼松佳宏

    勉強家/京都精華大学人文学部 特任講師
    1979年生まれ。ウェブデザイナーとしてNPO支援に関わりながら、「デザインは世界を変えられる?」をテーマに世界中のデザイナーへのインタビューを連載。その後、ソーシャルデザインをテーマとするウェブマガジン「greenz.jp」の立ち上げに関わり、10年から15年まで編集長。 2016年、フリーランスの勉強家として独立し、現在は京都精華大学人文学部特任講師として、ソーシャルデザイン教育のためのプログラム開発を手がける。 著書に『beの肩書き』『ソーシャルデザイン』、連載に「空海とソーシャルデザイン」「学び方のレシピ」など。秋田県出身、京都府在住。一児の父。

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